2022年8月24日水曜日

【越境するサル】№.207「ケストナー『ファビアン』へ~映画『さよなら、ベルリン…』~」(2022.8.25発行)

 

 8月、靑森市「シネマディクト」で『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』(2021 ドミニク・グラフ監督 178分)を観た。「シネマディクト」には2週間ほど前にも訪れていたが(『スープとイデオロギー』)、その時と同様、私にとって大事な作品との出会いとなるはずであった。

 そして期待通り、私は細部にいたるまで堪能した。語るべき事が、山ほどあるように思われた……


「ケストナー『ファビアン』へ~映画『さよなら、ベルリン…』~」


 午前中の仕事をひとつ終えて、すぐさま弘前駅へ向かった。午前10時44分発の特急「つがる1号」で青森を目指す。映画の開始は午後2時過ぎだが、ちょうど「青森ねぶた祭」がスタートする日だった。できるだけ人混みを避けて、早めに目的地周辺にたどり着き、昼飯と珈琲の時間も確保したかった。なにしろ、隣の街へ映画を観に出かけるというのは、ちょっとした小旅行なのだ。

 『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』は、第71回ベルリン国際映画祭(コンペティション部門)に出品され好評を博し、ドイツ映画賞では主要3部門を受賞した。

  監督は本邦初公開のドミニク・グラフ。ドイツ映画界のスター、トム・シリングとザスキア・ローゼンダールが主演を務める。

 舞台は、狂躁と頽廃の1920年代を経てナチスの政権獲得へと向かう、1931年のベルリン。

 作家を志してドレスデンからベルリンにやってきた青年ファビアンは、出口のない不況の中、自らも失業し行く先を見失う。享楽的な生活に明け暮れる彼は、女優志願のコルネリアと出会い愛し合うが傷つき、唯一の親友ラプーデの破滅に立ち会う。失意の彼が向かうべきは、愛する母の待つ故郷ドレスデンなのか……


▽予告編 『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』 

 


原作は、ドイツ児童文学の巨匠エーリヒ・ケストナー(1899-1974)の『ファビアン あるモラリストの物語』(1931)。邦訳は、みすず書房刊(2014 丘沢静也訳)。


 なお私は、今は絶版となっている「ちくま文庫版『ファービアン あるモラリストの物語』」(1990 小松太郎訳)で読んだ。ずっと昔購入したものだが、最近再読してその魅力をようやく理解することができた。   

 出版された1931年は、ケストナーの出世作となった『エミールと探偵たち』(1929)と傑作『飛ぶ教室』(1933)のちょうど中間にあたる時期である。「大人のための」唯一の長編小説である本書は高い評価を受け外国語にも翻訳されたが、1933年ナチが権力を掌握すると、5月10日、ベルリンで焚書の対象となった……


 映画に戻る。

 ドミニク・グラフ監督は、原作者ケストナーが1929-30年に体験したであろうベルリンの「日常」を、できる限りリアルに再現しようとする。

 登場人物たちは普通に夢や志を持ち、その中のある者はそれを実現できず人生に敗れる。社会にはまだ戦争(第一次大戦)の傷痕が残り、ヴァイマール共和国の栄光もベルリンの繁栄も束の間の夢のようだ。それでも若者たちは、未来に向けて愛を語り、何者かになろうともがく。

 主人公ファビアンも、作家を志しながらまだ何者にもなっていない。タバコ会社で広告のコピーライターをしているが、その仕事も失ってしまった。コルネリアとの愛も先は見えない。ナチスは政権獲得はもう少し先だが、その足音は着実に迫っている。

 物語の後半、愛する母と故郷ドレスデンが登場する。古くからのケストナーファンは、自分たちが親しんだケストナーの評伝や年譜を反芻しつつ、「ああ、これは、もうひとりのケストナーの物語だ」と納得する。

 映画の原題についている副題は「Going to the Dogs(破滅していく)」だ。原作小説の元々の題名でもある。

 ケストナー自身は破滅しなかったが、ファビアンは破滅へと向かう。ふたりの運命の違いは紙一重のように思われる。

 ファビアンは、ケストナー自身だ。


 さて、ケストナーについて私は、2019年の『越境するサル』№187「ドイツ紀行(上)」の中でふれている。「ドレスデンとケストナー」をめぐる内容だ。

http://npoharappa.blogspot.com/2019/04/187201941.html


 さらに2021年4月、陸奥新報のリレーエッセイ『文人カフェ』「ケストナーへの旅」の中でも、1929年のベルリンを描いたドイツのテレビドラマ『バビロン・ベルリン』に重ね合わせる形で「ドレスデンとケストナー」についてふれた。

 これからも何度か、1920-30年代のドイツについて語ることになる。




<後記>

  №206に続いて、映画に関する内容となった。次号№208も映画について、9月10日開催の第38回harappa映画館「函館発 佐藤泰志映画祭2」の報告をする予定だ。

今年3月に開催中止となった企画だが、佐藤泰志原作の映画2本(『オーバー・フェンス』『草の響き』)上映とシネマトーク(プロデューサー菅原和博氏)、充実の内容である。

https://harappa-h.org/harappa-wp/?p=627



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。


2022年7月28日木曜日

【越境するサル】№.206「映画日誌2022年6-7月~そして『スープとイデオロギー』へ~」(2022.7.29発行)

 


