2016年10-12月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
「今年出会ったドキュメンタリー 2016年10-12月期」
2016年10月から12月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はいつもの通りほとんどがDVDでの鑑賞。スクリーンで観たのは2本。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、※はテレビ・ドキュメンタリー。
10月・・・『クリーンセンター訪問記』(1976 小川紳介)
『美術館を手玉にとった男』
(2014 サム・カルマン、ジェニファー・グラウスマン)
『ノーマ、世界を変える料理』(2015 ピエール・デュシャン)
『あまくない砂糖の話』(2014 デイモン・ガモー)
『勇鯨~揺れる太地町~』(2016 テレメンタリー)※
『夢と土俵と草原と~モンゴル人力士の光と影~』
(2016
NNNドキュメント)※
『闘う写真の裏側で 報道写真家・福島菊次郎』
(2016 NEXT
未来のために)※
『平塚 多国籍のお肉屋さん』(2016 ドキュメント72時間)※
『“ゼロの阿蘇”を撮る 熊本地震から半年』
(2016 NEXT
未来のために)※
『福島 被曝に挑む科学者たち~野生動物の危機~』
(2016
テレメンタリー)※
『香港は誰のものか』(2016 ETV特集)※
『となりのシリア人~“難民”が見つめる日本~』
(2016
NNNドキュメント)※
11月・・・『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』
(2015 マイケル・ムーア)
『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(1986 小川紳介)
『京都鬼市場・千年シアター』(1987 小川紳介)
『“ベガルタ”~サッカー、震災、そして希望~』
(2016
ダグラス・ハーコム、ジェフ・トロッド)
『神の海に暮らす~まだ見えぬ原発に揺れる島~』
(2016
テレメンタリー)※
『あの夜 壁が現れた~ベルリン分断の目撃者たち~』
(2016
BS世界のドキュメンタリー)※
『1989“鉄のカーテン”消滅への序章』
(2016 BS世界のドキュメンタリー)※
『“ゲゲゲの鬼太郎”水木しげる 妖怪漫画家が見た天国と地獄』
(2016 ザ・ドキュメンタリー)※
『終わらない人 宮﨑駿』(2016 NHKスペシャル)※
『いのちいただくシゴト~元食肉解体作業員の誇りと痛み~』
(2016 NNNドキュメント)※
『DNA鑑定の闇(3)~崩れる“証拠の王”の座~』
(2016
テレメンタリー)※
『撮影監督ハリー三村のヒロシマ
~カラーフィルムに残された復興への祈り~』
(2015 ノンフィクションW)※
12月・・・『福島 生きものの記録 シリーズ4~生命~』
(2016 岩崎雅典 脱原発映画祭)
『サンマとカタール 女川つながる人々』(2016 乾弘明)
『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』
(2005
マーティン・スコセッシ)
『湾生回家』(2015 ホァン・ミンチェン
青森シネマディクト)
『路地の声 父の声~中上健次を探して~』(2016
ETV特集)※
『漱石が見つめた近代
~没後100年 姜尚中がゆく~』(2016 ETV特集)※
『レッドチルドレン 中国・革命の後継者たち(前編・後編)』
(2016 BS1スペシャル)※
『ボブ・ディラン
ノーベル賞詩人 魔法の言葉』
(2016 NHKスペシャル)※
『沖縄 ウチナーンチュ大会』(2016 ドキュメント72時間)※
『文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”
~語り始めた在米中国人~』(2016 BS1スペシャル)※
毎回、「収穫」を選んでいるが、今回も数本紹介する。まず、映画から。
『クリーンセンター訪問記』(1976 小川紳介) 。1975年、山形県上山市牧野を拠点に映画を作り続けようとしていた小川プロは、上山市役所保健課の企画による記録映画を製作する。市民に市の新しいゴミ焼却場「クリーンセンター」を紹介し、ゴミの分別収集を呼びかけることを目的として作られた、上山市の広報映画であるこの作品は、そこで働く人々の「労働」を徹底して描いている。小川紳介自身がインタビュアーをつとめ、労働者ひとりひとりの個性を描き出す。小川プロダクション全20作品DVD化プロジェクトの第四弾。9月のプロジェクト第四弾はこのほかに『牧野物語
