2019年11月11日月曜日

【越境するサル】№.194「『きみの鳥はうたえる』~上映会への誘い~」(2019.11.1発行)


1123日(土)、harappa映画館は「いまを感じるこの映画3本」と題して3本の日本映画を上映する。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017石井裕也監督)、『きみの鳥はうたえる』(2018 三宅晶監督)、『さよならくちびる』(2019 塩田明彦監督)、どの映画も高い評価を得たとびきりの「青春映画」だが、その中でも『きみの鳥はうたえる』は私にとって特別な思い入れのある映画だ


「『きみの鳥はうたえる』~上映会への誘い~」

  『きみの鳥はうたえる』は、函館出身の作家・佐藤泰志(1949-90)の同名小説を原作とする。
 佐藤泰志が故郷函館に転居し職業訓練校に通っていた1981年、『文藝』に掲載された中編「きみの鳥はうたえる」は、この年の第86回芥川賞候補作となった。結果的に落選するが、この作品が注目されたことが、その後彼が再び生活の場を東京に移して作家活動を続ける契機になったことは間違いない。以後、芥川賞候補になること4度(すべて落選)、1980年代後半には作品集『大きなハードルと小さなハードル』に収録された作品群、長編小説『そこのみにて光輝く』、連作『海炭市叙景』などを発表するが、1990年自死

 この作品と出会った時、私は次のように書いた。

  「きみの鳥はうたえる」の主要な登場人物は3人。本屋の店員の「僕」と、同じ店で
 働く佐知子、「僕」と同居する失業中の静雄、21歳の3人の共同生活ともいえる夏の日々  が描かれる。ジャズ喫茶、ビートルズへの思い、深夜映画館、若者がたむろす酒場・・・  70年代そのもののような舞台設定の中、出会い・揺れ動く心・別れの予感・あやうい友
  情といった「青春小説」のすべての要素が詰め込まれたこの作品は、青春を描き続けた佐藤泰志の一つの到達点といえる。女1人に男2人という「黄金の組み合わせ」によるストーリー展開は他の佐藤作品に比べてもリズミカルで、思わず映画化されたものを観
てみたいという誘惑に駆られてしまう。
                                       20062月『越境するサル』№39より)

そして、いま、私たちの眼前に映画『きみの鳥はうたえる』がある
 映画『きみの鳥はうたえる』の監督は、近年意欲的な作品を次々と発表してきた新鋭・三宅晶。1984年生まれ札幌市出身の彼は、原作の舞台を1970年代の東京から現代の函館に移すという大胆な翻案を行なった。そして、「僕」に柄本佑、「静雄」に染谷将太、「佐知子」に石橋静河を配して、原作を骨格としながらも新しい青春像を創り上げることに成功した(この作品は「映画芸術」2018ベストテン第1位、「キネマ旬報」2018日本映画ベストテン第3位を獲得した)。
 佐藤泰志の小説が映画化されたのは、『海炭市叙景』(2010)、『そこのみにて光輝く』(2014)、『オーバー・フェンス』(2016)に続いて4作目。いずれも高い質の作品を制作した、函館の市民映画館「シネマ・アイリス」には敬意を表する(
注)。

 



この日上映される他の2本もまた必見の映画だ。

 『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、2016年にリトルモアから刊行された最果タヒの同名詩集を原作とする。脚本も担当した石井裕也監督により、原作をもとにラブストーリーとして作り上げられた(2017年映画化)。
 石橋静河と池松壮亮の主演で、石橋は本作が映画初主演作。「キネマ旬報」2017日本映画ベストテン第1位、「映画芸術」2017ベストテン第1位他、数々の賞に輝く。

 

 
 『さよならくちびる』は、「青春ロードムービー」と呼ぶべき作品。女性ギター・デュオ「ハルレオ」のハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)は、それぞれの道を歩むため解散を決め、ローディ兼マネージャーのシマ(成田凌)とともに全国7都市(浜松・大阪・新潟…弘前も入っている)を巡る解散ツアーに出かける。すれ違う、3人の心…
秦基博、あいみょんがこの映画のために楽曲を提供し、主演のふたりが映画の中で歌唱する。
なお、脚本も担当した塩田明彦監督は、harappa映画館メンバーが運営に関わった「弘前りんご映画祭2013」にゲストとして来弘、自作『どこまでもいこう』(1999)の上映後、スペース・アストロで舞台挨拶に立った。今回再びゲストとして、『さよならくちびる』上映後のシネマトークに参加する。




