2013年6月21日金曜日

【越境するサル】No.117 「珈琲放浪記~札幌、「再会」と「出会い」と~」(2013.06.20発行)

先週、仕事で札幌を訪れた。1泊2日の慌ただしい日程だが、エアポケットのような時間帯が少しあった。この空白の時間を埋めるのは珈琲しかない。何しろ、札幌なのだ…

「珈琲放浪記~札幌、「再会」と「出会い」と~」

札幌は20歳代の頃から何度も訪れている街である。いくつかの観光地は複数回訪れているし、古書店を含む大小の書店には随分お世話になった。だが、一番記憶に残っているのは珈琲の味だ。実は、深煎りで自家焙煎の珈琲と出会ったのは、ここ札幌なのだ。

中でも記憶に残っているのが「北地蔵」と「可否茶館」のふたつである。「北地蔵」は時計台の裏、「可否茶館」はテレビ塔近くの紀伊國屋書店地下。なかなか土地勘がつかめなかった札幌の街の中で、このふたつの店にだけはすぐたどり着けた。そして、もう20~30年も経過しているのに、「北地蔵」の珈琲の深くて濃い味、そしてすっきりした喉ごしと、「可否茶館」の珈琲のパンチの効いた苦味とこくは、記憶から離れない。今回、この2軒を再訪してみたいと思い調べてみると、「北地蔵」は移転してその後閉店したという情報が入った。また「可否茶館」の方は、紀伊國屋書店はすでに移転しているものの店自体はそのままの場所にあるという…何やら無性に「可否茶館」の珈琲が飲みたくなった。行くべきだろう。

札幌駅北口のホテルを出て、大通方面へ向かう。賑わう地下街を通り、あたりをつけて地上へ出る。「可否茶館」の前に立ち寄りたい書店があった。かつて、書棚を埋める埴谷雄高の本の背表紙にため息をつき、吉本隆明編集の雑誌『試行』のバックナンバーを買った「アテネ書房」だ。今月いっぱいで閉店というニュースを聞いていた。店に入りしばらく記憶を確かめた後、『さっぽろ喫茶店グラフィティ』(2006年、和田由美、亜璃西社)を購入。「アテネ書房」のブックカバーをかけてもらい、店を出た。

あとは、大通公園のテレビ塔を目指す。やがてテレビ塔を見上げる「桂和大通ビル50」にたどり着く。この地下2階に「可否茶館 大通店」はある。創業1971年、北海道の「自家焙煎コーヒー」草分けの店「可否茶館」第1号店。カウンターのみ14席。周囲の「カフェ」とは、明らかに流れる時間が違う。ここは「喫茶店」。

「可否茶館1971オリジナルブレンド」を注文する。この味だった、のだと思う。記憶の底にある味を思いだそうとするが、正直どこまで同じなのかよくわからない。だが、この苦味とこくは明らかに私好みだ…土産に「マンデリン」100グラムを購入し、店を出る。たしかに私は記憶の珈琲と再会した(なお、「可否茶館」の創業者は、創業から30年後に13店舗すべてを譲った後ワインづくりにチャレンジ、現在は北海道三笠市でワイナリー「TAKIZAWAワイン」を経営している。けれど、人は変わっても、私の中で「可否茶館」はやはり同じ「可否茶館」だ)。

少し急ぎ足で、札幌駅北口に戻る。北大前の古本屋街にも行かなければ。この日は「再会」の日と決めていた…


翌日、出発までの時間は、新しい味と出会う時間となった。札幌には気になる珈琲専門店がいくつかあったが、その中でここ数年評判の高い「森彦」に行きたいと思っていた。古民家を改造した店舗で知られる「森彦」の珈琲は、1996年地下鉄東西線「円山公園駅」近くに開店して以来高い評価を得てきたが、今回はその支店(2号店)の「ATELIER Morihiko アトリエ・モリヒコ」を訪れることにした。大通公園の西端「札幌市資料館」のほど近く、地下鉄東西線「西11丁目駅」から徒歩3分(市電「中央区役所前駅」から徒歩1分)。店のサイトにある「ここはコーヒーの美術館」という言葉が気になっていた。

午前10時、開店と同時に入店する。白い壁に囲まれた店内は、南に向いた大きな窓から射し込む光によって開放感を醸し出しているが、さりげなく渋いカウンターやテーブルやチェアによって隠れ家的な雰囲気も感じさせる。かかっている音楽も妙に似合う。ここもまた、カフェとは違う時間が流れている…

カウンターに座り、「フレンチマンデリン」を頼む。待つ間、自分が少しずつ店に馴染んでいくのがわかる。やがて運ばれてきた「フレンチマンデリン」は予想通り苦く重く、そしてクリアーな喉ごし。途中、店内で販売している焼き菓子の中からビスコッティを注文し、珈琲に合わせる。この組み合わせで、完全に癒やされた。この店を訪れてよかった、としみじみ思う。帰りに、もちろん「フレンチマンデリン」200グラムを購入。大通公園へと向かう。

こうして札幌滞在は終了した。記憶の味との「再会」と、新しい味との「出会い」。何とも充実した「珈琲放浪」だった。けれど札幌には、行きたい店がまだ数軒ある。いつか訪れる日に再び「放浪」することを、夢想する日々は続く…


<後記>
記憶がはっきりしているうちに、発信する。ひさしぶりの「珈琲放浪記」だが、この夏もう1本発信できそうだ。

次号は、「今年出会ったドキュメンタリー 2013上半期」の予定。7月に入ったらすぐ発信したい、と考えている。

(harappaメンバーズ=成田清文)

※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。

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