2021年3月16日火曜日

【越境するサル】№.205「ドキュメンタリー時評 2021年3月 ~“台湾ひまわり運動”と“世界⼀安全な場所”~」(2021.3.15発行)

  2021年3月、青森市で2本のドキュメンタリー映画が上映される(3/20~26、シネマディクト)。2014年3月、台湾立法院を占拠した「ひまわり運動」を描いた『私たちの青春、台湾』(2017 傅楡監督)と、“核のごみ”の最終処分場候補地を巡る旅を描いた『地球で最も安全な場所を探して』(2013 エドガー・ハーゲン監督)が、その2本だ。

 これまでこの「時評」では私が鑑賞した映画を中心に紹介してきたが、今回の2本はどちらも未見である。未見ではあるが、その内容について今まで紹介してきた作品以上の関心と思い入れを抱いている。この時評を読んで2本の映画の存在を知った人たちと、同じ時期に同じ映画館で鑑賞したいと思う。



「ドキュメンタリー時評 2021年3月

       ~“台湾ひまわり運動”と“世界⼀安全な場所”~」



 2018年金馬奨と台北映画祭にて最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した『私たちの青春、台湾』の監督である傅楡(フー・ユー)は、父はマレーシア華僑、母はインドネシア華僑というルーツを持つ。1982年台北生まれの彼女は、2011年、二人の大学生と出会う。台湾学生運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)と、台湾の社会運動に参加する人気ブロガーの中国人留学生・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。やがて為廷は林飛帆(リン・フェイファン)と共に立法院に突入し、ひまわり運動のリーダーになった。この二人が、主要な登場人物である。

 2014年3月、国民党政府が中国との「サービス貿易協定」をわずか30秒で強行採決したことに反対した学生たちは立法院(国会)に突入し、23日間にわたって占拠した。占拠直後から多くの台湾世論の支持を集め、与党側は審議のやり直しと、中台交渉を外部から監督する条例を制定する要求を受け入れた。議場に飾られたひまわりの花がシンボルとなり、この一連の抗議活動を「ひまわり運動」と呼ぶ。

 実は私は、この歴史的事件が進行していた2014年3月、台北に滞在していた。その時の様子を次のように記している。


 「2014年3月18日、その前日立法院での審議を打ち切り強行採決へ突き進もうとした与党国民党の姿勢に激しく抗議する学生・市民300人は、立法院の占拠に踏み切る。私たちの滞在中には、総統府に向けた『50万人』のデモンストレーションも敢行され、メディアは連日全力で報道した。新聞ではつねに第一面一杯、テレビでは数局が立法院内部や集会の様子をライブ中継を続けていた。日本では断片的にしか報道されなかったようだが、台北にいてメディアに接しているとまるで『革命前夜』のような雰囲気なのであった。

  私たち観光客が乗っている車も、デモに向かう黒いTシャツにヒマワリの花をつけた人々を間近に見ながら、進行していた。特に混乱があるわけではない。何しろ今回の学生・市民の行動を過半数以上の人々が支持し、馬英九総統の支持率は10パーセント未満。私たちの現地ガイドも、政府の対応を冷静に批判する…

  普通の市民生活のすぐ隣を、デモに向かう人たちが通り過ぎていく。その光景を私たち観光客は、確かに記憶の底に刻みつけた。彼らのシンボルであったヒマワリ(本来『向日葵』だが『太陽花』とも書く)にちなんで、立ち上がった学生たちを「太陽花学連」と呼ぶ。巨大な龍に呑み込まれまいともがく人々の姿は、私たちの過去・現在・未来とも重なり合う…」(2014.5.1発行『越境するサル』№127「旅のスケッチ~台北の想い出」http://npoharappa.blogspot.com/2014/05/no12720140501.html)


 しかし、公式ホームページやいくつかの紹介記事を読むと、この映画は「民主化」の輝かしい記録ではなさそうだ。

 学生運動のリーダー陳為廷はスキャンダルで失墜し、中国人留学生の蔡博芸は中国人であるがゆえに敵視され、それぞれ挫折を味わう。傅楡監督の挫折感もそのまま描かれているという。そして、あるインタビューでの監督の言葉を借りると、「この映画は若者の政治運動を描きながら、じつは彼ら個人の成長の姿や青春の物語を映し出して」いるとのこと。

ならば、ますます、この映画を観るべきだろう…


▽『私たちの青春、台湾』予告編


 なお、この映画と自らについての傅楡監督の「語り」を編集した『わたしの青春、台湾』(五月書房新社)が、2020年10月に刊行された。映画の日本公開に合わせて出版されたものだが、台湾の歴史と現状を知るための貴重なドキュメントである。






 『地球で最も安全な場所を探して』のエドガー・ハーゲン監督は、1958年スイス・バーゼル生まれ。長らくスイス・ドキュメンタリー映画界のリーダー的存在であり、2016年には自らの制作会社も立ち上げた。

 ハーゲン監督の2013年の作品である本作が、いま(2020年2月20日、シアター・イメージフォーラムで初公開、以後順次公開)日本で公開されたことの意義(意味)は明白だろう。公式ホームページの「ストーリー」には次のように書かれている。


 「この60年間で、高レベル核廃棄物35万トン以上が世界で蓄積された。

 これらの廃棄物は長期にわたって、人間や環境に害を与えない安全な場所に保管する必要がある。しかし、そのような施設がまだ作られていないにも関わらず核廃棄物、いわゆる”核のごみ”は増え続けている。

 そんな中、英国出身・スイス在住の核物理学者で、国際的に廃棄物貯蔵問題専門家としても高名なチャールズ・マッコンビーが世界各地の同胞たちとこの問題に取り組む姿をスイス人のエドガー・ハーゲン監督が撮影。チャールズと監督の2人はアメリカ・ユッカマウンテン、イギリス・セラフィールド、中国・ゴビ砂漠、青森県六ヶ所村、スウェーデン、スイスなど世界各地の最終処分場候補地を巡る旅に出る。

 果たして、世界に10万年後も安全な"楽園"を探すことはできるのか―。」


 廃炉も含め60基の原発を抱える日本でも、2020年、北海道の2町村が最終処分場の候補地として手を挙げた。私たちもこの問題を避けて生きていくことはできない。原発推進派であれ、反対派であれ。

 もちろん、青森県民にとっては、「必見」の映画だ。


▽『地球で最も安全な場所を探して』予告編



・青森シネマディクト 3/20~26(3/25は休館日)

『私たちの青春、台湾』(125分) 13:20~  18:10~  

『地球で最も安全な場所を探して』(110分) 14:05~  18:40~  



<後記>

  2021年3年10日、今年度2度中止に追い込まれた「harappa映画館」はようやく上映会を開催することができた。「3.11を忘れない」シリーズ、『風の電話』(2020 諏訪敦彦)。

 従来とは違う会場(文化センター)で、1本だけの上映。これからも、さまざま工夫しながら上映会を模索していくことだろう…

 今回紹介した作品も含めて、ドキュメンタリーの上映も計画していきたい。来年度こそは。



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。



2021年1月8日金曜日

【越境するサル】№.204「ドキュメンタリー時評 2021年1月 ~テレビ・ドキュメンタリーの現在地~」(2021.01.08発行)

