2020年7月3日金曜日

【越境するサル】№.201「ドキュメンタリー時評 2020年7月 ~<美術館>を待ちながら~」(2020.07.03発行)



「ドキュメンタリー時評」第6回は、「<美術館>を待ちながら」と題して、コロナ禍が依然続く状況の中、<美術館>と出会うドキュメンタリー映画について紹介する。



「ドキュメンタリー時評 2020年7月 ~<美術館>を待ちながら~」



 2020年4月10日、『プラド美術館 驚異のコレクション』(2019 ヴァレリア・パリシ監督)が公開され(ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか)、その後全国順次ロードショーする運びとなっていた。コロナ禍により海外の美術館へ行くことが不可能になってしまった状況の中、この映画の公開は微かな希望であり、多くの人がこの映画との出会いを心待ちにしていた。だが、コロナの影響下、公開は延期となった。私たちはしばらくの間待つことを余儀なくされた(同じく4月、私の住む街・弘前で開館する予定だった「弘前れんが倉庫美術館」も開館延期を余儀なくされていた…)。


そして、ようやく、7月24日からの公開が決定した。当初予定していた劇場からスタートしてその後全国順次ロードショー。わが青森県でも9月5日から青森市シネマディクトで上映されることになった。少し遅いが、映画館で鑑賞できるだけでもありがたい。昨年開館200周年を迎えた、スペインの首都マドリードが誇るベラスケスとゴヤとエル・グレコをはじめとするプラド美術館の数々の至宝を、スクリーンで堪能できる日を待ちたい。

▽『プラド美術館 驚異のコレクション』予告編

というわけで、『プラド美術館 驚異のコレクション』と出会うのはもう少し後になりそうなので、この数年間に鑑賞することができた、ヨーロッパの美術館についてのドキュメンタリー映画を回顧してみる。すべてDVD化されているものばかりで、私もその大半をレンタルで鑑賞した。
 海外の美術館に行くことはおろか、東京に行くことすらままならぬ昨今、せめて自宅で雰囲気だけでも味わおう…

 まず、イギリス・フランス・オーストリア・オランダ・ロシア・イタリアの世界的美術館のドキュメンタリー映画。6本とも話題作だ。

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014 フレデリック・ワイズマン監督)。190年以上にわたり人々に愛され続けてきたロンドン・ナショナル・ギャラリーに、ドキュメンタリー界の巨匠・フレデリック・ワイズマン監督が潜入、その日常と秘密に迫る。学芸員による卓越したギャラリートーク、美術品設置や額縁製作、絵画の修復などの手仕事…息づかいさえ聞こえてきそうな映像を堪能する3時間。私は映画館のスクリーンでこの作品を鑑賞したが、まさに至福の体験だった。


▽『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』予告編

 実は、ロンドン・ナショナル・ギャラリーについては、国立西洋美術館(東京・上野公園)で「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」が開催される予定だったが(2020年3月3日~6月14日)、これも新型コロナウィルスの感染予防・拡散のため開幕は延期された。
 新しい日程は、2020年6月18日~10月18日まで国立西洋美術館(東京・上野公園)、2020年11月3日~2021年1月31日まで国立国際美術館(大阪・中之島)。
「世界初開催!全61作品日本初公開」というキャッチコピーには強く惹かれるが、私は果たして行くことができるだろうか…


『パリ・ルーヴル美術館の秘密』(1990 ニコラ・フィリベール監督)。年間800万人が訪れる「世界最大」の美術館ルーヴル。館内の所蔵品約35万点を数えるこの美術館で働く1200名のスタッフの日々を記録した、ウィットあふれるドキュメンタリーである。学芸員、美術品を設置する人、金メッキ師、清掃員、庭師、音響学者、消防士…この作品では、展示されている美術品だけでなく、彼らも主役だ。


▽『パリ・ルーヴル美術館の秘密』予告編



『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』(2014 ヨハネス・ホルツハウゼン監督)。ヨーロッパ3大美術館のひとつにも数えられるウィーン美術史美術館。ハプスブルク家の美術品を守り続けてきたこの伝統ある美術館にもグローバル化の波は押し寄せる…創立120年となる2012年にスタートした大規模改装工事に2年以上にわたり密着したこのドキュメンタリーは、美術館の裏側とそこで働く人々の姿を見つめる。



▽『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』予告編



『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(2014 ウケ・ホーヘンダイク監督)。200年の歴史を誇るアムステルダム国立美術館の改修は、美術館を貫く公道の設計をめぐる市民との議論、建築家との対立、館長の交代など、さまざまな事情が錯綜し、工事は中断を余儀なくされた。10年に及ぶ閉館期間を経て再オープンにこぎ着けるまでの日々を追う…
『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(2008 ウケ・ホーヘンダイク監督の続編、というか完結編。


▽『みんなのアムステルダム国立美術館へ』予告編



『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』(2014 マージー・キンモンス)。世界三大美術館のひとつでもある、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館。世界最高峰の至宝の数々を高画質映像で紹介する、決定版ともいえるドキュメンタリー。美術館の歴史についても、過不足なくまとめられている。


▽『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』予告編



『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』(2015 ルカ・ヴィオット監督)。イタリア・ルネッサンスの最高峰、ウフィツィ美術館の収蔵品を紹介するドキュメンタリーだが、この美術館だけでなく、メディチ家歴代の美術コレクションと世界遺産の街・フィレンツェの街並みや建造物も堪能できる、最高のガイド。


