2016年4-6月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
今回も多くのテレビ・ドキュメンタリーと出会った。
ドキュメンタリー映画については、もっと映画館に行けたはずだ…
「今年出会ったドキュメンタリー 2016年4-6月期」
2016年4月から6月までに観たドキュメンタリーを列挙する。
「青森シネマディクト」と「脱原発映画祭」を除けば、映画はDVDでの鑑賞。
( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、※はテレビ・ドキュメンタリー。
4月・・・『BARCA
DREAMS~FCバルセロナの真実』(2015)
『マニー・パッキャオ』(2014 ライアン・ムーア)
『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』
(2014 ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド)
『ヤクザと憲法』(2015 圡方宏史 青森シネマディクト)
『ディス・イズ・オーソン・ウェルズ』
(2015 クララ・クペルベルグ、ジュリア・クペルベルグ)
『ロケット職人~打ち上がれ 俺たちのプライド~』
(2016 NNNドキュメント)※
『東京 子育て 働く母~子育て小国 女たちの選択~』
(2015 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)※
『“3.11”を忘れない63 1827日
~定点撮影・1135カットが綴る被災地の記録~』
(2016 テレメンタリー)※
『エヴァの長い旅~娘に遺すホロコーストの記憶~』(2016ETV特集)※
『史上最大のジャイアントキリング~岡崎レスター 奇跡の初優勝へ』
(2016 BS1スペシャル)※
5月・・・『バットキッド ビギンズ』(2015 ダナ・ナックマン)
『ソークト・イン・ブリーチ ~カート・コバーン
死の疑惑~』
(2015 ベンジャミン・スタットラー)
『福島 生きものの記録 シリーズ3 拡散』
(2015 岩崎雅典 脱原発映画祭)
『金日成のパレード 東欧の見た“赤い王朝”』
(1989 アンジェイ・フィデック)
『北朝鮮・素顔の人々』(2014 稲川和男、朴炳陽)
『生きる伝える"水俣の子"の60年』(2016 NNNドキュメント)※
『北のどんぶり飯物語』(2016 ドキュメント72時間)※
『アフガン秘宝の半世紀』(2016 BS1)※
『水俣病の60年~終わらない 戦後最大の公害病~』
(2016 NHKアーカイブス)※
『DNA鑑定の闇~捜査機関“独占”の危険性~』
(2015 テレメンタリー)※
『高倉健 千里を走る~張芸謀との心の旅~』
(2005 ハイビジョン特集 2015 プレミアムカフェ)※
『関口知宏のヨーロッパ鉄道の旅 チェコ編』(2016 BSプレミアム)※
『女ひとり 70歳の茶事行脚』(2016 ETV特集)※
『広場は眠らない~仏・格差をめぐる若者たちの議論~』
(2016 ドキュメンタリーWAVE)※
『傘兵はどこへゆくのか~民主主義を求める香港の若者たち~』
(2016 ドキュメンタリーWAVE)※『』()※『』()※
6月・・・『圧殺の森
高崎経済大学闘争の記録』(1967 小川紳介)
『現認報告書 羽田闘争の記録』(1967 小川紳介)
『青年の海 四人の通信教育生たち』(1966 小川紳介)
『カンパイ! 世界が注目する日本酒』(2015 小西未来)
『スクープドキュメント 北朝鮮“機密ファイル”
知られざる国家の内幕』(2016 NHKスペシャル)※
『町を継ぐ』(2015
FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)※
『ヒトラー『わが闘争』~封印を解かれた禁断の書~』
(2016 BS世界のドキュメンタリー)※
『曜変~陶工・魔性の輝きに挑む~』(2016 ETV特集)※
『井浦新 円空への旅』(2016 日曜美術館)※
『満州侵攻 71年目の真実~草原に眠るソ連秘密基地の謎~』
(2016 テレメンタリー)※
『飯舘村 5年~人間と放射能の記録~』(2016 ETV特集)※
『汚名~放射線を浴びたX年後~』(2016 NNNドキュメント)※
毎回、「収穫」を選んでいるが、2016年4-6月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。
『マニー・パッキャオ』(2014 ライアン・ムーア)。4月10日「引退試合」を行ったプロボクサー、6階級制覇を成し遂げたフィリピンの国民的英雄マニー・パッキャオの少年時代から現在までを、貴重な映像と関係者の証言で綴る秀作。貧困から文字通りハングリー精神で世界の頂点に上り詰めたパッキャオの強さと弱さ、そして彼を取り巻く周囲の人間たちの群像、そして家族、信仰、政治的立場…ボクシングファンでなくても引き込まれる、一人の男の人生。