 20213月に205を発信してから、1年半近く『越境するサル』は休止していた。10数年間の歴史の中で最も長い中断である。この中断の主要な原因が、人生初の書籍出版(20217月、『佐藤泰志をさがして』)と、1昨年から続いていた新聞へのエッセイ連載(20208月~20216月)であることは間違いない。要するに、体力が足りなかったのだ。ただ、この通信の内容について、ある種の迷いというか、行き詰まり感が徐々に蓄積していたのも事実だ。
 無事出版にこぎつけ、新聞の連載も終了し、少し体力が回復したはずだったが、なかなか通信の再開とはならなかった。コロナ禍による諸活動の停滞のせいにはしたくないが、明らかに意欲が低下していた。今までのように、たとえばドキュメンタリーに関して時評的なものを書き続けるとか、珈琲に関して出会いを記録し続けるとか、あるいは現代の思想や文学に目を配り続けるとか、ある種の使命感に突き動かされてきたものが多少窮屈に感じられてきたのだ……
いま、ようやく『越境するサル』を再開する気分になっているのだが、この際「原点」に戻ろうと考えている自分がいる。「原点」とは、この通信をスタートさせた時の「その時書きたいものについて書く」という単純なスタンスのことだ。
 まずは、いま一番書きたい(語りたい)、最近観た映画たちについて書く。ジャンルを問わず、私が映画館で観ることを選択した映画たちについての、とりとめのない記録。「映画日誌」から始めよう……

 

 


映画日誌20226-7月~そして『スープとイデオロギー』へ~」

  少しずつ、少しずつ、私は映画館に出かける。八戸、青森、大館……まだ遠くまでは行けない。


6月某日 教育と愛国2022 斉加尚代監督 107分)

 

八戸「フォーラム八戸」。

2017年、MBS(大阪・毎日放送)で放送された番組『映像’17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているか~』は、その年のギャラクシー賞テレビ部門大賞を獲得するなど大きな話題を呼んだ。

「教育改革」「教育再生」の名のもとに政治が教育に介入していく過程を、倒産に追い込まれた教科書出版社の元編集者や保守系政治家たちが推奨する教科書の執筆者などへのインタビューを軸に構成したこのテレビドキュメンタリーに、その後の追加取材部分を加え再構成したのが、この劇場版『教育と愛国』である。語りは、井浦新が担当している。


▽予告編『教育と愛国』



会場の「フォーラム八戸」は、ドキュメンタリー映画としては異例の熱気に包まれていた。上映後に行われた、プロデューサーとゲスト(東奥日報編集委員・斉藤光政氏)によるトークイベントまで、その熱気は続いた。



 

6月某日 『ベイビー・ブローカー』(2022 是枝裕和監督 130分)

 青森「青森松竹アムゼ」。

 『万引き家族』の是枝裕和監督と『パラサイト 半地下の家族』のソン・ガンホ、カンヌ国際映画祭パルムドール監督とアカデミー賞作品賞受賞作主演男優のタッグ。さらには韓国が誇る魅力的な役者陣とスタッフたち。私たち観客の期待は否が応でも高まるが、その期待を超えた満足感に浸ることができた……

 

▽予告編『ベイビー・ブローカー』

 子を捨てた母・ブローカー・刑事、<赤ちゃんポスト>から始まった彼らの、釜山からソウルへ向かうロードムービーは、まぎれもない「家族」の物語だ(またしても「疑似家族」だが)。

 

 

7月某日 林海象映画祭in御成座 FINAL(第十回大山家上映会)

 大館「御成座」。

 

BOLT2019 林海象監督 80

『二十世紀少年読本』(1989 林海象監督 106分)

『夢見るように眠りたい』1986 林海象監督 84分)

 

 最近、すっかりお気に入りの街となった大館の、もっともお気に入りの場所「御成座」。このレトロな映画館で開催された「林海象映画祭in御成座 FINAL」で、林海象監督の最新作と初期の代表作2本を鑑賞した。

BOLT』は、監督が主演に永瀬正敏を起用し、東北工科大学の学生たちと共に7年かけて完成させたBOLTLIFEGOOD YEAR」の短編三部作。

 「BOLT」は、大地震後の建物内で漏れている高い放射性の液体を止めるために、ボルトを締める作業に向かう男たちの物語。彼らの恐怖感と緊張感がリアルに伝わってくる。

LIFE」は、避難区域内で孤独死した独居老人の遺品整理を仕事とする男を、「GOOD YEAR」は、元の職場(原発であることが見て取れる)に戻ろうとするが叶わない男をそれぞれ描くが、どちらも「BOLT」の後日譚として位置づけられる。

3作品続けて観ると、徐々に主人公(永瀬正敏)の生き様に感情移入していく自分に気付く。これは同時代の物語なのだ。

 



▽予告編『BOLT

  

 三上博史が兄を演じる、サーカスで育った兄弟の物語『二十世紀少年読本』と、無声映画の趣きを感じさせる、佐野史郎の初主演作『夢見るように眠りたい』は、ともに1980年代の「伝説の映画」だ。これを映画館で観ることができること自体奇跡だが、今回、『夢見るように眠りたい』は16ミリで上映された。「御成座」でなければ体験できない企画である。「御成座」と、主催の「大山家上映会」に敬意を表したい。

 




▽予告編『夢見るように眠りたい』

 なお、上映後のトークには、1年半前に再起不能と言われる大怪我をした林海象監督も登場。映画製作にまつわる、尽きることのない裏話の数々に堪能。これも奇跡の体験か……

 