▽『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』予告編



続いて、偉大な収集家であり、魅力的な美術館の創設者である、二人の女性を描いたドキュメンタリー。
『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』(2018 ジョヴァンニ・ピスカーリャ、ジョヴァンニ・ピスカーリア監督)。ゴッホ作品を世界一収集した富豪ヘレーネ・クレラー=ミュラーの人生に迫るドキュメンタリー。ゴッホの美術品300点を個人収集した彼女のコレクションにこの映画で出会うと、私たちはオランダ・クレラー=ミュラー美術館を訪れたくなる…



▽『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』予告編



『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』(2015 リサ・インモルディーノ・ヴリーランド監督)。水の都ヴェネツィアの重要なスポットである「ペギー・グッゲンハイム・コレクション」。個人のものとしては世界最大級のコレクションを有するこの美術館の創設者ペギー・グッゲンハイムの現代美術への情熱と、いまや伝説となった彼女と芸術家たちとの愛の遍歴の物語は、エキサイティングとしか言いようがない。


▽『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』予告編



 紹介するだけで、ヨーロッパ美術館巡りをしている気分になっている自分に気付く。皆さんも、ぜひ。



 7月(7/4~)の青森・岩手のドキュメンタリー映画上映情報を列挙する。少しずつ、日常が戻ってきた。

・「青森シネマディクト」
   『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』(2010 百崎満晴監督)7/4~24、
 『ハニーランド 永遠の谷』(2019 リューボ・ステファノフ、タマラ・コテフスカ監督)7/11~24

・「フォーラム八戸」
   『ようこそ、革命シネマへ』(2019 スハイブ・ガスメルバリ監督)7/10~16、
 『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020 大島新監督)7/17~30、
 『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』)7/17~23、
 『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』(2017 デニス・ベリー監督)7/24~30、
 『つつんで、ひらいて』(2019 広瀬奈々子監督)7/24~30、
   『ハニーランド 永遠の谷』7/31~8/13

・「フォーラム盛岡」
   『ようこそ、革命シネマへ』7/10~16、
 『なぜ君は総理大臣になれないのか』7/17~30、
 『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』)7/17~23、
 『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』7/24~30、
 『ハニーランド 永遠の谷』7/31~8/13


<後記>

  いろいろな意味で、「美術館を待ちながら」そして「映画館を待ちながら」の日々だった。ようやく、映画館での上映が再開され、「弘前れんが倉庫美術館」も6月の事前予約制プレオープンを経て7月11日よりグランドオープンの運びとなった。次号からは、映画館を訪れた報告を含む「ドキュメンタリー時評」をお届けできると思う。








(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。


2020年6月8日月曜日

【越境するサル】№.200「ドキュメンタリー時評 2020年6月 ~<仮設の映画館>でドキュメンタリー映画~」(2020.6.5発行)

 「ドキュメンタリー時評」第5回は、「<仮設の映画館>でドキュメンタリー映画」と題して、第4回に続いて新型コロナウィルス禍への映画界の取り組みの一つを紹介する。配給会社「東風」が提案したインターネット上の映画館―「仮設の映画館」がそれである。



「ドキュメンタリー時評 2020年6月~<仮設の映画館>でドキュメンタリー映画~」


 新型コロナウィルスの脅威に劇場・配給会社・製作者がさらされている中、「東風」は新作『精神0』(2020)の公開を控えた想田和弘監督と相談し、劇場公開と並行してインターネット上に「仮設の映画館」をつくることを決定した。賛同する全国各地の劇場の中から観客がどの映画館で作品を鑑賞するのかを選び、その鑑賞料金は「本物の映画館」の興行収入と同じく、それぞれの劇場と配給会社・製作者に分配されるという仕組みである。


 「映画がコロナ禍を生き延びるために 『精神0』を“仮設の映画館”で公開します 座して死を待つよりは」というメッセージを発信した想田和弘監督の思いに応えるべく、私もいくつかの作品を「仮設の映画館」で鑑賞することにした。もちろん最初は、「本物の映画館」での公開に先駆けて「仮設の映画館」で5月2日から全国一斉配信された『精神0』だ……

 『精神0』とはどのような映画か?
 2008年、想田監督は『選挙』(2007)に続く「観察映画」第2弾として、精神科を舞台にそこへ集う患者たちを真正面から捉えたドキュメンタリー『精神』を発表した。監督の強い意志により、患者ひとりひとりの顔にモザイクをかけないまま公開するなど、さまざまなタブーを打ち破ったこの作品は、世界の映画祭で高い評価を受けた。
かつて私は『精神』の自主上映に関わったが(弘前「harappa映画館―ドキュメンタリー最前線2012」)、その際自らの通信で次のようにこの作品を紹介した。
 「ナレーションもテロップもBGMもない、監督が『観察映画』と呼ぶその手法によって、私たちはいきなり外来の精神科診療所『こらーる岡山』の日常に投げ込まれる。しばらくの間、誰が患者で誰がスタッフかすら判然としない。この不安感がそのまま臨場感となって、以後患者たちの苦悩や山本医師とスタッフの苦労と私たちは付き合うことになる。まるで、彼らの傍らに居るかのように。」



この『精神』の主人公の一人である山本昌知医師が、82歳で引退することになった。地域の患者たちに寄り添って治療を続けてきた彼を慕う人々は戸惑う。だが彼は、長年苦労をともにしてきた妻・芳子さんとの新しい生活へ、少しずつ入っていく。それは、今までとは全く違う、静かな生活だ。時おり挿入される過去の映像が、二人の間に流れた歳月を示す。これは、「愛についての物語」だ…