  11月23日は、harappa映画館へ。


(※注)
「シネマ・アイリス」が制作に関わった佐藤泰志原作の映画は、かつて「harappa映画館」で2本上映している。次の『越境するサル』№14320162月発行)「『函館発 佐藤泰志映画祭』~上映会への誘い~」がその紹介である。<付録>として、過去に私が書いた佐藤泰志関連の記事も掲載されている。

http://npoharappa.blogspot.com/2016/02/143-2016214.html


日程等は次の通り。

   11月23日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

   いまを感じるこの映画3本

        10:30   夜空はいつでも最高密度の青色だ』(108分)
        13:30   きみの鳥はうたえる』(106分)      
        16:00   さよならくちびる』(116分)
                              
   1回券 前売 1000   当日 1200      会員・学生 500
   3回券 2500円(前売りのみの取り扱い)   ※1作品ごとに1枚チケットが必要です。
    チケット取り扱い                                                       
       弘前中三、まちなか情報センター、弘前大学生協、コトリcafe(百石町展示館内)


詳細は、次のホームページ・アドレスで。

https://harappa-h.org/harappa-wp/?p=228
 

<後記>

  次のharappa映画館は、2月、「ドキュメンタリー最前線」の予定である。
  次号は「今年出会ったドキュメンタリー 201910-12月期」となるはずだが、その前に何か発信できるかもしれない。




(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2019年10月24日木曜日

【越境するサル】№.193「珈琲放浪記~山形、映画と珈琲の日々~」 (2019.10.20発行)


今年も「山形国際ドキュメンタリー映画祭」(10/10~17)に出かけた。1989年から隔年で開催され、今年は山形市内6会場で176本の作品が上映されたこの映画祭。私が参加した10月11日(金)から14日(月)の4日間について、映画と珈琲との出会い両方を「珈琲放浪記」の形で報告する。


 
    「珈琲放浪記~山形、映画と珈琲の日々~」

 10月11日(金曜日)

弘前から高速バスで4時間余、仙台着。そこから高速バスで1時間余、正午過ぎ山形に到着した。そのままホテルに向かいチェックイン、すぐ映画祭主会場がある七日町へと出向く。映画祭のチケット引換券を正規のチケット(10枚つづり)に換え、4日間の準備は整った…



 この日の映画の鑑賞前に、行きたかった喫茶があった。旅籠町「シャンソン物語」、1984年オープンの「昭和の喫茶店」。たどり着くまで少し迷ったが、ついに地下の店に続く階段を下りることができた。
 店に入ると、その「レトロ」な雰囲気にまず圧倒されるが、統一感のある内部の空間は喫茶店文化が確かにあったことを感じさせた。ひとりで静かに読書する人々、会話する人々、店内に流れるシャンソン…セットメニュー「パリの朝市」を注文する。 チーズとシナモン生クリームのトーストにサラダとヨーグルト、そして金曜日の珈琲はマンデリン。自家焙煎・深煎り、私の好みの苦さとコクに満足感を覚える。
美味い珈琲と美味い昼食から始まった山形の旅、スタートは上々。



15時10分、山形市公民館(アズ七日町6F)。
『光に生きる―ロビー・ミューラー』(2018 オランダ クレア・パイマン監督)。「インターナショナル・コンペティション」作品。
ヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュ作品のカメラマンとして数々の名作を生み出したロビー・ミューラーの生涯を、語り継がれるショットの回顧とともにたどる。挿入される、彼が残したプライベート映像の断片。今も忘れることのできない思い出のシーン(たとえば『パリ、テキサス』)。愛する映画たちが、心に残るシーンが、どのように生まれたか。その瞬間に立ち会う旅だ…