 

7月某日 『台湾-デジタルデモクラシー』2022 渡辺謙一監督 54分)

 弘前「弘前駅前ヒロロ4階ホール」。

 フランス在住、フランスや欧州のテレビ向けドキュメンタリーを製作している渡辺謙一監督が、自らのドキュメンタリー作品を持って来日して巡回自主上映する企画「渡辺謙一監督と、ともに考え、対話を開く」に参加した。弘前で上映された作品は、『台湾-デジタルデモクラシー』。監督自らパソコンを操作して映写するという、手作り感満載の上映であった。

 『台湾-デジタルデモクラシー』は、ヒマワリ学生運動から新型コロナウィルス禍までを記録して(それ以前の、たとえば白色テロの時代もしっかり押さえているが)、台湾のデモクラシーの発展を描いている。彼が「デジタルデモクラシー」という言葉を使用していることからもわかるように、オードリー・タン行政院政務委員へのインタビューが軸となっているが、台湾の政府関係者・民間人・ヒマワリ運動参加者・フランスの学者らへのインタビューでコンパクトにまとめられた作品となっている。

 上映後の監督トーク、参加者との対話も、なかなか有意義であった。

 ところで、この作品の中でも重要な事件、というより結節点として言及されている「ヒマワリ学生運動」そして「立法院占拠事件」の際、私はたまたま観光客として台北に滞在していた。私たち観光客が乗るマイクロバスの横を通って立法院に向かうデモ隊の行動を、当たり前のこととして是認する観光ガイドや市民の姿に、市民の成熟を感じたものだ。

『越境するサル』№127「旅のスケッチ~台北の想い出~」

 

 

7月某日 『スープとイデオロギー』2021 ヤン ヨンヒ監督 118分)

靑森「シネマディクト」。

 とうとう、『スープとイデオロギー』にたどり着いた……昨年(2021年)、山形国際ドキュメンタリー映画祭 インターナショナル・コンペティション部門にノミネートされた本作を、私は山形の地で観るはずだった。しかし、コロナ禍の中、映画祭はオンライン上映のみで行われることとなり、しかも、『スープとイデオロギー』はオンラインでは上映されない作品だった。

今回ようやく観ることができた『スープとイデオロギー』だが、ヤン ヨンヒ監督の過去の長編3本(うちドキュメンタリー2本)の弘前での上映には私も関わっていた。上映後のトークでの、聡明でバイタリティーあふれる監督の姿はいまだ鮮明に記憶している。

NPO harappa:harappa映画館「故郷とは、家族とは—ヤン・ヨンヒ特集」 (harappa-h.org)

npo harappa blog: 【harappa Tsu-shin 「故郷とは、家族とは」

 

その彼女の、3本の長編(『ディア・ピョンヤン』『愛しのソナ』『かぞくのくに』)で描かれ記録された両親について、どうしても納得しきれない部分があった。朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の兄たちを北朝鮮に送るが、なぜ父と母は、「北」を信じ続けてきたのか?それは、ヤン ヨンヒ監督が感じていた疑問でもあったように私には思われた

本作は、これまでの監督作品の「家族の物語」とりわけ「母の物語」の続篇であるが、その謎解きの物語でもある。

 

▽予告編『スープとイデオロギー

1948年、18歳の母は、韓国現代史最大のタブーである島民無差別虐殺事件「済州(チェジュ).3事件」の渦中にいた。長い間封印していた記憶を語った母は、アルツハイマー病を患い、その記憶も消えかけていく。ヨンヒは、新たな家族となった夫(荒井カオル氏)とともに、母を済州島に連れていく旅を計画する。本当の母を知る旅が、はじまる

撮影から10年をかけた、魂を揺さぶるこのドキュメンタリーを、必ず弘前の地で上映する。

 

 

<後記>

  とりあえず、『越境するサル』を再開する。まだまだペースはつかめないが、徐々に「書ける」ようになっている自分がいる。

 しばらくは、映画に関する内容になる。映画館に関して、コロナ禍で生まれた空白を埋めたいという意識が強くなっているのだ。

 次号は、ケストナー『ファービアン』を原作とするドイツ映画『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』(730812「靑森シネマディクト」で上映予定)について。その次は、「harappa映画館」(910「函館発 佐藤泰志映画祭2」)について。

 コロナによって、再び行動が制限される可能性はあるが。

 



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。



2021年3月16日火曜日

【越境するサル】№.205「ドキュメンタリー時評 2021年3月 ~“台湾ひまわり運動”と“世界⼀安全な場所”~」(2021.3.15発行)

  2021年3月、青森市で2本のドキュメンタリー映画が上映される(3/20~26、シネマディクト)。2014年3月、台湾立法院を占拠した「ひまわり運動」を描いた『私たちの青春、台湾』(2017 傅楡監督)と、“核のごみ”の最終処分場候補地を巡る旅を描いた『地球で最も安全な場所を探して』(2013 エドガー・ハーゲン監督)が、その2本だ。

 これまでこの「時評」では私が鑑賞した映画を中心に紹介してきたが、今回の2本はどちらも未見である。未見ではあるが、その内容について今まで紹介してきた作品以上の関心と思い入れを抱いている。この時評を読んで2本の映画の存在を知った人たちと、同じ時期に同じ映画館で鑑賞したいと思う。