▼予告編『精神0』



 『精神0』を鑑賞した翌日、『どこへ出しても恥かしい人』(2019 佐々木育野監督)を購入した。歌手・画家・詩人として今もカルト的人気を誇る友川カズキの日常を記録した作品である。中上健次・大島渚ら多くの文化人に支持され、ちあきなおみに「夜へ急ぐ人」を提供(作詞・作曲)したアーティスト・友川カズキについての映画…世代的にも、観ないわけにはいかない作品だ。


2010年夏に撮影した映像(彼は60歳だった)を10年かけて64分に凝縮した本作の中の友川カズキは、とにかく自由気ままに生きているように見える。川崎市内で一人暮らしを続け、競輪にのめり込み、絵を描き、ステージで絶叫し、打ち上げで酒を飲み…その奔放さだけが最初は印象に残る。だが、息子たち(一人ずつ)と一緒に競輪場を訪れ、彼らと会話を重ねる姿を見続けていくうちに、私たちは彼がただ気ままに生きているだけではないことに気づき始める。彼は、自分の生き様を通じて、息子たちに何かを伝えようとしている。そしてその生き様は、何気ない日常の中にあるのではないか。
映画の後半、ちあきなおみが歌う「祭りの花を買いに行く」(作詞・作曲 友川カズキ)が挿入され、私たちは確信する。こんなにも「日常」を慈しむ、詩人なのだ、友川カズキは。

▼予告編『どこへ出しても恥かしい人』




 1週間後、『だってしょうがないじゃない』(2019 坪田義史監督)を購入した。監督が、広汎性発達障害を持つ親戚の叔父さん(どうも「従兄弟違い」という関係らしい)と交流した、3年間を記録した作品である。


 自身が「ADHD(注意欠如多動性障害)」と診断された坪田監督は、親族から発達障害を抱えながら一人暮らしをする親戚の存在を知らされ、カメラを持って会いに行く。その親戚・まことさんは、長年一緒に暮らした母親の死後8年間、後見人の叔母の支援を受けながら、障害基礎年金を受給しながら暮らしていた。
さまざまな人々の支援を受けながら、危なっかしい、しかし独特の感性で日々を送る障害者の「まことさん」と、自身も鬱や不眠に悩む「義史さん」(坪田監督)の、ちょっと不思議で親戚特有の信頼感にあふれた交流の日々。亡くなった母親の記憶、野球観戦、焼き肉、カラオケ、いつか行くかもしれない施設の見学…エンドロールが流れたとき、誰もが「その後のまことさんと監督が観たい」と思ってしまう、珠玉の一篇。

▼予告編『だってしょうがないじゃない』

 

 さらに1週間後、『プリズン・サークル』(2019 坂上香監督)を購入した。官民協働の新しい刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」を取材したドキュメンタリー映画。取材許可まで6年、撮影に2年、初めて日本の刑務所にカメラが入った作品である。




 民間が担う警備と職業訓練、自動化されたドアの施錠や食事の搬送、管理された受刑者監視システム…私たちはその新しさに目を奪われるが、この刑務所が画期的なのは、受刑者同士の対話をベースにした更生のプログラム「TC(回復共同体)」が日本で唯一導入されていることだ。
米国の受刑者を取材し続けてきた坂上監督は、本作において、窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死などで服役する4人の若者に焦点を当てる。彼らは、「TC」のプログラムを通して、自らが犯した罪と向き合いながら、幼いころに経験した貧困や虐待、そしていじめの記憶とも向き合い、少しずつ感情や言葉を獲得していく。そのプロセスに私たちは、「暴力の連鎖」を克服していく、かすかな「希望」を感じる…

▼予告編『プリズン・サークル』



 「仮設の映画館」は、ミニシアターを中心とした60館以上の劇場、8つの配給会社による12作品が参加し、当初3週間ほどを予定していた。しかし、いまだ再開の目処が立たない劇場もあることから、しばらく延長されることとなった。私たちも今後の経過を注視するべきだろう。

 なお、『精神0』は「フォーラム八戸」(八戸市)、『どこへ出しても恥かしい人』は「シアターキノ」(札幌市)、『だってしょうがないじゃない』は「ポレポレ東中野」(東京都中野区)、『プリズン・サークル』は「フォーラム盛岡」(盛岡市)から、それぞれ購入した。すべて、4月以降私が行く予定を立てていた劇場だ…


<後記>
  「ドキュメンタリー時評」、今回も「ネット配信」による取り組みの紹介だった。次号も、コロナウィルス禍とドキュメンタリー映画、に関する内容となる予定だ。キーワードは「美術館」、あるいは「美術館の映画」。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。


2020年5月15日金曜日

【越境するサル】№.199「ドキュメンタリー時評 2020年5月 ~ネット配信でドキュメンタリー映画~」(2020.05.15発行)

 「ドキュメンタリー時評」第4回は、「ネット配信でドキュメンタリー映画」と題して、
新型コロナウィルス感染拡大によって全国のミニシアターが存続の危機に瀕している中、
「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」への寄付を目的とする企画で出会った作品たちを紹介する。


「ドキュメンタリー時評 2020年5月 ~ネット配信でドキュメンタリー映画~」


 「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」は、緊急事態宣言・政府からの外出自粛要請が続く中、閉館の危機にさらされている全国の小規模映画館「ミニシアター」を守るため、映画監督の深田晃司氏・濱口竜介氏が発起人となって有志で立ち上げたプロジェクト。 
                                                                                       