養蚕編』(1977 小川紳介)・『牧野物語 峠』(1977 小川紳介)。10月の第五弾は『ニッポン国古屋敷村』(1982 小川紳介)。
『美術館を手玉にとった男』(2014 サム・カルマン、ジェニファー・グラウスマン)。2011年、アメリカの多くの美術館で展示されていた絵画が贋作であることが判明した。全米20州、46の美術館が騙された100点以上の贋作を制作したのはマーク・ランディス。彼は、自ら制作したさまざまな模写作品を、「慈善事業」として各美術館に寄贈し続けてきた。いくつかの偽名を使い、時には神父などのキャラクターに扮して。彼と、彼を追う人々の、芸術作品をめぐる不思議な物語。
『ノーマ、世界を変える料理』(2015 ピエール・デュシャン)。イギリスのレストラン誌が選ぶ「世界ベストレストラン50」第1位に4度輝いた、デンマーク・コペンハーゲンのレストラン「ノーマ(noma)」。その創業者である若きカリスマシェフ、レネ・レゼビと関係者に4年間密着したこのドキュメンタリーは、マケドニア移民の子として差別を受けてきた生い立ちから「ノーマ」立ち上げ当初の苦難、そして北欧の素材に対するこだわり等々、彼の全体像を見事に描き出している。2013年に起こったノロウィルスによる食中毒事件から立ち上がっていくプロセスはドラマのようだ。
『あまくない砂糖の話』(2014 デイモン・ガモー)。主演・監督の俳優ディモン・ガモーは、自分の体を使い、一日にティースプーン40杯分の砂糖を60日間にわたって摂取するという実験に乗り出す。彼が実験に使う食品は、決してジャンクフードではない、“ヘルシー”と宣伝されているものが中心だ。しかしそれらの食品には、大量の砂糖が隠されていた…オーストラリアでドキュメンタリー映画史上最高動員を記録した本作は、食をめぐるさまざまな常識をくつがえす画期的な作品となった。
『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(1986 小川紳介)。小川プロの山形県上山市牧野村での活動の集大成。製作期間13年、本編223分。延々と続く稲の開花・受精そして農作業の場面から、村の人々の昔語り、発掘された縄文の遺跡、語り継がれる村の歴史の“再現ドラマ”…壮大なスケールで紡がれた3時間43分の巨編は、小川プロダクション全20作品DVD化プロジェクト、11月の第六弾。このDVDには、『京都鬼市場・千年シアター』(1987 小川紳介 18分)も収録。これは、1987年京都に出現した『1000年刻みの日時計 牧野村物語』専用映画館「千年シアター」の記録。土、藁、葦、丸太で作られた劇場での上映の様子などが描かれている。隣の劇場で公演が行われた、麿赤児率いる大駱駝艦の練習風景は貴重な映像と言える。
『福島 生きものの記録 シリーズ4~生命~』(2016 岩崎雅典)。2013年に始まったシリーズの第4弾。ニホンジカの健康被害、オオタカの繁殖異常、ツバメの生態、斑点牛、アカネズミの継続調査…震災から5年、生きものたちに対する地道な調査・研究の記録はますます重要になっている。そして人里に現れ捕獲されるイノシシたちの哀しさ。私たちはこのシリーズを、生きている限り見続けていかなければならない。
『サンマとカタール 女川つながる人々』(2016 乾弘明)。牡鹿半島の付け根にある宮城県女川町。あの日、2011年3月11日、住民の1割近くが犠牲になり、8割以上が住まいを失った。町の中心部は津波にのまれた…この絶望から人々は立ち上がった。中東の国カタールが設置した基金で津波対応の冷凍冷蔵施設「マスカー」を建設、これを突破口に若いリーダーたちの発想と行動による復興が始まった。
『湾生回家』(2015 ホァン・ミンチェン)。戦前の台湾で生まれ育った約20万人の日本人。「湾生」と呼ばれる彼らは、敗戦によって日本本土へ強制された。戦後70年、彼ら「湾生」たちは異境の地となった「故郷」台湾を訪れ、自らのルーツを確認し、アイデンティティを修復しようとする…台湾で11週上映という異例のロングラン、16万人以上の観客を動員し、中華圏最大の映画賞「金馬奨」最優秀ドキュメンタリー作品にノミネートされた傑作。
テレビ・ドキュメンタリーからも数本。
