2013年6月29日土曜日

【つむじ風】1号「掌の味」


  


  先日、平川市在住の画家「山谷芳弘自選展」を観るために、五所川原エルムまで出掛けてきた。山谷先生のお宅には、二度ほどお邪魔したことがある。緊張もしたが、貴重で愉しい時間であった。周りは「〇〇画家」とか様々な名称で呼ぶけれど、自分はなんと呼ばれても気にしていない。特にそのことには捕われていないと、おっしゃっていた。先生は外見はもちろん、頭の中がとても若いのだ。今回の展示からもその様子が伺えた。私はストレートにしかものを言えないので、そのまま伝えると、「んだ、若い人が描いたのかどうか、作者がわからないように描いてるんだ」と。

  お土産に持っていった、パフェの形をしたプリザーブドフラワーを渡した。その時、また思った。この小振りな掌から、なぜあんなに大きな画が生まれるの?それはきっと、山谷先生の心が「デカイ」から。以前、東京で知り合った切り絵のアーティストの女性は、私の掌を見て、「小さいね。とても繊細な掌をしているわね」と言ってくれた。そして、「何かを表現する人の掌は小さいのよ」と。若い頃から冬になれば手荒れがひどく、鳥のように皺の多い不器用な掌を、初めて誉められたような気がして、嬉しくて今でも忘れられない。

   時々文章を書いたり、俳句を楽しんでいる私のことを知って、山谷芳弘先生は「文章でも画でも、料理でも同じ。味がないのは、私は好きじゃない」と。歌手の加藤登紀子さんは、京都の展覧会で先生の画を気に入り、ご自分の小冊子の中で紹介している。彼女もまた俳句をやっているのだと、先生に教えていただいた。テレビで、純白のドレスに真紅のワインをドボドボ降らせて歌った彼女の姿を、今でも鮮明に覚えている。そんな方と、好きな画家が同じだなんて、とても嬉しい。

   因みに、この日はスーパームーンの日。祖母が握った、デカイおにぎりのような月。
小さい掌で、大きなものを掴んでみたい。今宵の味は、どうかな?


harappaメンバーズ=KIRIKO

2013年6月21日金曜日

【映画時評】#39「『奇跡のリンゴ』を見て~ランドマークが持つ力、または、岩木山の圧倒的存在感~」


主役の阿部サダヲと菅野美穂を迎えて、5月21日に開催された『奇跡のリンゴ』の弘前凱旋プレミアイベントでは、上映後に興味深い場面がいくつかあった。

木村秋則さんを演じた阿部が、「意外といい映画じゃないですか」と発言したのは、全編を通して見るのが初めてだったことを想像させた。上映中に席をはずしたことを阿部に指摘された木村さん本人が、「あまりにリアルで」とその理由と映画の感想を述べたのは、映画に再現された無農薬リンゴ栽培に取り組んだ家族のご苦労の数々を思い出されたからだろう。スポーツ新聞等の芸能欄では「菅野美穂号泣」と報道されたが、妻の美栄子を演じた菅野が木村夫妻と一緒に映画を見て、感極まって言葉に詰まったのも印象深かった。

旧岩木町(現弘前市)にUターンした秋則は、木村家の婿になり、リンゴ作りに従事する。何事につけ答えを見つけなければ気がすまない秋則は、農薬を散布するたびに体調を崩す妻の姿に、消費者が食べて安全なリンゴを作ることと、生産者が安全にリンゴを作ることを両立させるために、不可能と言われた無農薬リンゴ作りに取り組む。「バカ」「かまど消し」と呼ばれ、村八分の扱いを受けるが、秋則の苦闘に光明は見えない。そして秋則はある決心をして岩木山中に向かう。

2年前、『津軽百年食堂』と『わさお』を取り上げた「ご当地映画一刀両断」と題した本欄の文章で、「普段見慣れた風景が画面の中に映っていることを楽しむことと、映画自体が面白いかは異なる。つまり、地方ロケの映画においては、その地域の風景や風俗の記録というドキュメンタリー的な関心にとどまらない面白さがあることが、その映画が撮影された土地以外の人々に広く受け入れられるために重要なのである。」と書いたことがある。

