「ドキュメンタリー時評 2020年4月 ~三島由紀夫と鈴木邦男~」
2020年3月20日、『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』(2020 豊島圭介監督、
以下『50年目の真実』)が全国公開された。私も、封切から数日後「フォーラム盛岡」に駆けつけ、この話題作と出会うことができた。
「フォーラム盛岡」は、かつて若松孝二監督の『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012)を鑑賞した劇場である。また、同じく若松監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)もここで観た(その時は監督のサイン会にも並んだ)。何か縁のようなものを感じるが、ただ単に盛岡まで来なければ観たい作品に出会えなかったということだ。
『50年目の真実』は、1969年5月13日、東大駒場キャンパス900番教室で行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘1000人の「伝説の討論会」の全貌を記録したドキュメンタリー映画である。「天皇主義者」と「革命派」、明らかに敵対するはずの両者によるこの討論会の内容が記録された書籍を私たちは2冊ほど知っているが、TBSが保管していた映像
記録を基に作られた今回の作品は、これまで活字から私たちが抱いていた印象の変更を迫るものだったと言っても過言ではない。
その日、会場に現れた三島の決意表明から討論会は始まる。司会は、この年の1月安田講堂で敗北した東大全共闘が設立した「東大焚祭委員会」の木村修。彼が三島を思わず「三島先生」と呼んでしまい、三島が全共闘と自分の接点を語るなど、「対決」とはいえお互いに対する最低限の敬意は保たれたままだ。その後、東大全共闘随一の論客・芥正彦、さらに小阪修平が登場し、「他者」・「解放区と時間」・「天皇」について議論は続いていくが、不思議なことに三島に「アウェー感」はない。後輩たちとの討論を楽しんでいるかのようだ。「千両役者」三島の余裕は、全共闘学生たちに「天皇と諸君が一言でも言ってくれれば、私は喜んで諸君と手をつなぐ」と呼びかける終盤まで変わらない(その余裕が演技だとしても、それはそれで大したものだ)。
初めてその全貌が明らかにされた映像の合間に、木村修・芥正彦・橋爪大三郎ら元東大全共闘、その場で三島を護衛していた元「楯の会」のメンバーたち、取材していた新潮社とTBSの社員、平野啓一郎・内田樹・小熊英二らの文化人、親交があった瀬戸内寂聴・椎根和らの語りと証言が入るが、これも貴重なものだ。ナレーション(ナビゲーター)は東出昌大、大役を無難に務めた。豊島圭介監督は三島自決の翌年(1971年)の生まれだが、初めてのドキュメンタリーは大きなチャレンジとなった。
この討論会の1年半後(1970年11月25日)、三島は楯の会隊員とともに自衛隊市ヶ谷駐屯地で決起するも自決。「味方」であるはずの自衛隊員は三島のバルコニーからの演説に野次と怒号で応えた(当然のことだ)。一方で、「敵」である東大全共闘との対決に漂う「親和性」は何だ。まるで、三島の「天皇主義」がフィクションであることを皆が了解しているようではないか…
▼『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』予告編
三島(および行動をともにした森田必勝)の自決に衝撃を受け、政治団体・一水会を立ち上げた「新右翼」活動家が鈴木邦男である。『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』(2019 中村真夕監督、以下『愛国者に気をつけろ』)は、その交流関係の広さと従来の右翼思想とは異なる立ち位置から「謎の右翼活動家」とも呼ばれる鈴木の真の姿に迫るドキュメンタリー映画である。
本作は2020年2月1日より全国公開(「ポレポレ東中野」他)されているが、地方の劇場で観る機会がすぐにあるとは思えなかったので、3月末、思い切ってDVDを購入した。もちろん、三島の『50年目の真実』の流れで鑑賞したかったからだ。
76歳の鈴木邦男は、生長の家信者の家庭に育ち、17歳で自分と同年代の山口二也が社会党浅沼委員長を刺殺する映像に衝撃を受け右翼活動へ進む。早稲田大学では、のちの日本会議につながる全国学協の代表となり左翼と対峙するが失脚。その後一水会を拠点に民族派右翼としての数々の活動を行なう(私たちの世代には「格闘技評論家」としても認知されている)。
現在の彼は、自らが訴えてきた「愛国心」さえも疑い、さまざまな異なる意見の人々と交流を続け、多くの心酔者に囲まれている。その2年間に密着したカメラは、鈴木の日常生活や語りとともに、彼と交流を続ける人々(右翼活動出身の作家・雨宮処凛、一水会代表・木村三浩、北朝鮮拉致被害者家族連絡会・蓮池透、映画監督・足立正生、元オウム真理教・上祐史浩ら)へのインタビュー映像を映し出す。そこから浮かび上がる鈴木邦男の素顔は、自らの思想の変容を隠すことなく、つねにひとりの人間として他者と向き合い現在を真摯に生きようとする、穏やかな老人というものだ…
監督は『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』(2015)の中村真夕。彼女の「若松孝二監督が突然、亡くなった時、誰も監督についてのドキュメンタリー映画を作っていなかったことをとても残念に思いました。60年代、70年代という激動の時代を知っている人たちもすでに70代、80代になっています。今、この時代を生きた人たちを記録しなければ、この時代は忘れられてしまうという強い焦燥を感じ、この作品の制作にとりかかりました。」というコメントに説得力を感じる。
▼『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』予告編
三島由紀夫と鈴木邦男、このふたりの視点を交えた日本の戦後史を、私たちは映像を通して追体験する。それは、型通りのもの(「右」と「左」の単純な色分け)とは違う歴史だ。まず、このふたりの思想を深く探ることから始めよう。
4月の青森・岩手のドキュメンタリー映画上映情報を列挙する。
<青森シネマディクト>
・『娘は戦場で生まれた』(2019 ワアド・アル=カデブ監督)4/11~24、
・『ビッグ・リトル・ファーム』(2018 ジョン・チェスター監督)4/25~5/8
<フォーラム八戸>
・『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』(2020 豊島圭介監督)4/3~16、
・『ビッグ・リトル・ファーム』4/10~23
・『21世紀の資本』(2019 ジャスティン・ペンバートン監督)4/10~16、
・『娘は戦場で生まれた』4/10~16
<シネマヴィレッジ8・イオン柏>
・『i-新聞記者ドキュメント-』(2019 森達也監督)~4月上旬
<フォーラム盛岡>
・『さよならテレビ』(2019 圡方宏史監督)4/10~16、
・『ビッグ・リトル・ファーム』4/10~23
・『プリズン・サークル』(2019 坂上香監督)4/17~23
▼『娘は戦場で生まれた』予告編
▼『ビッグ・リトル・ファーム』予告編
▼『21世紀の資本』予告編
<後記>
3回続けて「ドキュメンタリー時評」となったが、当分このシリーズがメインとなる。毎月は無理としても、年8~10回くらい発信したいと考えている。問題は、そのほかのテーマで何本か発信できるかだ。実は、いくつか考えているものがあるのだが…次号は未定。
(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。