『勇鯨~揺れる太地町~』(2016 テレメンタリー)。制作は朝日放送。イルカの捕殺場面の隠し撮りなどで話題となったドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(2009)によって、世界中から注目され批判の的となった捕鯨の町和歌山県太地町。世界各国から訪れる反捕鯨団体の抗議活動によって翻弄され、苦悩する太地町の漁民の現在を報告する。
『夢と土俵と草原と~モンゴル人力士の光と影~』(2016 NNNドキュメント)。制作は中京テレビ。現在の大相撲を支えているモンゴル出身力士。モンゴル人力士たちが最初に日本にやって来たのは1992年、その時の6人のうち5人が稽古のきつさから脱走した。ひとり踏みとどまり仲間を説得した元旭天山(最高位幕下、現在日本国籍取得。なお説得されて戻ったのが旭天鵬と旭鷲山。)の現在と、横綱白鵬の近年の苦悩を、モンゴル出身報道記者(日本滞在14年)の1年余にわたる取材で浮き彫りにする。
『神の海に暮らす~まだ見えぬ原発に揺れる島~』(2016 テレメンタリー)。制作は山口朝日放送。山口県上関町の離島、祝島。対岸に国内唯一の新規原発立地が計画されているこの島は、30年以上激しい反対運動を繰り広げてきた。古くからの島民たちと若い移住者たち、それぞれの思いが交錯するなか、原発計画が新たな動きを見せる。ちょうど4年に1度の祭り「神舞」が行われる夏のことだ。
『あの夜 壁が現れた~ベルリン分断の目撃者たち~』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。制作はSky Vision(2014 イギリス)。1961年8月13日、西ドイツへの亡命による人口流出を食い止めようとする東ドイツは、ベルリンを有刺鉄線で二分するという計画を立てる。東西ベルリン市民、「壁」の建設にあたった警官、第一報を西側に伝えた特派員、彼らの証言で「ベルリンの壁」が誕生する瞬間を再現する。
『1989“鉄のカーテン”消滅への序章』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。制作はMAGIC HOUR FILMS / GEBRUEDER BEETZ FILMPRODUKTION /PROTON CINEMA /
SUBSTANS FILM /RADIATOR FILM(2014 デンマーク / ドイツ / ハンガリー / ノルウェー)。「ベルリンの壁」崩壊のきっかけとなった、ハンガリーによるオーストリアとの国境開放。社会主義に行き詰まりを感じたハンガリー共産政権最後の首相ネーメト・ミクローシュの行動、民主化を支持したソ連のゴルバチョフ、他の東欧諸国首脳の圧力…「鉄のカーテン」消滅までの舞台裏を追う。
『路地の声 父の声~中上健次を探して~』(2016 ETV特集)。今年生誕70年を迎えた作家・中上健次。36年前、故郷、新宮市の路地(被差別部落)に住む老婆たちへ聞き取りをしたテープが、長女で作家の中上紀さんによって発見された。中上紀さんはこの夏、父が出会った老婆たちの遺族を新宮に訪ねた。それは父の軌跡を訪ねる旅となった。
『文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”~語り始めた在米中国人~』(2016 BS1スペシャル)。文化大革命がスタートしてから50年、しかしその全体像はいまだに把握されていない。特に中国において事実の発掘は進んでいないのが現状だが、アメリカ在住の中国人たちがその歴史を語り始めた。被害が大きくなったのは「紅衛兵」以降、「造反派」と「革命委員会」の出現後だとする指摘は説得力があった…なお、同じくBS1スペシャル『レッドチルドレン
中国・革命の後継者たち』は、中国革命に身を投じた外国人の子どもたちの物語だが、やはり文化大革命についての貴重な証言となっている。
<後記>
テレビ・ドキュメンタリーについては、かなり充実した記録に近づきつつある。もっと放送情報に目を通し、さらに充実した内容を目指したい。それに比べ、ドキュメンタリー映画の方は物足りない。もっとチャンスを求めて、映画館に足を運ばなければ、と思う。
次号は、2016年から2017年にかけての「『越境するサル』的生活」をまとめて報告できればと考えている。それはそのまま、退職後の日々の報告となる…
(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。