ご当地映画では、画面に映し出されるロケ場所を特定しながら映画を見ることになりがちだ。その場所を知っていればいるほど、その誘惑に屈する可能性がある。それは「木を見て森を見ず」的な行為に陥って、映画の全体を見誤ることにもなりかねない。

岩木山が見えるところが「津軽」だと何かで読んだ記憶があるが、この映画では物語の背景に常に岩木山がある。四季折々の、また一日のさまざまな時間の岩木山が、都合18回ほど映し出される。岩木山をこれだけ見ているうちに、藤田記念庭園をはじめとする一つ一つのロケ地はいい意味で埋没する。そして津軽に住むぼくたちでさえ、余計なことを考えずに映画の世界に身を委ねることになるのである。

秋則が家族に、特に妻の美栄子に支えられて奇跡のリンゴ作りに至るまでの物語は、観客の共感を呼ぶに違いない。だがこの映画には陰の主人公が存在する。岩木山である。秋則が岩木山中で、無農薬リンゴ作りの決定的なヒントをつかんだとき、「なして、今まで教えてけながったのさ」と岩木山に向かって叫ぶシーンを見れば、それは明らかだ。

津軽のランドマークである岩木山が持つ圧倒的な存在感を確信して、岩木山を映画の中央に据えた中村義洋監督の着想に感心する。そして、ぼくの脳裏には、陸羯南の「名山出名士」という漢詩の一節がこだましている。

(harappa映画館支配人=品川信道)[2013年6月18日 陸奥新報掲載]

▼『奇跡のリンゴ』予告編

【越境するサル】No.117 「珈琲放浪記~札幌、「再会」と「出会い」と~」(2013.06.20発行)

先週、仕事で札幌を訪れた。1泊2日の慌ただしい日程だが、エアポケットのような時間帯が少しあった。この空白の時間を埋めるのは珈琲しかない。何しろ、札幌なのだ…

「珈琲放浪記~札幌、「再会」と「出会い」と~」

札幌は20歳代の頃から何度も訪れている街である。いくつかの観光地は複数回訪れているし、古書店を含む大小の書店には随分お世話になった。だが、一番記憶に残っているのは珈琲の味だ。実は、深煎りで自家焙煎の珈琲と出会ったのは、ここ札幌なのだ。

中でも記憶に残っているのが「北地蔵」と「可否茶館」のふたつである。「北地蔵」は時計台の裏、「可否茶館」はテレビ塔近くの紀伊國屋書店地下。なかなか土地勘がつかめなかった札幌の街の中で、このふたつの店にだけはすぐたどり着けた。そして、もう20~30年も経過しているのに、「北地蔵」の珈琲の深くて濃い味、そしてすっきりした喉ごしと、「可否茶館」の珈琲のパンチの効いた苦味とこくは、記憶から離れない。今回、この2軒を再訪してみたいと思い調べてみると、「北地蔵」は移転してその後閉店したという情報が入った。また「可否茶館」の方は、紀伊國屋書店はすでに移転しているものの店自体はそのままの場所にあるという…何やら無性に「可否茶館」の珈琲が飲みたくなった。行くべきだろう。

札幌駅北口のホテルを出て、大通方面へ向かう。賑わう地下街を通り、あたりをつけて地上へ出る。「可否茶館」の前に立ち寄りたい書店があった。かつて、書棚を埋める埴谷雄高の本の背表紙にため息をつき、吉本隆明編集の雑誌『試行』のバックナンバーを買った「アテネ書房」だ。今月いっぱいで閉店というニュースを聞いていた。店に入りしばらく記憶を確かめた後、『さっぽろ喫茶店グラフィティ』(2006年、和田由美、亜璃西社)を購入。「アテネ書房」のブックカバーをかけてもらい、店を出た。

