2024年3月16日、harappa映画館は、ヤン ヨンヒ監督の長編ドキュメンタリー映画『スープとイデオロギー』(2021年、全国公開は2022年)と『ディア・ピョンヤン』(2005年)の上映を行う。弘前で(harappa映画館で)ヤン ヨンヒ作品が上映されるのは、2014年以来である。
「ヤン ヨンヒ、母の物語『スープとイデオロギー』へ、~上映会への誘い~」
2021年、山形国際ドキュメンタリー映画祭「インターナショナル・コンペティション部門」にノミネートされた『スープとイデオロギー』を、私は山形の地で観るはずだった。しかし、コロナ禍の中、映画祭はオンライン上映のみで行われることとなり、しかも、『スープとイデオロギー』はオンラインでは上映されない作品だった。
2022年全国公開され、ようやく多くの人々の前に登場した本作は、ドキュメンタリー映画というジャンルを超えた高い評価を獲得した。そして、ヤン ヨンヒ監督の過去の長編3本(うちドキュメンタリー2本)の観客であった私(たち)にとっても、特別な作品となった。
それは、私(たち)が長年感じてきた疑問―朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮に送るが、なぜ父と母は「北」を信じ続けてきたのか?―に監督が真正面から向き合う作品だったからだ。
映画は、ある夏の日から始まる。2009年にアボジ(父)が亡くなってから大阪でずっと一人暮らしだった在日コリアンのオモニ(母)は、高麗人参とたっぷりのニンニクを詰め込んだ丸鶏をじっくり煮込む。それは、娘ヨンヒとの結婚の挨拶にやって来るカオルさんにふるまうためのスープだった。新しい家族にレシピを伝えた母は娘のヨンヒに、はじめて自らの壮絶な体験を打ち明けた。1948年、当時18歳の母は韓国現代史最大のタブーといわれる「済州4・3事件」の渦中にいた……
父が他界したあとも、“地上の楽園”にいるはずの息子たちに借金をしてまで仕送りを続ける母を、ヨンヒは心の中で責めてきた。心の奥底にしまっていた記憶を語った母は、アルツハイマー病を患う。消えゆく記憶を掬いとろうと、ヨンヒは母を済州島に連れていくことを決意する。それは、本当の母を知る旅のはじまりだった。
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