 ドキュメンタリー映画専門の動画配信サービスを行う「アジアンドキュメンタリーズ」は、この基金に賛同し、基金に対して寄付を行うために、「ミニシアター応援プロジェクト」を実施した(4/17~5/14)。プロジェクトには、ドキュメンタリー映画の作り手から「チャリティ作品」が無償で提供され(※注)、これらの作品の視聴料が寄付の対象となる。

 この期間中に出会った(あるいは再会した)「チャリティ作品」についていくつか紹介する。

 まず、『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2014 金 聖雄監督)。1963年に埼玉県狭山市で女子高生が殺害された「狭山事件」。自白の強要や証拠のねつ造によって犯人とされ、現在も無実を訴え続けている石川一雄さんと、その妻の早智子さんの日常を、金 聖雄監督が寄り添うように記録していく。かつての「狭山闘争」、石川氏の無実を信じて闘われた高裁闘争から最高裁闘争の日々を知っている世代としては、胸が締め付けられるようなドキュメンタリーである。


▼予告編『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』



 金監督の作品は、私たちが弘前市の「harappa映画館」で上映した『袴田巖 夢の間の世の中』(2016)や、冤罪被害者たちの交流を描いた『獄友』(2018)、初期作品『花はんめ』(2004)も今回の「チャリティ」に提供されている。金監督には「harappa映画館」でシネマトークもお願いしたが、その際の氏の飾らない人柄、そして気骨あふれる語り口を思い出す。今回の「ミニシアター応援プロジェクト」に寄せられた、氏の言葉に耳を傾けよう。
「フィクションもドキュメンタリーもまず“売れるか?”ではなく、自分の目で確かめて良質な作品の上映を続けてきたミニシアター。一癖も二癖もある館主達の顔が浮かぶ。こんな時だからこそ、つくり手と映画館と配信と志をひとつにあらゆる形で映画を届けたい」(映画監督 金聖雄)


▼予告編『袴田巖 夢の間の世の中』


▼予告編『獄友』


 次に、『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(2011 イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ監督)。パレスチナの民衆抵抗運動の中心地・ビリン村に住むイマードは、末っ子の誕生を機にビデオカメラを手に入れる。そのカメラで、イスラエル軍によって「分離壁」が築かれ耕作地を強制的に奪われた村人の末非暴力のデモをイマードは記録し続ける。イスラエル軍の銃撃により被弾し、壊されたカメラの数は5年間でのべ5台…パレスチナ人とイスラエル人の監督が共同で作り上げたドキュメンタリー映画である。


▼予告編『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』



  続いて、『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』(2005 綿井健陽監督)。映像ジャーナリスト綿井健陽による、米軍のバグダッド空爆とその後の占領のリポート。イラク戦争開戦直前にイラクに入り、1年半の取材で123時間の映像を記録。イラク市民の視点、とりわけ傷ついた家族と子供たちの視点で戦争の惨禍を刻んだ、記念碑的なドキュメンタリー映画である。彼が現地から送り続けたリポートの衝撃を私たちは忘れない。


▼予告編『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』



 思わぬ出会いとなったのが『チベット チベット』(2001 キム・スンヨン監督)。2005年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたが、見逃していた作品だ。行き先を決めないままビデオカメラを片手に旅に出た在日韓国人3世のキム・スンヨン監督は、ふとしたきっかけからチベット人たちが亡命している北インド・ダラムサラを訪ねる。ダライ・ラマ14世への同行取材、チベットの人々との対話を通して、自分自身の民族性を見つめ直していく過程が描かれる…。


▼予告編『チベット チベット』



 また、この期間中、もう一つの企画「いのちを守る STAY HOME週間」(4/25~5/6)で無料配信されていた『ボクシング・フォー・フリーダム~差別に立ち向かうアフガニスタンの少女~』(2015ホアン・アントニオ・モレノ、シルビア・ベネガス監督)を観ることもできた。男性優位のアフガニスタン社会の中で、激しい批判や脅迫の対象となりながら懸命に活動を続ける若きボクサー、サダフ・ラヒミの奮闘を記録した作品。タリバン政権時代、難民としてイランに9年間逃れ、その後帰還した彼女の家族の物語でもある。


▼予告編『ボクシング・フォー・フリーダム』



「ミニシアター」を守り、しかも私たちは素晴らしい作品と出会う…それが可能だと信じよう。

(※注)
チャリティ作品
◆伊藤めぐみ監督
『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』(2013)
◆イマード・ブルナート監督・ガイ・ダヴィディ監督                 
『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(2011)※4月30日まで
◆ジョン・シェンク監督                              
『南の島の大統領 -沈みゆくモルディブ-』(2011)
◆キム・スンヨン監督
『チベットチベット』(2008)
◆金 聖雄監督
『獄友』(2018)【日本初配信】
『袴田巖 夢の間の世の中』(2016)【日本初配信】
『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2014)【日本初配信】
『花はんめ』(2004)【日本初配信】
◆笹谷遼平監督 『馬ありて』(2019)
◆朴 壽南監督『ぬちがふぅ -玉砕場からの証言-』(2012)【日本初配信】
◆古居みずえ監督 『ぼくたちは見た〜ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)
◆本田孝義監督 『モバイルハウスのつくりかた』(2011)
◆山田和也監督 『プージェー 』(2006)
◆綿井健陽監督『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』(2005)