 17時15分、山形市民会館大ホール。
『誰が撃ったか考えてみたか?』(2017 アメリカ トラヴィス・ウィルカーソン監督)。「インターナショナル・コンペティション」作品。
 1946年にアメリカ・アラバマ州ドーサンで起きた黒人男性射殺事件。その犯人はウィルカーソン監督の曽祖父だつた…親族の間でも隠され続けていたこの事件を、監督は古い新聞記事をスタート地点にして掘り起こしていく。人種差別主義者であり家族にも暴力的であった曽祖父の人格を探っていく旅から浮かび上がる、アメリカの白人至上主義。



 夜は、芋煮と馬刺しと焼き鳥と、山形の地酒を少し。


 10月12日(土曜日)

 朝、小雨の中、霞城公園を目指す。霞城公園は山形城跡を整備した都市公園。今までじっくりと見学したことがなかった。特に公園内にある、現在は山形市郷土館となっている病院建築物「旧済生館本館」は、長い間間近で見たいものだと思っていた。しばし、公園内を散策する。



 10時30分、ソラリス(霞城セントラルB2F)。
 『第1のケース…第2のケース』(1979 イラン アッバス・キアロスタミ監督)。「リアリティとリアリズム:イラン60s-80s」作品。
 イランの巨匠、アッバス・キアロスタミ監督の初期作品(日本初上映)。実験的なドキュメンタリー、というべきか。ある学校で、先生が黒板に向かっている間に騒音をたてた生徒に腹を立て、犯人を含む後列の7人を廊下に立たせる。そこで先生は、犯人を教えたら授業に戻れるという条件を与える。そして、誰も口を割らないケース1、ひとりが犯人の名をあげ授業に戻るというケース2、それぞれのケースに対する識者や保護者の様々な意見を収録する。善悪や倫理に関する多様な考え方が示される…イスラーム革命の時期に制作されたこの作品は長らく上映が禁止されていたが、修復を経て今年公開された。



 昼食は、七日町(シネマ通り)「ボタコーヒー BOTAcoffee」。2年前に訪れて、その雰囲気と深煎りの珈琲の美味しさがすっかり気に入ってしまった店だ。
 以前の洋傘屋の外観が残る店にたどり着くと、ランチタイム。混みあった店内に何とか空いている場所を見つけ(カウンターだった)、チキンカレーと珈琲のランチセットを注文する。若い男性店主と女性ふたりがてきぱきと動き、思っていたよりも早くセットの「野菜サラダ」が到着。カレーそのものより分量が多い野菜と格闘し、つづけてカレーをほおばる。そして、食後に運ばれてきた「ボタブレンド」。この1種類だけで勝負する絶品のブレンド。深煎りのコロンビア、グアテマラに、タンザニアがアクセントをつける。職場用に豆も購入。満足のランチだった…



 14時50分、山形市民会館小ホール。
 『さらばわが愛、北朝鮮』(2017 韓国 キム・ソヨン監督)。「Double Shadows/二重の影 2――映画と生の交差する場所」作品。
 朝鮮人集団移住者を取材した「亡命三部作」の完結編。北朝鮮建国から間もない時期、モスクワの映画学校で学ぶため北朝鮮を離れた「モスクワの⒏人」。彼らはキム・イルソンへの個人崇拝(偶像化)を批判して1958年ソビエトに亡命(1956年のフルシチョフによるスターリン批判の後だ)。以後、異国で芸術家として活動する。生き残った者たちの証言を軸に、その過酷な運命を淡々と描く秀作。


 さて、この日のその後の経緯は複雑だ。当初私は、自家焙煎珈琲を求めて「喫茶 チャノマ」という店まで出向き、それから「ソラリス」で上映予定の『空に聞く』(2018 小森はるか監督)に向かう予定だった。しかし、降り続く雨で断念。隣の市民会館大ホールに出店しているコーヒー屋で喉を潤し、そのまま大ホールで上映予定の『ラ・カチャダ』(2019 エルサルバドル マレン・ビニョヨ監督)を鑑賞することを決断した。

 市民会館大ホール・ロビー出店の「カジワラ珈琲」に向かう。イベント専門に出店している店らしい。メニューに迷いはなし。「コスタリカ」、私の好みの深煎りではないが、中煎りだろうか、のどごしは心地よい。お茶を味わうように飲み干し、18時15分開始の『ラ・カチャダ』を待つ。



