2013年12月29日日曜日

【越境するサル】No.122「2013年、その後の『サル』」(2013.12.28発行)

2013年は、№112「キアロスタミ×イオセリアーニ×カウリスマキ~上映会への誘い~」から№121「今年出会ったドキュメンタリー映画 2013下半期」まで10 本、ほぼ例年並みの発信となった。その他に特別号が3本、仕事では新しい部署で苦労したが、何とか発信を続けることができた…今年も「その後の『サル』」と題して、2013年に扱ったテーマのその後の展開を記す。

「2013年、その後の『サル』」

№112「キアロスタミ×イオセリアーニ×カウリスマキ~上映会への誘い~」
№114「木村文洋×横浜聡子×澤田サンダー~上映会への誘い~」
№116「『フタバから遠く離れて』~上映会への誘い~」
2013年の「harappa映画館」はこの3回だけだったが、11月、弘前市の「弘前りんご博覧会」の一企画である「弘前りんご映画祭2013」にスタッフとして参加した。3日間で9本の作品を上映、クロージングはキアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』(1987年、日本公開は1993年)だった。詳細は映画祭のホームページ(※注1)を見てほしいが、ゲストの塩田明彦監督(今回の上映作品は『どこまでもいこう』1999年)との出会いをはじめ収穫が多かった。

7月19日放送された(再放送は7月22日)「NHK ドキュメント72時間『最後の避難所から』」は、『フタバから遠く離れて』の舞台、埼玉県加須市の旧騎西高校避難所を取材した番組である。 「72時間で何が撮れるというのか。ここにいる双葉町の人々は2年4ヶ月以上避難生活を送っている。その圧倒的な時間の重みに対して、撮影者はどのように向き合えばいいのかを考えていない。」という批判もあるが、『フタバから遠く離れて』を観た者にとっては、「その後」の記録として貴重な映像のように思えた。『フタバから遠く離れて』に対する様々な評価とともに、今後議論がなされるだろう。NHKは、12月27日放送の「NHKスペシャル シリーズ東日本大震災『最後の避難所~原発事故の町 住民たちの歳月~』」で、6月の役場機能福島県内移転から旧騎西高校避難所閉鎖までの日々をルポしているが、今後も双葉町の人々の「その後」を追跡してほしい。

なお、2014年の「harappa映画館」だが、現在の予定は次のとおり(※注2)。2月22日(土)、「ドキュメンタリー最前線2014」、『立候補』(藤岡利充/2013)・『台湾アイデンティティー』(酒井充子/2013)・『ディア・ピョンヤン』(ヤン・ヨンヒ/2005)。3月15日(土)、「ヤン・ヨンヒ特集」、『愛しきソナ』(ヤン・ヨンヒ/2009)・『かぞくのくに』(ヤン・ヨンヒ/2012)。

№113「高村薫『冷血』~合田雄一郎の果てしなき彷徨~」
『越境するサル』の反響について、今まで書いたことはほとんどない。しかし、この号については少し報告しておくべきだろう。というのは、NPO法人harappaのサイトのブログコーナーに『越境するサル』を毎号アップしてもらっているのだが、この号だけアクセス数が極端に多いのだ。8ヶ月で3000を超えるアクセス、他の号の数倍である。
   この号は、高村薫『冷血』の内容について他のブログなどに比べてかなり詳しく紹介したつもりだった(カポーティの『冷血』についてもふれている)が、それにしても他の号と桁が違いすぎる。もしかしたら、関連する「高村薫の風景」と(№38)「高村薫から高橋伴明・立松和平へ、道元に至る道」(№81)を<付録>としたことによって、いろいろな単語から検索されたのかもしれない。このあたりのアクセス事情について詳しい方がいれば、ぜひ教えてほしい。
 
№115「若松孝二の現在~中上健次『千年の愉楽』へ~」
映画『千年の愉楽』公開を機に、中上の原作を読み直した。以前読んだ際にもその完成度の高さを感じてはいたが、今回再読してみて一層強く感じた。「オリュウノオバ」という軸を設定することにより、中上の「路地」の世界が無限の、あるいは永遠の拡がりを持ち、読者に心地よい神話的世界を提供する。そしてその世界は、どこを切り取っても私たち読者にとって魅力的だ…

その後、「路地」が解体された後の物語である『日輪の翼』(1984年)を読んだ。ケルアックの伝説的小説『路上/オン・ザ・ロード』(1957年)を思い起こさせるロードムービースタイルのこの小説の中で、「路地」を失ったオバたちは改造冷凍トレイラー車に乗って熊野から伊勢、一宮、諏訪、瀬田…と移動を続ける。移動する「路地」。もしかしたら中上の最高傑作かもしれないこの作品との出会いは、大きな収穫だった。
   若松監督の映画については、ピンク映画時代の伝説的作品が少しずつ手元に集まりつつある。いつか系統的に鑑賞しなければと考えているが、もっと気軽に1本ずつ楽しみたいという気持もある。
   
