2018年6月29日金曜日

【越境するサル】№.175 「今年出会ったドキュメンタリー 2018年4-6月期」(2018.6.27発行)


20184-6月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。

 
              「今年出会ったドキュメンタリー 20184-6月期」

   20184月から6月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はいつもの通りほとんどがDVDでの鑑賞。スクリーンで観たのは2本。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、はテレビ・ドキュメンタリー。   

  4月・・・『ギフト 僕がきみに残せるもの 』(2016  クレイ・トゥイール)
           『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン  世界一優雅な野獣』
      (2016  スティーヴン・カンター)
           『ミラノ・スカラ座  魅惑の神殿』(2015  ルカ・ルチーニ)
           『ザ・ローリング・ストーンズ  シャイン・ア・ライト」
      (2008  マーティン・スコセッシ)
                                      
           『消えないサイレン~糸魚川大火  トラウマと再起~』
      (2018  NNNドキュメント)
           『駅ピアノ~アムステルダムの夜~』(2018  NHNBS1)
           『夢への扉課題研究~先生を越えて進め~』
      (2017  26回FNSドキュメンタリー大賞・優秀賞)
           『透明な外国人たち~彼らに支えられた街TOKYO~』
      (2017  26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)
           『プラスチック・チャイナ』(2018  BS世界のドキュメンタリー)
           『ラーマのつぶやき~この社会の片隅で~』(2018  ETV特集)
           『ブレイブ 勇敢なる者えん罪弁護士完全版』
      (2018  BS1スペシャル)
     『僧侶たちの原発事故』(2018  ETV特集)※   
     
5月・・・『日本の悲劇』(1946  亀井文夫・吉見泰)
          『あるマラソンランナーの記録』(1964  黒木和雄)
          『不都合な真実2  放置された地球』
      (2017  ボニー・コーエン、ジョン・シェンク)
          『福島  生きものの記録  シリーズ5~追跡~』
      (2017  岩崎雅典  脱原発弘前映画祭)
          『戦ふ兵隊』(1939  亀井文夫)         

          『わが不知火はひかり凪  石牟礼道子の遺言』(2018  ETV特集)
          『防衛フェリー~よみがえる徴用の記憶と、現実~』
      (2017  テレメンタリー  2017年度最優秀賞作品アンコール放送)
          『南京事件-歴史修正を検証せよ-』(2018  NNNドキュメント)
          『二人の女王 血の争い~メアリーとエリザベス~』
      (2018  BS世界のドキュメンタリー)
          『ハリウッド発 #MeToo』(2018  ドキュランドへ ようこそ!)
          『ひめゆりからHIMEYURIへ』(2018  ドキュメントJ)
          『島へ山へ  走る図書館』(2018  ドキュメント72時間)
          幸せホームレスとの10日間』(2018  ノーナレ)
          『柴崎岳 25歳 プロサッカー選手』(2018  ノンフィクションW)※      
          イスラム国に引き裂かれた絆 日本人記者が追った6年』
      (2018  テレメンタリー)※            
        
6月・・・『リュミエール!』(2016  ティエリー・フレモー)
          『米軍が最も恐れた男  その名は、カメジロー』
      (2017  佐古忠彦  弘前文化ホール)      
          『エルミタージュ美術館  美を守る宮殿』
      (2014  マージー・キンモンス               
                    
          『希望の果てに~分かれ道をゆく政治家たち~』
      (2018  ドキュメントJ)
          核のごみに揺れる村~苦悩と選択 半世紀の記録~』
      (2018  ETV特集 )
          『乾貴士  サッカー人生最大の挑戦~29歳 さらなる高みへ~』
      (2018  ノンフィクションW)
          『清と濁  イタイイタイ病と記者たちの50年』(2018  NNNドキュメント)
          『その時、市民は軍と闘った~韓国の夜明け  光州事件』
      (2018  アナザーストーリーズ)
          『独裁者  3人の狂気』(2018  映像の世紀プレミアム)
          『被曝の森2018』(2018  BS1スペシャル)※   
          『ラジオ・コバニ』(2018  BS世界のドキュメンタリー)※ 

