2017年4-6月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
「今年出会ったドキュメンタリー
2017年4-6月期」
2017年4月から6月までに観たドキュメンタリーを列挙する。「青森シネマディクト」を除けば、映画はDVDでの鑑賞、もしくはインターネット配信。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、※はテレビ・ドキュメンタリー。
4月・・・『サディスティック&マゾヒスティック』(2000 中田秀夫)
『パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト』
(2014 ジェームズ・エルスキン)
『SACRED いのちへの讃歌』(2016 トーマス・レノン)
『将軍様、あなたのために映画を撮ります』
(2016 ロス・アダム、ロバート・カンナン)
『永遠のヨギー~ヨガをめぐる奇跡の旅』
(2014 パオラ・デ・フロリオ、リサ・リーマン)
『激動の家族史を記録する~中国・新たな歴史教育の現場~』
(2017 ドキュメンタリーWAVE)※
『偽りの捜査~20年目の再審が封印した真実~』
(2017 テレメンタリー)※
『ピカソの遺産~女神(ミューズ)たちから生まれた傑作~』
(2016
BS世界のドキュメンタリー)※
『境界の家~沖縄から福島へ・ある原発技術者の半生~』
(2017
ETV特集)※
『獄友たちの日々』(2017 ETV特集)※
『ニューヨーク地下鉄7号線~移民たちはどこへ~』
(2017 BS1スペシャル)※
『捨てられたコメ~秋田・減反政策48年目の告発~』
(2017 NNNドキュメント)※
『“極右”の誘惑~フランス ルペン支持者の本音~』
(2017 BS世界のドキュメンタリー)※
『ユーリー・ノルシュテインの、話の話。
~アニメーションの神様 終わらない挑戦~
(2017 ノンフィクションW)※
5月・・・『ぼくと魔法の言葉たち』
(2016
ロジャー・ロス・ウィリアムズ 青森シネマディクト)
『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』
(2016 モーリス・デッカーズ)
『ざ・鬼太鼓座』(1981 加藤泰)
『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』
(2015 クーロ・サンチェス)
『わたしの話を聴いてほしい-あの事件から9か月 今思うこと-』
(2017 NNNドキュメント)※
『暮らしと憲法 第1回 男女平等は実現したのか
第2回 外国人の権利は』(2017 ETV特集)※
『われら百姓家族・遺言』(2017 ザ・ノンフィクション特別編)※
『トランプWAR~メディアに挑む
“つぶやき”とウソが動かす世界』(2017 NNNドキュメント)※
『咲き誇れ 希望の花よ~「震度7」に2度襲われた町で~』
(2016 テレメンタリー
2016年度最優秀賞受賞作品アンコール放送)※
『ルーブル美術館を救った男』(2017 ドキュランドへようこそ!)※
『和食 ふたりの神様
最後の約束』(2017 NHKスペシャル)※
『ママはいないけど~東松島市 震災遺児の5年~』
(2016 FNSドキュメンタリー大賞特別賞)※
『慟哭の海~韓国セウォル号事故 母たちの3年~』
(2017 BS1スペシャル)※
『乾貴士 そのドリブルで未到の領域へ
~スペインで戦う孤高のフットボーラー~』
(2017 ノンフィクションW)※
6月・・・『わたしの自由について~SEALDs 2015~』
(2016 西原孝至)
『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』
(2014 ヨハネス・ホルツハウゼン)
『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』
(2014 チュス・グティエレス
青森シネマディクト )
『ゆんたんざ沖縄』(1987 西山正啓 シグロ無料配信)
『新見のワイナリー、世界へ~日本ワインブームの中で~』
(2017 サタデードキュメント)※
『グレートファミリー 巨大財閥の100年』
(2017 映像の世紀プレミアム)※
『“原爆スラム”と呼ばれた街で』(2017
ETV特集)※
『出かけよう、日美旅スペシャル 奈良 美仏の都へ』
(2017 日曜美術館)※
『わたしは、LGBT』(2017 NNNドキュメント)※
『死刑囚と姉ー袴田事件50年ー』
(2016 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)※
『ヒロシマの山~葬られた内部被ばく調査~』
(2012
サタデードキュメント)
『少年A~神戸児童連続殺傷事件 被害者と加害者の20年~』
(2017 NNNドキュメント)※
毎回、「収穫」を選んでいるが、2017年4-6月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。
『サディスティック&マゾヒスティック』(2000 中田秀夫)。中田秀夫監督が自ら助監督もつとめた師匠・小沼勝監督の自宅や撮影現場を訪れインタビューを試みたドキュメンタリー。日活ロマンポルノを牽引した小沼監督の作品の映像がふんだんに使用され、当時の監督仲間・スタッフ・女優たちにもインタビューを敢行する。日活ロマンポルノ30周年記念作品。
『パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト』(2014 ジェームズ・エルスキン)。1998年、イタリアのロードレーサー、マルコ・パンターニはツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア制覇を成し遂げた。ファンにイル・ピラータ(海賊)と呼ばれた彼は、ドーピング問題で崩壊の危機に瀕していたロードレース界の英雄だった。しかし、パンターニもまたドーピングのスキャンダルに巻き込まれ、傷つき、絶望の中でひとりきりの死を迎えた。34歳だった…ひとりの天才サイクリストの人生を追う傑作。
『SACRED いのちへの讃歌』(2016 トーマス・レノン)。“人は、なぜ祈るのか?”をテーマに、世界各地40ものカメラクルーが人々の信仰の姿を撮影し、その映像をアカデミー賞・エミー賞等の受賞歴を持つトーマス・レノン監督がまとめ上げた。比叡山の峰々を巡礼する「千日回峰行」、割礼や洗礼、死にまつわる儀式、メッカ巡礼、苦行者、終身刑囚の信仰…第29回アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭パノラマ部門正式出品、第29回東京国際映画祭でワールドプレミア上映。4月10日、WOWOW「ノンフィクションW」で放送された。
『将軍様、あなたのために映画を撮ります』(2016 ロス・アダム、ロバート・カンナン)。1978年、韓国の国民的女優・崔銀姫(チェ・ウニ)が旅行先の香港で姿を消した。その行方を追っていた元夫の映画監督・申相玉(シン・サンオク)も行方不明となり、北朝鮮による拉致の可能性が考えられたが、消息不明のまま捜査は暗礁に乗り上げた。実は、二人は拉致された後、5年間別々に監視された生活を送っていた。その後金正日の仲介により再会を果たし、金正日からある指示を受ける。それは北朝鮮のために映画を制作せよ、というものだった。監視のもととはいえ比較的自由な環境と潤沢な予算を与えられ、二人は3年弱の間に17本の映画を作り上げる。しかし1986年、二人は用意周到な計画に基づき、アメリカへの亡命に成功する…数々の証言と秘密に録られた金正日の肉声の録音テープ、そして申相玉監督作品で構成された、謎の事件の「真実」。
『ぼくと魔法の言葉たち』(2016 ロジャー・ロス・ウィリアムズ 青森シネマ・ディクト)。自閉症により2歳で言葉を失い、6歳まで孤独な世界に閉じ込められていた少年オーウェン。そんな彼がある日発した言葉が、毎日観ていたディズニー・アニメーションに登場するセリフであることに気づいた父と母は、ディズニー・アニメーションの登場人物になりきって息子との会話を試みる。弟の力になろうとする兄も含めた家族のサポートにより、やがてオーウェンは徐々に言葉を取り戻していく…明るさを忘れずに、障害を乗り越えて自立を目指すオーウェンの姿は、感動的としか言いようがない。傑作である。
『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』(2016 モーリス・デッカーズ)。イギリスの月刊誌「レストラン」による「世界のベストレストラン50」で5度1位に輝くデンマークのレストラン「ノーマ」。2015年、そのカリスマシェフであるレネ・レゼピが総勢77名のスタッフを引き連れ来日、「ノーマ・アット・マンダリン・オリエント・東京」を期間限定で開店した。日本全国を巡る食材探しと、オープンぎりぎりまで試行錯誤を繰り返したメニュー作りの全記録。
『ざ・鬼太鼓座』(1981 加藤泰)。巨匠・加藤泰監督の遺作にして幻のドキュメンタリー。佐渡ヶ島の芸能集団「鬼太鼓座(おんでこざ)」の若者たちの姿を2年かけて撮影し制作したこの作品は、加藤泰監督生誕100年を記念して当時のスタッフ監修のもとデジタルマスター作業が行われ、第73回ヴェネチア国際映画祭クラシック部門でワールドプレミア上映の後、2017年劇場公開された。若者たちの厳しい鍛錬と太鼓をはじめとする和楽器の演奏、加藤泰監督は自らの美学に従ってそれらを描き尽くそうとする。
『わたしの自由について~SEALDs 2015~』(2016 西原孝至)。2015年、安倍晋三首相は集団的自衛権の行使容認を含む新たな安全保障関連法案を国会に提出した。この動きに対して、東京を中心に立ち上がったのが学生団体「SEALDs」(シールズ/ 自由と民主主義のための学生緊急行動)。2015年6月から半年間に及ぶ、彼らの国会議事堂前抗議行動の記録。
『ゆんたんざ沖縄』(1987 西山正啓 シグロ無料配信)。 6月23日沖縄慰霊の日に合わせて、シグロ第1回作品の『ゆんたんざ沖縄』が、22日(木)0時より25日(日)24時まで4日間限定で、無料配信された。
嘉手納空軍基地の隣の読谷村、戦後38年たって84人の集団自決が明らかになったこの村のチビチリガマに平和の像を作ることになった…この像の制作過程と沖縄戦の記憶、沖縄国体を間近にひかえた地元高校卒業式の「日の丸掲揚」をめぐる軋轢、これらが交錯して死者84人の法要の日へと向かう。撮影:大津幸四郎、音楽:小室等。なお、先日亡くなった大田昌秀元沖縄知事のインタビュー映像も『大田昌秀さんの死を悼む』(ジャン・ユンカーマン監督によって3分に編集)というタイトルで同時配信された。