 2020年11月9~13日、NHKBSプレミアムで『ザ・ベストテレビ2020』が放送された。2019~2020年、国内の主要なテレビ番組コンクールで最高賞を受賞したNHKと民放のドキュメンタリー番組を5日間にわたって放送したものである。この放送によって私たちは、2020年現在におけるテレビドキュメンタリーの見取り図を描くことができる。

「ドキュメンタリー時評」第9回は、「テレビ・ドキュメンタリーの現在地」と題してテレビ・ドキュメンタリーを中心に語る。


「ドキュメンタリー時評 2021年1月 

              ~テレビ・ドキュメンタリーの現在地~」



『ザ・ベストテレビ2020』の中で取り上げられた作品を放送順に紹介する。




 「第36回ATP賞テレビグランプリ」ドキュメンタリー部門最優秀賞(全体のグランプリも受賞)を受賞した、BSフジサンデースペシャル ザ・ノンフィクション特別編「おじさん、ありがとう 子供たちへ… 熱血和尚の遺言」(バンエイト/BSフジ、フジテレビジョン)。 

 ATP賞とは、東京・大阪の主要テレビ番組製作会社約120社が加盟する一般社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(略称ATP)が、創り手である製作会社のプロデューサーやディレクターが自ら審査委員となって優れた作品を選ぶ日本で唯一の賞として1984年に創設され、ドラマ部門、ドキュメンタリー部門、情報・バラエティ部門の3つのジャンルで作品を募集し、毎年100本を超える応募作品の中から、グランプリ、最優秀賞、優秀賞などが選ばれる。

 「おじさん、ありがとう 子供たちへ… 熱血和尚の遺言」は、愛知県の山中にある西居院の住職・廣中邦充さんと彼が受け入れてきた子供たちとの、12年にわたる心の触れ合いを記録した大長編ドラマともいうべきドキュメンタリーである。非行や虐待、いじめなど様々な理由で親元を離れた子供たちと“駆け込み寺”の和尚との真剣勝負の日々は、単なる「触れ合い」という言葉では済まされないシビアなものであり、その中で成長していく子供たちのその後の姿に私たちはひとつの希望のようなものを見出す。「グランプリ」にふさわしい作品である(ATP賞授賞式2020の模様は、2020年12月1日NHKBSプレミアムで放送された)。



 ドキュメンタリー部門優秀賞には、BS1スペシャル「戦争花嫁たちのアメリカ」(テムジン、NHKエンタープライズ/NHK BS1)・真夜中のドキュメンタリー「息子の終活 知的障がい者の親として、何を遺すか?」(CTV MID ENJIN/中京テレビ放送)・日中共同制作「陶王子 2万年の旅 器の来た道 前編・後編」(NHKエデュケーショナル、プロダクション・エイシア、Tencent Penguin Pictures/NHK BS4K)の3本が選出されている。

ドキュメンタリー部門奨励賞には、BS1スペシャル「バレエの王子になる! “世界最高峰”ロシア・バレエ学校の青春」(日本電波ニュース社、NHKグローバルメディアサービス/NHK BS1)・「聖なる巡礼路を行く ~カミーノ・デ・サンティアゴ 1500キロ~」(ドキュメンタリージャパン、NHKエンタープライズ/NHK BS8K)・ザ・ヒューマン「誇り高き悪魔 ジーン・シモンズ」(オルタスジャパン、NHKグローバルメディアサービス/NHK BS1)の3本。

http://www.atp.or.jp/awards/atpaward/award_036.php#003



「『地方の時代』映像祭2019」放送局部門優秀賞およびグランプリを受賞した、「海を洗う 果てしなき機雷戦」(山口朝日放送)。

 「『地方の時代』映像祭」は、神奈川県と川崎市の呼びかけに、NHK、各民間放送局、全国の自治体関係者が応え、1980年スタートした。放送局部門、ケーブルテレビ部門、市民・学生・自治体部門、高校生部門の4部門に分かれているが、全国各地からこれまで寄せられた膨大な数の応募作品は、そのまま1980年以降の日本テレビ・ドキュメンタリーの歴史であると言っても過言ではない。

「海を洗う 果てしなき機雷戦」は、太平洋戦争中、米軍によって大量の機雷が投下された関門海峡と元掃海隊員たちををめぐる秘史とも呼ぶべき記録である。「船の墓場」と呼ばれた関門海峡の機雷除去は、日本が戦後復興を果たすためには絶対に必要な作業だった。その危険な任務にあたっていたのは元海軍軍人たちであり、彼らはやがて朝鮮戦争へ派遣されていく…犠牲者を出しながら、その後のペルシア湾派遣へとつながる機雷戦の歴史と実態を明らかにした労作であり、問題作。

 放送局部門優秀賞には他に、メ~テレドキュメント「夢も、希望も」(名古屋テレビ放送)・ETV特集「誰が命を救うのか 医師たちの原発事故」(NHK福島放送局)・映像’18「バッシング その発信源の背後に何が」(毎日放送)が選出されている。放送局部門選奨には、「毒の油を口にして~カネミ油症事件50年~」(RKB毎日放送)・「私は白鳥」(チューリップテレビ)・「その壁が守るもの~宮城・240kmの防潮堤~」(仙台放送)・ETV特集「彼らは再び村を追われた 知られざる満蒙開拓団の戦後史」(NHK長野放送局)・ETV特集「“悪魔の医師”か“赤ひげ”か ~宇和島・腎移植騒動の12年~」(NHK松山放送局)の5本。

「『地方の時代』映像祭グランプリ2020」には、ETV特集「おいでや!おやこ食堂へ」(NHK大阪拠点放送局)が選出されたが、これについては次年度の『ザ・ベストテレビ』で紹介されるだろう。

https://www.chihounojidai.jp/work/2019.html



「令和元年度(第74回)文化庁芸術祭賞」テレビ・ドキュメンタリー部門大賞を受賞した、BS1スペシャル「ボルトとダシャ~マンホールチルドレン20年の軌跡~」(NHK BS1)。

「ボルトとダシャ~マンホールチルドレン20年の軌跡~」は、モンゴルの首都ウランバートルでマンホール暮らしをしていた2人の少年ボルトとダシャの人生を、20年にわたって追い続けた「大長編」ドキュメンタリーである。経済成長が進むモンゴルの片隅で、必死に生き抜いてきた二人に寄り添い続けるカメラ。

テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞には、BS1スペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険」(NHK BS1)・「聖職のゆくえ~働き方改革元年~」(福井テレビ放送)・「土がくる~規制なき負の産物の行方」(CBCテレビ)の3本。

https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/91955001_02.pdf



「第46回放送文化基金賞」テレビ・ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞した、NNNドキュメント’19「なかったことに、したかった。未成年の性被害①」・「なかったことに、できない。性被害② 回復への道は」(日本テレビ放送網)。

