来月、12月3日、harappa映画館は「ミステリアスな男たち&女たち」と題して3本のヨーロッパ映画を上映する。『東ベルリンから来た女』・『ローマに消えた男』・『アクトレス~女たちの舞台~』、すべて高い評価を得ている作品だが、その中でも『アクトレス~女たちの舞台~』は私にとって特別な映画である。主演のジュリエット・ビノシュは二十数年前『存在の耐えられない軽さ』に出演したが、それ以来私は彼女の演技に魅了され続けてきた。けっして熱烈なファンではなかったが、私にとってその存在感は別格だった…
「ジュリエット・ビノシュの“時間”~上映会への誘い~」
『存在の耐えられない軽さ』(1988 フィリップ・カウフマン監督)は、チェコ生まれのフランス作家ミラン・クンデラの同名小説を原作とするアメリカ映画である。1968年頃、チェコスロヴァキアの「プラハの春」の時代を背景とするこの映画の主人公は、プラハの脳外科医トマシュ(ダニエル・デイ=ルイス)とカフェのウェイトレスをしながら写真家を目指すテレーザ(ジュリエット・ビノシュ)。ふたりは同棲生活を経て結婚するが、テレーザはトマシュの愛人たちとの関係に傷つき苦しむ。そして1968年8月、ソ連軍のチェコスロヴァキア侵攻の夜がやってくる…ジュリエット・ビノシュ演ずる純情でかつ情熱的なテレーザ、その姿はしっかりと心に焼き付いた。
その後私は、ビノシュがドニ・ラヴァンと共演した『汚れた血』(1986 レオス・カラックス監督)・『ポンヌフの恋人』(1991 レオス・カラックス監督)の2本にのめり込むが、特に彼女主演の映画を意識することは少なくなった。このあと名実ともに大女優の道を歩んだ彼女の作品と、意識して向き合ったのはそれから20年後、『トスカーナの贋作』(2010 アッバス・キアロスタミ監督)の出現によってだ。イタリアの小さな村で出会った男女が長年連れ添った夫婦を演じるという、虚と実が入り混じったいかにもキアロスタミ的なこの作品の中のビノシュが、とても輝いて見えた。まるで『存在の耐えられない軽さ』のテレーザのように。そして、今回上映する『アクトレス~女たちの舞台~』だ…
『アクトレス~女たちの舞台~』(2014 オリヴィエ・アサイヤス監督)の主人公は女優マリア・エンダース(ジュリエット・ビノシュ)。彼女は、マネージャーのヴァレンティン(クリステン・スチュアート)とともに特急列車でチューリッヒに向かっている。新人女優だった彼女を発掘した劇作家ヴィルヘルム・メルヒオールに代わって、彼の功績を称える賞を受け取るためだ。その途上、メルヒオールが亡くなったという知らせが入る。授賞式当夜、新進演出家のクラウスが、彼女を世に送り出したメルヒオール作『マローヤのへび』のリメイクへの出演を要請する。マリアの役柄は、かつて自分が演じた20歳の主人公シグリットではなく、シグリットに翻弄され自殺する40歳の会社経営者ヘレナ役だった。そしてシグリット役には19歳のハリウッド女優ジョアン・エリスが決まっていた…
スイスの美しい景観を背景に(この景観もまたテーマにつながる)、マリア、ヴァレンティン、ジョアンの3人を軸にした葛藤のドラマが演じられていくのだが、何度かチームを組んできたアサイヤス監督とビノシュがこの映画で試みたのは「過ぎゆく時間」に関するアプローチだと言う。その「時間」と対峙する女優として、ビノシュは何とふさわしいことだろう。まるで彼女自身の半生のようだ。
「ミステリアスな男たち&女たち」、そのほかの2本についても紹介しよう。
『東ベルリンから来た女』(2012 クリスティアン・ペッツォルト監督)。1980年、旧東ドイツの田舎町の女性医師バルバラは、秘密警察に監視されながら、恋人の待つ西側へ密出国する準備を進めていた。同僚の医師アンドレは彼女に惹かれるが、バルバラは頑なな態度を崩そうとしない。しかし、アンドレの誠実な姿に彼女の心は揺れ動いていく。そして彼女を必要とする患者たちの存在も、彼女の出国の決意を鈍らせる…2012年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞。
『ローマに消えた男』(2013 ロベルト・アンドー監督)。イタリア最大野党を率いる大物政治家エンリコが、国政選挙を前に突然の失踪を遂げた。「ひとりになる時間がほしい」、彼の書き置きを見た腹心の部下アンドレアは、失踪の事実を隠し、エンリコの双子の兄弟ジョヴァンニを替え玉に起用する。この窮余の策で替え玉となったジョヴァンニは、その弁舌によってメディアと大衆を魅了していく…2013年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア・アカデミー賞)最優秀脚本賞・最優秀助演男優賞受賞。
フランスから、ドイツから、イタリアから、私たちに届けられた魅力的な映画たちを、ともに味わいたいと思う。
日程等は次の通り。
12月3日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ
「ミステリアスな男たち&女たち」
10:30 『東ベルリンから来た女』(105分)
13:30 『ローマに消えた男』(94分)
15:45 『アクトレス~女たちの舞台~』(124分)
3回券 2500円(前売りのみ)
1回券 前売 1000円 当日 1200円
会員・学生 500円
※1作品ごとに1枚チケットが必要です。
チケット取り扱い
弘前中三、紀伊國屋書店、まちなか情報センター、弘前大学生協、
コトリcafe(百石町展示館内)
詳細は、次をクリックせよ。
<後記>
ひさびさの「上映会への誘い」である。次のharappa映画館は来年3月、「ドキュメンタリー最前線」を予定している。
次号は「『越境するサル』的生活」といきたいところだ。
(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。