2016年1月5日火曜日

【越境するサル】№141「今年出会ったドキュメンタリー 2015年10-12月期」(2015.12.29発行)

201510-12月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。

 
  「今年出会ったドキュメンタリー 2015年10-12月期」

   201510月から12月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はいつもの通りほとんどがDVDでの鑑賞。スクリーンで観たのは2本。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、※はテレビ・ドキュメンタリー。

10月・・・『首相官邸の前で』(2015 小熊英二 青森シネマディクト) 
          『パンク・シンドローム』
      (2012 ユッカ・カルッカイネン、J-P・パッシ)            
          『365日のシンプルライフ』(2013 ペトリ・ルーッカイネン)
     
      『夏の終わり  国会前の路上で』(2015 ドキュメント72時間)※
          『“苦渋の決断”への船出~密着 新町長の40日~』
      (2015 震災ドキュメント)※
          『ベトナム戦争 フィルムの若者を探して』(2015 BS1スペシャル)※ 
          『チャスラフスカ もう一つの肖像~知られざる激動の人生~』
      (2015 BS1スペシャル)※
          『デモなんて』(2015 テレメンタリー)※   
          『むのたけじ100歳の不屈 伝説のジャーナリスト 次世代への遺言』
      (2015 ETV特集)※ 
          『新・映像の世紀 第1集 百年の悲劇はここから始まった 』
      (2015 NHKスペシャル)※
          『ディープ東京 リトルマニラの片隅で』(2015ドキュメント72時間)
          FOUJITAと日本』(2015 ETV特集)※         
  
11月・・・『ジャップ・ザ・ロック・リボルバー』(2009 島田角栄)
         『スライ・ストーン』(2015 ウィレム・アルケマ)

      『盗まれた最高機密~原爆・スパイ戦の真実~』
      (2015 NHKスペシャル)※
      『イザベラ・ロッセリーニのグリーン・ポルノ』
      (2015 WOWOW国際共同制作プロジェクト)※
      『それはホロコーストの"リハーサル"だった
             ~障害者虐殺70年目の真実~』(2015 ETV特集)※
          『アジア巨大遺跡 第4集  縄文 奇跡の大集落~1万年 持続の秘密~』
      (2015 NHKスペシャル)※
          『市川崑 アニメからの出発~幻のフィルム、巨匠の原点~』
      (2015 ノンフィクションW)※
          『“空飛ぶ診療所”きょうも開業中!?
          ~90歳の夫はラジオパーソナリティ~』
               (2014 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)※
      『暗黒のアイドル、寺山修司の彼方へ。
       ~「月蝕歌劇団」30年の挑戦~』(2015 ノンフィクションW)※
          『シリーズ戦後70年 演じる、高校生 ぼくらの町は焼け野原だった 』
      (2015 NNNドキュメント)※
      『枯れ葉剤を浴びた島2~ドラム缶が語る終わらない戦争~』
      (2015 テレメンタリー)※            
                   
12月・・・『無知の知』(2014 石田朝也)
          『シネマパラダイス★ピョンヤン』
      (2012 ジェイムス・ロン、リン・リー)
                          
          『世界最大 古書の迷宮へようこそ』(2015 ドキュメント72時間)※
          『イエスメンの反乱 前・後編』(2015 BS世界のドキュメンタリー)※
          『坂本龍一の700日』(2015 ノンフィクションW)※
          『安倍政治ってなんだ? 戦後70年 ニッポンの分岐点』
      (2015 NNNドキュメント)※
          『アンネの家を訪ねて』(2015 BS世界のドキュメンタリー)※
          『私はどこに還るのか~中国残留孤児の歳月~』
      (2015 BS1スペシャル)※
          『テレメンタリースペシャル~いまあなたに伝えたい 
                終戦70年目の真実~』(2015テレメンタリー)
          『KOKOYAKYU
         ~アメリカ人が見つめた“甲子園への道”~』(2015 BS1)※

   

毎回、「収穫」を選んでいるが、今回も数本紹介する。まず、映画から。

   『首相官邸の前で』 (2015 小熊英二)。2012年の夏、首相官邸前を約20万人の人々が埋めた。福島第一原発事故後の原発政策に反対する人々の行動を、2011年に遡って記録した 本作は、その全貌が報道されることがなかった「首相官邸前デモ」の歴史的ドキュメントである。菅直人元首相を含む8人のインタビューと、無償提供された自 主撮影の映像は、この動きが2015年の国会前デモへつながっていったことを再確認させる。監督は、自らもこの行動に関わり続けてきた歴史社会学者小熊英 二。山形国際ドキュメンタリー映画祭2015出品作。