 被害者が抵抗しなかったという理由で性犯罪裁判の無罪判決が相次ぐ中、被害を訴える人々への取材を基に2週連続で実態を訴え、回復への手がかりを探った意欲作。性犯罪の被害者は精神も傷つくこと、他人との人間関係が構築できないなど人間の発達に大きな影を落とすこと、心と体の傷は長い時間が経っても癒えることはなくじわじわと被害者を蝕んでいくことを、告発する。

 テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞は、KNBふるさとスペシャル「19 人を殺した君と重い障がいのある私の対話」(北日本放送)。

テレビ・ドキュメンタリー部門奨励賞は、NHKスペシャル「 “ヒロシマの声”がきこえますか~生まれ変わった原爆資料館~」(NHK広島拠点放送局)・NHKスペシャル「昭和天皇は何を語ったのか~初公開・秘録 『拝謁記』~」(NHK)・「土がくる 規制なき負の産物の行方」(CBCテレビ)の3本。

https://www.hbf.or.jp/awards/article/46_hbfprize



「2019年日本民間放送連盟賞」テレビ報道番組部門最優秀賞を受賞した「聖職のゆくえ~働き方改革元年~」(福井テレビジョン放送)。

 過労死ラインに達している教員の超過勤務。しかし、「給特法」の存在が現実の過労死認定を妨げる…「聖職のゆくえ~働き方改革元年~」は、「給特法」立法の歴史的経緯に迫り、1年間にわたる学校現場での取材を通してその実態を浮き彫りにする。丁寧に作られた労作である。

 テレビ報道番組部門優秀賞は、「原発避難家族の挑戦!-福島・愛媛 岐路に立つ二重農業生活-」(テレビユー福島)・NNNドキュメント’18「首都圏の巨大老朽原発 再稼働させるのか‘東海第二’」(日本テレビ放送網)・SBCスペシャル「汐凪の花園~原発の町の片隅で~」(信越放送)・「筆で伝える想い~ダウン症の書道家がつなぐ被災地~」(サンテレビジョン)・メッセージ「引き裂かれた家族~ハンセン病孤児たち 初めての告白~」(RSK山陽放送)・「軽傷ではない~奪われた夢 希望の帆~」(長崎文化放送)の6本。



「2019年日本民間放送連盟賞」テレビ教養番組部門最優秀賞を受賞した、第33回民教協スペシャル「想画と綴り方~戦争が奪った子どもたちの“心”~」(山形放送)。

 昭和初期、青年教師・国分一太郎を中心に山形県で実践されていた「想画」と「生活綴り方」。どちらも、自分の目で社会を見つめ表現する教育であった。しかし、表現や教育への統制は強まり、国分は治安維持法により検挙される…「想画と綴り方~戦争が奪った子どもたちの“心”~」は、その歴史を掘り起こしていく。

テレビ教養番組部門優秀賞は、ノンフィクションW「野村家三代 パリに舞う~万作・萬斎・裕基、未来へ」(WOWOW)・チャンネル4「人生の湯 城下町の一角で・・・」(テレビ信州)・「沈黙の山」(チューリップテレビ)・ザ・ドキュメント「ファミリー 2人のママがいる」(関西テレビ放送)・メッセージ「回天 二つの心」(山口朝日放送)・「タミばあちゃんの終活 ~いのちと向き合った1年~」(宮崎放送)の6本。

表彰番組・事績 | 一般社団法人 日本民間放送連盟 (j-ba.or.jp)



「第57回ギャラクシー賞」テレビ部門大賞を受賞した、チャンネル4「カネのない宇宙人 閉鎖危機に揺れる野辺山観測所」(テレビ信州)。

「ギャラクシー賞」は、1963 年、テレビとラジオの可能性、影響力に着目し、その発展には必ず“批評”の力が必要であると考えた評論家、研究者、ジャーナリスト、作家らの有志によって創設された放送批評懇談会が、制作者たちの番組作りへの情熱に光を当てることを目的に誕生させた放送賞である。

「カネのない宇宙人 閉鎖危機に揺れる野辺山観測所」は、「はやぶさ」に代表される日本の宇宙科学の栄光の裏側で、苦境に立たされている研究現場を描く。長野県八ヶ岳の麓にある国立天文台・野辺山宇宙電波観測所は、国の政策によって資金が大幅に減り、閉鎖の危機に陥っている。観測所の存続をかけて奮闘する天文学者たちの姿を1年間を追う。

テレビ部門優秀賞は、NHKスペシャル「日本人と天皇」(日本放送協会)・「ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート」(テレビ東京)・「俺の話は長い」(日本テレビ放送網/オフィスクレッシェンド)の3本。

テレビ部門選奨 は、NNNドキュメント'19「防衛大学校の闇 連鎖した暴力…なぜ」(日本テレビ放送網)・福井テレビ開局50周年記念番組「聖職のゆくえ~働き方改革元年 ~」(福井テレビジョン放送)・ノーナレ「画面の向こうから―」(日本放送協会)・ドラマイズム「スカム」(毎日放送/avex pictures/「スカム」製作委員会)・BS1スペシャル「バレエの王子になる!“世界最高峰”ロシア・バレエ学校の青春」(日本放送協会/日本電波ニュース社)・「モジモジWORLD~ウソのようなフォントの話~」(オプテージ/eo光テレビ)・大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(日本放送協会)・NNNドキュメント'20「19人を殺した君と重い障がいのある私の対話」(北日本放送)・BSNスペシャル「芸術の価値 舞踊家金森穣16年の闘い」(新潟放送)・映像'20「『復興五輪』の陰で東北は…」(毎日放送)の10本。

https://houkon.jp/wp/wp-content/uploads/2020/07/PR_galaxy57_kettei.pdf



 さて、映画館でのドキュメンタリー鑑賞は、何本か予定していたがその多くを断念した。

何とか映画館(青森松竹アムゼ)へ行くことができたのは、11月の『はりぼて』(2020 五百旗頭幸男・砂沢智史監督)だけである。

 『はりぼて』の舞台は保守王国富山県。2016年、若い放送局「チューリップテレビ」のニュース番組が報じた「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」というスクープから半年の間に14人の議員が辞職していった。この富山市議会をめぐる狂騒曲を描いた『はりぼて』のような、地方発のドキュメンタリーを普通に映画館のスクリーンで観ることができたのは驚きである。この流れに期待したいのだが、例によって観客は少ない…

▼『はりぼて』予告編



 1~2月、青森県の映画館で上映されるドキュメンタリー映画を列挙してみるが、このうち何本鑑賞できるかは不確実。すべて、天候とコロナ感染状況次第である。

・『相撲道―サムライを継ぐ者たちーSUMODO』(2020 坂田栄治監督)青森シネマディクト1/9~15

・『NETFLIX/世界征服の野望』(2020 ショーン・コーセン監督)青森シネマディクト1/9~15

・『100日間のシンプルライフ』(2018 フロリアン・ダーヴィト・フィッツ他監督)青森シネマディクト1/16~29、フォーラム八戸1/22~28

・『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(2019 ダニエル・ロアー監督)青森シネマディクト1/16~22

・『ヨコハマメリー』(2005 中村高寛監督)青森松竹アムゼ1/22~28

・『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』(2020 ゲロ・フォン・ベーム監督)青森シネマディクト1/30~2/5

