2018年6月20日水曜日

【越境するサル】№.174「珈琲放浪記~青森県の珈琲を歩く(その1)~」(2018.6.20発行)


しばらく、「珈琲放浪記」を中断していた。去年の10月からなので少し長い中断である。その間、珈琲や喫茶について何度かふれたが、それを主役としたものではなかった…そろそろ「珈琲放浪記」を発信したい、そういう気分になってきた。まずは、自分の日常につながる場所。あるいは、自分史につながる場所。これまであえて取り上げてこなかった青森県の珈琲について、そろそろ語ってみようか。

 
                 「珈琲放浪記~青森県の珈琲を歩く(その1)~」


5月某日 弘前市百沢 桜林公園隣り 「桜林茶寮」

   ミズバショウとザゼンソウが見たくて岩木山麓湯段を訪れた帰り、百沢桜林公園に立ち寄った。もしかしたら、カタクリの花がまだ残っているかもしれない、というかすかな期待を持って。
 弘前市内に比べ開花が遅い桜は見ごろだったが、案の定、カタクリの花は大部分がしおれてしまっていた…だが、思いがけないものを発見した。カフェである。気に入った場所で珈琲を飲みたい、そう思いながら何故か今まで、それが欲しい場所であまり出会うことのなかった、カフェ。開店したばかりのその店の名は「桜林茶寮」。

   「山菜とコーヒーを山で味わえる店」をコンセプトとするこの店の建物はコンテナハウス、客席数は13席。ランチも楽しめそうな店だが、もちろん私は珈琲を注文する。エスプレッソ。
   エスプレッソの強烈な濃厚さは控え目だが、美味しくいただくことができた。器の趣味もなかなかだ。山で飲む珈琲は、これくらいがちょうどいい。
   店を出て、また、あちこち珈琲巡りをしたい気分になっている自分に気づいた。「珈琲放浪記」を再開しよう。 





5月某日 青森市古川 「和田珈琲」

   ひさしぶりに、青森市の映画館に出かけた。青森市古川「シネマディクト」。ひと月半前に、「スペインの俊英」フェルナンド・レオン・デ・アラノア監督の『ロープ/戦場の生命線』(2015)を観に来て以来だ。今回は、「ロシアの鬼才」アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『ラブレス』(2017)。カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作だ。
   離婚協議中の夫婦の前から失踪する「愛されていない」息子。別のパートナーとの新しい生活だけを望む彼らは、ボランティアの人々の手を借りながら、必死で息子を探すが…息もつかせぬ、研ぎ澄まされた127分。


   映画のあとは、もちろん珈琲。今回は「和田珈琲」と決めていた。青森市古川昭和通り商店街(旧フクシスポーツの並び)ブラックボックス1階。今年この場所の店舗をスタートさせた「和田珈琲」だが、思わず気づかずに通り過ぎてしまいそうな、控え目な店先。迷わず入店し、以前、弘前での出張販売の際に味わった、ネルドリップの「ケニア」を注文したかったが、残念ながら空振り。気を取り直して、「スノートップ(タンザニア)」主体の新作ブレンド「秘密基地」に挑戦する。もちろんネルドリップで。
   この日用意された3種のブレンドの中では、「和田ブレンド」より苦味が強く、「読書ブレンド」より弱い、ということであった。「深煎り」好きの私にとってはどれも魅力的なのだが、カウンターで飲んだこともあり、この「秘密基地」のコクとなめらかさは印象深いものだった。自宅用に定番「和田ブレンド」100gを買って、駅へ向かう。いい映画といい珈琲に出会った日は幸せだ。



   なお、この数日後、百沢桜林公園で開催された「津軽森 つがるもり2018」(全国から131名の工芸家とその作品が集結するイベント)のフードブースに「和田珈琲」も参加。この日の珈琲は、「和田ブレンド」をベースに「エチオピア イルガチェフ」を加えた「津軽森ブレンド」。すっきりした苦みのあとを、「イルガチェフ」独特の風味が追いかける。これもまた美味い…


 


6月某日 風間浦村下風呂「shimofuroカフェ」

   下北半島勤務時代、下風呂温泉には何度も訪れていた。当時の上司の家がこの地の旅館だったこともあり、勤務地だった大間を除けば最も親しみを覚えていた土地だった。数年前、その上司が亡くなった時、私は駆けつけることができなかった。仏壇に手を合わせるため、ようやく、下風呂を訪ねる…