「ドキュメンタリー時評 2021年3月

       ~“台湾ひまわり運動”と“世界⼀安全な場所”~」



 2018年金馬奨と台北映画祭にて最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した『私たちの青春、台湾』の監督である傅楡(フー・ユー)は、父はマレーシア華僑、母はインドネシア華僑というルーツを持つ。1982年台北生まれの彼女は、2011年、二人の大学生と出会う。台湾学生運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)と、台湾の社会運動に参加する人気ブロガーの中国人留学生・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。やがて為廷は林飛帆(リン・フェイファン)と共に立法院に突入し、ひまわり運動のリーダーになった。この二人が、主要な登場人物である。

 2014年3月、国民党政府が中国との「サービス貿易協定」をわずか30秒で強行採決したことに反対した学生たちは立法院(国会)に突入し、23日間にわたって占拠した。占拠直後から多くの台湾世論の支持を集め、与党側は審議のやり直しと、中台交渉を外部から監督する条例を制定する要求を受け入れた。議場に飾られたひまわりの花がシンボルとなり、この一連の抗議活動を「ひまわり運動」と呼ぶ。

 実は私は、この歴史的事件が進行していた2014年3月、台北に滞在していた。その時の様子を次のように記している。


 「2014年3月18日、その前日立法院での審議を打ち切り強行採決へ突き進もうとした与党国民党の姿勢に激しく抗議する学生・市民300人は、立法院の占拠に踏み切る。私たちの滞在中には、総統府に向けた『50万人』のデモンストレーションも敢行され、メディアは連日全力で報道した。新聞ではつねに第一面一杯、テレビでは数局が立法院内部や集会の様子をライブ中継を続けていた。日本では断片的にしか報道されなかったようだが、台北にいてメディアに接しているとまるで『革命前夜』のような雰囲気なのであった。

  私たち観光客が乗っている車も、デモに向かう黒いTシャツにヒマワリの花をつけた人々を間近に見ながら、進行していた。特に混乱があるわけではない。何しろ今回の学生・市民の行動を過半数以上の人々が支持し、馬英九総統の支持率は10パーセント未満。私たちの現地ガイドも、政府の対応を冷静に批判する…

  普通の市民生活のすぐ隣を、デモに向かう人たちが通り過ぎていく。その光景を私たち観光客は、確かに記憶の底に刻みつけた。彼らのシンボルであったヒマワリ(本来『向日葵』だが『太陽花』とも書く)にちなんで、立ち上がった学生たちを「太陽花学連」と呼ぶ。巨大な龍に呑み込まれまいともがく人々の姿は、私たちの過去・現在・未来とも重なり合う…」(2014.5.1発行『越境するサル』№127「旅のスケッチ~台北の想い出」http://npoharappa.blogspot.com/2014/05/no12720140501.html)


 しかし、公式ホームページやいくつかの紹介記事を読むと、この映画は「民主化」の輝かしい記録ではなさそうだ。

 学生運動のリーダー陳為廷はスキャンダルで失墜し、中国人留学生の蔡博芸は中国人であるがゆえに敵視され、それぞれ挫折を味わう。傅楡監督の挫折感もそのまま描かれているという。そして、あるインタビューでの監督の言葉を借りると、「この映画は若者の政治運動を描きながら、じつは彼ら個人の成長の姿や青春の物語を映し出して」いるとのこと。

ならば、ますます、この映画を観るべきだろう…


▽『私たちの青春、台湾』予告編


 なお、この映画と自らについての傅楡監督の「語り」を編集した『わたしの青春、台湾』(五月書房新社)が、2020年10月に刊行された。映画の日本公開に合わせて出版されたものだが、台湾の歴史と現状を知るための貴重なドキュメントである。






 『地球で最も安全な場所を探して』のエドガー・ハーゲン監督は、1958年スイス・バーゼル生まれ。長らくスイス・ドキュメンタリー映画界のリーダー的存在であり、2016年には自らの制作会社も立ち上げた。

 ハーゲン監督の2013年の作品である本作が、いま(2020年2月20日、シアター・イメージフォーラムで初公開、以後順次公開)日本で公開されたことの意義(意味)は明白だろう。公式ホームページの「ストーリー」には次のように書かれている。


 「この60年間で、高レベル核廃棄物35万トン以上が世界で蓄積された。

 これらの廃棄物は長期にわたって、人間や環境に害を与えない安全な場所に保管する必要がある。しかし、そのような施設がまだ作られていないにも関わらず核廃棄物、いわゆる”核のごみ”は増え続けている。

 そんな中、英国出身・スイス在住の核物理学者で、国際的に廃棄物貯蔵問題専門家としても高名なチャールズ・マッコンビーが世界各地の同胞たちとこの問題に取り組む姿をスイス人のエドガー・ハーゲン監督が撮影。チャールズと監督の2人はアメリカ・ユッカマウンテン、イギリス・セラフィールド、中国・ゴビ砂漠、青森県六ヶ所村、スウェーデン、スイスなど世界各地の最終処分場候補地を巡る旅に出る。

 果たして、世界に10万年後も安全な"楽園"を探すことはできるのか―。」


 廃炉も含め60基の原発を抱える日本でも、2020年、北海道の2町村が最終処分場の候補地として手を挙げた。私たちもこの問題を避けて生きていくことはできない。原発推進派であれ、反対派であれ。