 ところが、台風の影響がさすがに大きくなり、18時以降開始のプログラムは全会場で中止。次の日以降に順延となった。結局、台風19号による中止はこの回だけ。考えてみれば、よくその他の日程を消化できたものだ…



 夜は、台風の豪雨の中、会場近くのリーズナブルなステーキ屋で、ワインを少し。


10月13日(日曜日)

映画の前に珈琲を飲みたかった。できれば、昭和の香りがする喫茶店で、常連客に混じってカウンターに陣取り、新聞やパンフに目を通しながら珈琲をすすりたかった…
映画祭の拠点・アズ七日町ビルの向かいの通り・七日町一番街(本町)にあるレンガ造り風の喫茶が以前から気になっていた。「珈琲専科 煉瓦家」、自家焙煎・深煎りという私の好みにも合いそうだった。


入店して、迷わずカウンターに座る。注文は「フレンチ珈琲」。私の後に次々と客が来店したが、思ったより順調に「フレンチ珈琲」にありつくことができた。熱すぎることを除けば(地方都市では、しばしば熱すぎる珈琲を覚悟しなければならない)、私の好みのタイプだ。店内を見渡すと、本当に「昭和の喫茶店」そのものだ。次に来るときは、評判メニューであるホットサンドも一緒に注文し、モーニングサービスのように時間を過ごそう…



 11時、フォーラム5。
 『エクソダス』(2019 イラン バフマン・キアロスタミ監督)。「アジア千波万波」(アジアの新人監督のための部門 最高賞は「小川紳介賞」)作品。なお、バフマン・キアロスタミ監督はアッバス・キアロスタミ監督の息子。
 安価な労働力として隣国アフガニスタンから出稼ぎに来ていた労働者たちは、経済制裁の影響で通貨価値が急落したイランから本国に帰るため、続々と帰還センターに押し寄せる。イマーム・レザー・キャンプで出国審査を受けるアフガニスタン人と、出国管理官の間で交わされる、本音とウソが交錯する生々しいやりとりを、私たちはかつてない臨場感で体験する。バックに流れるボブ・マーリーの名曲「エクソダス」…間違いなく、今回の映画祭で出会った中で№1の傑作。なお、この作品は「アジア千波万波」奨励賞を受賞した。



 昼食は「冷しらーめん」に決めていた。朝の「珈琲専科 煉瓦家」と同じ七日町一番街(本町)の「元祖冷しらーめんの店 栄屋本店」。何度か訪れているが、今回も無性に食べたかった。
 次々に映画祭関係者や地元の人々が訪れる店内に座席を確保、無事「冷しらーめん」にありついた。記憶通り、期待通りの冷たいスープと麺、今回は蕎麦を食べる機会がなかったが、麺類についてはこれで満足としよう。



 少し足を延ばして、「山形美術館」近くの「蔵王の森焙煎工房 旅篭町店」に向かう。途中、国の重要文化財・山形郷土館「文翔館」(旧県庁舎及び県会議事堂)を間近に見る。近くまで行くのは、実は初めてだった。大正初期洋風建築にふれることができたのは収穫と言える。



 「蔵王の森焙煎工房 旅篭町店」も2度目の来訪だった。2年前に訪れた際、私の好みの深煎り(中深煎り)の豆が何種類か揃っていることを確認していた。
 今回は迷うことなく「インドネシア マンデリンG1 ミトラ(フルシティロースト)」を注文。店内で味わい、かつ持ち帰り用の豆も購入した。
 「マンデリン」は期待通りの味だった。店の紹介文には、「心地よい苦み」・「クリーンなマンデリン風味」・「しっかりしたボディ感」・「後味に感じる酸味もいい」等の言葉が並ぶが、その通りの味と言っていい。店の主人や同席した地元の人たちとの会話も、心地よかった…



 15時30分、山形市民会館大ホール。
『自画像:47KMの窓』(2019 中国 ジャン・モンチー監督)。「インターナショナル・コンペティション」作品。
ジャン・モンチー監督が、中国湖北省の山間部にある自身の父の村を舞台に撮影を続ける連作ドキュメンタリー「47KM」シリーズの⒏作目。自身の党員としての半生を追想する85歳の老人、村の老人たちの似顔絵を描き続ける15歳の少女…監督は村の風景を記録し続ける。