№117「珈琲放浪記~札幌、「再会」と「出会い」と~」
№119「珈琲放浪記~長崎人のオアシス『珈琲人町』~」
その後の「珈琲放浪記」、京都にて。9月、出張で京都を訪れた。会合までのわずかな空白の時間、地下鉄で錦小路を目指した。目的はふたつ、「鳥豊」の鴨スモークを買い求めることと、「びーんず亭」の店頭で珈琲を飲むこと。滞在時間は20分ほど、鴨スモーク2本(これは最高の酒の肴となった)を購入し、「びーんず亭」の「東ティモール」を味わった。「東ティモール」の、すっきりした苦さ。外で飲む珈琲はこうでなきゃ…

さて、2014年の「珈琲放浪記」、青森県の喫茶店も何軒か紹介しようと考えている。弘前市の「二三味(にざみ)珈琲」(石川県)が飲める店、弘前市の本格的エスプレッソが飲める店、青森市の自家焙煎の店…乞うご期待。

№118「今年出会ったドキュメンタリー 2013上半期」
№121「今年出会ったドキュメンタリー 2013下半期」
つい先日「2013下半期」を発信したばかりだが、2014年早々から鑑賞予定の作品が目白押し。現在準備しているのは、『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』(2012 クリス・ケニーリー)、『ヒロシマ ナガサキ ダウンロード』(2010 竹田信平)、『夜明けの国』(1967 時枝俊江)、『ベトナムから遠く離れて』(1967 クリス・マルケル製作)…当分は家での鑑賞となる。2月以降は、「harappa映画館」を含めて自主上映での鑑賞機会があるはずだ。

テレビ・ドキュメンタリーも、大量に録画しているものの中からいくつかピックアップして観なければと思っている。「BS世界のドキュメンタリー」・「ETV特集」・「NNNドキュメント」・「ザ・ノンフィクション」・「テレメンタリー」・「ノンフィクションW」、これらの枠で放送された作品を、まめに紹介し批評することができればと思う。

特別号「1979年へ ~同時代史叙述の試み~ (上)(中)(下)」
2007年から2010年まで3年間で8本発信したシリーズ「1979年へ」を、研究会での発表のため体裁を整え冊子の形にし、さらに特別号(上・中・下)として再発信したものがこれである。いま読み返してみると、ずいぶん熱く、入れ込んでいたシリーズだったと、改めて感じる。費やしたエネルギー(労力や時間)も結構なものだったし、緊張感もみなぎっている。最近の「珈琲放浪記」などとは大きな違いだ…

シリーズの続きを、というわけにはいかないが、ひとつひとつのテーマの続編は書かなければならないだろう。というより、もうそれは始まっているのだ。

№120「『越境するサル』的生活 2013~<ブラザー軒>と<ドキュメンタリー映画祭>と~」
日常生活の中で<非日常>ともいうべき思考にふけったり、あるいはそのような体験をする機会にめぐりあったりする、というよりあえて<非日常>を創り出そうとするすごし方を「『越境するサル』的生活」と呼んできた。だからそれは、どこにいても可能なはずなのだが、旅をすることによって一気に<非日常>の世界に越境することができるのもまた確かだ。

今回、菅原克己の詩の世界にしばらく浸った後、仙台で「ブラザー軒」の舞台そのものの場所へ時空を超えてたどり着いた。そして、2年に1度<非日常>の空間となる街<ヤマガタ>。何日間も朝から晩までドキュメンタリーを観る人々が集う<ヤマガタ>、それは普段の山形市とは明らかに違う<非日常>の場所だ…

「珈琲放浪記」でも「旅のスケッチ」でもない、<日常>と<非日常>の境目のような「1日」についての記述。2014年はどんな「1日」を記述することになるだろうか。

 (※注1)
「弘前りんご映画祭2013」は次をクリックせよ。
http://harappa-h.org/contents/20131108rff13.php

(※注2)
「ドキュメンタリー最前線2014」は次をクリックせよ。
http://harappa-h.org/contents/20140222harappamovie.php

「ヤン・ヨンヒ特集」は次をクリックせよ。
http://harappa-h.org/contents/20140315harappamovie.php


<後記>
「まだまだ『越境するサル』は続く」と、去年の今頃記した。気力は衰えていない。ただ、時間がもう少しほしい。近頃、人生の残り時間を考えることがある。あと何本映画を観て、あと何冊本を読めるか。あと何本『越境するサル』を発信できるか…とりあえず、来年の予定を書いてみる。次号は2月・3月の「harappa映画館」の「上映会への誘い」になりそう。「ドキュメンタリー最前線2014」と「ヤン・ヨンヒ特集」。その次は、映画『ハンナ・アーレント』について。さらにその次は、<大江と村上>。4月までに、これらすべてを発信することができたら、と思う。

(harappaメンバーズ=成田清文)
※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。

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