 もちろん、青森県民にとっては、「必見」の映画だ。


▽『地球で最も安全な場所を探して』予告編



・青森シネマディクト 3/20~26(3/25は休館日)

『私たちの青春、台湾』(125分) 13:20~  18:10~  

『地球で最も安全な場所を探して』(110分) 14:05~  18:40~  



<後記>

  2021年3年10日、今年度2度中止に追い込まれた「harappa映画館」はようやく上映会を開催することができた。「3.11を忘れない」シリーズ、『風の電話』(2020 諏訪敦彦)。

 従来とは違う会場(文化センター)で、1本だけの上映。これからも、さまざま工夫しながら上映会を模索していくことだろう…

 今回紹介した作品も含めて、ドキュメンタリーの上映も計画していきたい。来年度こそは。



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。



2021年1月8日金曜日

【越境するサル】№.204「ドキュメンタリー時評 2021年1月 ~テレビ・ドキュメンタリーの現在地~」(2021.01.08発行)

 2020年11月9~13日、NHKBSプレミアムで『ザ・ベストテレビ2020』が放送された。2019~2020年、国内の主要なテレビ番組コンクールで最高賞を受賞したNHKと民放のドキュメンタリー番組を5日間にわたって放送したものである。この放送によって私たちは、2020年現在におけるテレビドキュメンタリーの見取り図を描くことができる。

「ドキュメンタリー時評」第9回は、「テレビ・ドキュメンタリーの現在地」と題してテレビ・ドキュメンタリーを中心に語る。


「ドキュメンタリー時評 2021年1月 

              ~テレビ・ドキュメンタリーの現在地~」



『ザ・ベストテレビ2020』の中で取り上げられた作品を放送順に紹介する。




 「第36回ATP賞テレビグランプリ」ドキュメンタリー部門最優秀賞(全体のグランプリも受賞)を受賞した、BSフジサンデースペシャル ザ・ノンフィクション特別編「おじさん、ありがとう 子供たちへ… 熱血和尚の遺言」(バンエイト/BSフジ、フジテレビジョン)。 

 ATP賞とは、東京・大阪の主要テレビ番組製作会社約120社が加盟する一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(略称ATP)が、創り手である製作会社のプロデューサーやディレクターが自ら審査委員となって優れた作品を選ぶ日本で唯一の賞として1984年に創設され、ドラマ部門、ドキュメンタリー部門、情報・バラエティ部門の3つのジャンルで作品を募集し、毎年100本を超える応募作品の中から、グランプリ、最優秀賞、優秀賞などが選ばれる。

 「おじさん、ありがとう 子供たちへ… 熱血和尚の遺言」は、愛知県の山中にある西居院の住職・廣中邦充さんと彼が受け入れてきた子供たちとの、12年にわたる心の触れ合いを記録した大長編ドラマともいうべきドキュメンタリーである。非行や虐待、いじめなど様々な理由で親元を離れた子供たちと“駆け込み寺”の和尚との真剣勝負の日々は、単なる「触れ合い」という言葉では済まされないシビアなものであり、その中で成長していく子供たちのその後の姿に私たちはひとつの希望のようなものを見出す。「グランプリ」にふさわしい作品である(ATP賞授賞式2020の模様は、2020年12月1日NHKBSプレミアムで放送された)。



 ドキュメンタリー部門優秀賞には、BS1スペシャル「戦争花嫁たちのアメリカ」(テムジン、NHKエンタープライズ/NHK BS1)・真夜中のドキュメンタリー「息子の終活 知的障がい者の親として、何を遺すか?」(CTV MID ENJIN/中京テレビ放送)・日中共同制作「陶王子 2万年の旅 器の来た道 前編・後編」(NHKエデュケーショナル、プロダクション・エイシア、Tencent Penguin Pictures/NHK BS4K)の3本が選出されている。

ドキュメンタリー部門奨励賞には、BS1スペシャル「バレエの王子になる! “世界最高峰”ロシア・バレエ学校の青春」(日本電波ニュース社、NHKグローバルメディアサービス/NHK BS1)・「聖なる巡礼路を行く ~カミーノ・デ・サンティアゴ 1500キロ~」(ドキュメンタリージャパン、NHKエンタープライズ/NHK BS8K)・ザ・ヒューマン「誇り高き悪魔 ジーン・シモンズ」(オルタスジャパン、NHKグローバルメディアサービス/NHK BS1)の3本。

http://www.atp.or.jp/awards/atpaward/award_036.php#003



「『地方の時代』映像祭2019」放送局部門優秀賞およびグランプリを受賞した、「海を洗う 果てしなき機雷戦」(山口朝日放送)。

 「『地方の時代』映像祭」は、神奈川県と川崎市の呼びかけに、NHK、各民間放送局、全国の自治体関係者が応え、1980年スタートした。放送局部門、ケーブルテレビ部門、市民・学生・自治体部門、高校生部門の4部門に分かれているが、全国各地からこれまで寄せられた膨大な数の応募作品は、そのまま1980年以降の日本テレビ・ドキュメンタリーの歴史であると言っても過言ではない。