・「セルゲイ・ロズニツァ<群衆>ドキュメンタリー3選」フォーラム八戸1/29~2/4

『国葬』(2019) 

『粛清裁判』(2018)

『アウステルリッツ』(2016)

・『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』(2019 アシフ・カパディア監督)フォーラム八戸2/5~



<後記>

  しばらく「ドキュメンタリー時評」を発信していなかったこととテレビ・ドキュメンタリーについての言及がこの1年間なかったことが、ずっと気にかかっていて、少しまとまった形で提出しなければと思い続けていた。今回はこのような形で発信するが、取り上げるべき作品と出会ったらその都度紹介することを心がけたいと思う。『ザ・ベストテレビ2020』に取り上げられたテレビ・ドキュメンタリーの中には、私が注目していた作品もかなり含まれていたのだから。

 10月から陸奥新報にエッセイを掲載していることもあり、『越境するサル』は当分の間「ドキュメンタリー時評」が主になりそうである。そのほかの内容も考えてはいるのだが…




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2020年10月14日水曜日

【越境するサル】№.203「ドキュメンタリー時評 2020年10月 ~原一男監督、八戸へ~」(2020.10.14発行)

 9月は青森で2本、そして10月には八戸で1本、興味深いドキュメンタリー作品と出会った。特に八戸では、敬愛する原一男監督のトークに参加するという、貴重な体験もすることができた。

「ドキュメンタリー時評」第8回は、「原一男監督、八戸へ」と題して『れいわ一揆』(2019原一男監督)を中心に紹介する。



「ドキュメンタリー時評 2020年10月 ~原一男監督、八戸へ~」


2020年10月3日、八戸。降りしきる雨の中、十三日町「フォーラム八戸」にたどり着いた。『ゆきゆきて神軍』(1987)や『全身小説家』(1994)の原一男監督が、自らの作品『れいわ一揆』(2019)上映に合わせて八戸にやって来るというのだ。多少無理をしてでも行かなければならない。そう考え、数日前に決意した。


『れいわ一揆』は、2019年の参議院選挙で注目を集めた「れいわ新選組」の候補者たちを追ったドキュメンタリーだ。女性装の東大教授、闘う元コンビニ店長、公明党に反旗を翻す創価学会員、北朝鮮に弟を拉致されていた兄、元ホームレスのシングルマザー、ALSの身体障害者……候補者たちを束ねる山本太郎も負けてしまうような強烈な個性の候補者たち。女性装の東大教授・安富歩を中心にすえて構成された、2019年参院選の「闘いの記録」であるこの作品は、候補者たちの人間的魅力に支えられた見事な群像劇(※注)に仕上がっている。彼らひとり一人のその後がたまらなく気になる映画だ。

▼『れいわ一揆』予告編



休憩を挟んで248分の上映修了後、原監督とプロデューサー(撮影も担当)の島野千尋氏のトークを聴くことができたのは収穫だった。観客が少なかったのは残念だったが……。




さて、9~10月、青森市「シネマディクト」では、かなりの数のドキュメンタリーが上映された。これから上映予定のものも含めて列挙してみる。

・9/5~18『プラド美術館 驚異のコレクション』(2019 バレリア・パリシ監督)

・9/19~10/2『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』(2020 星野哲也監督)

・9/26~10/2『僕は猟師になった』(2020 川原愛子監督)

・9/26~10/2『zk 頭脳警察50 未来への鼓動』(2020 末永賢監督)

・10/3~23『マイルス・デイヴィス クールの誕生』(2019 スタンリー・ネルソン監督)

・10/24~11/13『メイキング・オブ・モータウン』(2019 ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー監督)


このうち、『プラド美術館』と『ジャズ喫茶ベイシー』を観ることができた。


『プラド美術館 驚異のコレクション』は、すでにこの通信で紹介しているように、2020年4月に公開予定だった映画である。だが、コロナの影響下、公開は延期となり、ようやく7月から全国公開された。青森県では9月にようやく上映の運びとなったが、長く待った甲斐があったというか、圧倒的な体験をすることができた。


ベラスケスとゴヤとエル・グレコをはじめとするプラド美術館の数々の至宝の映像はもちろん、館長や学芸員の詳細な解説、保存や修理の作業風景等々、美術館の全貌に迫る作品である。主要な画家の人生に踏み込んでいるところも評価したい。とりわけ、ゴヤに対して特別な思いを抱いている私にはありがたかった。


▼『プラド美術館』予告編


『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』は、岩手県一関市のジャズ喫茶「ベイシー」とそのマスター・菅原正二を描いた作品である。



50年の歴史を持つ「ベイシー」は、菅原のオーディオへのこだわりにより、世界一のサウンドが聴ける聖地としてジャズファンに愛されてきた。本作は、菅原と多くの人々(ミュージシャンを含む)のインタビューと「ベイシー」での貴重なライブ映像により、この店の魅力を余すところなく伝えている。

「ベイシー」を訪れる日は来るだろうか……。


▼『ジャズ喫茶ベイシー』予告編


 「フォーラム八戸」と「フォーラム盛岡」の今後の上映予定(上映中のものを含む)も紹介しておく。「シネマディクト」と同じように、音楽ものが充実している。


まず、「フォーラム八戸」。

・10/2~15『パヴァロッティ 太陽のテノール』(2019 ロン・ハワード監督)

・10/16~22『メイキング・オブ・モータウン』

・10/30~11/12『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』

・10/30~11/5『わたしは金正男を殺してない』(2020 ライアン・ホワイト監督)


 続いて、「フォーラム盛岡」。

・10/23~29『マイルス・デイヴィス クールの誕生』

・10/30~11/5『真夏の夜のジャズ 4K』(1959・2020 バート・スターン監督)

・11/6~12『メイキング・オブ・モータウン』


 

(※注)

原一男監督は、「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」でも見事な群像劇であるドキュメンタリー『ニッポン国VS泉南石綿村』(2017)を発表し、市民賞を獲得している。

https://www.yidff.jp/2017/cat013/17c026.html



<後記>

  とりあえず、県内で映画館に行くことは今後もできそうだ。次の「ドキュメンタリー時評」は、12月発信を目指す。ずっと王兵監督の特集を準備してきたが、どうなるか。

 次号は、「harappa映画館」の上映作品紹介。



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。




2020年8月3日月曜日

【越境するサル】№.202「ドキュメンタリー時評 2020年8月 ~<映画館という日常>への復帰~」(2020.8.3発行)


 7月、ようやく<映画館という日常>に復帰した。もちろん以前と全く同じ姿に戻ったわけではないが、少なくとも私(たち)の眼前には前と同じ大きなスクリーンがあり、傍らには観客がいる。「コロナ第2波」におびえながらも、私(たち)は映画館に足を運ぶ。
「ドキュメンタリー時評」第7回は、「<映画館という日常>への復帰」と題して、7月に映画館で出会った2本の作品を紹介する。



