2020年4月3日金曜日

【越境するサル】№.198「ドキュメンタリー時評 2020年4月 ~三島由紀夫と鈴木邦男~」(2020.04.03発行)

「ドキュメンタリー時評」第3回は、「三島由紀夫と鈴木邦男」と題して、三島由紀夫と鈴木邦男が出演(登場)したドキュメンタリー映画2本について紹介する。


「ドキュメンタリー時評 2020年4月 ~三島由紀夫と鈴木邦男~」


 2020年3月20日、『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』(2020 豊島圭介監督、
以下『50年目の真実』)が全国公開された。私も、封切から数日後「フォーラム盛岡」に駆けつけ、この話題作と出会うことができた。
 「フォーラム盛岡」は、かつて若松孝二監督の『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012)を鑑賞した劇場である。また、同じく若松監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)もここで観た(その時は監督のサイン会にも並んだ)。何か縁のようなものを感じるが、ただ単に盛岡まで来なければ観たい作品に出会えなかったということだ。




 『50年目の真実』は、1969年5月13日、東大駒場キャンパス900番教室で行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘1000人の「伝説の討論会」の全貌を記録したドキュメンタリー映画である。「天皇主義者」と「革命派」、明らかに敵対するはずの両者によるこの討論会の内容が記録された書籍を私たちは2冊ほど知っているが、TBSが保管していた映像
記録を基に作られた今回の作品は、これまで活字から私たちが抱いていた印象の変更を迫るものだったと言っても過言ではない。



 その日、会場に現れた三島の決意表明から討論会は始まる。司会は、この年の1月安田講堂で敗北した東大全共闘が設立した「東大焚祭委員会」の木村修。彼が三島を思わず「三島先生」と呼んでしまい、三島が全共闘と自分の接点を語るなど、「対決」とはいえお互いに対する最低限の敬意は保たれたままだ。その後、東大全共闘随一の論客・芥正彦、さらに小阪修平が登場し、「他者」・「解放区と時間」・「天皇」について議論は続いていくが、不思議なことに三島に「アウェー感」はない。後輩たちとの討論を楽しんでいるかのようだ。「千両役者」三島の余裕は、全共闘学生たちに「天皇と諸君が一言でも言ってくれれば、私は喜んで諸君と手をつなぐ」と呼びかける終盤まで変わらない(その余裕が演技だとしても、それはそれで大したものだ)。
 初めてその全貌が明らかにされた映像の合間に、木村修・芥正彦・橋爪大三郎ら元東大全共闘、その場で三島を護衛していた元「楯の会」のメンバーたち、取材していた新潮社とTBSの社員、平野啓一郎・内田樹・小熊英二らの文化人、親交があった瀬戸内寂聴・椎根和らの語りと証言が入るが、これも貴重なものだ。ナレーション(ナビゲーター)は東出昌大、大役を無難に務めた。豊島圭介監督は三島自決の翌年(1971年)の生まれだが、初めてのドキュメンタリーは大きなチャレンジとなった。
 この討論会の1年半後(1970年11月25日)、三島は楯の会隊員とともに自衛隊市ヶ谷駐屯地で決起するも自決。「味方」であるはずの自衛隊員は三島のバルコニーからの演説に野次と怒号で応えた(当然のことだ)。一方で、「敵」である東大全共闘との対決に漂う「親和性」は何だ。まるで、三島の「天皇主義」がフィクションであることを皆が了解しているようではないか…

▼『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』予告編

 
 
 三島(および行動をともにした森田必勝)の自決に衝撃を受け、政治団体・一水会を立ち上げた「新右翼」活動家が鈴木邦男である。『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』(2019 中村真夕監督、以下『愛国者に気をつけろ』)は、その交流関係の広さと従来の右翼思想とは異なる立ち位置から「謎の右翼活動家」とも呼ばれる鈴木の真の姿に迫るドキュメンタリー映画である。
 本作は2020年2月1日より全国公開(「ポレポレ東中野」他)されているが、地方の劇場で観る機会がすぐにあるとは思えなかったので、3月末、思い切ってDVDを購入した。もちろん、三島の『50年目の真実』の流れで鑑賞したかったからだ。