        
   毎回、「収穫」を選んでいるが、今回も数本紹介する。まず、映画から。  

 『ギフト  僕がきみに残せるもの 』(2016  クレイ・トゥイール)。アメリカンフットボールNFLニューオーリンズ・セインツのスター選手だったスティーヴ・グリーソンは、引退後、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の宣告を受ける。同じ頃妻ミシェルの妊娠がわかった彼は決意する。まだ見ぬ我が子に贈るために、毎日自分の姿を撮り続けることを。グリーソン自身と、彼の旧友で介護者でもある2人の撮影者によって撮影された、ビデオダイアリーから生まれたドキュメンタリー映画。

 『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン  世界一優雅な野獣』(2016  スティーヴン・カンター)。19歳でイギリス・ロイヤル・バレエ団の最年少プリンシパルとなった、ウクライナ出身のセルゲイ・ポルーニン。しかし彼は、その2年後、人気のピークで電撃退団、ロシアへ渡る。自滅したかと思われた「天才」ポルーニンが再び世界の注目を集めたのは、世界的ヒット曲「Take Me To Church」ミュージック・ビデオへの出演だった。ポルーニンが踊ったこのビデオは、youtubeで記録的な再生回数を記録し、世界中の人々を熱狂の渦に巻き込んだ幼少期から現在に至るまでの貴重な映像、本人と家族、恩師や友人の証言で綴る、天才の実像。そしてこれは、「家族の再生の物語」でもある。

 『ザ・ローリング・ストーンズ  シャイン・ア・ライト」(2008  マーティン・スコセッシ)。2006年秋、ニューヨークのビーコン・シアターで行われたザ・ローリング・ストーンズのライブを、巨匠マーティン・スコセッシ監督が撮ったドキュメンタリー。収容人員2,800人の劇場を舞台に、自らもザ・ローリング・ストーンズの熱狂的ファンであるスコセッシが、18台以上のカメラを駆使してライブと舞台裏を映し出す。

 『日本の悲劇』(1946  亀井文夫・吉見泰)。治安維持法違反容疑で検挙・投獄された経験を持つ亀井文夫は、戦後、戦争遂行の目的で製作された既存のニュースフィルムをモンタージュ(再編集)して、過去の歴史を徹底的に検証・批判する『日本の悲劇』(『日本の悲劇  自由の声』、吉見泰と共同編集)を作り上げる。軍服姿の昭和天皇が背広姿へとオーバーラップするシーンが今も語られるこの作品は、GHQの検閲を一旦通過して公開された後、吉田茂首相の圧力により、再検閲の結果、公開後1週間で フィルムは没収、上映禁止となった

 『あるマラソンランナーの記録』(1964  黒木和雄)。土本典昭・小川紳介ら岩波映画製作所周辺の若手映画人たちのリーダー格であった黒木和雄が、1964年東京オリンピックを前にしたマラソンランナー君原健二を追う。ひたすら走り続ける君原選手の姿と彼の肉声(「心の声」と評価されるが)によって構成されるこの野心作は、スポンサーに配慮したプロダクションからさまざまな注文をつけられる。それを拒否した黒木は、製作の東京シネマ首脳部と対立してPR映画という枠組み自体に限界を感じ、以降、劇映画の世界を目指す。

 『不都合な真実放置された地球』(2017  ボニー・コーエン、ジョン・シェンク)。79回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を獲得し、異例のヒットを記録した『不都合な真実』(2016)から10年。その続編である本作においても、アル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領とそのチームは、地球温暖化への警鐘を鳴らし続ける。気候変動問題への取り組み、再生可能エネルギーへの投資を促す働き、そして2016年シリーのパリ協定調印に向けた積極的な活動まさに超人的なゴアの「運動」の日々と、説得力のあるデータ分析に、再び私たちは釘づけにされる。