<後記>

  4回目の「ドキュメンタリー時評」は、コロナ禍の中「ネット配信」という形で局面を打開しようとする動きのひとつを紹介した。私も3月から映画館には行っていない。「ミニシアター」を守るため、このような形のプロジェクトがあることを伝えたいと思う。次号も、このような動きのひとつを紹介したいと思う。もちろん、そこで出会った作品への思い入れを語りつつ。


(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2020年4月3日金曜日

【越境するサル】№.198「ドキュメンタリー時評 2020年4月 ~三島由紀夫と鈴木邦男~」(2020.04.03発行)

「ドキュメンタリー時評」第3回は、「三島由紀夫と鈴木邦男」と題して、三島由紀夫と鈴木邦男が出演(登場)したドキュメンタリー映画2本について紹介する。


「ドキュメンタリー時評 2020年4月 ~三島由紀夫と鈴木邦男~」


 2020年3月20日、『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』(2020 豊島圭介監督、
以下『50年目の真実』)が全国公開された。私も、封切から数日後「フォーラム盛岡」に駆けつけ、この話題作と出会うことができた。
 「フォーラム盛岡」は、かつて若松孝二監督の『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012)を鑑賞した劇場である。また、同じく若松監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)もここで観た(その時は監督のサイン会にも並んだ)。何か縁のようなものを感じるが、ただ単に盛岡まで来なければ観たい作品に出会えなかったということだ。




 『50年目の真実』は、1969年5月13日、東大駒場キャンパス900番教室で行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘1000人の「伝説の討論会」の全貌を記録したドキュメンタリー映画である。「天皇主義者」と「革命派」、明らかに敵対するはずの両者によるこの討論会の内容が記録された書籍を私たちは2冊ほど知っているが、TBSが保管していた映像
記録を基に作られた今回の作品は、これまで活字から私たちが抱いていた印象の変更を迫るものだったと言っても過言ではない。



 その日、会場に現れた三島の決意表明から討論会は始まる。司会は、この年の1月安田講堂で敗北した東大全共闘が設立した「東大焚祭委員会」の木村修。彼が三島を思わず「三島先生」と呼んでしまい、三島が全共闘と自分の接点を語るなど、「対決」とはいえお互いに対する最低限の敬意は保たれたままだ。その後、東大全共闘随一の論客・芥正彦、さらに小阪修平が登場し、「他者」・「解放区と時間」・「天皇」について議論は続いていくが、不思議なことに三島に「アウェー感」はない。後輩たちとの討論を楽しんでいるかのようだ。「千両役者」三島の余裕は、全共闘学生たちに「天皇と諸君が一言でも言ってくれれば、私は喜んで諸君と手をつなぐ」と呼びかける終盤まで変わらない(その余裕が演技だとしても、それはそれで大したものだ)。
 初めてその全貌が明らかにされた映像の合間に、木村修・芥正彦・橋爪大三郎ら元東大全共闘、その場で三島を護衛していた元「楯の会」のメンバーたち、取材していた新潮社とTBSの社員、平野啓一郎・内田樹・小熊英二らの文化人、親交があった瀬戸内寂聴・椎根和らの語りと証言が入るが、これも貴重なものだ。ナレーション(ナビゲーター)は東出昌大、大役を無難に務めた。豊島圭介監督は三島自決の翌年(1971年)の生まれだが、初めてのドキュメンタリーは大きなチャレンジとなった。
 この討論会の1年半後(1970年11月25日)、三島は楯の会隊員とともに自衛隊市ヶ谷駐屯地で決起するも自決。「味方」であるはずの自衛隊員は三島のバルコニーからの演説に野次と怒号で応えた(当然のことだ)。一方で、「敵」である東大全共闘との対決に漂う「親和性」は何だ。まるで、三島の「天皇主義」がフィクションであることを皆が了解しているようではないか…

▼『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』予告編

 
 
 三島(および行動をともにした森田必勝)の自決に衝撃を受け、政治団体・一水会を立ち上げた「新右翼」活動家が鈴木邦男である。『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』(2019 中村真夕監督、以下『愛国者に気をつけろ』)は、その交流関係の広さと従来の右翼思想とは異なる立ち位置から「謎の右翼活動家」とも呼ばれる鈴木の真の姿に迫るドキュメンタリー映画である。
 本作は2020年2月1日より全国公開(「ポレポレ東中野」他)されているが、地方の劇場で観る機会がすぐにあるとは思えなかったので、3月末、思い切ってDVDを購入した。もちろん、三島の『50年目の真実』の流れで鑑賞したかったからだ。


 76歳の鈴木邦男は、生長の家信者の家庭に育ち、17歳で自分と同年代の山口二也が社会党浅沼委員長を刺殺する映像に衝撃を受け右翼活動へ進む。早稲田大学では、のちの日本会議につながる全国学協の代表となり左翼と対峙するが失脚。その後一水会を拠点に民族派右翼としての数々の活動を行なう(私たちの世代には「格闘技評論家」としても認知されている)。
 現在の彼は、自らが訴えてきた「愛国心」さえも疑い、さまざまな異なる意見の人々と交流を続け、多くの心酔者に囲まれている。その2年間に密着したカメラは、鈴木の日常生活や語りとともに、彼と交流を続ける人々(右翼活動出身の作家・雨宮処凛、一水会代表・木村三浩、北朝鮮拉致被害者家族連絡会・蓮池透、映画監督・足立正生、元オウム真理教・上祐史浩ら)へのインタビュー映像を映し出す。そこから浮かび上がる鈴木邦男の素顔は、自らの思想の変容を隠すことなく、つねにひとりの人間として他者と向き合い現在を真摯に生きようとする、穏やかな老人というものだ…
 監督は『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』(2015)の中村真夕。彼女の「若松孝二監督が突然、亡くなった時、誰も監督についてのドキュメンタリー映画を作っていなかったことをとても残念に思いました。60年代、70年代という激動の時代を知っている人たちもすでに70代、80代になっています。今、この時代を生きた人たちを記録しなければ、この時代は忘れられてしまうという強い焦燥を感じ、この作品の制作にとりかかりました。」というコメントに説得力を感じる。