   『パンク・シンドローム』(2012 ユッカ・カルッカイネン、J-P・パッシ)。フィンランドが生んだ、知的障がい者によるパンクバンド“ペルッティ・クリカン・ニミパイヴアド”。知的障が いを抱える4人のメンバーによってヘルシンキで結成されたバンドの音楽活動と日常を描く、涙と笑いの音楽ドキュメンタリー。フィンランド・アカデミー賞 2013最優秀ドキュメンタリー賞。山形国際ドキュメンタリー映画祭2013市民賞。

   『365日のシンプルライフ』(2013 ペトリ・ルーッカイネン)。ヘルシンキに住む26歳の青年ペトリは、ある実験を開始する。自分の持ち物すべてを倉庫に預け、1日に1個だけ 倉庫から持ち物を自分の部屋に運び、それを1年間続け、その間何も買わない。極限の生活からスタートし、やがて少しずつモノが増えていく日々の中、彼は考 え、いらだち、さまざまな人と関わりながら、前へ進んでいく…

   『ジャップ・ザ・ロック・リボルバー』(2009 島田角栄)。聴覚障がい者4人を含む手話ロックバンド「BRIGHT EYES(ブライト アイズ)」。活動20年目を迎える彼らのエネルギッシュなステージと、インタビューを通して語られるそれぞれの本音。どうして耳が聞こえないのにバンドをやっているのか?監督のストレートな質問に、ひとりひとりが真剣に、しかしさわやかに答える90分。  

   『スライ・ストーン』(2015 ウィレム・アルケマ)。1960年代から1970年代に活動したミュージシャン、スライ・ストーン。マイケル・ジャクソンやマイルス・デイヴィスにも影響を与えたこの「伝説のファンク・スター」は、人々の前から姿を消して久しかった。オランダに住む映像作家、ウィレム・アルケマは彼の足跡を追い続け、彼自身へのインタビューを試みる。そして、ついに、彼は人々の前に姿を現す…

   『無知の知』(2014 石田朝也)。監督石田朝也は知っている。自分自身が「原発」について「何も知らない」ということを。福島第一原発事故後、「原子力」に疑問を持った彼は、自分の目で確かめるために福島の人々を訪れ、当時の関係者にインタビューを決行する…当時の内閣官房長官・枝野幸男、元内閣総理大臣・菅直人をはじめ、下村健一、細川護煕、鳩山由紀夫、与謝野馨、渡部恒三、班目春樹、村山富市。ドン・キホーテのような石田の突撃、その姿勢には共感を覚える。

   『シネマパラダイス★ピョンヤン』 (2012 ジェイムス・ロン、リン・リー)。シンガポール出身のドキュメンタリー映像作家ジェイムス・ロンとリン・リーによる、北朝鮮の映画制作者たちを追ったド キュメンタリー。常に案内員が同行し、映像はその日のうちに検閲されるという条件のもと、彼らはなんとか3人の人物の取材を進める。故・金正日から信頼さ れていたピョ・グァン監督、平壌演劇映画大学の男子学生ウンボム、そして女子学生のユンミ。彼らの発言は公式的なものだが、映画にのめり込んでいるその姿 は全世界にいる普通の映画人と同じものだ。

   テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

   『ベトナム戦争 フィルムの若者を探して』 (2015 BS1スペシャル)。ベトナム戦争中、日本の映像通信社が北ベトナムで撮影した1本のフィルム。戦いに向かう若者たちを送り出す村の様子の記録。出征式、 家族との別れ、軍事訓練。この映像の主役ともいえるひとりの若者の消息を、取材班が追う。戦争終結から40年、ベトナムの人々の戦争の記憶。

   『むのたけじ 100歳の不屈 伝説のジャーナリスト 次世代への遺言』(2015 ETV特集)。むのたけじ、100歳のジャーナリスト。戦前・戦中を新聞記者として駆け抜けた。しかし戦後、「真実を書かなかった責任」をとって退職、故 郷の秋田横手で小さな新聞「たいまつ」を自力で発行し続けた。その強烈な人生と衰えを知らぬペンの力は、今もなお人々に影響を与え続ける…戦中の日本のあ り方に関する彼の証言、現代の若者に対する希望、いずれも私たちが耳を傾けなければならない言葉だ。