 『福島  生きものの記録  シリーズ5~追跡~』(2017  岩崎雅典  脱原発弘前映画祭)。福島第一原発事故により拡散した大量の放射性物質が生態系へ及ぼす影響を追うドキュメンタリーシリーズ『福島  生きものの記録』第5弾。事故から6年、福島第一原発から1km付近の海辺の生物や沖の調査、野鳥やニホンザル、モリアオガエル、アカネズミなど帰還困難区域の生物に現れる異変の記録、科学者たちの格闘は続く。また、NPO法人いわき市民放射能測定室たらちねの挑戦と目に見えない放射能を可視化しようとする科学者たちの取り組みも紹介するこの上映会(「after311  11回脱原発弘前映画祭」2018.5.12)では岩崎雅典監督のトークも予定されていたが、体調不良・入院のため監督は不参加。会場で「メッセージ(病院のベッドにて)」が読み上げられ、シリーズ『福島  生きものの記録』の「中断」(ひとまず「終了」)も発表された

 『戦ふ兵隊』(1939  亀井文夫)。ソビエトで見た映画に感動して映画の道に志した亀井は、レニングラード映画技術専門学校聴講生となる。1933年、写真化学研究所に入社し、1935年監督デビュー。1938年の『上海』・『北京』に続いて、1939年、軍部の後援で監督した『戦ふ兵隊』を作る。しかし、中国戦線で疲弊した兵士たちの日常や現地住民の生活までリアルに記録した本作は、上映禁止となり、1941年、治安維持法違反容疑により亀井は検挙・投獄される。

 『リュミエール』(2016  ティエリー・フレモー)。1895年パリ、フランスのルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟が発明したシネマトグラフで撮影された映画が世界で初めて有料上映された。工場から出てくる人々を撮影した有名な『工場の出口』。1本約50秒、現在の映画の原点となる作品群の製作がここからスタートする。本作は、1895年から1905年の10年間にリュミエール兄弟により製作された1422本の中から、カンヌ国際映画祭総代表、リヨンのリュミエール研究所のディレクターを務めるティエリー・フレモー氏が選んだ108本で構成されている。4Kデジタルで修復された映像はまさに奇跡だ。


 『米軍が最も恐れた男  その名は、カメジロー』(2017  佐古忠彦  弘前文化ホール)。20168月、TBSテレビで放送された『報道の魂』スペシャル「米軍が最も恐れた男~あなたはカメジロー」。米軍統治下の沖縄で唯一人"弾圧"を恐れず米軍支配と闘い続けた、元那覇市長にして元国会議員・瀬長亀次郎の抵抗の人生を描いたこのテレビ・ドキュメンタリーは、ギャラクシー賞月間賞を受賞するなど高い評価を受けた。そして、追加取材・再編集を行って映画化されたのがこの作品。貴重な未公開映像やインタビュー、そしてアメリカ取材を交えて描き切った、沖縄のヒーロー・カメジローの実像。監督は、「筑紫哲也NEWS23」でお馴染みのTBS報道局・佐古忠彦。音楽に坂本龍一、語りに大杉漣が参加。


   テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

 『駅ピアノ~アムステルダムの夜~』(2018  NNNBS1)。オランダ・アムステルダム中央駅に置かれた1台のピアノ。そこに設置された定点カメラに映し出された、ピアノを奏でる様々な人々。ディナー帰りの三姉妹、84歳のジャズミュージシャン、17年前に内戦の続くスーダンから難民としてやってきた男性、プロを目指す音楽学校の学生…15分の中に、夢と希望と音楽の素晴らしさが詰まった素敵なシリーズ『駅ピアノ』は、このほかに「芸術の都  アムステルダム」・「多民族都市  アムステルダム」が放送されている。また、イタリア・パレルモ空港に置かれたピアノを奏でる人々を映し出したシリーズ『空港ピアノ』も、「憧れのシチリア島」・「音楽とともに  シチリア島」・「わが故郷  シチリア島」が放送されている。どちらのシリーズも、じわじわと注目されてきている。続編が待ち遠しい。