『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』(2014 ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド)。原題『The Salt of the Earth』。ブラジル生まれの世界的な報道写真家であり、環境活動家としても知られるセバスチャン・サルガド。軍事独裁に反対する闘争による迫害を逃れ妻レリアとともにパリに渡り、29歳で職を辞しフリーランスの写真家となった彼の報道写真家としての人生を、本人の証言と撮影現場の取材、圧倒的な数の作品紹介で描く。アフリカの飢餓を撮った「SAHEL(サヘル)」や、近代化で消えていく肉体労働者を取材した「人間の大地 労働(英題:Workers)」などを経て、夫婦がたどり着いたブラジルの森林の再生という夢…私たちは絶望と希望の両方を彼らの人生と作品から受け取る。監督は『パリ、テキサス』(1984)・『ベルリン・天使の詩』(1987)などの劇映画、そしてドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)・『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)の巨匠ヴィム・ヴェンダースとサルガドの長男であるジュリアーノ・リベイロ・サルガド。アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート。
『ヤクザと憲法』(2015 圡方宏史 青森シネマディクト)。東海テレビ制作のドキュメンタリー劇場第8弾。暴力団対策法から20年、ヤクザは今どんな暮らしをしているのか?大阪の指定暴力団「二代目東組」傘下「二代目清勇会」に東海テレビのカメラが入る。暴対法のきっかけとなった殺人事件で15年の実刑判決を受けた会長と組員たちの生活、そして「ヤクザとその家族に人権侵害が起きている」と語る会長、山口組の顧問弁護士となったためバッシングを受ける弁護士…決してテレビでは見ることができない映像は、私たちに「法の下の平等」とは何かについて考えることを強いる。
『バットキッド ビギンズ』(2015 ダナ・ナックマン)。白血病と闘う5歳の少年マイルズの夢はバットマンになること。彼の夢を叶えるために、サンフランシスコを舞台とする一大イベントが企画される。バットマンとバットキッドが手に手を取って「悪者」を退治するというこの企画はソーシャルメディアを通じて大きな反響を呼び、2013年11月15日、サンフランシスコは1万人以上のボランティアが集結する「ゴッサム・シティ」へと変貌する。市当局、警察、そして大統領まで巻き込んだ奇跡のイベントの舞台裏の記録。
『福島 生きものの記録 シリーズ3 拡散』(2015 岩崎雅典 脱原発弘前映画祭)。2012年から記録が開始された『福島 生きものの記録』、「 シリーズ3 拡散」は原発の周辺町村だけではなく他県の生きものへの放射線の影響を調査・確認する。このシリーズが今後も継続されていくこと、そして「脱原発弘前映画祭」で毎年上映されていくことを願う。
『金日成のパレード 東欧の見た“赤い王朝”』(1989 アンジェイ・フィデック)。同じ社会主義国であったポーランドのスタッフによって撮影された、金日成と金正日の独裁体制下におけるパレードやマスゲームなど彼らを賛美するイベントの記録。2014年11月、シネマヴェーラ渋谷で2週間限定ロードショーで公開されたが、そのとき同時上映されたのが北朝鮮への潜入映像を編集した『北朝鮮・素顔の人々』(2014 稲川和男、朴炳陽)。
『圧殺の森 高崎経済大学闘争の記録』(1967 小川紳介)。小川プロダクション全20作品を順次DVD化するという「DIGレーベル」のプロジェクトの第一弾。大学側の不正入学問題に端を発した高崎経済大学闘争を記録した本作は、全共闘運動の予兆とその後の三里塚闘争の描き方の原点を感じさせる、小川紳介にとっての記念碑的作品となった。大学側と対立し学生ホールを占拠し続ける学生たちひとりひとりと寄り添うカメラワーク(撮影は大津幸四郎だ)は、その後のドキュメンタリー作家たちに大きな影響を与えた…6月のプロジェクト第一弾はこのほかに、『現認報告書 羽田闘争の記録』(1967 小川紳介)と『青年の海
四人の通信教育生たち』(1966 小川紳介監督第一作)。
『カンパイ! 世界が注目する日本酒』(2015 小西未来)。日本酒に魅せられた3人の男たち、外国人として初めて杜氏となったイギリス人フィリップ・ハーパー、日本酒伝道師として日本酒の魅力を世界へ発信するアメリカ人ジョン・ゴントナー、岩手の老舗酒蔵「南部美人」の五代目蔵元・久慈浩介。彼らの挑戦と葛藤を描いたこの映像により、日本酒の魅力と可能性を私たちは知る。
テレビ・ドキュメンタリーからも数本。
『東京 子育て 働く母~子育て小国 女たちの選択~』(2015 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)。制作はフジテレビ。婚姻率全国1位で出生率全国最低(「1.13」1993)の東京は、「結婚はしても子供は産まない街」。6人の定員に応募180人という保育園、出産をきっかけに退職を迫る上司、保育園に入れるために"離婚"を選択する夫婦…東京で子供を産み、育て、働くという現実の過酷さを取材する。