▼『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』予告編

 
 
 三島由紀夫と鈴木邦男、このふたりの視点を交えた日本の戦後史を、私たちは映像を通して追体験する。それは、型通りのもの(「右」と「左」の単純な色分け)とは違う歴史だ。まず、このふたりの思想を深く探ることから始めよう。


 4月の青森・岩手のドキュメンタリー映画上映情報を列挙する。
 <青森シネマディクト>
 ・『娘は戦場で生まれた』(2019 ワアド・アル=カデブ監督)4/11~24、
 ・『ビッグ・リトル・ファーム』(2018 ジョン・チェスター監督)4/25~5/8
 <フォーラム八戸>
 ・『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』(2020 豊島圭介監督)4/3~16、
 ・『ビッグ・リトル・ファーム』4/10~23
 ・『21世紀の資本』(2019 ジャスティン・ペンバートン監督)4/10~16、
 ・『娘は戦場で生まれた』4/10~16
 <シネマヴィレッジ8・イオン柏>
 ・『i-新聞記者ドキュメント-』(2019 森達也監督)~4月上旬
 <フォーラム盛岡>
 ・『さよならテレビ』(2019 圡方宏史監督)4/10~16、
 ・『ビッグ・リトル・ファーム』4/10~23
 ・『プリズン・サークル』(2019 坂上香監督)4/17~23


▼『娘は戦場で生まれた』予告編



▼『ビッグ・リトル・ファーム』予告編



▼『21世紀の資本』予告編



<後記>
  3回続けて「ドキュメンタリー時評」となったが、当分このシリーズがメインとなる。毎月は無理としても、年8~10回くらい発信したいと考えている。問題は、そのほかのテーマで何本か発信できるかだ。実は、いくつか考えているものがあるのだが…次号は未定。


(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。

2020年2月27日木曜日

【越境するサル】№.197ドキュメンタリー時評 2020年2月 ~地方で作品を上映するということ~(2020.02.26発行)


「ドキュメンタリー時評」第2回は、「地方で作品を上映するということ」について考えてみたい。

 前回、地方でドキュメンタリー映画に出会うことの難しさについて述べたが、ならば観たい映画を自分たちで上映してしまおうという考えにたどり着くのは時間の問題だ。そして実際私は学生時代にいくつかのドキュメンタリー映画の自主上映に関わったが、10年ほど前からかなり本気で映画の上映活動に参加するようになり、その中でドキュメンタリー映画の特集を企画するようになった。「harappa映画館の中のシリーズ「ドキュメンタリー最前線」がその舞台である(注)。今年も2月、その上映会を迎えた。
 「ドキュメンタリー時評 20202~地方で作品を上映するということ~」  2020215日、「第33harappa映画館/ドキュメンタリー最前線2020―憲法映画祭」が開催された。場所は弘前市中三デパート8階「スペースアストロ」、harappa映画館の会場として市民に10年以上親しまれてきたお馴染みの「小屋」である。

 
 今回の上映は「日本国憲法」をテーマとする、あるいは関連すると思われる3本。 誰がために憲法はある2019 井上淳一)は、女優の渡辺美佐子自らが中心メンバーとなりスタートさせた原爆の悲劇を伝える朗読劇と、これも渡辺美佐子が演じる日本国憲法を擬人化した一人語り「憲法くん」を2本の柱として構成された作品である。

渡辺が一気に暗唱する日本国憲法前文の精神と、渡辺とベテラン女優たちの朗読劇をめぐる思いが、シンプルに伝わってくる。若松孝二監督に師事し、劇映画の監督・脚本家、ドキュメンタリーの監督として活躍する井上監督の「憲法に関する映画が一本も上映されない国で、僕は映画に関わり続けることはできない」という言葉(これはパンフの中にある)がリアルに響く。

▼『誰がために憲法はある』予告編
 



  主戦場2018 ミキ・デザキ)は、日系アメリカ人のミキ・デザキ監督が慰安婦問題に切り込んだ「問題作」である。この映画の上映をめぐって出演者から裁判が起こされ、上映を企画すること自体がニュースとなった。もっとも私は、盛岡の映画館で普通に鑑賞した。20198月のことだ。

 慰安婦問題に関する自分の疑問を解消するため、デザキ監督は30名を超える日米韓の論争関係者を訪ねまわり、インタビューを繰り返し、ニュース映像や記事を分析し、問題の整理を試みる。慰安婦たちは「性奴隷」だったのか?「強制連行」は本当にあったのか?なぜ慰安婦たちの証言はブレるのか?…
はたして疑問点は整理され、明確な答は見つかったのか。それは私たち一人ひとりがこの映画を観て考えるしかない。私としては、映画の中の「右派」の人々(はたして「右派」と呼んでいいのか疑問はあるが)を「歴史修正主義者」と括る必要はなかったのではと思う。監督の「整理」のための手法なのだろうが、彼らの言葉だけでも私たち観客は判断することができた。