 『夢への扉課題研究~先生を越えて進め~』(2017  26回FNSドキュメンタリー大賞・優秀賞)。制作:関西テレビ。国籍や障害など、さまざまな背景を持つ生徒がともに学ぶ大阪府立松原高校。この学校では、すべての生徒が卒業前に後輩たちの前で「課題研究」を発表する。そのテーマの中には、自身の境遇に踏み込んだ重い内容のものもある「子どもへの虐待」と「いじめ」、このテーマに挑んだ二人の女子生徒と担当教諭の日々を追った秀作ドキュメンタリー。番組のスタッフと被写体の生徒・教員との信頼関係が伝わってくる。2017年のフジテレビ系各局のドキュメンタリー番組を紹介する「第26回FNSドキュメンタリー大賞」が、この4月からBSフジで放送されている。各賞受賞作品も含めて、地方発信の多様なドキュメンタリーと出会う貴重な番組である。

 『プラスチック・チャイナ』(2018  BS世界のドキュメンタリー)。制作:CNEX Studio(中国  2016)ディレクター/撮影 王久良 。世界中から集められたプラスチック・ゴミをリサイクルする、中国・山東省の町工場。四川からの出稼ぎ労働者一家の少女・11歳のイーチェは、幼い弟妹の世話をしながら学校に通う夢を抱く。飲んだくれの父親のもとでは、四川に戻っても希望は持てない。工場を必死に切り回す雇い主は、イーチェに養女となって工場に残れと勧めるが中国の若手監督・王久良が、リアルな映像で描く底辺の人々の悲しさと強さ。

 『ラーマのつぶやき~この社会の片隅で~』(2018  ETV特集)※3月に総合テレビで放送された『ラーマのつぶやき』(ノーナレ)は25分版だが、今回は60分版。埼玉県に住む16歳の女子高生ラーマは、シリア出身。4年前、戦乱が続くシリアから一家で日本に逃れ、難民認定された。安全を手に入れた一家だが、慣れない日本での生活には様々な悩みがあった。日本語を覚えないため仕事に就けない父。仕事は手に入れたがストレスと闘う母。サッカーのプロ選手を目指すが故障続きの兄ラーマ自身もさまざまな苦労を抱えて4年間を過ごしてきた。しかし、彼女はカラオケで発散しながら、勉強もしっかりと頑張っている。そのひたむきさが共感を呼ぶ。全編ノーナレーションで描く、難民一家の日々。

 『防衛フェリー~よみがえる徴用の記憶と、現実~』(2017  テレメンタリー  2017年度最優秀賞作品アンコール放送)。制作:名古屋テレビ放送(20174月放送)。ANN系列24局のプロデューサーが選んだ2017年度テレメンタリー最優秀賞作品(20174月放送)。2016年、防衛省は有事の際に民間フェリーを優先的にチャーターし、72時間以内に運航させるための制度を新設した。北海道などに駐屯する陸上自衛隊の戦車部隊などを「戦場」と想定される南西諸島などに運搬する役割を担うものだ。防衛省専属となった2隻の民間フェリーは「ナッチャンWorld」と「はくおう」、かつて大型フェリーとして話題になった船だ。しかしその運航には、海技士の資格を持つ民間の船員が必要だ。国は海上自衛隊に「予備自衛官補」を新たに導入し、民間の船員の希望者に訓練を積ませて防衛出動の要員となる資格を持たせることにした。この動きに、民間船員で組織する全日本海員組合は、「戦争中、多くの民間船員が犠牲となった徴用に繋がる」として強く反対する

 『南京事件-歴史修正を検証せよ-』(2018  NNNドキュメント)。制作:日本テレビ。放送枠:55分。201510月放送されギャラクシー賞テレビ部門優秀賞を受賞した『南京事件  兵士たちの遺言』は、その後「南京虐殺否定派」から激しい攻撃を受けたが、今回の『南京事件』はそれらの批判(攻撃)に対する、番組制作者たちの反撃とも言うべき続編である。副題に「歴史修正を検証せよ」とあるように、残された兵士のインタビューや日記などの一次資料を徹底的に分析し、再現CGによって「捕虜虐殺」の全貌を明らかにし、さらには「南京虐殺否定派」の論拠となっている1960年の新聞記事を執筆した記者のもとを訪れる。なお、番組タイトルは当初『焼却された機密文書(仮)』と予告されていた。そして番組は、「現在の防衛省が置かれている一画に、かつて陸軍参謀本部があった」(新宿区市谷台)というナレーションら始まる。敗戦が決まった19458月に、この建物の裏手から3日間にわたって煙が立ち上ったというが、それは軍の公式記録を焼却する煙だった。戦争責任を問われかねない記録の焼却
  