 76歳の鈴木邦男は、生長の家信者の家庭に育ち、17歳で自分と同年代の山口二也が社会党浅沼委員長を刺殺する映像に衝撃を受け右翼活動へ進む。早稲田大学では、のちの日本会議につながる全国学協の代表となり左翼と対峙するが失脚。その後一水会を拠点に民族派右翼としての数々の活動を行なう(私たちの世代には「格闘技評論家」としても認知されている)。
 現在の彼は、自らが訴えてきた「愛国心」さえも疑い、さまざまな異なる意見の人々と交流を続け、多くの心酔者に囲まれている。その2年間に密着したカメラは、鈴木の日常生活や語りとともに、彼と交流を続ける人々(右翼活動出身の作家・雨宮処凛、一水会代表・木村三浩、北朝鮮拉致被害者家族連絡会・蓮池透、映画監督・足立正生、元オウム真理教・上祐史浩ら)へのインタビュー映像を映し出す。そこから浮かび上がる鈴木邦男の素顔は、自らの思想の変容を隠すことなく、つねにひとりの人間として他者と向き合い現在を真摯に生きようとする、穏やかな老人というものだ…
 監督は『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』(2015)の中村真夕。彼女の「若松孝二監督が突然、亡くなった時、誰も監督についてのドキュメンタリー映画を作っていなかったことをとても残念に思いました。60年代、70年代という激動の時代を知っている人たちもすでに70代、80代になっています。今、この時代を生きた人たちを記録しなければ、この時代は忘れられてしまうという強い焦燥を感じ、この作品の制作にとりかかりました。」というコメントに説得力を感じる。

▼『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』予告編

 
 
 三島由紀夫と鈴木邦男、このふたりの視点を交えた日本の戦後史を、私たちは映像を通して追体験する。それは、型通りのもの(「右」と「左」の単純な色分け)とは違う歴史だ。まず、このふたりの思想を深く探ることから始めよう。


 4月の青森・岩手のドキュメンタリー映画上映情報を列挙する。
 <青森シネマディクト>
 ・『娘は戦場で生まれた』(2019 ワアド・アル=カデブ監督)4/11~24、
 ・『ビッグ・リトル・ファーム』(2018 ジョン・チェスター監督)4/25~5/8
 <フォーラム八戸>
 ・『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』(2020 豊島圭介監督)4/3~16、
 ・『ビッグ・リトル・ファーム』4/10~23
 ・『21世紀の資本』(2019 ジャスティン・ペンバートン監督)4/10~16、
 ・『娘は戦場で生まれた』4/10~16
 <シネマヴィレッジ8・イオン柏>
 ・『i-新聞記者ドキュメント-』(2019 森達也監督)~4月上旬
 <フォーラム盛岡>
 ・『さよならテレビ』(2019 圡方宏史監督)4/10~16、
 ・『ビッグ・リトル・ファーム』4/10~23
 ・『プリズン・サークル』(2019 坂上香監督)4/17~23


▼『娘は戦場で生まれた』予告編



▼『ビッグ・リトル・ファーム』予告編



▼『21世紀の資本』予告編



<後記>
  3回続けて「ドキュメンタリー時評」となったが、当分このシリーズがメインとなる。毎月は無理としても、年8~10回くらい発信したいと考えている。問題は、そのほかのテーマで何本か発信できるかだ。実は、いくつか考えているものがあるのだが…次号は未定。


(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。

2020年2月27日木曜日

【越境するサル】№.197ドキュメンタリー時評 2020年2月 ~地方で作品を上映するということ~(2020.02.26発行)


「ドキュメンタリー時評」第2回は、「地方で作品を上映するということ」について考えてみたい。

 前回、地方でドキュメンタリー映画に出会うことの難しさについて述べたが、ならば観たい映画を自分たちで上映してしまおうという考えにたどり着くのは時間の問題だ。そして実際私は学生時代にいくつかのドキュメンタリー映画の自主上映に関わったが、10年ほど前からかなり本気で映画の上映活動に参加するようになり、その中でドキュメンタリー映画の特集を企画するようになった。「harappa映画館の中のシリーズ「ドキュメンタリー最前線」がその舞台である(注)。今年も2月、その上映会を迎えた。
 「ドキュメンタリー時評 20202~地方で作品を上映するということ~」  2020215日、「第33harappa映画館/ドキュメンタリー最前線2020―憲法映画祭」が開催された。場所は弘前市中三デパート8階「スペースアストロ」、harappa映画館の会場として市民に10年以上親しまれてきたお馴染みの「小屋」である。

