2017年11月14日火曜日

【越境するサル】№.165「木村文洋監督、〈もうひとつの家族〉の物語~上映会への誘い~」(2017.11.12発行)

12月2日、harappa映画館は弘前出身の若手映画監督・木村文洋の新作『息衝く』(2017)を上映する。木村監督作品としては、『へばの』(2008)・『愛のゆくえ(仮)』(2012)に続く3本目の上映である。併映の『へばの』が『息衝く』の前篇とも言うべき作品であることを考えれば、〈家族の物語〉に対する木村監督のこだわりの、ひとつの到達点を私たちが見届ける上映となるはずである。

 
    「木村文洋監督、〈もうひとつの家族〉の物語~上映会への誘い~」

  今年2月、東京銀座8丁目・国映TCC試写室で行われた『息衝く』試写会に駆けつけた。その上映中、私はずっと「この映画は今までのどの映画とも違う、まだ誰も見たことのない映画だ」と思い続けていた。決して手放しで称賛しているわけではない。実際のところ、息をのむような素晴らしいショットや展開と、観客の予測を裏切るストーリー構成が、時には高揚感を時には焦燥感を私に与え、振りまわされた私は結果として立ち尽くすほかなかった。だが、それでもそこに何か輝きのようなものを見たような気がしたのだ
  
   六ヶ所村核燃料再処理工場で内部被曝に襲われた男と、彼と結婚するはずだった女の別れと再会、そして父と娘の〈家族〉の物語『へばの』から8年。この間私たちは「3.11」を経験し、木村監督は『へばの』の続篇となる、青森を出た母と息子の物語を必死で紡いでいた。その途中、オウム逃亡犯を題材とした『愛のゆくえ(仮)』で見事な切れ味を示したが、私たちはずっと〈もうひとつの家族〉の物語の完成を待ち望んでいた。

  こうしてついに完成した『息衝く』には、何と多くの、消化しきれないほどの、テーマが描き込まれていることだろう。母と子が東京で生きていくこと、宗教を心の拠り所として活動していくこと、政治活動に身を捧げさまざまな矛盾の中で心身をすり減らしていくこと、人と人の絆が時には強く時には脆いということそれらすべてが、群像劇として私たちの前に投げ出される。その重さを、私たちはそのまま受けとめなければならないのだが、それはなんともきつい作業だ。

   『へばの』から『息衝く』へ、ひとまず完結したこの物語を多くの人に観てもらいたいと思う。そのあとで、議論をしてみたい。とりわけ『息衝く』の不思議なリアリティと、不安定さについて。あるいは、この先、木村文洋はどこに向かい、どこにたどり着くのか、について。

   まずは上映会へ。


日程等は次の通り。

12月2日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

「弘前出身、木村文洋監督特集 
    青森から東京へー『もうひとつの家族』の物語」

      10:30   『息衝く』(130分)
         上映後、木村文洋監督によるシネマトーク
      14:30   『へばの』(81分)      
      16:30   『息衝く』(130分)
         上映後、木村文洋監督によるシネマトーク

1回券 前売 1000   当日 1200  
会員・学生 500 
 1作品ごとに1枚チケットが必要です。

チケット取り扱い                                                       
    弘前中三、紀伊國屋書店、まちなか情報センター、弘前大学生協、
    コトリcafe(百石町展示館内)

詳細は、次をクリックせよ。



<後記>

   映画を人に紹介することの難しさを、今回ほど痛感したことはない。上映会のチラシのキャッチコピーからリード文、2本の映画の内容、さらにこの「上映会への誘い」。ただストーリーを並べただけでは伝わらない何かについて必死に考え、必死に発信しようともがいたこの一カ月半だった。

   上映会の『息衝く』最後の回のあとのシネマトークに私も参加する。その時まで、もがき続けることになりそうだ。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

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