2019年11月11日月曜日

【越境するサル】№.194「『きみの鳥はうたえる』~上映会への誘い~」(2019.11.1発行)


1123日(土)、harappa映画館は「いまを感じるこの映画3本」と題して3本の日本映画を上映する。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017石井裕也監督)、『きみの鳥はうたえる』(2018 三宅晶監督)、『さよならくちびる』(2019 塩田明彦監督)、どの映画も高い評価を得たとびきりの「青春映画」だが、その中でも『きみの鳥はうたえる』は私にとって特別な思い入れのある映画だ


「『きみの鳥はうたえる』~上映会への誘い~」

  『きみの鳥はうたえる』は、函館出身の作家・佐藤泰志(1949-90)の同名小説を原作とする。
 佐藤泰志が故郷函館に転居し職業訓練校に通っていた1981年、『文藝』に掲載された中編「きみの鳥はうたえる」は、この年の第86回芥川賞候補作となった。結果的に落選するが、この作品が注目されたことが、その後彼が再び生活の場を東京に移して作家活動を続ける契機になったことは間違いない。以後、芥川賞候補になること4度(すべて落選)、1980年代後半には作品集『大きなハードルと小さなハードル』に収録された作品群、長編小説『そこのみにて光輝く』、連作『海炭市叙景』などを発表するが、1990年自死

 この作品と出会った時、私は次のように書いた。

  「きみの鳥はうたえる」の主要な登場人物は3人。本屋の店員の「僕」と、同じ店で
 働く佐知子、「僕」と同居する失業中の静雄、21歳の3人の共同生活ともいえる夏の日々  が描かれる。ジャズ喫茶、ビートルズへの思い、深夜映画館、若者がたむろす酒場・・・  70年代そのもののような舞台設定の中、出会い・揺れ動く心・別れの予感・あやうい友
  情といった「青春小説」のすべての要素が詰め込まれたこの作品は、青春を描き続けた佐藤泰志の一つの到達点といえる。女1人に男2人という「黄金の組み合わせ」によるストーリー展開は他の佐藤作品に比べてもリズミカルで、思わず映画化されたものを観
てみたいという誘惑に駆られてしまう。
                                       20062月『越境するサル』№39より)

そして、いま、私たちの眼前に映画『きみの鳥はうたえる』がある
 映画『きみの鳥はうたえる』の監督は、近年意欲的な作品を次々と発表してきた新鋭・三宅晶。1984年生まれ札幌市出身の彼は、原作の舞台を1970年代の東京から現代の函館に移すという大胆な翻案を行なった。そして、「僕」に柄本佑、「静雄」に染谷将太、「佐知子」に石橋静河を配して、原作を骨格としながらも新しい青春像を創り上げることに成功した(この作品は「映画芸術」2018ベストテン第1位、「キネマ旬報」2018日本映画ベストテン第3位を獲得した)。
 佐藤泰志の小説が映画化されたのは、『海炭市叙景』(2010)、『そこのみにて光輝く』(2014)、『オーバー・フェンス』(2016)に続いて4作目。いずれも高い質の作品を制作した、函館の市民映画館「シネマ・アイリス」には敬意を表する(
注)。

 



この日上映される他の2本もまた必見の映画だ。

 『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、2016年にリトルモアから刊行された最果タヒの同名詩集を原作とする。脚本も担当した石井裕也監督により、原作をもとにラブストーリーとして作り上げられた(2017年映画化)。
 石橋静河と池松壮亮の主演で、石橋は本作が映画初主演作。「キネマ旬報」2017日本映画ベストテン第1位、「映画芸術」2017ベストテン第1位他、数々の賞に輝く。

 

 
 『さよならくちびる』は、「青春ロードムービー」と呼ぶべき作品。女性ギター・デュオ「ハルレオ」のハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)は、それぞれの道を歩むため解散を決め、ローディ兼マネージャーのシマ(成田凌)とともに全国7都市(浜松・大阪・新潟…弘前も入っている)を巡る解散ツアーに出かける。すれ違う、3人の心…
秦基博、あいみょんがこの映画のために楽曲を提供し、主演のふたりが映画の中で歌唱する。
なお、脚本も担当した塩田明彦監督は、harappa映画館メンバーが運営に関わった「弘前りんご映画祭2013」にゲストとして来弘、自作『どこまでもいこう』(1999)の上映後、スペース・アストロで舞台挨拶に立った。今回再びゲストとして、『さよならくちびる』上映後のシネマトークに参加する。




  11月23日は、harappa映画館へ。


(※注)
「シネマ・アイリス」が制作に関わった佐藤泰志原作の映画は、かつて「harappa映画館」で2本上映している。次の『越境するサル』№14320162月発行)「『函館発 佐藤泰志映画祭』~上映会への誘い~」がその紹介である。<付録>として、過去に私が書いた佐藤泰志関連の記事も掲載されている。

http://npoharappa.blogspot.com/2016/02/143-2016214.html


日程等は次の通り。

   11月23日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

   いまを感じるこの映画3本

        10:30   夜空はいつでも最高密度の青色だ』(108分)
        13:30   きみの鳥はうたえる』(106分)      
        16:00   さよならくちびる』(116分)
                              
   1回券 前売 1000   当日 1200      会員・学生 500
   3回券 2500円(前売りのみの取り扱い)   ※1作品ごとに1枚チケットが必要です。
    チケット取り扱い                                                       
       弘前中三、まちなか情報センター、弘前大学生協、コトリcafe(百石町展示館内)


詳細は、次のホームページ・アドレスで。

https://harappa-h.org/harappa-wp/?p=228
 

<後記>

  次のharappa映画館は、2月、「ドキュメンタリー最前線」の予定である。
  次号は「今年出会ったドキュメンタリー 201910-12月期」となるはずだが、その前に何か発信できるかもしれない。




(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。