 
 今回の上映は「日本国憲法」をテーマとする、あるいは関連すると思われる3本。 誰がために憲法はある2019 井上淳一)は、女優の渡辺美佐子自らが中心メンバーとなりスタートさせた原爆の悲劇を伝える朗読劇と、これも渡辺美佐子が演じる日本国憲法を擬人化した一人語り「憲法くん」を2本の柱として構成された作品である。

渡辺が一気に暗唱する日本国憲法前文の精神と、渡辺とベテラン女優たちの朗読劇をめぐる思いが、シンプルに伝わってくる。若松孝二監督に師事し、劇映画の監督・脚本家、ドキュメンタリーの監督として活躍する井上監督の「憲法に関する映画が一本も上映されない国で、僕は映画に関わり続けることはできない」という言葉(これはパンフの中にある)がリアルに響く。

▼『誰がために憲法はある』予告編
 



  主戦場2018 ミキ・デザキ)は、日系アメリカ人のミキ・デザキ監督が慰安婦問題に切り込んだ「問題作」である。この映画の上映をめぐって出演者から裁判が起こされ、上映を企画すること自体がニュースとなった。もっとも私は、盛岡の映画館で普通に鑑賞した。20198月のことだ。

 慰安婦問題に関する自分の疑問を解消するため、デザキ監督は30名を超える日米韓の論争関係者を訪ねまわり、インタビューを繰り返し、ニュース映像や記事を分析し、問題の整理を試みる。慰安婦たちは「性奴隷」だったのか?「強制連行」は本当にあったのか?なぜ慰安婦たちの証言はブレるのか?…
はたして疑問点は整理され、明確な答は見つかったのか。それは私たち一人ひとりがこの映画を観て考えるしかない。私としては、映画の中の「右派」の人々(はたして「右派」と呼んでいいのか疑問はあるが)を「歴史修正主義者」と括る必要はなかったのではと思う。監督の「整理」のための手法なのだろうが、彼らの言葉だけでも私たち観客は判断することができた。

▼『主戦場』予告編





 ヤクザと憲法2016 圡方宏史)は、東海テレビ放送が制作した、もともとテレビ・ドキュメンタリーから出発した作品である。


 暴力団対策法・暴力団排除条例以降のヤクザの実態を知るため、大阪の指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」の内部に入ったキャメラは、かつて殺人事件実刑判決を受けた会長と部屋住みの青年の日常を追う。「ヤクザとその家族に人権侵害が起きている」と語る会長、彼らの人権のために尽力する弁護士…時として矛盾する私たちの人権意識の根幹に迫る作品の前で、私たちは立ち尽くすしかないのか。

 ▼ヤクザと憲法』予告編  


 
 3本とも予想を超える入場者数だった。自分が観たい、観せたい映画は、上映する価値があるのだと改めて思う。特に『主戦場』はさまざまな妨害が予想されたが、ほぼ満員の中で上映することができた。意見の違いがあっても普通に上映すること、普通に上映できることの大切さを学んだ気がする。
これからも、地方で、自分たちの土地で、ドキュメンタリー作品を上映し続けることにこだわりたい。 


この上映会の翌日、青森市シネマディクトで『台湾、街かどの人形劇』(2018 楊力州)を鑑賞した。侯孝賢の映画『戯夢人生』(1993)などに出演した俳優で台湾布袋戯(ほていげき)の巨匠である人形遣い李天禄と、その息子で同じく台湾布袋戯の巨匠・陳錫煌(こちらが主役なのだが)を描いた重厚なドキュメンタリーである。

▼『台湾、街かどの人形劇』予告編




また、この日の夜、八戸市フォーラム八戸で『さよならテレビ』(2019 圡方宏史)を鑑賞。前夜の「ドキュメンタリー最前線」で上映した『ヤクザと憲法』と同じ東海テレビの制作で、監督も同じ圡方宏史。自らのテレビ局にキャメラを入れた「伝説のテレビ・ドキュメンタリー」の映画版であり、おそらく2020年を代表する話題作になること必至の作品である。