テレビ・ドキュメンタリーからも数本。
『激動の家族史を記録する~中国・新たな歴史教育の現場~』(2017 ドキュメンタリーWAVE)。中国ではこれまで家族に語ることすらタブーとされてきた現代史。いま、その中国の教育現場で「歴史記録」という新しい試みが行われている。子供たちが家族に聞き取りを行いそれを作文にまとめるその試みを、広州の中学校で取材する。文化大革命期の祖父の話を聞く女子中学生と改革開放後の父の苦労を聞く男子中学生、家族の歴史を知ることによってふたりの内面は変容していく…説得力のある映像だった。なおNHKBS1「ドキュメンタリーWAVE」は、この回で終了。地上波ではなかなか取り上げてもらえないテーマについてのドキュメンタリー番組は貴重だった。残念。
『獄友たちの日々』(2017 ETV特集)。43年の歳月を経て再審無罪を勝ち取った「布川事件」の桜井昌司さん。彼は、千葉刑務所や東京拘置所で同じように時を過ごし冤罪と闘ってきた仲間たちを「獄友(ごくとも)」と呼び、交流を続けている。ともに「布川事件」で無罪を勝ち取った杉山卓男さん(故)。同じく再審無罪となった「足利事件」の菅家利和さん。さらに再審決定により釈放された「袴田事件」の袴田巖さん、仮釈放され再審を求めている「狭山事件」の石川一雄さん。彼ら5人の「出会い直し」の日々の記録…ディレクターは『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2013)・『袴田巖 夢の間の世の中』(2016)の金聖雄(キム・ソンウン)監督。なおこのドキュメンタリーは、100分のドキュメンタリー映画『獄友』として2017年秋完成を目指す。
『“極右”の誘惑~フランス ルペン支持者の本音~』(2017 BS世界のドキュメンタリー)。制作:Antipode(フランス 2017年)。フランス大統領選挙で決選投票に勝ち残った極右政党・国民戦線の女性党首ルペン氏。反EUや移民排斥を掲げる彼女がなぜ多くの国民の支持を集めるのか。国民戦線を支持するゲイのカップル、黒人ラッパー、左派の教師、イスラム教徒…通常極右から排除される人々へのインタビューを通してフランスの現状を探る。この作品を含む「シリーズ 欧州変動の予兆」の残り3本は、 『メルケル首相の試練~難民政策で揺れるドイツ~』・『政治家は去れ!イタリア“五つ星運動”快進撃の裏で』・『難民村の郵便配達夫』 。
『わたしの話を聴いてほしい-あの事件から9か月
今思うこと-』(2017 NNNドキュメント)。制作:日本テレビ。神奈川県相模原市の障がい者施設で19人もの命が奪われた事件から9か月後、ひとりの映画プロデューサーがある場所に向かった。13年前に映画を撮影した滋賀県の障がい者施設「びわこ学園」。重度の障害を抱えながらも必死に「言葉」を紡ぎだそうとする人々の姿から、私たちは彼らの思いや願いをくみ取ることができるか…
『和食 ふたりの神様 最後の約束』(2017 NHKスペシャル)。10年連続「三つ星」獲得の寿司職人・小野二郎(91)、伝説のてんぷら職人・早乙女哲哉(70)。35年に渡る二人の交流、それはお互いの技を認め合った達人同士にしかわからない世界だった…唯一ライバルと認め合うふたりの天才の技と物語を4K映像で記録。
『死刑囚と姉ー袴田事件50年ー』(2016 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)。制作:テレビ静岡。フジテレビでは2016年7月放送。「袴田事件」から50年。死刑判決を受けた弟・袴田巌元被告の無実を訴え続けた姉・秀子さんは、2014年3月の裁判やり直し決定・48年ぶりの釈放以降、弟とふたりの生活を送っている。死におびえる毎日から「拘禁症」を発症していた弟をじっと見守る姉。彼女の証言から「袴田事件」を検証する…姉と弟、それぞれの闘いの記録と記憶、そして「現在」の生活。その見事な対比と構成に圧倒された。間違いなく、この1年間に出会ったテレビ・ドキュメンタリーの中でベストワンの傑作。
『ヒロシマの山~葬られた内部被ばく調査~』(2012
サタデードキュメント)。制作:中国放送(2012年8月放送)。2013年日本民間放送連盟賞テレビ報道番組最優秀作品。1946年設立された放射線影響研究所(放影研)。比治山にあるその広島研究所は隠語で「山」と呼ばれる。原爆による放射線の人体への影響を調査し続けている同研究所と前身である米国原爆傷害調査委員会(ABCC)の歴史を、当事者の証言で構成した力作。『はだしのゲン』作者中沢啓治氏の証言も収録されている。制作の前年の「フクシマ」の内部被ばくの問題ともリンクさせる姿勢は評価されるべきだろう。
<後記>
テレビ・ドキュメンタリーについては、かなり充実した体験をしていると思う。それに比べて映画の方は物足りないが、何とか鑑賞機会を作り出していきたい。また、自主上映の「ドキュメンタリー最前線」に向けて、「講座」のような形の準備態勢を整えたいとも考えている…
(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。
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