2020年1月27日月曜日

【越境するサル】№.196「ドキュメンタリー時評 2020年1月 ~地方で作品に出会うということ~」(2020.1.22発行)


2009年から、「今年出会ったドキュメンタリー」と題して自分が出会ったドキュメンタリー映画やテレビドキュメンタリーについて報告・紹介を続けてきた(当初は映画のみ年1回、途中からテレビドキュメンタリーも加え年2回そして4回に変更)。それは「時代を記録する」という義務感に基づく地味な作業だったが、私にとって有意義なものだった。しかし一方で、ひとつひとつの作品についてもっと深く語りたいという欲求がつねに心の中にあったのも事実だ。
今回、20201月から、「今年出会ったドキュメンタリー」をリニューアルして「ドキュメンタリー時評」とし、ひとつひとつの作品についてのより詳しい記述を心がけたいと思う。月1回の発信を目標とするが、それが無理な場合は隔月での発信を目指す。
 第1回は、201912月に出会った作品を概観しつつ、「地方で作品に出会うということ」について考える。


「ドキュメンタリー時評 20201
~地方で作品に出会うということ~」

 地方でドキュメンタリー映画に出会うこと、私に引き寄せて言えば青森県弘前とその周辺の映画館で話題の作品と出会うことは、かなり困難だと言わざるを得ない。事情は劇映画でもそれほど変わらないが、ドキュメンタリー映画の場合はその何倍も難しい。映画館で上映されること自体が、あまり期待できないのだ。
 それでも、昨2019年、22本のドキュメンタリー映画をスクリーンで観ることができた(もっとも、そのうちの13本は映画祭や自主上映会で上映されたものであり、普通の映画館で鑑賞できたのは9本にすぎない)。その中で、12月に出会った2本の作品について語りたいと思う。

 2019121日、青森県八戸市。早朝弘前を発ち、新幹線と路線バスを乗り継いで午前10時前「フォーラム八戸」に到着した。午前10時過ぎから続けて上映される『i-新聞記者ドキュメント-』と『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』を鑑賞するためだ。
 
 『i-新聞記者ドキュメント-』2019は、オウム真理教を題材にした『A』(1998)とその続編『A2』(2001)やゴーストライター騒動渦中の佐村河内氏を題材にした『FAKE』(2016)等挑戦的な作品を作り続けてきた森達也監督の新作である。


 主人公は、東京新聞社会部記者・望月衣塑子。官邸記者会見での菅義偉官房長官とのバトルから、辺野古新基地建設問題、伊藤詩織さん準強姦事件、森友学園問題、加計学園問題…まさに取材現場には必ずいると言っていい彼女のエネルギッシュな行動を、森達也監督は撮影し続ける(撮影期間は201812月から20197月)。
 めまぐるしく移動する彼女、新聞社内の彼女、文部科学省元事務次官前川喜平氏との対話、森友学園籠池負債との対話。圧巻は、やはり官邸記者会見での菅官房長官との息もつかせぬ攻防だ。いつ果てるともない孤独な闘いに挑み続ける彼女の姿に、私たちは爽快感さえ覚える。そうだ。こういう闘いを誰かが続けなければならないのだ…
 現代の日本に巣食っている腐敗の根源を照射するもうひとつのアプローチ、松坂桃李とシム・ウンギョンがダブル主演をつとめた『新聞記者』(2019  藤井直人監督)。望月衣塑子の同名ベストセラーを原案とするこの社会派の劇映画と「セット」で観るべき作品といえる。

予告編『i-新聞記者ドキュメント-』




 『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』2019 以下『カメジロー 不屈の生涯』)は、かつて筑紫哲也とともにニュース番組「NEWS23」を支えたTBSテレビの佐古忠彦監督が2017年に制作した『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(以下『その名は、カメジロー』)の続編である。


 前作『その名は、カメジロー』は、戦後沖縄で占領軍(米軍)の苛酷な支配に抵抗し弾圧を受けながら、立法院議員、那覇市長、そして衆議院議員として活躍した瀬長亀次郎の姿を描いたドキュメンタリー映画(2016年にTBSテレビで放送された番組を映画化したもの)で、国内外で高い評価を受けた。沖縄公開時には、映画館(那覇「桜坂劇場」)に数百メートルの行列ができたという。
 今回の『カメジロー 不屈の生涯』は、前作公開後、カメジローが残した230冊を超える日記を丹念に読み込んだ佐古監督が、その生涯を改めて描いた作品。妻や娘らと過ごす家族の日常、投獄後の日々、政治家としての危機、米軍の弾圧の実態などの詳細を掘り起こしている。『その名は、カメジロー』に続く、カメジローと佐藤栄作首相の圧巻の国会論戦など貴重な映像も随所に織り込まれ、現在の「オール沖縄」につながる歴史を私たちは追体験する。
 音楽は前作と同じく坂本龍一、語りは役所広司と山根基世。多くの人々の力が結集して完成した後世に残すべき記録、抵抗の原点であるカメジローの闘いをしっかりと記憶しよう。

予告編『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』


 12月はこのほかに、青森市の「シネマディクト」で『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』と『ゴッホとへレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』を鑑賞した。




「シネマディクト」ではこの1月から2月、『人生、ただいま修行中』(1/1124)・『エッシャー 視覚の魔術』(2/814)・『台湾、街かどの人形劇』(2/1521)など興味深いドキュメンタリーの上映が続く。「地方で作品に出会う」ためには、この機会を逃すわけにはいかない。



<後記>

  次号は2月、「ドキュメンタリー時評」を続けて発信する予定だ。215日開催の「harappa映画館 ドキュメンタリー最前線2020」の報告という形をとりながら、「地方で作品を上映するということ」について考える(次はそのホームページのアドレス)。






(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。