▼『さよならテレビ』予告編  





なお、これから3月までの上映日程の中では、青森市シネマディクト『ハード・ディズ・ナイト』(1964 リチャード・レスター)が要注目。旧邦題は『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』、「公開55周年記念上映」である(3/214/3)。 



八戸市フォーラム八戸『プリズン・サークル』(2019 坂上香)も見逃せない。初めて日本の刑務所にキャメラが入り、更生を促す新しいプログラムを長期撮影した作品である(3/1319)。 


▼『プリズン・サークル』予告編  


来年度の「ドキュメンタリー最前線」に向け、着々と候補作品のチェックは進む…  

(注) 「ドキュメンタリー最前線」および「弘前りんご映画祭」等でharappa映画館が上映した、あるいは上映に関わったドキュメンタリー映画を列挙する。 2010『台湾人生』(2009 酒井充子),『あんにょん由美香』(2009 松江哲明),『ライブテープ』(2009 松江哲明)2011『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』(2009 イヴ・イノン他),『100,000年後の安全』(2010 マイケル・マドセン)2012『精神』(2008 想田和弘),『Peace』(2010 想田和弘),『トーキョードリフター』(2011 松江哲明),『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(2010 佐々木芽生)2013『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』(2012 佐々木芽生),『こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(2009 片岡英子),『フタバから遠く離れて』(2012 舩橋淳)2014『映画「立候補」』(2013 藤岡利充),『台湾アイデンティティー』(2013 酒井充子),『ディア・ピョンヤン』(2005 ヤン・ヨンヒ),『愛しきソナ』(2009 ヤン・ヨンヒ),『椿姫ができるまで』(2012 フィリップ・ベジア)2015『フタバから遠く離れて 第二部』(2014 舩橋淳),『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2013 リティ・パニュ),『ある精肉店のはなし』(2013 纐纈あや),『ふたつの祖国、ひとつの愛ーイ・ジュンソプの妻ー』(2014 酒井充子)2017『ジョーの明日ー辰吉丈一郎との20年ー』(2016 阪本順治),『袴田巌 夢の間の世の中』(2016 金聖雄),『FAKE』(2016 森達也)2018『祭の馬』(2013 松林要樹),『被ばく牛と生きる』(2017 松原保),『息の跡』(2017 小森はるか)2019『津軽のカマリ』(2018 大西功一),『ザ・ビッグハウス』(2018 想田和弘),『台湾萬歳』(2017 酒井充子) 


 <後記>   次号は未定。3月に予定していた旅行を断念したため、考えていた紀行文も発信できなくなった。4月には「ドキュメンタリー時評」を発信する予定だが、そのほかは全く計画が立たない。「珈琲放浪記」も今のところ休止状態。当分、「ドキュメンタリー時評」に専念ということになりそうだが、200号以降新しい展開も考えたい。


(harappaメンバーズ=成田清文)※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。


2020年1月27日月曜日

【越境するサル】№.196「ドキュメンタリー時評 2020年1月 ~地方で作品に出会うということ~」(2020.1.22発行)


2009年から、「今年出会ったドキュメンタリー」と題して自分が出会ったドキュメンタリー映画やテレビドキュメンタリーについて報告・紹介を続けてきた(当初は映画のみ年1回、途中からテレビドキュメンタリーも加え年2回そして4回に変更)。それは「時代を記録する」という義務感に基づく地味な作業だったが、私にとって有意義なものだった。しかし一方で、ひとつひとつの作品についてもっと深く語りたいという欲求がつねに心の中にあったのも事実だ。
今回、20201月から、「今年出会ったドキュメンタリー」をリニューアルして「ドキュメンタリー時評」とし、ひとつひとつの作品についてのより詳しい記述を心がけたいと思う。月1回の発信を目標とするが、それが無理な場合は隔月での発信を目指す。
 第1回は、201912月に出会った作品を概観しつつ、「地方で作品に出会うということ」について考える。


「ドキュメンタリー時評 20201
~地方で作品に出会うということ~」

 地方でドキュメンタリー映画に出会うこと、私に引き寄せて言えば青森県弘前とその周辺の映画館で話題の作品と出会うことは、かなり困難だと言わざるを得ない。事情は劇映画でもそれほど変わらないが、ドキュメンタリー映画の場合はその何倍も難しい。映画館で上映されること自体が、あまり期待できないのだ。
 それでも、昨2019年、22本のドキュメンタリー映画をスクリーンで観ることができた(もっとも、そのうちの13本は映画祭や自主上映会で上映されたものであり、普通の映画館で鑑賞できたのは9本にすぎない)。その中で、12月に出会った2本の作品について語りたいと思う。