18時30分、山形市民会館大ホール。
『ユキコ』(2018 フランス ノ・ヨンソン監督)。「インターナショナル・コンペティション」作品。
 ソウル生まれフランス在住のノ・ヨンソン監督が、自身と、韓国・江華島でひとり暮らす母、戦時中朝鮮人の恋人を追い日本から朝鮮半島にやってきた祖母、3人の人生のつながりを求めて、ひとつの物語を紡いでゆく。仮に「ユキコ」と名付けられた祖母が人生最期の地に選んだ沖縄、母の住む江華島、ふたつの島への旅で彼女(監督)は何を見つけたのか。


 この2本と金曜日の『誰が撃ったか考えてみたか?』、3本のコンペ作品に少しばかりの不満を感じたことを告白しておく。それが何であるのか、しばらく考えようと思う。とりあえず「伏線の未回収」という言葉が浮かんだが、それだけではない。

 夜は、創作郷土料理と酒の肴と、燗酒を少し。





10月14日(月曜日)

山形滞在最終日。昼には山形を離れる。ホテルのチェックアウトを終え、荷物を預け、会場へ向かう。

市民会館大ホール・ロビーに出店している「YUKIHIRA COFFEE(ユキヒラコーヒー)」(山形県東村山郡中山町の喫茶)で、山形最後の珈琲を飲もうと決めていた。だが店の開店は10時。隣の小ホールの上映開始は10時15分だから、時間の余裕はない。10時ちょうどに提供してくれるようお願いして待機する。
こうして幸運にも巡り会えた珈琲は「タンザニア ディープブルー」。中深煎りといった感じか。まさしく「ほろ苦」だ。2日前の「コスタリカ」と同じように(つまりお茶を味わうように)、ゆっくりと飲み干す。



10時15分、山形市民会館小ホール。
『あの店長』(2014 タイ ナワポン・タムロンラタナリット監督)。「Double Shadows/二重の影 2――映画と生の交差する場所」作品。
タイ・バンコクのマーケットに実在した海賊ビデオ店。タイでは入手困難なアート系の映画を揃えたこの店は、映画監督や脚本家、批評家を育てた伝説の場所だ。かつての常連客(その多くは現在の映画関係者だが)たちの機関銃のような証言によって、この店と店長の実態が浮かび上がる…全世界の映画を愛する人々がかつて持っていた、まだ見ぬ映画作品への渇望。その記憶を刺激する、快作。



 これで、山形の日程はすべて終了。次は2年後、もちろん再び訪れるつもりだ。今から、映画と珈琲と、夜の酒と肴を楽しみにしている自分がいる…


<後記>

  7度目の参加となる「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の報告を「珈琲放浪記」に合体させた通信となった。そのため少し長くなったが、山形滞在の全体像を示すことができたのではと思う…次号は11月の「harappa映画館」の紹介となりそうだ。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2019年9月30日月曜日

【越境するサル】№.192「今年出会ったドキュメンタリー 2019年7-9月期」(2019.9.29発行)


2019年7-9月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。


         「今年出会ったドキュメンタリー 2019年7-9月期」

   2019年7月から9月までに観たドキュメンタリーを列挙する。スクリーンで観た映画は3本、あとはDVD等での鑑賞。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、はテレビ・ドキュメンタリー。

7月・・・『カンパイ! 日本酒に恋した女たち』(2019 小西未来サンプル)
     『エリック・クラプトン 12小節の人生
       (2017 リリ・フィニー・ザナック)
     『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』
       (2018 ミシェル・マリー 青森シネマディクト)

         EU離脱交渉官の苦悩』(2019 BS世界のドキュメンタリー)
     『反骨の考古学者 ROKUJI』(2019 ETV特集)
     『山小屋弁護士~65歳、自分の生き方を貫く男~
       (2019 テレメンタリー)
     『シリーズ・子どもたちの夢「チベット・遥かな心の旅~中国~」
       (2018 BS1)
     『心ひとつに~華麗に舞う組踊り~
       (2019 NNNドキュメント 青森放送制作) 
     『使い捨て異邦人~苦悩する外国人労働者たち~』
       (2019 ドキュメントJ)
     『少年騎手の宿命~インドネシア 島物語~』
       (2019 BS世界のドキュメンタリー) 

