2019年9月30日月曜日

【越境するサル】№.192「今年出会ったドキュメンタリー 2019年7-9月期」(2019.9.29発行)


2019年7-9月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。


         「今年出会ったドキュメンタリー 2019年7-9月期」

   2019年7月から9月までに観たドキュメンタリーを列挙する。スクリーンで観た映画は3本、あとはDVD等での鑑賞。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、はテレビ・ドキュメンタリー。

7月・・・『カンパイ! 日本酒に恋した女たち』(2019 小西未来サンプル)
     『エリック・クラプトン 12小節の人生
       (2017 リリ・フィニー・ザナック)
     『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』
       (2018 ミシェル・マリー 青森シネマディクト)

         EU離脱交渉官の苦悩』(2019 BS世界のドキュメンタリー)
     『反骨の考古学者 ROKUJI』(2019 ETV特集)
     『山小屋弁護士~65歳、自分の生き方を貫く男~
       (2019 テレメンタリー)
     『シリーズ・子どもたちの夢「チベット・遥かな心の旅~中国~」
       (2018 BS1)
     『心ひとつに~華麗に舞う組踊り~
       (2019 NNNドキュメント 青森放送制作) 
     『使い捨て異邦人~苦悩する外国人労働者たち~』
       (2019 ドキュメントJ)
     『少年騎手の宿命~インドネシア 島物語~』
       (2019 BS世界のドキュメンタリー) 

8月・・・『伝説の怪奇漫画家 日野日出志』(2019 寺井広樹
     『主戦場』(2019 ミキ・デザキ フォーラム盛岡
     『マルジェラと私たち』(2017 メンナ・ラウラ・メイール
     『日本で働くということ~覚悟を決めた中国人~』
       (2019 ザ・ノンフィクション特別編)
     『私は何者なのか~名前も奪われた原爆孤児~』
       (2019 テレメンタリー)
     『忘れられたひろしま千人が演じたあの日~』
       (2019  ETV特集)
     『ベリングキャット~市民が切り開く調査報道~
       (2019 BS世界のドキュメンタリー)
     『琉球難民~証言と記録でたどる台湾疎開』(2019ドキュメントJ)
     平成ニッポンを歩く 報道カメラマン80歳 日本縦断(西日本編)2019 NNNドキュメント)
     『三鷹事件 70年後の問い~死刑囚・竹内景助と裁判~
       (2019 ETV特集)
     『サテライトの灯~消えゆく母校
       (2018 27回FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞)
     『史実を刻む~語り継ぐ戦争と性暴力
       (2019 テレメンタリー)

9月・・・『バスキア、10代最後のとき』(2017 サラ・ドライバー)
     『私は、マリア・カラス』(2017トム・ボルフ)
     『ボールを奪え パスを出せ/FCバルセロナ最強の証』
       (2018 ダンカン・マクマス)
     『ウッドストック~伝説の音楽フェス 全記録~前・後編
       (2019  BS世界のドキュメンタリー)
     『刑罰と治療~クレプトマニアという闇~
       (2019 NNNドキュメント)
     『昭和天皇は何を語ったのか~初公開拝謁記に迫る~
       (2019 ETV特集)
     『生ききる』(2019 ドキュメントJ)
     『死ぬために生きる人々 インドネシア・トラジャ』
       (1996 素晴らしき世界の旅・プレミアムカフェ)
     『辺野古 基地に翻弄された戦後』(2019 ETV特集)


毎回、「収穫」を選んでいるが、今回も数本紹介する。まず、映画から。

『カンパイ! 日本酒に恋した女たち』(2019 小西未来 サンプル)。『カンパイ! 世界が恋する日本酒』(2015)から3年、小西未来監督が日本酒の世界に生きる3人の女性の姿を描く。百年以上続く広島の酒蔵を継いだ女性杜氏、日本酒の魅力を世界へ発信するニュージーランド出身の日本酒コンサルタント、フードペアリングで旋風を巻き起こしている日本酒ソムリエ。彼女たちの活躍は、かつて女人禁制だった日本酒の世界をあきらかに進化させている。3人のストーリーと「現在」を追う。



エリック・クラプトン 12小節の人生』(2017 リリ・フィニー・ザナック)。グラミー賞18回受賞、ロックの殿堂入り3回、「ギターの神様」エリック・クラプトン。彼の激動の人生を、ヤードバーズ、クリームなどのバンド期、そしてソロ活動の未発表映像を中心にした映像群、本人によるナレーションで描く。ジョージ・ハリスン、ジミ・ヘンドリックス、BB・キング、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ、ボブ・ディランなどのアーカイブ映像も満載、貴重な記録となっている。母親に拒絶された少年時代、親友ジョージ・ハリスンの妻への恋、ドラッグとアルコールに溺れた日々、最愛の息子の死エリック・クラプトン自らが語る天国と地獄の人生。