「ドキュメンタリー時評 2020年8月 ~<映画館という日常>への復帰~」


 2020年7月11日、八戸。降りしきる雨の中、十三日町「フォーラム八戸」にたどり着く。スーダンで生まれ、フランスで映画を学んだスハイブ・ガスメルバリ監督の『ようこそ、革命シネマへ』(2019)が、前日から上映されていた。


 一度、この映画を見逃していた。昨年の「山形国際ドキュメンタリー映画祭2019」の特集のひとつ「Double Shadows/二重の影2 映画と生の交差する場所」(※注)で上映されていたのだ(会場は山形市民会館小ホール他)。私はこの特集の15本のうち、2本だけを鑑賞した。
1950年代に北朝鮮を離れモスクワの映画学校で学ぶが、金日成体制を批判してソビエトに亡命した8人の映画人のその後を描いた『さらばわが愛、北朝鮮』(2017 キム・ソヨン監督)と、かつてタイのバンコクのマーケットに実在した、「アート系作品」を取りそろえた海賊ビデオ店をめぐる証言で構成された『あの店長』(2014 ナワポン・タムロンラタナリット監督)の2本である。実はこの2本との出会いは(そしてこの特集との出会いは)、私にとって映画祭最大の収穫であった。
だが、『木々について語ること~トーキング・アバウト・ツリーズ』という題名(原題)で上映された『ようこそ、革命シネマへ』は、前述のように見逃した。私は別のプログラムに参加していた。
 2019年、ベルリン国際映画祭パノラマ部門ドキュメンタリー賞・観客賞受賞など世界各地で高い評価を受けたこの作品は、2020年6月、ユーロスペースを皮切りに劇場公開され、東北の地でも映画館で観ることができるようになった(なお、『さらばわが愛、北朝鮮』も6月末から全国で順次公開されている)。







 『ようこそ、革命シネマへ』の登場人物は4人。イブラヒム、スレイマン、エルタイブ、マナル…1956年のスーダン独立後、1960~70年代にに海外で映画を学び映画作家・製作者になった彼らの作品は、海外でも高く評価されていた。しかし1989年の軍事独裁政権誕生後、彼らの表現の自由は奪われ、思想犯としての拘禁と国外亡命を余儀なくされた。長い年月を経て彼らはスーダンで再会するが、すでに国内の映画産業は崩壊し、映画館も姿を消していた。彼らは映画館を復活させるための行動を開始する。だが、彼らの前に、いくつもの壁が立ちはだかる…
 映画への愛、失われたものを取り戻すための粘り強い闘い、どんな時もユーモアを忘れない心性、そして土地の人々との確かな絆。監督の言う「希望の哲学」を私たちは感じ取り、心を揺さぶられる。これは、とてつもない映画だ。
 原題の『木々について語ること~トーキング・アバウト・ツリーズ』は、ドイツの劇作家・詩人ベルナルド・ブレヒトの詩「後世へ向けて」の中にある言葉である。「こんな時代に木々について語るなんて犯罪のようなものだ!それは恐怖や悪を前に沈黙するのと変わらない」(ブレヒト)…ガスメルバリ監督の強い「意志」を感じさせる題名である(この映画の完成直後、スーダンの独裁政権は打倒された。


▼『ようこそ、革命シネマへ』予告編
 




 7月17日、再び「フォーラム八戸」を訪れた。『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020 大島新監督)の初日だった。



 『なぜ君は総理大臣になれないのか』の主人公は、衆議院議員・小川淳也、49歳。当選5期を数える彼は、2019年2月の衆議院予算委員会で毎月勤労統計をめぐる不正を厳しく追及し、「統計王子」として注目を集めた。現在、立憲民主党代表特別補佐を務めているが、ここまでの彼の政治家人生は紆余曲折の連続であった…
 高松市生まれ(選挙区も高松市だ)の彼は、東京大学を卒業し、1994年、自治省に入省する。官僚への道を選択したのだ。しかし、2003年、「官僚では社会を変えられない」と、反対する家族を説得して衆議院選挙に民主党公認で出馬、落選。2005年、「郵政選挙」で比例復活当選。2009年、初めて選挙区当選。民主党鳩山由紀夫政権で総務大臣政務官を務める。しかし、2012年・2014年・2017年の総選挙は比例復活当選。自身の所属もこの間の民主党系の混乱そのままに、民主党・民進党・希望の党と変遷、希望の党の解党後は国民民主党に合流せず無所属となり、現在は立・民・社・無所属フォーラムに所属…そう、政権交代から自民党政権復活以降の激動(野党の、と言うべきか)の真っ只中にいて、もがき続けていたのが、この小川淳也なのだ。
 TVドキュメンタリーを数多く手がけてきた大島新監督は、2003年10月10日衆議院の日、民主党から初出馬した小川にカメラを向け、以来17年間彼を撮り続けてきた。その17年間の映像から私たちが目にするのは、地盤・看板・カバンを持たず、2005年初当選を果たすもその後もほとんど比例復活当選のため党内での発言力も弱く、なかなか出世しない彼の姿であり、それでも誠実に政治に向かおうとする彼の姿である。
映画のクライマックスである、民進党の希望の党への合流をめぐるドタバタ劇、そしてその当事者のひとりとして2017年の総選挙を闘い抜いた小川の「悲惨」な選挙戦。これは遠い昔の出来事ではない。私たち国民にとっても、いまにつながる「悲惨」な現実だった。
「なぜ君は総理大臣になれないのか」、家族も認める「政治家に向いていない」小川へのダメ出しのような、逆説のようなこのタイトルは、多くの評者が言うように、私たちに向けられている。私たちとは、主権者である国民、有権者のことだ……


▼『なぜ君は総理大臣になれないのか』予告編
 



 8月の青森・岩手のドキュメンタリー映画上映情報は、特にない。再び、ネット配信中心の鑑賞となりそうだ。

(※注)
「山形国際ドキュメンタリー映画祭2019」の特集「Double Shadows/二重の影2 映画と生の交差する場所」のホームペーシのアドレスは次の通り。


<後記>
 
  2本とも、八戸での鑑賞だった。県内で移動が出来るうちに映画館に行こう。そう考えて、間隔を置かずに八戸を訪れた。盛岡行きも考えたが、断念した……
 次の「ドキュメンタリー時評」は、事情により10月発信となる。どのような作品と出会うか、まだ不明である。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。


2020年7月3日金曜日

【越境するサル】№.201「ドキュメンタリー時評 2020年7月 ~<美術館>を待ちながら~」(2020.07.03発行)



「ドキュメンタリー時評」第6回は、「<美術館>を待ちながら」と題して、コロナ禍が依然続く状況の中、<美術館>と出会うドキュメンタリー映画について紹介する。



「ドキュメンタリー時評 2020年7月 ~<美術館>を待ちながら~」



 2020年4月10日、『プラド美術館 驚異のコレクション』(2019 ヴァレリア・パリシ監督)が公開され(ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか)、その後全国順次ロードショーする運びとなっていた。コロナ禍により海外の美術館へ行くことが不可能になってしまった状況の中、この映画の公開は微かな希望であり、多くの人がこの映画との出会いを心待ちにしていた。だが、コロナの影響下、公開は延期となった。私たちはしばらくの間待つことを余儀なくされた(同じく4月、私の住む街・弘前で開館する予定だった「弘前れんが倉庫美術館」も開館延期を余儀なくされていた…)。