 2019121日、青森県八戸市。早朝弘前を発ち、新幹線と路線バスを乗り継いで午前10時前「フォーラム八戸」に到着した。午前10時過ぎから続けて上映される『i-新聞記者ドキュメント-』と『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』を鑑賞するためだ。
 
 『i-新聞記者ドキュメント-』2019は、オウム真理教を題材にした『A』(1998)とその続編『A2』(2001)やゴーストライター騒動渦中の佐村河内氏を題材にした『FAKE』(2016)等挑戦的な作品を作り続けてきた森達也監督の新作である。


 主人公は、東京新聞社会部記者・望月衣塑子。官邸記者会見での菅義偉官房長官とのバトルから、辺野古新基地建設問題、伊藤詩織さん準強姦事件、森友学園問題、加計学園問題…まさに取材現場には必ずいると言っていい彼女のエネルギッシュな行動を、森達也監督は撮影し続ける(撮影期間は201812月から20197月)。
 めまぐるしく移動する彼女、新聞社内の彼女、文部科学省元事務次官前川喜平氏との対話、森友学園籠池負債との対話。圧巻は、やはり官邸記者会見での菅官房長官との息もつかせぬ攻防だ。いつ果てるともない孤独な闘いに挑み続ける彼女の姿に、私たちは爽快感さえ覚える。そうだ。こういう闘いを誰かが続けなければならないのだ…
 現代の日本に巣食っている腐敗の根源を照射するもうひとつのアプローチ、松坂桃李とシム・ウンギョンがダブル主演をつとめた『新聞記者』(2019  藤井直人監督)。望月衣塑子の同名ベストセラーを原案とするこの社会派の劇映画と「セット」で観るべき作品といえる。

予告編『i-新聞記者ドキュメント-』




 『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』2019 以下『カメジロー 不屈の生涯』)は、かつて筑紫哲也とともにニュース番組「NEWS23」を支えたTBSテレビの佐古忠彦監督が2017年に制作した『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(以下『その名は、カメジロー』)の続編である。


 前作『その名は、カメジロー』は、戦後沖縄で占領軍(米軍)の苛酷な支配に抵抗し弾圧を受けながら、立法院議員、那覇市長、そして衆議院議員として活躍した瀬長亀次郎の姿を描いたドキュメンタリー映画(2016年にTBSテレビで放送された番組を映画化したもの)で、国内外で高い評価を受けた。沖縄公開時には、映画館(那覇「桜坂劇場」)に数百メートルの行列ができたという。
 今回の『カメジロー 不屈の生涯』は、前作公開後、カメジローが残した230冊を超える日記を丹念に読み込んだ佐古監督が、その生涯を改めて描いた作品。妻や娘らと過ごす家族の日常、投獄後の日々、政治家としての危機、米軍の弾圧の実態などの詳細を掘り起こしている。『その名は、カメジロー』に続く、カメジローと佐藤栄作首相の圧巻の国会論戦など貴重な映像も随所に織り込まれ、現在の「オール沖縄」につながる歴史を私たちは追体験する。
 音楽は前作と同じく坂本龍一、語りは役所広司と山根基世。多くの人々の力が結集して完成した後世に残すべき記録、抵抗の原点であるカメジローの闘いをしっかりと記憶しよう。

予告編『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』


 12月はこのほかに、青森市の「シネマディクト」で『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』と『ゴッホとへレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』を鑑賞した。




「シネマディクト」ではこの1月から2月、『人生、ただいま修行中』(1/1124)・『エッシャー 視覚の魔術』(2/814)・『台湾、街かどの人形劇』(2/1521)など興味深いドキュメンタリーの上映が続く。「地方で作品に出会う」ためには、この機会を逃すわけにはいかない。



<後記>

  次号は2月、「ドキュメンタリー時評」を続けて発信する予定だ。215日開催の「harappa映画館 ドキュメンタリー最前線2020」の報告という形をとりながら、「地方で作品を上映するということ」について考える(次はそのホームページのアドレス)。






(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。