「海を洗う 果てしなき機雷戦」は、太平洋戦争中、米軍によって大量の機雷が投下された関門海峡と元掃海隊員たちををめぐる秘史とも呼ぶべき記録である。「船の墓場」と呼ばれた関門海峡の機雷除去は、日本が戦後復興を果たすためには絶対に必要な作業だった。その危険な任務にあたっていたのは元海軍軍人たちであり、彼らはやがて朝鮮戦争へ派遣されていく…犠牲者を出しながら、その後のペルシア湾派遣へとつながる機雷戦の歴史と実態を明らかにした労作であり、問題作。

 放送局部門優秀賞には他に、メ~テレドキュメント「夢も、希望も」(名古屋テレビ放送)・ETV特集「誰が命を救うのか 医師たちの原発事故」(NHK福島放送局)・映像’18「バッシング その発信源の背後に何が」(毎日放送)が選出されている。放送局部門選奨には、「毒の油を口にして~カネミ油症事件50年~」(RKB毎日放送)・「私は白鳥」(チューリップテレビ)・「その壁が守るもの~宮城・240kmの防潮堤~」(仙台放送)・ETV特集「彼らは再び村を追われた 知られざる満蒙開拓団の戦後史」(NHK長野放送局)・ETV特集「“悪魔の医師”か“赤ひげ”か ~宇和島・腎移植騒動の12年~」(NHK松山放送局)の5本。

「『地方の時代』映像祭グランプリ2020」には、ETV特集「おいでや!おやこ食堂へ」(NHK大阪拠点放送局)が選出されたが、これについては次年度の『ザ・ベストテレビ』で紹介されるだろう。

https://www.chihounojidai.jp/work/2019.html



「令和元年度(第74回)文化庁芸術祭賞」テレビ・ドキュメンタリー部門大賞を受賞した、BS1スペシャル「ボルトとダシャ~マンホールチルドレン20年の軌跡~」(NHK BS1)。

「ボルトとダシャ~マンホールチルドレン20年の軌跡~」は、モンゴルの首都ウランバートルでマンホール暮らしをしていた2人の少年ボルトとダシャの人生を、20年にわたって追い続けた「大長編」ドキュメンタリーである。経済成長が進むモンゴルの片隅で、必死に生き抜いてきた二人に寄り添い続けるカメラ。

テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞には、BS1スペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険」(NHK BS1)・「聖職のゆくえ~働き方改革元年~」(福井テレビ放送)・「土がくる~規制なき負の産物の行方」(CBCテレビ)の3本。

https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/91955001_02.pdf



「第46回放送文化基金賞」テレビ・ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞した、NNNドキュメント’19「なかったことに、したかった。未成年の性被害①」・「なかったことに、できない。性被害② 回復への道は」(日本テレビ放送網)。

 被害者が抵抗しなかったという理由で性犯罪裁判の無罪判決が相次ぐ中、被害を訴える人々への取材を基に2週連続で実態を訴え、回復への手がかりを探った意欲作。性犯罪の被害者は精神も傷つくこと、他人との人間関係が構築できないなど人間の発達に大きな影を落とすこと、心と体の傷は長い時間が経っても癒えることはなくじわじわと被害者を蝕んでいくことを、告発する。

 テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞は、KNBふるさとスペシャル「19 人を殺した君と重い障がいのある私の対話」(北日本放送)。

テレビ・ドキュメンタリー部門奨励賞は、NHKスペシャル「 “ヒロシマの声”がきこえますか~生まれ変わった原爆資料館~」(NHK広島拠点放送局)・NHKスペシャル「昭和天皇は何を語ったのか~初公開・秘録 『拝謁記』~」(NHK)・「土がくる 規制なき負の産物の行方」(CBCテレビ)の3本。

https://www.hbf.or.jp/awards/article/46_hbfprize



「2019年日本民間放送連盟賞」テレビ報道番組部門最優秀賞を受賞した「聖職のゆくえ~働き方改革元年~」(福井テレビジョン放送)。

 過労死ラインに達している教員の超過勤務。しかし、「給特法」の存在が現実の過労死認定を妨げる…「聖職のゆくえ~働き方改革元年~」は、「給特法」立法の歴史的経緯に迫り、1年間にわたる学校現場での取材を通してその実態を浮き彫りにする。丁寧に作られた労作である。

 テレビ報道番組部門優秀賞は、「原発避難家族の挑戦!-福島・愛媛 岐路に立つ二重農業生活-」(テレビユー福島)・NNNドキュメント’18「首都圏の巨大老朽原発 再稼働させるのか‘東海第二’」(日本テレビ放送網)・SBCスペシャル「汐凪の花園~原発の町の片隅で~」(信越放送)・「筆で伝える想い~ダウン症の書道家がつなぐ被災地~」(サンテレビジョン)・メッセージ「引き裂かれた家族~ハンセン病孤児たち 初めての告白~」(RSK山陽放送)・「軽傷ではない~奪われた夢 希望の帆~」(長崎文化放送)の6本。



「2019年日本民間放送連盟賞」テレビ教養番組部門最優秀賞を受賞した、第33回民教協スペシャル「想画と綴り方~戦争が奪った子どもたちの“心”~」(山形放送)。

 昭和初期、青年教師・国分一太郎を中心に山形県で実践されていた「想画」と「生活綴り方」。どちらも、自分の目で社会を見つめ表現する教育であった。しかし、表現や教育への統制は強まり、国分は治安維持法により検挙される…「想画と綴り方~戦争が奪った子どもたちの“心”~」は、その歴史を掘り起こしていく。