 『ひめゆりからHIMEYURIへ』(2018  ドキュメントJ)。制作:RBC琉球放送(20176月)。沖縄県民の4人に1人が亡くなった沖縄戦。10代で看護要員として動員され、多くの仲間を戦いで失った「ひめゆり学徒隊」の元学徒たちは、自らの手で資料館を建て、語り部として戦争の悲惨さを伝えてきた。しかし、彼女たちも90代に差し掛かり、「次世代への継承」という課題がますます切実なものとなっているこの番組では、ひめゆり12年間にわたる継承の取り組みを取材、初代継承者となった1人の女性の成長を通して、国境を越えて国際舞台で戦争体験を伝える世界の“HIMEYURI”に向かう過程を記録する。20184月から、JNNTBS系列)各局のドキュメンタリーを放送する土曜朝のBS-TBS「サタデードキュメント」は、「ドキュメントJ」と装いを変えた新番組となった。

 『核のごみに揺れる村~苦悩と選択 半世紀の記録~』(2018  ETV特集)。核燃料サイクル施設がある青森県六ヶ所村。この村では、最終処分地の選定が進まない中、日本原子力の最大の課題核のごみの一時保管が続く。かつて国は村を最終処分地にしないと約束、それを条件に村は一時保管を受け入れた。しかし、最終処分地にされるのではないかという疑念は晴れないむつ小川原開発の挫折から、核燃料サイクル施設の建設、そして核のごみの受け入れ。かつて決定に関わった国と六ヶ所村の当事者への取材によって、原子力政策の歴史に迫る力作。放映されたこと自体、高く評価されるべきだ。

 『ラジオ・コバニ』(2018  BS世界のドキュメンタリー)。原題:Radio Kobanî 。制作:Dieptescherpte BV/ Human(オランダ  2016年)。ISによって無残に破壊されたシリア北部のクルド人街コバニは、クルド人民防衛隊(YPG)による激しい迎撃と連合軍の空爆支援により、20151月に解放された。そのコバニで、20歳の女子大学生ディロバンは、友人とラジオ局を立ち上げ、ラジオ番組「おはよう コバニ」の放送を始める。生き残った人々や、戦士、ジャーナリストなどの声を届ける彼女の番組は、人々に希望と連帯感をもたらす監督は、自身もクルド人のラベー・ドスキー。なお、この作品の劇場版(69分)は、アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほかで上映され、2018年夏(7/288/10)、青森シネマディクトでも上映される。6月のBS世界のドキュメンタリー「シリーズ  アラブ社会のくすぶり」は、このほかに『イエメン内戦 少年記者団の伝言』・『山の民クルドの孤独』・『ベールの詩人 ~声をあげたサウジ女性~』の3本。どれも注目作だ。再放送をチェックしてほしい。




<後記>   月末に小旅行を計画しているので、少し早めに発信する。6月からharappa school 「映画の時間~ドキュメンタリーの歴史をたどる」の講師をつとめているが、7月以降も生活に占める「ドキュメンタリー」の割合はますます多くなることだろう。この「今年出会ったドキュメンタリー」は、その基礎となるシリーズだ。
次号は「珈琲放浪記」。横浜、日光、仙台…美味しい店に出合えたら報告する。

   


(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2018年6月20日水曜日

【越境するサル】№.174「珈琲放浪記~青森県の珈琲を歩く(その1)~」(2018.6.20発行)


しばらく、「珈琲放浪記」を中断していた。去年の10月からなので少し長い中断である。その間、珈琲や喫茶について何度かふれたが、それを主役としたものではなかった…そろそろ「珈琲放浪記」を発信したい、そういう気分になってきた。まずは、自分の日常につながる場所。あるいは、自分史につながる場所。これまであえて取り上げてこなかった青森県の珈琲について、そろそろ語ってみようか。

