3月9日、harappa映画館は「ドキュメンタリー最前線 2019―越境する映画」と題して3本のドキュメンタリー映画を上映する。『津軽のカマリ』・『ザ・ビッグハウス』・『台湾萬歳』…大西功一・想田和弘・酒井充子、文字通りドキュメンタリー映画界の最前線で活躍する3人の監督の意欲作。harappa映画館としては初めての「スペース デネガ」での開催に、多くの市民が駆けつけてくれることを期待する。
「『ドキュメンタリー最前線 2019 ―越境する映画』~上映会への誘い~」
3人の監督には、それぞれ思い入れがある。
大西功一監督の作品と初めて出会ったのは2011年12月の「函館港イルミナシオン映画祭」だった。沖縄宮古島の古謡・神歌をテーマにしたドキュメンタリー『スケッチ・オブ・ミャーク』(2011)が国内外で高い評価を受け、この映画祭でも監督のトークつきで上映されるということで弘前から駆けつけたのだが、強風で函館山頂上の会場での上映が不可能になり日程・会場が大幅に変更、市電の最終地点「谷地頭」の奥の「ふるる会館」で上映されることになった。タクシーでようやくたどり着き、出会った作品と監督のトークの記憶はいまだに鮮明である。
大阪生まれの大西監督は現在函館を拠点としているが、徹底した津軽取材で作り上げたのが今回上映する『津軽のカマリ』(2018)。津軽民謡を新たな三味線曲として編曲し津軽三味線の独奏という芸域を切り開いた初代高橋竹山が、1998年87歳で亡くなるまでの生涯を、残存する演奏と語りと二代目高橋竹山ら映像関係者の証言で綴る、圧倒的な104分。
2018年11月3日より青森松竹アムゼ、シネマヴィレッジ8・イオン柏にて先行ロードショーが行われたが、弘前では初上映となる。
ナレーションもテロップもBGMもない、自ら名付けた「観察映画」の旗手・想田和弘監督の作品は、すでに国内外で高い評価を受けている。落下傘候補のドブ板選挙を描いた
「観察映画」第1弾『選挙』(2007)を皮切りに、外来の精神科診療所「こらーる岡山」の日常を描いた『精神』(2008)、岡山で福祉の仕事に携わる義父母とまわりの人々の静かな日常を描いた『Peace』(2010)、平田オリザと劇団「青年団」を描いた『演劇1・2』(2012)と、次々と問題作を造り出した。「harappa映画館」でも2012年3月の「ドキュメンタリー最前線2012」で『精神』と『Peace』の2本を上映したが、どちらも私たちに強烈な印象を残した。
『ザ・ビッグハウス』は、全米最大のアメリカンフットボール・スタジアムを題材に完成させた観察映画第8弾。10万人以上の収容人数を誇り、「ザ・ビッグハウス」と称されているミシガン大学のアメリカンフットボールチーム「ウルヴァリンズ」の本拠地ミシガン・スタジアムで、想田監督と13人の学生を含めた17人の映画作家がそれぞれ選手のプレイや観客の熱狂を撮影、その後編集・批評・撮影を繰り返しながらこの巨大スタジアムの全貌を描き出す。
そして、今回の上映会のクロージング作品は酒井充子監督の『台湾萬歳』(2017)。
「harappa映画館」は、過去3回酒井充子監督作品を上映した。2010年3月、記念すべき最初のドキュメンタリー特集「ドキュメンタリー最前線」で上映した『台湾人生』、2014年2月上映の『台湾アイデンティティ』、2015年2月上映の『ふたつの祖国、ひとつの愛 イ・ジュンソプとその妻』。『台湾人生』と『ふたつの祖国、ひとつの愛 イ・ジュンソプとその妻』の上映の際には酒井監督も弘前を訪れ、トークを繰り広げた。
新聞社勤務(北海道新聞)を経て2000年から映画の制作や宣伝に携わっていた酒井監督は、初監督作品の『台湾人生』(2009)で日本統治時代の台湾で青春期を送った「日本語世代」の5人の台湾人が語るそれぞれの半生を描き、続く『台湾アイデンティティ』(2013)では国民党支配の下での「白色テロ」の記憶に踏み込んだ。歴史に翻弄された人々の人生と日本に対する複雑な想いを私たちに伝える「台湾三部作」の最終章が、今回の『台湾萬歳』である。
『台湾萬歳』の舞台は台湾南東部・台東縣成功鎮。多様な民族が暮らす人口約22万5千人の台東縣、成功鎮は原住民族と漢民族系の人々がほぼ半数ずつ暮らす人口約1万5千人の町だ。もともとアミ族が暮らしていた地域に、1932年(昭和7)年漁港が作られ、それ以降日本人や漢民族系の人々が移住してきた。いまも続く「カジキの突きん棒漁」は日本人移民が持ち込んだものだ。ここに住む5人(5組)の生活を淡々と描く『台湾萬歳』は、ひとつの「人間讃歌」である。いつのまにか私たち観客は、台東縣成功鎮を中心とする小宇宙の中に吸い込まれ、登場人物たちと共に呼吸し生活しているような気持になってしまう…
※今回は、上映後に酒井充子監督のトークを準備しているが、その参考として『越境するサル』№161「酒井充子監督『台湾萬歳』、台湾三部作最終章へ」を紹介しておく。『台湾萬歳』劇場公開を伝える内容である。ぜひ読んでほしい。
【越境するサル】№.161「酒井充子監督『台湾萬歳』、台湾三部作最終章へ」(2017.9.11発行)
3月9日は、スペース デネガ へ。(今回の会場は中三ではありません。)
日程等は次の通り。
3月9日(土) 弘前市上瓦ヶ町「スペース デネガ」
「ドキュメンタリー最前線 2019―越境する映画」
10:30 『津軽のカマリ』(104分)
13:30 『ザ・ビッグハウス』(119分)
16:15 『台湾萬歳』(93分)
※上映後、酒井充子監督によるシネマトーク
3回券 2500円(前売りのみ)
1回券 前売 1000円 当日 1200円
会員・学生 500円
※1作品ごとに1枚チケットが必要です。
チケット取り扱い
弘前中三、まちなか情報センター、弘前大学生協、コトリcafe(百石町展示館内)
詳細は、次をクリックせよ。
harappa映画館「ドキュメンタリー最前線2019」
(後記)
今回は、上映会の紹介。次の号はドキュメンタリーの紹介か、紀行。スケジュール的にこなしているが、もうひとつ柱が欲しい…
(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。