テレビ教養番組部門優秀賞は、ノンフィクションW「野村家三代 パリに舞う~万作・萬斎・裕基、未来へ」(WOWOW)・チャンネル4「人生の湯 城下町の一角で・・・」(テレビ信州)・「沈黙の山」(チューリップテレビ)・ザ・ドキュメント「ファミリー 2人のママがいる」(関西テレビ放送)・メッセージ「回天 二つの心」(山口朝日放送)・「タミばあちゃんの終活 ~いのちと向き合った1年~」(宮崎放送)の6本。

表彰番組・事績 | 一般社団法人 日本民間放送連盟 (j-ba.or.jp)



「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門大賞を受賞した、チャンネル4「カネのない宇宙人 閉鎖危機に揺れる野辺山観測所」(テレビ信州)。

「ギャラクシー賞」は、1963 年、テレビとラジオの可能性、影響力に着目し、その発展には必ず“批評”の力が必要であると考えた評論家、研究者、ジャーナリスト、作家らの有志によって創設された放送批評懇談会が、制作者たちの番組作りへの情熱に光を当てることを目的に誕生させた放送賞である。

「カネのない宇宙人 閉鎖危機に揺れる野辺山観測所」は、「はやぶさ」に代表される日本の宇宙科学の栄光の裏側で、苦境に立たされている研究現場を描く。長野県八ヶ岳の麓にある国立天文台・野辺山宇宙電波観測所は、国の政策によって資金が大幅に減り、閉鎖の危機に陥っている。観測所の存続をかけて奮闘する天文学者たちの姿を1年間を追う。

テレビ部門優秀賞は、NHKスペシャル「日本人と天皇」(日本放送協会)・「ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート」(テレビ東京)・「俺の話は長い」(日本テレビ放送網/オフィスクレッシェンド)の3本。

テレビ部門選奨 は、NNNドキュメント'19「防衛大学校の闇 連鎖した暴力…なぜ」(日本テレビ放送網)・福井テレビ開局50周年記念番組「聖職のゆくえ~働き方改革元年 ~」(福井テレビジョン放送)・ノーナレ「画面の向こうから―」(日本放送協会)・ドラマイズム「スカム」(毎日放送/avex pictures/「スカム」製作委員会)・BS1スペシャル「バレエの王子になる!“世界最高峰”ロシア・バレエ学校の青春」(日本放送協会/日本電波ニュース社)・「モジモジWORLD~ウソのようなフォントの話~」(オプテージ/eo光テレビ)・大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(日本放送協会)・NNNドキュメント'20「19人を殺した君と重い障がいのある私の対話」(北日本放送)・BSNスペシャル「芸術の価値 舞踊家金森穣16年の闘い」(新潟放送)・映像'20「『復興五輪』の陰で東北は…」(毎日放送)の10本。

https://houkon.jp/wp/wp-content/uploads/2020/07/PR_galaxy57_kettei.pdf



 さて、映画館でのドキュメンタリー鑑賞は、何本か予定していたがその多くを断念した。

何とか映画館(青森松竹アムゼ)へ行くことができたのは、11月の『はりぼて』(2020 五百旗頭幸男・砂沢智史監督)だけである。

 『はりぼて』の舞台は保守王国富山県。2016年、若い放送局「チューリップテレビ」のニュース番組が報じた「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」というスクープから半年の間に14人の議員が辞職していった。この富山市議会をめぐる狂騒曲を描いた『はりぼて』のような、地方発のドキュメンタリーを普通に映画館のスクリーンで観ることができたのは驚きである。この流れに期待したいのだが、例によって観客は少ない…

▼『はりぼて』予告編



 1~2月、青森県の映画館で上映されるドキュメンタリー映画を列挙してみるが、このうち何本鑑賞できるかは不確実。すべて、天候とコロナ感染状況次第である。

・『相撲道―サムライを継ぐ者たちーSUMODO』(2020 坂田栄治監督)青森シネマディクト1/9~15

・『NETFLIX/世界征服の野望』(2020 ショーン・コーセン監督)青森シネマディクト1/9~15

・『100日間のシンプルライフ』(2018 フロリアン・ダーヴィト・フィッツ他監督)青森シネマディクト1/16~29、フォーラム八戸1/22~28

・『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(2019 ダニエル・ロアー監督)青森シネマディクト1/16~22

・『ヨコハマメリー』(2005 中村高寛監督)青森松竹アムゼ1/22~28

・『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』(2020 ゲロ・フォン・ベーム監督)青森シネマディクト1/30~2/5

・「セルゲイ・ロズニツァ<群衆>ドキュメンタリー3選」フォーラム八戸1/29~2/4

『国葬』(2019) 

『粛清裁判』(2018)

『アウステルリッツ』(2016)

・『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』(2019 アシフ・カパディア監督)フォーラム八戸2/5~



<後記>

  しばらく「ドキュメンタリー時評」を発信していなかったこととテレビ・ドキュメンタリーについての言及がこの1年間なかったことが、ずっと気にかかっていて、少しまとまった形で提出しなければと思い続けていた。今回はこのような形で発信するが、取り上げるべき作品と出会ったらその都度紹介することを心がけたいと思う。『ザ・ベストテレビ2020』に取り上げられたテレビ・ドキュメンタリーの中には、私が注目していた作品もかなり含まれていたのだから。

 10月から陸奥新報にエッセイを掲載していることもあり、『越境するサル』は当分の間「ドキュメンタリー時評」が主になりそうである。そのほかの内容も考えてはいるのだが…