 
                 「珈琲放浪記~青森県の珈琲を歩く(その1)~」


5月某日 弘前市百沢 桜林公園隣り 「桜林茶寮」

   ミズバショウとザゼンソウが見たくて岩木山麓湯段を訪れた帰り、百沢桜林公園に立ち寄った。もしかしたら、カタクリの花がまだ残っているかもしれない、というかすかな期待を持って。
 弘前市内に比べ開花が遅い桜は見ごろだったが、案の定、カタクリの花は大部分がしおれてしまっていた…だが、思いがけないものを発見した。カフェである。気に入った場所で珈琲を飲みたい、そう思いながら何故か今まで、それが欲しい場所であまり出会うことのなかった、カフェ。開店したばかりのその店の名は「桜林茶寮」。

   「山菜とコーヒーを山で味わえる店」をコンセプトとするこの店の建物はコンテナハウス、客席数は13席。ランチも楽しめそうな店だが、もちろん私は珈琲を注文する。エスプレッソ。
   エスプレッソの強烈な濃厚さは控え目だが、美味しくいただくことができた。器の趣味もなかなかだ。山で飲む珈琲は、これくらいがちょうどいい。
   店を出て、また、あちこち珈琲巡りをしたい気分になっている自分に気づいた。「珈琲放浪記」を再開しよう。 





5月某日 青森市古川 「和田珈琲」

   ひさしぶりに、青森市の映画館に出かけた。青森市古川「シネマディクト」。ひと月半前に、「スペインの俊英」フェルナンド・レオン・デ・アラノア監督の『ロープ/戦場の生命線』(2015)を観に来て以来だ。今回は、「ロシアの鬼才」アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『ラブレス』(2017)。カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作だ。
   離婚協議中の夫婦の前から失踪する「愛されていない」息子。別のパートナーとの新しい生活だけを望む彼らは、ボランティアの人々の手を借りながら、必死で息子を探すが…息もつかせぬ、研ぎ澄まされた127分。


   映画のあとは、もちろん珈琲。今回は「和田珈琲」と決めていた。青森市古川昭和通り商店街(旧フクシスポーツの並び)ブラックボックス1階。今年この場所の店舗をスタートさせた「和田珈琲」だが、思わず気づかずに通り過ぎてしまいそうな、控え目な店先。迷わず入店し、以前、弘前での出張販売の際に味わった、ネルドリップの「ケニア」を注文したかったが、残念ながら空振り。気を取り直して、「スノートップ(タンザニア)」主体の新作ブレンド「秘密基地」に挑戦する。もちろんネルドリップで。
   この日用意された3種のブレンドの中では、「和田ブレンド」より苦味が強く、「読書ブレンド」より弱い、ということであった。「深煎り」好きの私にとってはどれも魅力的なのだが、カウンターで飲んだこともあり、この「秘密基地」のコクとなめらかさは印象深いものだった。自宅用に定番「和田ブレンド」100gを買って、駅へ向かう。いい映画といい珈琲に出会った日は幸せだ。



   なお、この数日後、百沢桜林公園で開催された「津軽森 つがるもり2018」(全国から131名の工芸家とその作品が集結するイベント)のフードブースに「和田珈琲」も参加。この日の珈琲は、「和田ブレンド」をベースに「エチオピア イルガチェフ」を加えた「津軽森ブレンド」。すっきりした苦みのあとを、「イルガチェフ」独特の風味が追いかける。これもまた美味い…


 


6月某日 風間浦村下風呂「shimofuroカフェ」

   下北半島勤務時代、下風呂温泉には何度も訪れていた。当時の上司の家がこの地の旅館だったこともあり、勤務地だった大間を除けば最も親しみを覚えていた土地だった。数年前、その上司が亡くなった時、私は駆けつけることができなかった。仏壇に手を合わせるため、ようやく、下風呂を訪ねる…

   バス停で降りると、目の前に「shimofuroカフェ」。もっとも、それがカフェであることにはなかなか気づかない。外観は「県産おみやげ店」の店舗のままだし、カフェの看板すらない。しかし、営業中であることはわかった。向かいは、井上靖が小説『海峡』を執筆したことで知られる「長谷旅館」。たしかにここだ。 