あとは、大通公園のテレビ塔を目指す。やがてテレビ塔を見上げる「桂和大通ビル50」にたどり着く。この地下2階に「可否茶館 大通店」はある。創業1971年、北海道の「自家焙煎コーヒー」草分けの店「可否茶館」第1号店。カウンターのみ14席。周囲の「カフェ」とは、明らかに流れる時間が違う。ここは「喫茶店」。

「可否茶館1971オリジナルブレンド」を注文する。この味だった、のだと思う。記憶の底にある味を思いだそうとするが、正直どこまで同じなのかよくわからない。だが、この苦味とこくは明らかに私好みだ…土産に「マンデリン」100グラムを購入し、店を出る。たしかに私は記憶の珈琲と再会した(なお、「可否茶館」の創業者は、創業から30年後に13店舗すべてを譲った後ワインづくりにチャレンジ、現在は北海道三笠市でワイナリー「TAKIZAWAワイン」を経営している。けれど、人は変わっても、私の中で「可否茶館」はやはり同じ「可否茶館」だ)。

少し急ぎ足で、札幌駅北口に戻る。北大前の古本屋街にも行かなければ。この日は「再会」の日と決めていた…


翌日、出発までの時間は、新しい味と出会う時間となった。札幌には気になる珈琲専門店がいくつかあったが、その中でここ数年評判の高い「森彦」に行きたいと思っていた。古民家を改造した店舗で知られる「森彦」の珈琲は、1996年地下鉄東西線「円山公園駅」近くに開店して以来高い評価を得てきたが、今回はその支店(2号店)の「ATELIER Morihiko アトリエ・モリヒコ」を訪れることにした。大通公園の西端「札幌市資料館」のほど近く、地下鉄東西線「西11丁目駅」から徒歩3分(市電「中央区役所前駅」から徒歩1分)。店のサイトにある「ここはコーヒーの美術館」という言葉が気になっていた。

午前10時、開店と同時に入店する。白い壁に囲まれた店内は、南に向いた大きな窓から射し込む光によって開放感を醸し出しているが、さりげなく渋いカウンターやテーブルやチェアによって隠れ家的な雰囲気も感じさせる。かかっている音楽も妙に似合う。ここもまた、カフェとは違う時間が流れている…

カウンターに座り、「フレンチマンデリン」を頼む。待つ間、自分が少しずつ店に馴染んでいくのがわかる。やがて運ばれてきた「フレンチマンデリン」は予想通り苦く重く、そしてクリアーな喉ごし。途中、店内で販売している焼き菓子の中からビスコッティを注文し、珈琲に合わせる。この組み合わせで、完全に癒やされた。この店を訪れてよかった、としみじみ思う。帰りに、もちろん「フレンチマンデリン」200グラムを購入。大通公園へと向かう。

こうして札幌滞在は終了した。記憶の味との「再会」と、新しい味との「出会い」。何とも充実した「珈琲放浪」だった。けれど札幌には、行きたい店がまだ数軒ある。いつか訪れる日に再び「放浪」することを、夢想する日々は続く…


<後記>
記憶がはっきりしているうちに、発信する。ひさしぶりの「珈琲放浪記」だが、この夏もう1本発信できそうだ。

次号は、「今年出会ったドキュメンタリー 2013上半期」の予定。7月に入ったらすぐ発信したい、と考えている。

(harappaメンバーズ=成田清文)

※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。

2013年6月17日月曜日

【コトリcafe】定休日のお知らせ

6月14日から開催された「2013 弘前工芸協会展」は、本日で終了いたしました。
期間中はコトリcafeにもたくさんのお客様にご来店いただき、ありがとうございました^^
さて、コトリcafeは明日6月18日(火)を定休日とさせていただきます。
どうぞお間違いのないようよろしくお願いいたします。
今日でジャムが完売してしまったため、合間をぬってルバーブをぐつぐつ。

そしてブルーベリーも煮込み。
二層式のジャムにしようとしたのですが。。
結局マーブル状態になってしまいました^^;


それぞれでも混ぜても、どちらでもおいしくいただけそうです♪
あさってより販売予定となっております。

それでは、またのご来店をお待ちしております♡