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2020年10月14日水曜日

【越境するサル】№.203「ドキュメンタリー時評 2020年10月 ~原一男監督、八戸へ~」(2020.10.14発行)

 9月は青森で2本、そして10月には八戸で1本、興味深いドキュメンタリー作品と出会った。特に八戸では、敬愛する原一男監督のトークに参加するという、貴重な体験もすることができた。

「ドキュメンタリー時評」第8回は、「原一男監督、八戸へ」と題して『れいわ一揆』(2019原一男監督)を中心に紹介する。



「ドキュメンタリー時評 2020年10月 ~原一男監督、八戸へ~」


2020年10月3日、八戸。降りしきる雨の中、十三日町「フォーラム八戸」にたどり着いた。『ゆきゆきて神軍』(1987)や『全身小説家』(1994)の原一男監督が、自らの作品『れいわ一揆』(2019)上映に合わせて八戸にやって来るというのだ。多少無理をしてでも行かなければならない。そう考え、数日前に決意した。


『れいわ一揆』は、2019年の参議院選挙で注目を集めた「れいわ新選組」の候補者たちを追ったドキュメンタリーだ。女性装の東大教授、闘う元コンビニ店長、公明党に反旗を翻す創価学会員、北朝鮮に弟を拉致されていた兄、元ホームレスのシングルマザー、ALSの身体障害者……候補者たちを束ねる山本太郎も負けてしまうような強烈な個性の候補者たち。女性装の東大教授・安富歩を中心にすえて構成された、2019年参院選の「闘いの記録」であるこの作品は、候補者たちの人間的魅力に支えられた見事な群像劇(※注)に仕上がっている。彼らひとり一人のその後がたまらなく気になる映画だ。

▼『れいわ一揆』予告編



休憩を挟んで248分の上映修了後、原監督とプロデューサー(撮影も担当)の島野千尋氏のトークを聴くことができたのは収穫だった。観客が少なかったのは残念だったが……。




さて、9~10月、青森市「シネマディクト」では、かなりの数のドキュメンタリーが上映された。これから上映予定のものも含めて列挙してみる。

・9/5~18『プラド美術館 驚異のコレクション』(2019 バレリア・パリシ監督)

・9/19~10/2『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』(2020 星野哲也監督)

・9/26~10/2『僕は猟師になった』(2020 川原愛子監督)

・9/26~10/2『zk 頭脳警察50 未来への鼓動』(2020 末永賢監督)

・10/3~23『マイルス・デイヴィス クールの誕生』(2019 スタンリー・ネルソン監督)

・10/24~11/13『メイキング・オブ・モータウン』(2019 ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー監督)


このうち、『プラド美術館』と『ジャズ喫茶ベイシー』を観ることができた。


『プラド美術館 驚異のコレクション』は、すでにこの通信で紹介しているように、2020年4月に公開予定だった映画である。だが、コロナの影響下、公開は延期となり、ようやく7月から全国公開された。青森県では9月にようやく上映の運びとなったが、長く待った甲斐があったというか、圧倒的な体験をすることができた。


ベラスケスとゴヤとエル・グレコをはじめとするプラド美術館の数々の至宝の映像はもちろん、館長や学芸員の詳細な解説、保存や修理の作業風景等々、美術館の全貌に迫る作品である。主要な画家の人生に踏み込んでいるところも評価したい。とりわけ、ゴヤに対して特別な思いを抱いている私にはありがたかった。


▼『プラド美術館』予告編


『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』は、岩手県一関市のジャズ喫茶「ベイシー」とそのマスター・菅原正二を描いた作品である。



50年の歴史を持つ「ベイシー」は、菅原のオーディオへのこだわりにより、世界一のサウンドが聴ける聖地としてジャズファンに愛されてきた。本作は、菅原と多くの人々(ミュージシャンを含む)のインタビューと「ベイシー」での貴重なライブ映像により、この店の魅力を余すところなく伝えている。

「ベイシー」を訪れる日は来るだろうか……。


▼『ジャズ喫茶ベイシー』予告編


 「フォーラム八戸」と「フォーラム盛岡」の今後の上映予定(上映中のものを含む)も紹介しておく。「シネマディクト」と同じように、音楽ものが充実している。


まず、「フォーラム八戸」。

・10/2~15『パヴァロッティ 太陽のテノール』(2019 ロン・ハワード監督)

・10/16~22『メイキング・オブ・モータウン』

・10/30~11/12『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』

・10/30~11/5『わたしは金正男を殺してない』(2020 ライアン・ホワイト監督)


 続いて、「フォーラム盛岡」。

・10/23~29『マイルス・デイヴィス クールの誕生』

・10/30~11/5『真夏の夜のジャズ 4K』(1959・2020 バート・スターン監督)

・11/6~12『メイキング・オブ・モータウン』


 

(※注)

原一男監督は、「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」でも見事な群像劇であるドキュメンタリー『ニッポン国VS泉南石綿村』(2017)を発表し、市民賞を獲得している。

https://www.yidff.jp/2017/cat013/17c026.html



<後記>

  とりあえず、県内で映画館に行くことは今後もできそうだ。次の「ドキュメンタリー時評」は、12月発信を目指す。ずっと王兵監督の特集を準備してきたが、どうなるか。

 次号は、「harappa映画館」の上映作品紹介。



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。