   店内に入ると、右側の壁一面に下北に関する本とパンフレット。ブックカフェであり、情報収集のための案内所であり、しかも妙に居心地のよさそうなソファーのあるレトロな喫茶…まず、常時5種類あるという珈琲の中から最も焙煎が強いと紹介された「モカ」を味わう。中深煎り程度か、ソフトで飲みやすい。コーヒーカップ(ミルクガラス?)の口当たりも優しい。満足してもう珈琲は終わりにしようと思ったら、実はもっと深煎りの「マンデリン」もあると言う。次の日にしようかとも思ったが、翌日は開店するか不明だというので「マンデリン」も注文。こちらは私の好みに近い。しかし、やはりソフトだ。店主はコーヒーカップに珈琲を合わせていると言う。なるほどと思う…



   この日の宿泊は、元上司の旅館。ここの夕食膳と朝食は、ちょっと凄い。





6月某日 むつ市大畑町松ノ木「艮(うしとら)珈琲店」・むつ市中央「コーヒー通り21

   前日宿泊した旅館の若女将に案内されて(そして車に同乗させてもらって)むつ市の珈琲焙煎所と喫茶を訪れたが、どちらも営業していなかった。営業時間帯と日程を確認していなかったための空振りだが、転んでもただでは起きないのが「珈琲放浪記」。何とか珈琲にありついたのだ…

   全国に自家焙煎の珈琲豆を直送する、大畑町の「艮(うしとら)珈琲店」が営業前なのを確認したあと、若女将の情報に基づいて同じく大畑町のスーパー「エチゴヤ」に直行。レジ前に陳列されている「艮珈琲・トミオフクダ ブルボン ブラジル」200gを迷わず購入。豆ではなく粉だったが、この際理想など言っていられない。まず入手することが大事だ…その2日後、自宅で味わったが、なかなかの切れ味。一気に飲み干せる、くせのないのど越し。丁寧に焙煎されていることがわかる。次は通信販売で、豆の状態のものを送ってもらおうと思う。


   さて、むつ市役所そばの「コーヒー通り21」の前まで送ってもらい、店内に入ろうとしたら何やら様子がおかしい。どうやら店は休みで、下北文化会館で開催されている「むつ市のうまいは日本一の日」に出店しているとのこと…かなり距離はあるが、時間もたっぷりある。歩くことにした。

   思いのほか気温が高く、荷物も重く感じたが、歩けない距離ではなかった。途中、むつ市立図書館で一休み。ちょうど開催されていた「川島雄三生誕100年記念展示」を見学、さらに隣の近代化産業遺産「大湊ホテル」の外観を初めてじっくりと眺める。こうして、道草を食いながら、ようやく下北文化会館にたどり着いた。

   さまざまな企画で賑わう会館の中に、「コーヒー通り21」を発見。すでに汗だくだった私は、「アイスコーヒー」を注文するしかなかった。会館内で買ったカレーパンと一緒に外のテーブルで味わう、というより喉に注ぎ込む。なかなか美味い、満足できる味だったが、やはり店でホットを飲んでみなければ。いつかまた、来なければなるまい…




6月某日 弘前市北横町「時の音  ESPRESSO

   エスプレッソが飲みたくなって、「時の音  ESPRESSO」を訪れた。土手町から南横町を通り、「ああ、ここに昔『マリオン劇場』があったのだな」と感慨にふけりつつ、北横町を目指す。まもなく、古民家を改装した、その店にたどり着いた。それがカフェだとは、最初は気づかない…

   自分にはあまり馴染みのなかったエスプレッソだったが、慣れておかなければならない事情があり、弘前では珍しい本格的なエスプレッソカフェであるこの店に来るようになった。最初の来店は去年の冬、以来たびたび訪れ、ようやく味がわかるようになった。
 
   いつものように、「エスプレッソ・ダブル」を注文する。まもなく味わうことができたその一杯は、珠玉というほかない。強烈な苦味とコクが、砂糖の甘味と絡み合い、一口ごとに五感を刺激する…






<後記>

   「青森県の珈琲を歩く」シリーズは、あと何回か発信されるはずだ。次号は、「今年出会ったドキュメンタリー」。その次は「珈琲放浪記(横浜・日光編)」…定番のシリーズが続く。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。