『エヴァの長い旅~娘に遺すホロコーストの記憶~』(2016 ETV特集)。現在86歳のエヴァ・シュロス。アンネ・フランクと同じ場所に避難していた彼女は、家族とともに10代でアウシュビッツ強制収容所へと送られ、父と兄を失うという壮絶な体験をした。そのトラウマに苦しめられた彼女は、家族にも長い間その過去を語ることはなかった。しかし、やがて自身の体験について語り始めた彼女は、娘とふたりでアウシュビッツを訪ねる旅に出かける…
『生きる 伝える "水俣の子"の60年』(2016 NNNドキュメント)。制作は熊本県民テレビ。水俣病公式確認から60年、還暦前後を迎えた"水俣の子"たちの今を伝える…水俣病第一号患者の田中実子さん(62歳)、胎児性患者の鬼塚勇治さん(59歳)、水俣病認定を求めて裁判を闘う倉本ユキ海さん(61歳)、この3人の人生と現在を軸に60年目の水俣を真摯に取り上げた作品。水俣病の原因究明と治療に尽力した故原田正純医師のインタビュー映像、鬼塚さん等が関わったイベントを記録した映画『わが街わが青春~石川さゆり水俣熱唱~』(1978 青林舎 土本典昭)の鬼塚さん登場シーン、 胎児性患者たちの「還暦を祝う集い」…同じように「還暦」を迎えた私にとって、彼らの60年間はまさしく同時代史であった。やはり5月に放送されたNHKアーカイブス『水俣病の60年~終わらない 戦後最大の公害病~』に収録された25年前制作の『九州スペシャル
写真の中の水俣 胎児性患者・6000枚の軌跡』(1991)と合わせて、「水俣病60年」への貴重な検証の記録となった。
『アフガン秘宝の半世紀』(2016 BS1)。前編「バーミヤン」は、大仏爆破から15年のアフガンにおける研究者たちの活動、そして世界に流出した文化財をアフガンに返還しようとする日本の取り組みを紹介する。後編「メスアイナク」は、近年銅鉱山から発見されたメスアイナク遺跡をめぐる、開発か保存かの議論を含む現状を報告する。たくさんの貴重な映像の中に、土本典昭監督のドキュメンタリー映画『在りし日のカーブル博物館1988年』(2003)もあった。感慨深く、かつ未来志向の番組であった。
『DNA鑑定の闇~捜査機関“独占”の危険性~』(2015 テレメンタリー)。2015年6月初回放送。「2015年度最優秀賞受賞」作品ということで再放送された。テレビ朝日制作。2012年10月に起きた少女強姦事件ではDNA鑑定が一審有罪の決め手となったが、警察が「鑑定不能」としていたものを再鑑定したところ、簡単にできた上に、しかも別人のDNA型が出てきた。なぜ、このようなことが起きるのか。捜査機関“DNA鑑定独占”の危険性を訴える…なお、2016年2月放送の「DNA鑑定の闇(2)~“神話崩壊”か…警察に“証拠捏造疑惑”~」は警察のDNA鑑定の“闇”に迫る追跡第2弾である。
『ヒトラー『わが闘争』~封印を解かれた禁断の書~』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。BS世界のドキュメンタリー6月の目玉「シリーズ ヒトラーの残像」の1本。制作はBROADVIEW
TV / ZDF(ドイツ 2016)。ヒトラーが獄中で執筆を開始したナチスのバイブル『わが闘争』は、ヒトラーの死後70年が経過する2015年末に著作権フリーとなった。極右グループなどに利用されないよう、それまで著作権を管理してきたバイエルン州政府は、批判的な解説付きでの出版を決定しその作業を進めていたが…『わが闘争』出版をめぐる、内外の動きを追う。シリーズ他の3本は、『ヒトラー暗殺計画』制作:Sunset Presse(フランス 2015)・『ヒトラー 最後の日々』制作:Finestripe Productions(イギリス 2015)・『ノルマンディー上陸作戦のすべて』制作:Windfall Films / PBS(イギリス/アメリカ 2014)。
『満州侵攻 71年目の真実~草原に眠るソ連秘密基地の謎~』(2016 テレメンタリー)。歴史研究家岡崎久弥氏の現地調査により、初めてその全貌が明らかになったモンゴル草原のソ連巨大基地。1945年の対日参戦、150万の大軍による満州侵攻を可能にしたスターリンの戦略を、ロシア各地に生存する従軍した元兵士たちの証言によって明らかにする。なおこの過程で、1945年8月奉天でソ連軍に拘束された満州国皇帝溥儀が軟禁の地シベリア南部チタまで護送されたルートを示す資料も確認された。これも、歴史の空白を埋める貴重な発見である。
『汚名~放射線を浴びたX年後~』(2016 NNNドキュメント)。アメリカの核実験による被ばくを取り上げた南海放送の「放射線を浴びたX年後」シリーズ。第4弾は、「父の死の真相」を追い求めるひとりの女性が主人公。酒の飲み過ぎで早死にしたと思われていたマグロ漁師の父。その死と核実験の因果関係を調べるため、遺族や当時の乗組員を訪ね歩く。徐々に明らかになっていく真相。しかし、厚労省の報告書が示すように、国はこの問題の幕引きをはかろうとしている…
<後記>
冒頭でも述べたように、3月末で退職して時間的余裕ができたわりには映画館に足を運ぶ回数が少なかった。劇映画の鑑賞は少し増えたし、「珈琲放浪」はまめにこなしているので、ドキュメンタリー映画のための時間を何とか作り出していきたい。
(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信しております。