▼『主戦場』予告編





 ヤクザと憲法2016 圡方宏史)は、東海テレビ放送が制作した、もともとテレビ・ドキュメンタリーから出発した作品である。


 暴力団対策法・暴力団排除条例以降のヤクザの実態を知るため、大阪の指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」の内部に入ったキャメラは、かつて殺人事件実刑判決を受けた会長と部屋住みの青年の日常を追う。「ヤクザとその家族に人権侵害が起きている」と語る会長、彼らの人権のために尽力する弁護士…時として矛盾する私たちの人権意識の根幹に迫る作品の前で、私たちは立ち尽くすしかないのか。

 ▼ヤクザと憲法』予告編  


 
 3本とも予想を超える入場者数だった。自分が観たい、観せたい映画は、上映する価値があるのだと改めて思う。特に『主戦場』はさまざまな妨害が予想されたが、ほぼ満員の中で上映することができた。意見の違いがあっても普通に上映すること、普通に上映できることの大切さを学んだ気がする。
これからも、地方で、自分たちの土地で、ドキュメンタリー作品を上映し続けることにこだわりたい。 


この上映会の翌日、青森市シネマディクトで『台湾、街かどの人形劇』(2018 楊力州)を鑑賞した。侯孝賢の映画『戯夢人生』(1993)などに出演した俳優で台湾布袋戯(ほていげき)の巨匠である人形遣い李天禄と、その息子で同じく台湾布袋戯の巨匠・陳錫煌(こちらが主役なのだが)を描いた重厚なドキュメンタリーである。

▼『台湾、街かどの人形劇』予告編




また、この日の夜、八戸市フォーラム八戸で『さよならテレビ』(2019 圡方宏史)を鑑賞。前夜の「ドキュメンタリー最前線」で上映した『ヤクザと憲法』と同じ東海テレビの制作で、監督も同じ圡方宏史。自らのテレビ局にキャメラを入れた「伝説のテレビ・ドキュメンタリー」の映画版であり、おそらく2020年を代表する話題作になること必至の作品である。

▼『さよならテレビ』予告編  





なお、これから3月までの上映日程の中では、青森市シネマディクト『ハード・ディズ・ナイト』(1964 リチャード・レスター)が要注目。旧邦題は『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』、「公開55周年記念上映」である(3/214/3)。 



八戸市フォーラム八戸『プリズン・サークル』(2019 坂上香)も見逃せない。初めて日本の刑務所にキャメラが入り、更生を促す新しいプログラムを長期撮影した作品である(3/1319)。 


▼『プリズン・サークル』予告編  


来年度の「ドキュメンタリー最前線」に向け、着々と候補作品のチェックは進む…  

(注) 「ドキュメンタリー最前線」および「弘前りんご映画祭」等でharappa映画館が上映した、あるいは上映に関わったドキュメンタリー映画を列挙する。 2010『台湾人生』(2009 酒井充子),『あんにょん由美香』(2009 松江哲明),『ライブテープ』(2009 松江哲明)2011『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』(2009 イヴ・イノン他),『100,000年後の安全』(2010 マイケル・マドセン)2012『精神』(2008 想田和弘),『Peace』(2010 想田和弘),『トーキョードリフター』(2011 松江哲明),『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(2010 佐々木芽生)2013『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』(2012 佐々木芽生),『こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(2009 片岡英子),『フタバから遠く離れて』(2012 舩橋淳)2014『映画「立候補」』(2013 藤岡利充),『台湾アイデンティティー』(2013 酒井充子),『ディア・ピョンヤン』(2005 ヤン・ヨンヒ),『愛しきソナ』(2009 ヤン・ヨンヒ),『椿姫ができるまで』(2012 フィリップ・ベジア)2015『フタバから遠く離れて 第二部』(2014 舩橋淳),『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2013 リティ・パニュ),『ある精肉店のはなし』(2013 纐纈あや),『ふたつの祖国、ひとつの愛ーイ・ジュンソプの妻ー』(2014 酒井充子)2017『ジョーの明日ー辰吉丈一郎との20年ー』(2016 阪本順治),『袴田巌 夢の間の世の中』(2016 金聖雄),『FAKE』(2016 森達也)2018『祭の馬』(2013 松林要樹),『被ばく牛と生きる』(2017 松原保),『息の跡』(2017 小森はるか)2019『津軽のカマリ』(2018 大西功一),『ザ・ビッグハウス』(2018 想田和弘),『台湾萬歳』(2017 酒井充子) 


 <後記>   次号は未定。3月に予定していた旅行を断念したため、考えていた紀行文も発信できなくなった。4月には「ドキュメンタリー時評」を発信する予定だが、そのほかは全く計画が立たない。「珈琲放浪記」も今のところ休止状態。当分、「ドキュメンタリー時評」に専念ということになりそうだが、200号以降新しい展開も考えたい。


(harappaメンバーズ=成田清文)※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。


2020年1月27日月曜日

【越境するサル】№.196「ドキュメンタリー時評 2020年1月 ~地方で作品に出会うということ~」(2020.1.22発行)