8月・・・『伝説の怪奇漫画家 日野日出志』(2019 寺井広樹
     『主戦場』(2019 ミキ・デザキ フォーラム盛岡
     『マルジェラと私たち』(2017 メンナ・ラウラ・メイール
     『日本で働くということ~覚悟を決めた中国人~』
       (2019 ザ・ノンフィクション特別編)
     『私は何者なのか~名前も奪われた原爆孤児~』
       (2019 テレメンタリー)
     『忘れられたひろしま千人が演じたあの日~』
       (2019  ETV特集)
     『ベリングキャット~市民が切り開く調査報道~
       (2019 BS世界のドキュメンタリー)
     『琉球難民~証言と記録でたどる台湾疎開』(2019ドキュメントJ)
     平成ニッポンを歩く 報道カメラマン80歳 日本縦断(西日本編)2019 NNNドキュメント)
     『三鷹事件 70年後の問い~死刑囚・竹内景助と裁判~
       (2019 ETV特集)
     『サテライトの灯~消えゆく母校
       (2018 27回FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞)
     『史実を刻む~語り継ぐ戦争と性暴力
       (2019 テレメンタリー)

9月・・・『バスキア、10代最後のとき』(2017 サラ・ドライバー)
     『私は、マリア・カラス』(2017トム・ボルフ)
     『ボールを奪え パスを出せ/FCバルセロナ最強の証』
       (2018 ダンカン・マクマス)
     『ウッドストック~伝説の音楽フェス 全記録~前・後編
       (2019  BS世界のドキュメンタリー)
     『刑罰と治療~クレプトマニアという闇~
       (2019 NNNドキュメント)
     『昭和天皇は何を語ったのか~初公開拝謁記に迫る~
       (2019 ETV特集)
     『生ききる』(2019 ドキュメントJ)
     『死ぬために生きる人々 インドネシア・トラジャ』
       (1996 素晴らしき世界の旅・プレミアムカフェ)
     『辺野古 基地に翻弄された戦後』(2019 ETV特集)


毎回、「収穫」を選んでいるが、今回も数本紹介する。まず、映画から。

『カンパイ! 日本酒に恋した女たち』(2019 小西未来 サンプル)。『カンパイ! 世界が恋する日本酒』(2015)から3年、小西未来監督が日本酒の世界に生きる3人の女性の姿を描く。百年以上続く広島の酒蔵を継いだ女性杜氏、日本酒の魅力を世界へ発信するニュージーランド出身の日本酒コンサルタント、フードペアリングで旋風を巻き起こしている日本酒ソムリエ。彼女たちの活躍は、かつて女人禁制だった日本酒の世界をあきらかに進化させている。3人のストーリーと「現在」を追う。



エリック・クラプトン 12小節の人生』(2017 リリ・フィニー・ザナック)。グラミー賞18回受賞、ロックの殿堂入り3回、「ギターの神様」エリック・クラプトン。彼の激動の人生を、ヤードバーズ、クリームなどのバンド期、そしてソロ活動の未発表映像を中心にした映像群、本人によるナレーションで描く。ジョージ・ハリスン、ジミ・ヘンドリックス、BB・キング、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ、ボブ・ディランなどのアーカイブ映像も満載、貴重な記録となっている。母親に拒絶された少年時代、親友ジョージ・ハリスンの妻への恋、ドラッグとアルコールに溺れた日々、最愛の息子の死エリック・クラプトン自らが語る天国と地獄の人生。



『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』(2018 ミシェル・マリー 青森シネマディクト)。19世紀末から20世紀初頭のウィーン、クリムトとエゴン・シーレは人間の不安や恐れ、エロスを描いた新しい絵画作品を次々と生み出していった。そしてその時代は、ジークムント・フロイトの精神分析学が誕生し、音楽、建築、文学にも新しい波が押し寄せた時代であった。封建的なウィーンの秩序は揺れ動いたアルベルティーナ美術館、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館、美術史美術館、分離派会館、レオポルド美術館、ウィーン博物館、ジークムント・フロイト博物館を巡りながら堪能する、ウィーン黄金時代の始まりと終わり。各界を代表する一流のコメンテイターたち、ナビゲーターをつとめるイタリアの新進気鋭の俳優ロレンツォ・リケルミー、そして日本語ナレションを担当する俳優の柄本佑にも注目だ。