そして、ようやく、7月24日からの公開が決定した。当初予定していた劇場からスタートしてその後全国順次ロードショー。わが青森県でも9月5日から青森市シネマディクトで上映されることになった。少し遅いが、映画館で鑑賞できるだけでもありがたい。昨年開館200周年を迎えた、スペインの首都マドリードが誇るベラスケスとゴヤとエル・グレコをはじめとするプラド美術館の数々の至宝を、スクリーンで堪能できる日を待ちたい。

▽『プラド美術館 驚異のコレクション』予告編

というわけで、『プラド美術館 驚異のコレクション』と出会うのはもう少し後になりそうなので、この数年間に鑑賞することができた、ヨーロッパの美術館についてのドキュメンタリー映画を回顧してみる。すべてDVD化されているものばかりで、私もその大半をレンタルで鑑賞した。
 海外の美術館に行くことはおろか、東京に行くことすらままならぬ昨今、せめて自宅で雰囲気だけでも味わおう…

 まず、イギリス・フランス・オーストリア・オランダ・ロシア・イタリアの世界的美術館のドキュメンタリー映画。6本とも話題作だ。

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014 フレデリック・ワイズマン監督)。190年以上にわたり人々に愛され続けてきたロンドン・ナショナル・ギャラリーに、ドキュメンタリー界の巨匠・フレデリック・ワイズマン監督が潜入、その日常と秘密に迫る。学芸員による卓越したギャラリートーク、美術品設置や額縁製作、絵画の修復などの手仕事…息づかいさえ聞こえてきそうな映像を堪能する3時間。私は映画館のスクリーンでこの作品を鑑賞したが、まさに至福の体験だった。


▽『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』予告編

 実は、ロンドン・ナショナル・ギャラリーについては、国立西洋美術館(東京・上野公園)で「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」が開催される予定だったが(2020年3月3日~6月14日)、これも新型コロナウィルスの感染予防・拡散のため開幕は延期された。
 新しい日程は、2020年6月18日~10月18日まで国立西洋美術館(東京・上野公園)、2020年11月3日~2021年1月31日まで国立国際美術館(大阪・中之島)。
「世界初開催!全61作品日本初公開」というキャッチコピーには強く惹かれるが、私は果たして行くことができるだろうか…


『パリ・ルーヴル美術館の秘密』(1990 ニコラ・フィリベール監督)。年間800万人が訪れる「世界最大」の美術館ルーヴル。館内の所蔵品約35万点を数えるこの美術館で働く1200名のスタッフの日々を記録した、ウィットあふれるドキュメンタリーである。学芸員、美術品を設置する人、金メッキ師、清掃員、庭師、音響学者、消防士…この作品では、展示されている美術品だけでなく、彼らも主役だ。


▽『パリ・ルーヴル美術館の秘密』予告編



『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』(2014 ヨハネス・ホルツハウゼン監督)。ヨーロッパ3大美術館のひとつにも数えられるウィーン美術史美術館。ハプスブルク家の美術品を守り続けてきたこの伝統ある美術館にもグローバル化の波は押し寄せる…創立120年となる2012年にスタートした大規模改装工事に2年以上にわたり密着したこのドキュメンタリーは、美術館の裏側とそこで働く人々の姿を見つめる。



▽『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』予告編



『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(2014 ウケ・ホーヘンダイク監督)。200年の歴史を誇るアムステルダム国立美術館の改修は、美術館を貫く公道の設計をめぐる市民との議論、建築家との対立、館長の交代など、さまざまな事情が錯綜し、工事は中断を余儀なくされた。10年に及ぶ閉館期間を経て再オープンにこぎ着けるまでの日々を追う…
『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(2008 ウケ・ホーヘンダイク監督の続編、というか完結編。


▽『みんなのアムステルダム国立美術館へ』予告編



『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』(2014 マージー・キンモンス)。世界三大美術館のひとつでもある、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館。世界最高峰の至宝の数々を高画質映像で紹介する、決定版ともいえるドキュメンタリー。美術館の歴史についても、過不足なくまとめられている。


▽『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』予告編



『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』(2015 ルカ・ヴィオット監督)。イタリア・ルネッサンスの最高峰、ウフィツィ美術館の収蔵品を紹介するドキュメンタリーだが、この美術館だけでなく、メディチ家歴代の美術コレクションと世界遺産の街・フィレンツェの街並みや建造物も堪能できる、最高のガイド。


▽『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』予告編



続いて、偉大な収集家であり、魅力的な美術館の創設者である、二人の女性を描いたドキュメンタリー。
『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』(2018 ジョヴァンニ・ピスカーリャ、ジョヴァンニ・ピスカーリア監督)。ゴッホ作品を世界一収集した富豪ヘレーネ・クレラー=ミュラーの人生に迫るドキュメンタリー。ゴッホの美術品300点を個人収集した彼女のコレクションにこの映画で出会うと、私たちはオランダ・クレラー=ミュラー美術館を訪れたくなる…



▽『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』予告編



『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』(2015 リサ・インモルディーノ・ヴリーランド監督)。水の都ヴェネツィアの重要なスポットである「ペギー・グッゲンハイム・コレクション」。個人のものとしては世界最大級のコレクションを有するこの美術館の創設者ペギー・グッゲンハイムの現代美術への情熱と、いまや伝説となった彼女と芸術家たちとの愛の遍歴の物語は、エキサイティングとしか言いようがない。


▽『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』予告編



 紹介するだけで、ヨーロッパ美術館巡りをしている気分になっている自分に気付く。皆さんも、ぜひ。



 7月(7/4~)の青森・岩手のドキュメンタリー映画上映情報を列挙する。少しずつ、日常が戻ってきた。

・「青森シネマディクト」
   『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』(2010 百崎満晴監督)7/4~24、
 『ハニーランド 永遠の谷』(2019 リューボ・ステファノフ、タマラ・コテフスカ監督)7/11~24

・「フォーラム八戸」
   『ようこそ、革命シネマへ』(2019 スハイブ・ガスメルバリ監督)7/10~16、
 『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020 大島新監督)7/17~30、
 『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』)7/17~23、
 『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』(2017 デニス・ベリー監督)7/24~30、
 『つつんで、ひらいて』(2019 広瀬奈々子監督)7/24~30、
   『ハニーランド 永遠の谷』7/31~8/13

・「フォーラム盛岡」
   『ようこそ、革命シネマへ』7/10~16、
 『なぜ君は総理大臣になれないのか』7/17~30、
 『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』)7/17~23、
 『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』7/24~30、
 『ハニーランド 永遠の谷』7/31~8/13


<後記>

  いろいろな意味で、「美術館を待ちながら」そして「映画館を待ちながら」の日々だった。ようやく、映画館での上映が再開され、「弘前れんが倉庫美術館」も6月の事前予約制プレオープンを経て7月11日よりグランドオープンの運びとなった。次号からは、映画館を訪れた報告を含む「ドキュメンタリー時評」をお届けできると思う。








