2014年3月3日月曜日

【映画時評】#45「雪深い町で見た映画〜『第23回あきた十文字映画祭』にて」


雪深い秋田県横手市(旧十文字町)で、2月7日から9日まで開催された「第23回あきた十文字映画祭」に参加した。映画祭には1996年の第5回から通っているが、今年は12プログラム・16本(短編アニメが1本追加上映された)の映画を見た。

初日は、オープニング作品の『ベニシアさんの四季の庭』に、平日の朝にもかかわらず100人近い観客があったのに驚かされた。NHKのテレビ番組「猫のしっぽ カエルの手」などのベニシアさんのファンが、秋田県内から集まったのだ。



2日目は対照的な二つの場面が記憶に残った。

昨年から始まった企画で、地元の中学生が選んだ『エイトレンジャー』が上映された。関ジャニ∞主演の映画はともかくとして、ビデオレターで、中学生の質問に真摯に答えた堤幸彦監督が、続編を撮って映画祭に訪れたいと語った。


一方、『Playback』上映後のトークアウトでは、映画祭顧問の評論家・寺脇研が司会進行を務めたが、出演者の村上淳やテイ龍進との打ち合わせ時に飲みすぎたらしく、酔って登壇した。そのため会話が噛み合わず、村上が「監督主導の映画を撮りたい」「お金がなければ時間と知恵をつかえ」という映画作りへの思いを、ほとんど一方的に語ることになった。

お祭りなので多少のフライングはあるとしても、また観客に伝えたいことは語られたとしても、節度は必要だ。堤監督の中学生に対する誠実なコメントと、寺脇顧問の振る舞いの差が際立ったのは残念なことだった。



最終日に上映された東北芸術工科大学(山形市)の卒業制作作品では、『ドロセラ』が面白かった。田舎の駅前で待ち合わせしていた自殺志望者のグループに、バードウォッチングの参加者が紛れ込んでしまう。グループは山中で集団自殺をしようとするが…、という物語は、途中から『マタンゴ』的に急展開していく。

東宝の特撮映画を意識したのかと質問したところ、その種の映画やスプラッターには関心がないと広井砂希監督は答えた。「山形国際ドキュメンタリー映画祭2013」の三都大学交流プログラムで上映された、全自動洗濯機にお尻がはまって抜けなくなるストーカー男を主人公にした、彼女の監督作品『蟻地獄』は休憩時間にDVDで見た。

広井の指導教官でもある根岸吉太郎学長は、彼女の入学時に横浜聡子監督の『ジャーマン+雨』を見せたという。学生と世代が近い監督の映画であることと、起承転結がなくても映画はできるということを伝えたかったからだと、観客席にいた根岸が説明した。
その直後に、横浜監督の『りんごのうかの少女』を見た(これで3回目だ)。喜劇映画監督・横浜聡子のユーモアの原点が、起承転結の欠落、あるいは映画的唐突さにあると、改めて思った。この映画に関しては、重要な役を担った馬を走らせなかったことが惜しまれる。


クロージング作品は、2013年のキネマ旬報日本映画ベスト・テン第5位と脚本賞に選ばれた『共喰い』だった。脚本を書いた荒井晴彦の持論は、「脚色とは原作に対する批評である」だ。映画を見て、原作者の田中慎弥は、「ああ、やられた」と唸ったそうだ。青山真治監督と荒井によるトークアウトは、生々しい素材が静かな映画になった事情をめぐって、予定時間をオーバーした。


(harappa映画館支配人=品川信道)[2014年2月18日 陸奥新報掲載]

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