伝説の怪奇漫画家 日野日出志』(2019 寺井広樹)。日野日出志、「蔵六の奇病」「地獄変」などで知られる日本ホラー漫画の巨匠。これまで謎に包まれてきた彼の人生を、本人インタビュー、関係者インタビュー、秘蔵写真、プライベート映像で構成する、日野日出志の素顔に迫るドキュメンタリー映画。登場する関係者は、赤塚りえ子、みうらじゅん、伊藤潤二、犬木加奈子、御茶漬海苔、里中満智子、しりあがり寿、手塚眞、ナカジマノブ(人間椅子)、のむらしんぼ、古谷三敏、三浦みつる、山咲トオルそして俳優の八名信夫との貴重な特別対談。監督・撮影は、日野プロダクションを日野日出志とともに設立した寺井広樹。



『主戦場』(2018 ミキ・デザキ フォーラム盛岡)。日系アメリカ人映像作家ミキ・デザキが慰安婦問題をめぐる論争をさまざまな角度から検証、分析したドキュメンタリー。慰安婦たちは「性奴隷」だったのか、本当に「強制連行」はあったのか、元慰安婦たちの証言はなぜブレるのか、日本政府の謝罪と法的責任とは慰安婦問題をめぐるさまざまな議論を検証するため、デザキは日・米・韓の論争の中心人物たちへのインタビューを試み、ニュース映像や記事の分析を続ける。映画の中では「歴史修正主義者」とされているケント・ギルバート、藤岡信勝、杉田水脈、櫻井よしこ、加瀬英明等。対抗するリベラル派の吉見義明、渡辺美奈、中野晃一等。双方の意見を丹念に対比させ、アメリカのドキュメンタリーらしく速いテンポでつないでいくこの作品は、タブーとなりつつあった慰安婦問題の「主戦場」を指し示すことができるのか。



『バスキア、10代最後のとき』(2017 サラ・ドライバー)。ニューヨーク、イースト・ビレッジの路上生活者から、20世紀を代表するアーティストになったジャン=ミシェル・バスキア。1970年代から1980年代のニューヨークのムーブメントを追いながら、無名時代のバスキアの生活に迫るドキュメンタリー。どのようにして天才バスキアが生まれたのか、数々の証言と映像が生々しい。サラ・ドライバー監督は、この映画の中にも登場するジム・ジャームッシュ監督のパートナーである。



『私は、マリア・カラス』(2017トム・ボルフ)。1977年急逝した「20世紀最高のソプラノ」マリア・カラスの波乱に満ちた生涯を、未完の自叙伝やプライベートな手紙、そしてマリア・カラス本人の劇場での歌や映像で綴った貴重なドキュメンタリー。ひとりの女性として幸せを求めた彼女の、真実の姿を私たちは垣間見る



テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

反骨の考古学者 ROKUJI』(2019 ETV特集)。弥生時代の研究に生涯をかけた、伝説の考古学者・森本六爾(1903-36)。日本の農耕の開始について、狭いアカデミズムに抗して真実を求め続けた凄絶な人生を、埋もれていた六爾の野帳ノートの調査をもとにドキュメンタリーとドラマで構成した意欲作。ドラマ部分の出演は、六爾役に「ハライチ」の岩井勇気、共に闘った妻・ミツギ役に伊藤沙莉。

シリーズ・子どもたちの夢「チベット・遥かな心の旅~中国~」』(2018  BS1)初回放送は20181026日。第35回ATP賞テレビグランプリ・ドキュメンタリー部門優秀賞受賞。さまざまな困難と闘いながら夢を持って生きるアジアの子どもたちを、その国のディレクターが密着して描く3本シリーズの1本。急速な市場経済化が進む中国・チベット。離婚の増加で孤児院に預けられる子どもが増えている。父に会うため、あるいは母に会うため、長旅に出ることを決意した少女たちの姿を追いかける。