(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。


2020年6月8日月曜日

【越境するサル】№.200「ドキュメンタリー時評 2020年6月 ~<仮設の映画館>でドキュメンタリー映画~」(2020.6.5発行)

 「ドキュメンタリー時評」第5回は、「<仮設の映画館>でドキュメンタリー映画」と題して、第4回に続いて新型コロナウィルス禍への映画界の取り組みの一つを紹介する。配給会社「東風」が提案したインターネット上の映画館―「仮設の映画館」がそれである。



「ドキュメンタリー時評 2020年6月~<仮設の映画館>でドキュメンタリー映画~」


 新型コロナウィルスの脅威に劇場・配給会社・製作者がさらされている中、「東風」は新作『精神0』(2020)の公開を控えた想田和弘監督と相談し、劇場公開と並行してインターネット上に「仮設の映画館」をつくることを決定した。賛同する全国各地の劇場の中から観客がどの映画館で作品を鑑賞するのかを選び、その鑑賞料金は「本物の映画館」の興行収入と同じく、それぞれの劇場と配給会社・製作者に分配されるという仕組みである。


 「映画がコロナ禍を生き延びるために 『精神0』を“仮設の映画館”で公開します 座して死を待つよりは」というメッセージを発信した想田和弘監督の思いに応えるべく、私もいくつかの作品を「仮設の映画館」で鑑賞することにした。もちろん最初は、「本物の映画館」での公開に先駆けて「仮設の映画館」で5月2日から全国一斉配信された『精神0』だ……

 『精神0』とはどのような映画か?
 2008年、想田監督は『選挙』(2007)に続く「観察映画」第2弾として、精神科を舞台にそこへ集う患者たちを真正面から捉えたドキュメンタリー『精神』を発表した。監督の強い意志により、患者ひとりひとりの顔にモザイクをかけないまま公開するなど、さまざまなタブーを打ち破ったこの作品は、世界の映画祭で高い評価を受けた。
かつて私は『精神』の自主上映に関わったが(弘前「harappa映画館―ドキュメンタリー最前線2012」)、その際自らの通信で次のようにこの作品を紹介した。
 「ナレーションもテロップもBGMもない、監督が『観察映画』と呼ぶその手法によって、私たちはいきなり外来の精神科診療所『こらーる岡山』の日常に投げ込まれる。しばらくの間、誰が患者で誰がスタッフかすら判然としない。この不安感がそのまま臨場感となって、以後患者たちの苦悩や山本医師とスタッフの苦労と私たちは付き合うことになる。まるで、彼らの傍らに居るかのように。」



この『精神』の主人公の一人である山本昌知医師が、82歳で引退することになった。地域の患者たちに寄り添って治療を続けてきた彼を慕う人々は戸惑う。だが彼は、長年苦労をともにしてきた妻・芳子さんとの新しい生活へ、少しずつ入っていく。それは、今までとは全く違う、静かな生活だ。時おり挿入される過去の映像が、二人の間に流れた歳月を示す。これは、「愛についての物語」だ…

▼予告編『精神0』



 『精神0』を鑑賞した翌日、『どこへ出しても恥かしい人』(2019 佐々木育野監督)を購入した。歌手・画家・詩人として今もカルト的人気を誇る友川カズキの日常を記録した作品である。中上健次・大島渚ら多くの文化人に支持され、ちあきなおみに「夜へ急ぐ人」を提供(作詞・作曲)したアーティスト・友川カズキについての映画…世代的にも、観ないわけにはいかない作品だ。


2010年夏に撮影した映像(彼は60歳だった)を10年かけて64分に凝縮した本作の中の友川カズキは、とにかく自由気ままに生きているように見える。川崎市内で一人暮らしを続け、競輪にのめり込み、絵を描き、ステージで絶叫し、打ち上げで酒を飲み…その奔放さだけが最初は印象に残る。だが、息子たち(一人ずつ)と一緒に競輪場を訪れ、彼らと会話を重ねる姿を見続けていくうちに、私たちは彼がただ気ままに生きているだけではないことに気づき始める。彼は、自分の生き様を通じて、息子たちに何かを伝えようとしている。そしてその生き様は、何気ない日常の中にあるのではないか。
映画の後半、ちあきなおみが歌う「祭りの花を買いに行く」(作詞・作曲 友川カズキ)が挿入され、私たちは確信する。こんなにも「日常」を慈しむ、詩人なのだ、友川カズキは。

▼予告編『どこへ出しても恥かしい人』




 1週間後、『だってしょうがないじゃない』(2019 坪田義史監督)を購入した。監督が、広汎性発達障害を持つ親戚の叔父さん(どうも「従兄弟違い」という関係らしい)と交流した、3年間を記録した作品である。


 自身が「ADHD(注意欠如多動性障害)」と診断された坪田監督は、親族から発達障害を抱えながら一人暮らしをする親戚の存在を知らされ、カメラを持って会いに行く。その親戚・まことさんは、長年一緒に暮らした母親の死後8年間、後見人の叔母の支援を受けながら、障害基礎年金を受給しながら暮らしていた。
さまざまな人々の支援を受けながら、危なっかしい、しかし独特の感性で日々を送る障害者の「まことさん」と、自身も鬱や不眠に悩む「義史さん」(坪田監督)の、ちょっと不思議で親戚特有の信頼感にあふれた交流の日々。亡くなった母親の記憶、野球観戦、焼き肉、カラオケ、いつか行くかもしれない施設の見学…エンドロールが流れたとき、誰もが「その後のまことさんと監督が観たい」と思ってしまう、珠玉の一篇。

▼予告編『だってしょうがないじゃない』

 

 さらに1週間後、『プリズン・サークル』(2019 坂上香監督)を購入した。官民協働の新しい刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」を取材したドキュメンタリー映画。取材許可まで6年、撮影に2年、初めて日本の刑務所にカメラが入った作品である。




 民間が担う警備と職業訓練、自動化されたドアの施錠や食事の搬送、管理された受刑者監視システム…私たちはその新しさに目を奪われるが、この刑務所が画期的なのは、受刑者同士の対話をベースにした更生のプログラム「TC(回復共同体)」が日本で唯一導入されていることだ。
米国の受刑者を取材し続けてきた坂上監督は、本作において、窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死などで服役する4人の若者に焦点を当てる。彼らは、「TC」のプログラムを通して、自らが犯した罪と向き合いながら、幼いころに経験した貧困や虐待、そしていじめの記憶とも向き合い、少しずつ感情や言葉を獲得していく。そのプロセスに私たちは、「暴力の連鎖」を克服していく、かすかな「希望」を感じる…

▼予告編『プリズン・サークル』



 「仮設の映画館」は、ミニシアターを中心とした60館以上の劇場、8つの配給会社による12作品が参加し、当初3週間ほどを予定していた。しかし、いまだ再開の目処が立たない劇場もあることから、しばらく延長されることとなった。私たちも今後の経過を注視するべきだろう。

