2023年3月、いくつか目的があって東京に滞在した。わずか3日ほどの旅だったが、結局珈琲放浪を中心に計画を立てている自分がいた。
そういえば、しばらく「珈琲放浪記」を発信していない。旅行が制限されていたというのが一番大きな理由だが、その間も私はさまざまな珈琲と出会い、前と同じように珈琲中心の日々を過ごしていたのだ。前号の「函館幻視行」も、何割かは「珈琲放浪記」と言えるような内容だった。
しばらく、「珈琲放浪記プラス」という形で、出会った珈琲について(もちろんそれ以外の出会いも含めて)語り始めたいと思う。まずは今回の東京滞在から、3本ほど。
「珈琲放浪記プラス~『エゴン・シーレ展』から御茶ノ水へ~」
2023年3月14日。12時2分、上野駅着。ずっと東京には来ていなかった。もちろん、コロナ禍のせいだ。美術館も、博物館も、映画館も、すべて断念していた。というか、計画を立てる気力がなかった。せいぜい、近隣の街(県内か、隣県)に行くぐらいしか思い浮かばなかった。
ようやく東京に来る気になったのは、東京都美術館で「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が開催(1/26~4/9)されているからだ。若いときから、私にとってエゴン・シーレは特別な存在だった。彼を描いた2本の映画(1980『エゴン・シーレ 愛欲と陶酔の日々』、2016『エゴン・シーレ 死と乙女』)の影響もあるが、美術の門外漢である私が画集を購入したりしたのだから、相当入れ込んだと言っていい。
2019年(4/24~8/5)、国立新美術館で開催された「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」でも直にシーレ作品のいくつかを鑑賞することは出来たが、いつか本格的なシーレ展と出会いたいものだと思い続けていた。そして、その日は来た……
この日、東京では桜が開花。春の到来を体全体で受けとめた人々で溢れる上野公園を歩く。東京都美術館まで、まっすぐに。
30年ぶりの日本での回顧展、全14章でシーレの作品50点を含む同時代の画家の作品120点、そのうち風景画のコーナーは撮影可……なんという、濃密な時間だ。遠くから、この時間を過ごすために、はるばるやって来たのだ……
ミュージアムショップで長い行列の末公式図説と絵はがきを購入し、美術館をあとにした。
すぐ、ホテルのチェックインのため、上野駅から御茶ノ水駅に向かう。かなり密なスケジュールを組んでいたため、カフェに寄っている余裕もなかった。
御茶ノ水駅からほど近い、明治大学に隣接する「山の上ホテル」を1ヶ月前に連泊で予約していた。
チェックインを済ませ、ようやく珈琲にありつくことにした。行く店は決めていた。ホテルからすぐ、明大通りの「古瀬戸珈琲店」。深煎りの「古瀬戸ブレンド」が飲めるはずだ。
初めての店だが、隣の古書店「文庫川村」には文庫や新書を求めて訪れたことがあった。
大勢の客で賑わう店に入り、カウンターに座って一息つく。もちろん注文は、「ブレンド」。選択した白い磁器のカップで、ゆっくり口に運ぶ。しっかり苦いが、優しい深煎りだった。この滞在中、出会った深煎り珈琲はみな一様に優しい飲み口だったが、それを象徴するような最初の一杯……
その後、古い友人たちと会うために、飯田橋に向かった……
夜、もうすでにお気に入りになったホテルに「帰宅」する。この感覚を味わいたいから、滞在するのだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