   FOUJITAと日本』(2015 ETV特集)。藤田嗣治。フランスで最も評価された日本人画家でありながら、日本での評価は複雑で、しかもその生涯は厚いベールに覆われてきた。戦争画を理由に戦後その責任を糾弾された彼は、フランスに帰化、その後日本に帰ることはなかった…小栗康平監督『FOUJITA』(11/14公開、オダギリ・ジョー主演)によるその生涯の映像化、東京国立近代美術館における所蔵全作品の公開(9/1912/13)、フランスでの2000点にのぼる遺品の公開、フジタ再評価の試みが進む中で彼の実像に迫る。小栗監督のインタビューの内容、とりわけ高村光太郎との対比が興味深い…

   『イザベラ・ロッセリーニのグリーン・ポルノ』(2015 WOWOW国際共同制作プロジェクト)。映画監督のロベルト・ロッセリーニを父に、女優のイン グリッド・バーグマンを母に持つ、女優で映画監督、モデルのイザベラ・ロッセリーニ。彼女が2008年から製作してきた短編映画シリーズが「グリーン・ポ ルノ」である。イザベラがさまざまな動物になりきって生殖行為を説明するシリーズ「グリーン・ポルノ」はその後舞台化もされ、彼女は全世界で精力的にひと り芝居を続けている。WOWOWとサンダンスプロダクションの共同制作である本作によって、彼女が動物になりきる姿のドキュメントとともに、彼女の半生と 「グリーン・ポルノ」製作のいきさつを知ることができる。イザベラの声の吹き替えは藤原紀香。

   『アジア巨大遺跡 第4集  縄文 奇跡の大集落~1万年 持続の秘密~』(2015 NHKスペシャル)。縄文文化の 象徴と言われる三内丸山遺跡。6本柱の木造建造物、大型の住居、本格的な農耕を行わない定住生活、世界に類を見ない長期の持続可能な社会…縄文土器が食生 活に起こした「革命」と土偶の謎にスポットをあて、最新の研究・発掘・取材の成果をもとに、三内丸山研究の現時点での集大成を試みる。「アンコール」・ 「バガン」・「始皇帝陵」と続いたNHKスペシャル「アジア巨大遺跡」シリーズの最後を飾る意欲作。ナビゲーターは杏。

   『イエスメンの反乱 前・後編』(2015 BS世界のドキュメンタリー)。ユーモアを武器に、メディアへの露出によって世の中の欺瞞を暴こうとする活動家コンビ「イエスマン」 。今回のテーマは地球温暖化問題。アメリカ商工会議所の広報官になりすまし記者会見を開き、「炭素税導入に賛成」という商工会議所とは反対の考えを表明する。この会見はCNNも速報で伝える大ニュースに…コペンハーゲンのCOP15へ、北極圏の石油採掘阻止へ、その後も彼らは自らのアイディアで行動を続ける。そして、「アラブの春」から始まる世界的なうねりと、彼らは合流していく。

   『テレメンタリースペシャル~いまあなたに伝えたい 終戦70年目の真実~』(2015 テレメンタリー)。モンゴル大草原、中央アジア、ミャンマー秘境、そして日本…歴史の闇に埋もれていた5つの秘話。「シリーズ戦後70年」として放送された5本の作品、「満州に進撃せよ!~草原に眠るソ連軍巨大基地~」・「シベリアからの遺言」・「ミャンマーのゼロファイター~動き出した遺骨調査~」・「皇軍大笑~“笑い”が国策だった時代~」・「空に舞った徒花~風船爆弾悲劇の記録~」を紹介する。

   『KOKOYAKYU~アメリカ人が見つめた“甲子園への道”~』(2015 BS1)。2006年、アメリカで制作された「KOKOYAKYU~High School Baseball~」の日本語版。アメリカ人の制作チームが4カ月間にわたって、智弁和歌山高校や大阪府立天王寺高校を中心に撮影を続けた“日本の高校野球”を徹底的に探るドキュメンタリー。ナレーションのない映像。その緊張感は



<後記>
   11月から12月、やや失速したが、何とか発信することができた。このペースを来年も持続させたい。
  毎年年末に発信している「その後の『サル』」は、今年から廃止。次号は、2015年から2016年にかけての「『越境するサル』的生活」をまとめて報告する。そろそろ、ドキュメンタリーの報告以外も充実させていかなければ… 


harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的にメールにて配信されております。

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