 なお、『精神0』は「フォーラム八戸」(八戸市)、『どこへ出しても恥かしい人』は「シアターキノ」(札幌市)、『だってしょうがないじゃない』は「ポレポレ東中野」(東京都中野区)、『プリズン・サークル』は「フォーラム盛岡」(盛岡市)から、それぞれ購入した。すべて、4月以降私が行く予定を立てていた劇場だ…


<後記>
  「ドキュメンタリー時評」、今回も「ネット配信」による取り組みの紹介だった。次号も、コロナウィルス禍とドキュメンタリー映画、に関する内容となる予定だ。キーワードは「美術館」、あるいは「美術館の映画」。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。


2020年5月15日金曜日

【越境するサル】№.199「ドキュメンタリー時評 2020年5月 ~ネット配信でドキュメンタリー映画~」(2020.05.15発行)

 「ドキュメンタリー時評」第4回は、「ネット配信でドキュメンタリー映画」と題して、
新型コロナウィルス感染拡大によって全国のミニシアターが存続の危機に瀕している中、
「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」への寄付を目的とする企画で出会った作品たちを紹介する。


「ドキュメンタリー時評 2020年5月 ~ネット配信でドキュメンタリー映画~」


 「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」は、緊急事態宣言・政府からの外出自粛要請が続く中、閉館の危機にさらされている全国の小規模映画館「ミニシアター」を守るため、映画監督の深田晃司氏・濱口竜介氏が発起人となって有志で立ち上げたプロジェクト。 
                                                                                       
 ドキュメンタリー映画専門の動画配信サービスを行う「アジアンドキュメンタリーズ」は、この基金に賛同し、基金に対して寄付を行うために、「ミニシアター応援プロジェクト」を実施した(4/17~5/14)。プロジェクトには、ドキュメンタリー映画の作り手から「チャリティ作品」が無償で提供され(※注)、これらの作品の視聴料が寄付の対象となる。

 この期間中に出会った(あるいは再会した)「チャリティ作品」についていくつか紹介する。

 まず、『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2014 金 聖雄監督)。1963年に埼玉県狭山市で女子高生が殺害された「狭山事件」。自白の強要や証拠のねつ造によって犯人とされ、現在も無実を訴え続けている石川一雄さんと、その妻の早智子さんの日常を、金 聖雄監督が寄り添うように記録していく。かつての「狭山闘争」、石川氏の無実を信じて闘われた高裁闘争から最高裁闘争の日々を知っている世代としては、胸が締め付けられるようなドキュメンタリーである。


▼予告編『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』



 金監督の作品は、私たちが弘前市の「harappa映画館」で上映した『袴田巖 夢の間の世の中』(2016)や、冤罪被害者たちの交流を描いた『獄友』(2018)、初期作品『花はんめ』(2004)も今回の「チャリティ」に提供されている。金監督には「harappa映画館」でシネマトークもお願いしたが、その際の氏の飾らない人柄、そして気骨あふれる語り口を思い出す。今回の「ミニシアター応援プロジェクト」に寄せられた、氏の言葉に耳を傾けよう。
「フィクションもドキュメンタリーもまず“売れるか?”ではなく、自分の目で確かめて良質な作品の上映を続けてきたミニシアター。一癖も二癖もある館主達の顔が浮かぶ。こんな時だからこそ、つくり手と映画館と配信と志をひとつにあらゆる形で映画を届けたい」(映画監督 金聖雄)


▼予告編『袴田巖 夢の間の世の中』


▼予告編『獄友』


 次に、『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(2011 イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ監督)。パレスチナの民衆抵抗運動の中心地・ビリン村に住むイマードは、末っ子の誕生を機にビデオカメラを手に入れる。そのカメラで、イスラエル軍によって「分離壁」が築かれ耕作地を強制的に奪われた村人の末非暴力のデモをイマードは記録し続ける。イスラエル軍の銃撃により被弾し、壊されたカメラの数は5年間でのべ5台…パレスチナ人とイスラエル人の監督が共同で作り上げたドキュメンタリー映画である。


▼予告編『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』



  続いて、『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』(2005 綿井健陽監督)。映像ジャーナリスト綿井健陽による、米軍のバグダッド空爆とその後の占領のリポート。イラク戦争開戦直前にイラクに入り、1年半の取材で123時間の映像を記録。イラク市民の視点、とりわけ傷ついた家族と子供たちの視点で戦争の惨禍を刻んだ、記念碑的なドキュメンタリー映画である。彼が現地から送り続けたリポートの衝撃を私たちは忘れない。


▼予告編『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』



 思わぬ出会いとなったのが『チベット チベット』(2001 キム・スンヨン監督)。2005年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたが、見逃していた作品だ。行き先を決めないままビデオカメラを片手に旅に出た在日韓国人3世のキム・スンヨン監督は、ふとしたきっかけからチベット人たちが亡命している北インド・ダラムサラを訪ねる。ダライ・ラマ14世への同行取材、チベットの人々との対話を通して、自分自身の民族性を見つめ直していく過程が描かれる…。


▼予告編『チベット チベット』



 また、この期間中、もう一つの企画「いのちを守る STAY HOME週間」(4/25~5/6)で無料配信されていた『ボクシング・フォー・フリーダム~差別に立ち向かうアフガニスタンの少女~』(2015ホアン・アントニオ・モレノ、シルビア・ベネガス監督)を観ることもできた。男性優位のアフガニスタン社会の中で、激しい批判や脅迫の対象となりながら懸命に活動を続ける若きボクサー、サダフ・ラヒミの奮闘を記録した作品。タリバン政権時代、難民としてイランに9年間逃れ、その後帰還した彼女の家族の物語でもある。


▼予告編『ボクシング・フォー・フリーダム』



「ミニシアター」を守り、しかも私たちは素晴らしい作品と出会う…それが可能だと信じよう。

(※注)
チャリティ作品
◆伊藤めぐみ監督
『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』(2013)
◆イマード・ブルナート監督・ガイ・ダヴィディ監督                 
『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(2011)※4月30日まで
◆ジョン・シェンク監督                              
『南の島の大統領 -沈みゆくモルディブ-』(2011)
◆キム・スンヨン監督
『チベットチベット』(2008)
◆金 聖雄監督
『獄友』(2018)【日本初配信】
『袴田巖 夢の間の世の中』(2016)【日本初配信】
『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2014)【日本初配信】
『花はんめ』(2004)【日本初配信】
◆笹谷遼平監督 『馬ありて』(2019)
◆朴 壽南監督『ぬちがふぅ -玉砕場からの証言-』(2012)【日本初配信】
◆古居みずえ監督 『ぼくたちは見た〜ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)
◆本田孝義監督 『モバイルハウスのつくりかた』(2011)
◆山田和也監督 『プージェー 』(2006)
◆綿井健陽監督『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』(2005)


<後記>

  4回目の「ドキュメンタリー時評」は、コロナ禍の中「ネット配信」という形で局面を打開しようとする動きのひとつを紹介した。私も3月から映画館には行っていない。「ミニシアター」を守るため、このような形のプロジェクトがあることを伝えたいと思う。次号も、このような動きのひとつを紹介したいと思う。もちろん、そこで出会った作品への思い入れを語りつつ。


(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。