『忘れられたひろしま千人が演じたあの日~』(2019 ETV特集)。原爆投下から8年後の1953年、広島で製作された日本映画史上最大級のスケールを誇る映画『ひろしま』。原爆体験者の手記『原爆の子』をもとに関川秀雄が監督し、8万人を超える市民が撮影に参加、岡田英次・月丘夢路・山田五十鈴・加藤嘉らが出演した。「原爆投下直後の広島で何があったのか」を被爆者自らが演じたたこの作品は、ベルリン国際映画祭で長編劇映画賞を獲得するなど国際的にも高い評価を受けたが、内容が反米的と判断され一般の映画館では上映されなかった。そして、その存在は徐々に忘れられていった時代に翻弄された『ひろしま』のその後を辿り、現在の状況までしっかりと押さえたドキュメンタリー。なお、映画『ひろしま』はこの8月17日(16日深夜)、NHK(Eテレ)で放送された。

『琉球難民~証言と記録でたどる台湾疎開』(2019 ドキュメントJ)。制作:RBC琉球放送(2019220日放送)。沖縄戦の前年、沖縄から台湾へ1万人以上が国策として疎開した。沖縄戦の足手まといとなる高齢者、女性、子供たちである。その実態は近年まで本格的な調査・研究がなされず、「埋もれた歴史」となっていた。彼ら疎開者の台湾での苦難、戦後の引揚における悲劇に光をあてるナレーションはTHE BOOMのボーカリスト・宮沢和史。

サテライトの灯~消えゆく母校』(2018 27回FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞)。第27回FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞作品。初回放送は2018930日深夜、制作は福島テレビ。福島県内に唯一残されたサテライト校・相馬農業高校飯舘校は9.11」後飯舘村から福島市に避難した学校。それから7年、生徒たちは別の高校の敷地内にあるプレハブ校舎で学んでいる。通うのは、さまざまな事情を抱えた飯舘村以外の出身者が9割以上。避難指示の解除、飯舘村への帰還が進む中、いつか飯舘校は村に帰る飯舘校演劇部の生徒たちは愛したプレハブの校舎が無くなるその日を想像し、芝居『サテライト仮想劇いつか、その日に、』を上演し、母校への思いを訴え続ける。(なお、826日のBSフジ「FNSドキュメンタリー大賞」では福島県双葉町~原発と生きるということ~』を放送すると予告されていたが、この『サテライトの灯~消えゆく母校』が放送された。どちらも重要な作品である。

ウッドストック~伝説の音楽フェス 全記録~前・後編』(2019  BS世界のドキュメンタリー)原題:Woodstock: Three Days that Defined a Genaration、制作:ARK MEDIA PRODUCTION(アメリカ 2019)。40万人の若者を集めた伝説の野外コンサート「ウッドストック」から今年で50年。残された映像から全貌を伝える。「ウッドストック」を企画した、運営経験のない4人の若者達たちは様々なトラブルに直面した。保守層の抵抗から変更を余儀なくされた会場、開演後も続く突貫工事の設営、予想を上回る観客の集結による周辺道路の渋滞しかし、混乱の中始まったコンサートは地元住民の協力に支えられ、最終日まで持ちこたえる。そして、ジミ・ヘンドリックスの伝説のライブで幕を閉じる。

『生ききる』(2019 ドキュメントJ)。制作SBC信越放送(初回放送:2019522日)。長野県上田市の戦没画学生慰霊美術館・無言館館主の窪島誠一郎さん(77歳)。早世した天才画家・村山槐多の絵を追って東京から移住、1979年、夭折画家の作品を集めた「信濃デッサン館」を開館。その後、戦争で亡くなった画学生たちの絵を全国の遺族を訪ね歩いて集め、1997年、「無言館」を開館する。しかし、時代の移り変わりの中で経営は苦しくなり、窪島さんもくも膜下出血で死の淵をさまよう。戦没画学生の遺族と交わした「この絵を守ります」という約束を果たすため、彼はある決断を下すナレーションは歌人・福島泰樹。


<後記>

  映画館で観ることができたのは2本だけ。その分、テレビ・ドキュメンタリーのチェックには身を入れたつもりだが、見逃した作品も多い次号は10月の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の報告の予定。「珈琲放浪記」という形にしたいと考えている。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。