   バス停で降りると、目の前に「shimofuroカフェ」。もっとも、それがカフェであることにはなかなか気づかない。外観は「県産おみやげ店」の店舗のままだし、カフェの看板すらない。しかし、営業中であることはわかった。向かいは、井上靖が小説『海峡』を執筆したことで知られる「長谷旅館」。たしかにここだ。 

   店内に入ると、右側の壁一面に下北に関する本とパンフレット。ブックカフェであり、情報収集のための案内所であり、しかも妙に居心地のよさそうなソファーのあるレトロな喫茶…まず、常時5種類あるという珈琲の中から最も焙煎が強いと紹介された「モカ」を味わう。中深煎り程度か、ソフトで飲みやすい。コーヒーカップ(ミルクガラス?)の口当たりも優しい。満足してもう珈琲は終わりにしようと思ったら、実はもっと深煎りの「マンデリン」もあると言う。次の日にしようかとも思ったが、翌日は開店するか不明だというので「マンデリン」も注文。こちらは私の好みに近い。しかし、やはりソフトだ。店主はコーヒーカップに珈琲を合わせていると言う。なるほどと思う…



   この日の宿泊は、元上司の旅館。ここの夕食膳と朝食は、ちょっと凄い。





6月某日 むつ市大畑町松ノ木「艮(うしとら)珈琲店」・むつ市中央「コーヒー通り21

   前日宿泊した旅館の若女将に案内されて(そして車に同乗させてもらって)むつ市の珈琲焙煎所と喫茶を訪れたが、どちらも営業していなかった。営業時間帯と日程を確認していなかったための空振りだが、転んでもただでは起きないのが「珈琲放浪記」。何とか珈琲にありついたのだ…

   全国に自家焙煎の珈琲豆を直送する、大畑町の「艮(うしとら)珈琲店」が営業前なのを確認したあと、若女将の情報に基づいて同じく大畑町のスーパー「エチゴヤ」に直行。レジ前に陳列されている「艮珈琲・トミオフクダ ブルボン ブラジル」200gを迷わず購入。豆ではなく粉だったが、この際理想など言っていられない。まず入手することが大事だ…その2日後、自宅で味わったが、なかなかの切れ味。一気に飲み干せる、くせのないのど越し。丁寧に焙煎されていることがわかる。次は通信販売で、豆の状態のものを送ってもらおうと思う。


   さて、むつ市役所そばの「コーヒー通り21」の前まで送ってもらい、店内に入ろうとしたら何やら様子がおかしい。どうやら店は休みで、下北文化会館で開催されている「むつ市のうまいは日本一の日」に出店しているとのこと…かなり距離はあるが、時間もたっぷりある。歩くことにした。

   思いのほか気温が高く、荷物も重く感じたが、歩けない距離ではなかった。途中、むつ市立図書館で一休み。ちょうど開催されていた「川島雄三生誕100年記念展示」を見学、さらに隣の近代化産業遺産「大湊ホテル」の外観を初めてじっくりと眺める。こうして、道草を食いながら、ようやく下北文化会館にたどり着いた。

   さまざまな企画で賑わう会館の中に、「コーヒー通り21」を発見。すでに汗だくだった私は、「アイスコーヒー」を注文するしかなかった。会館内で買ったカレーパンと一緒に外のテーブルで味わう、というより喉に注ぎ込む。なかなか美味い、満足できる味だったが、やはり店でホットを飲んでみなければ。いつかまた、来なければなるまい…




6月某日 弘前市北横町「時の音  ESPRESSO

   エスプレッソが飲みたくなって、「時の音  ESPRESSO」を訪れた。土手町から南横町を通り、「ああ、ここに昔『マリオン劇場』があったのだな」と感慨にふけりつつ、北横町を目指す。まもなく、古民家を改装した、その店にたどり着いた。それがカフェだとは、最初は気づかない…

   自分にはあまり馴染みのなかったエスプレッソだったが、慣れておかなければならない事情があり、弘前では珍しい本格的なエスプレッソカフェであるこの店に来るようになった。最初の来店は去年の冬、以来たびたび訪れ、ようやく味がわかるようになった。
 
   いつものように、「エスプレッソ・ダブル」を注文する。まもなく味わうことができたその一杯は、珠玉というほかない。強烈な苦味とコクが、砂糖の甘味と絡み合い、一口ごとに五感を刺激する…






<後記>

   「青森県の珈琲を歩く」シリーズは、あと何回か発信されるはずだ。次号は、「今年出会ったドキュメンタリー」。その次は「珈琲放浪記(横浜・日光編)」…定番のシリーズが続く。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

1 件のコメント:

  1. まるほん旅館、懐かしい。
    また、行ってみたいなあ

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