2009年から、「今年出会ったドキュメンタリー」と題して自分が出会ったドキュメンタリー映画やテレビドキュメンタリーについて報告・紹介を続けてきた(当初は映画のみ年1回、途中からテレビドキュメンタリーも加え年2回そして4回に変更)。それは「時代を記録する」という義務感に基づく地味な作業だったが、私にとって有意義なものだった。しかし一方で、ひとつひとつの作品についてもっと深く語りたいという欲求がつねに心の中にあったのも事実だ。
今回、20201月から、「今年出会ったドキュメンタリー」をリニューアルして「ドキュメンタリー時評」とし、ひとつひとつの作品についてのより詳しい記述を心がけたいと思う。月1回の発信を目標とするが、それが無理な場合は隔月での発信を目指す。
 第1回は、201912月に出会った作品を概観しつつ、「地方で作品に出会うということ」について考える。


「ドキュメンタリー時評 20201
~地方で作品に出会うということ~」

 地方でドキュメンタリー映画に出会うこと、私に引き寄せて言えば青森県弘前とその周辺の映画館で話題の作品と出会うことは、かなり困難だと言わざるを得ない。事情は劇映画でもそれほど変わらないが、ドキュメンタリー映画の場合はその何倍も難しい。映画館で上映されること自体が、あまり期待できないのだ。
 それでも、昨2019年、22本のドキュメンタリー映画をスクリーンで観ることができた(もっとも、そのうちの13本は映画祭や自主上映会で上映されたものであり、普通の映画館で鑑賞できたのは9本にすぎない)。その中で、12月に出会った2本の作品について語りたいと思う。

 2019121日、青森県八戸市。早朝弘前を発ち、新幹線と路線バスを乗り継いで午前10時前「フォーラム八戸」に到着した。午前10時過ぎから続けて上映される『i-新聞記者ドキュメント-』と『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』を鑑賞するためだ。
 
 『i-新聞記者ドキュメント-』2019は、オウム真理教を題材にした『A』(1998)とその続編『A2』(2001)やゴーストライター騒動渦中の佐村河内氏を題材にした『FAKE』(2016)等挑戦的な作品を作り続けてきた森達也監督の新作である。


 主人公は、東京新聞社会部記者・望月衣塑子。官邸記者会見での菅義偉官房長官とのバトルから、辺野古新基地建設問題、伊藤詩織さん準強姦事件、森友学園問題、加計学園問題…まさに取材現場には必ずいると言っていい彼女のエネルギッシュな行動を、森達也監督は撮影し続ける(撮影期間は201812月から20197月)。
 めまぐるしく移動する彼女、新聞社内の彼女、文部科学省元事務次官前川喜平氏との対話、森友学園籠池負債との対話。圧巻は、やはり官邸記者会見での菅官房長官との息もつかせぬ攻防だ。いつ果てるともない孤独な闘いに挑み続ける彼女の姿に、私たちは爽快感さえ覚える。そうだ。こういう闘いを誰かが続けなければならないのだ…
 現代の日本に巣食っている腐敗の根源を照射するもうひとつのアプローチ、松坂桃李とシム・ウンギョンがダブル主演をつとめた『新聞記者』(2019  藤井直人監督)。望月衣塑子の同名ベストセラーを原案とするこの社会派の劇映画と「セット」で観るべき作品といえる。

予告編『i-新聞記者ドキュメント-』




 『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』2019 以下『カメジロー 不屈の生涯』)は、かつて筑紫哲也とともにニュース番組「NEWS23」を支えたTBSテレビの佐古忠彦監督が2017年に制作した『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(以下『その名は、カメジロー』)の続編である。


 前作『その名は、カメジロー』は、戦後沖縄で占領軍(米軍)の苛酷な支配に抵抗し弾圧を受けながら、立法院議員、那覇市長、そして衆議院議員として活躍した瀬長亀次郎の姿を描いたドキュメンタリー映画(2016年にTBSテレビで放送された番組を映画化したもの)で、国内外で高い評価を受けた。沖縄公開時には、映画館(那覇「桜坂劇場」)に数百メートルの行列ができたという。
 今回の『カメジロー 不屈の生涯』は、前作公開後、カメジローが残した230冊を超える日記を丹念に読み込んだ佐古監督が、その生涯を改めて描いた作品。妻や娘らと過ごす家族の日常、投獄後の日々、政治家としての危機、米軍の弾圧の実態などの詳細を掘り起こしている。『その名は、カメジロー』に続く、カメジローと佐藤栄作首相の圧巻の国会論戦など貴重な映像も随所に織り込まれ、現在の「オール沖縄」につながる歴史を私たちは追体験する。
 音楽は前作と同じく坂本龍一、語りは役所広司と山根基世。多くの人々の力が結集して完成した後世に残すべき記録、抵抗の原点であるカメジローの闘いをしっかりと記憶しよう。

予告編『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』


 12月はこのほかに、青森市の「シネマディクト」で『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』と『ゴッホとへレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』を鑑賞した。




「シネマディクト」ではこの1月から2月、『人生、ただいま修行中』(1/1124)・『エッシャー 視覚の魔術』(2/814)・『台湾、街かどの人形劇』(2/1521)など興味深いドキュメンタリーの上映が続く。「地方で作品に出会う」ためには、この機会を逃すわけにはいかない。



<後記>

  次号は2月、「ドキュメンタリー時評」を続けて発信する予定だ。215日開催の「harappa映画館 ドキュメンタリー最前線2020」の報告という形をとりながら、「地方で作品を上映するということ」について考える(次はそのホームページのアドレス)。






(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。