『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』(2018 ミシェル・マリー 青森シネマディクト)。19世紀末から20世紀初頭のウィーン、クリムトとエゴン・シーレは人間の不安や恐れ、エロスを描いた新しい絵画作品を次々と生み出していった。そしてその時代は、ジークムント・フロイトの精神分析学が誕生し、音楽、建築、文学にも新しい波が押し寄せた時代であった。封建的なウィーンの秩序は揺れ動いたアルベルティーナ美術館、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館、美術史美術館、分離派会館、レオポルド美術館、ウィーン博物館、ジークムント・フロイト博物館を巡りながら堪能する、ウィーン黄金時代の始まりと終わり。各界を代表する一流のコメンテイターたち、ナビゲーターをつとめるイタリアの新進気鋭の俳優ロレンツォ・リケルミー、そして日本語ナレションを担当する俳優の柄本佑にも注目だ。



伝説の怪奇漫画家 日野日出志』(2019 寺井広樹)。日野日出志、「蔵六の奇病」「地獄変」などで知られる日本ホラー漫画の巨匠。これまで謎に包まれてきた彼の人生を、本人インタビュー、関係者インタビュー、秘蔵写真、プライベート映像で構成する、日野日出志の素顔に迫るドキュメンタリー映画。登場する関係者は、赤塚りえ子、みうらじゅん、伊藤潤二、犬木加奈子、御茶漬海苔、里中満智子、しりあがり寿、手塚眞、ナカジマノブ(人間椅子)、のむらしんぼ、古谷三敏、三浦みつる、山咲トオルそして俳優の八名信夫との貴重な特別対談。監督・撮影は、日野プロダクションを日野日出志とともに設立した寺井広樹。



『主戦場』(2018 ミキ・デザキ フォーラム盛岡)。日系アメリカ人映像作家ミキ・デザキが慰安婦問題をめぐる論争をさまざまな角度から検証、分析したドキュメンタリー。慰安婦たちは「性奴隷」だったのか、本当に「強制連行」はあったのか、元慰安婦たちの証言はなぜブレるのか、日本政府の謝罪と法的責任とは慰安婦問題をめぐるさまざまな議論を検証するため、デザキは日・米・韓の論争の中心人物たちへのインタビューを試み、ニュース映像や記事の分析を続ける。映画の中では「歴史修正主義者」とされているケント・ギルバート、藤岡信勝、杉田水脈、櫻井よしこ、加瀬英明等。対抗するリベラル派の吉見義明、渡辺美奈、中野晃一等。双方の意見を丹念に対比させ、アメリカのドキュメンタリーらしく速いテンポでつないでいくこの作品は、タブーとなりつつあった慰安婦問題の「主戦場」を指し示すことができるのか。



『バスキア、10代最後のとき』(2017 サラ・ドライバー)。ニューヨーク、イースト・ビレッジの路上生活者から、20世紀を代表するアーティストになったジャン=ミシェル・バスキア。1970年代から1980年代のニューヨークのムーブメントを追いながら、無名時代のバスキアの生活に迫るドキュメンタリー。どのようにして天才バスキアが生まれたのか、数々の証言と映像が生々しい。サラ・ドライバー監督は、この映画の中にも登場するジム・ジャームッシュ監督のパートナーである。



『私は、マリア・カラス』(2017トム・ボルフ)。1977年急逝した「20世紀最高のソプラノ」マリア・カラスの波乱に満ちた生涯を、未完の自叙伝やプライベートな手紙、そしてマリア・カラス本人の劇場での歌や映像で綴った貴重なドキュメンタリー。ひとりの女性として幸せを求めた彼女の、真実の姿を私たちは垣間見る



テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

反骨の考古学者 ROKUJI』(2019 ETV特集)。弥生時代の研究に生涯をかけた、伝説の考古学者・森本六爾(1903-36)。日本の農耕の開始について、狭いアカデミズムに抗して真実を求め続けた凄絶な人生を、埋もれていた六爾の野帳ノートの調査をもとにドキュメンタリーとドラマで構成した意欲作。ドラマ部分の出演は、六爾役に「ハライチ」の岩井勇気、共に闘った妻・ミツギ役に伊藤沙莉。

シリーズ・子どもたちの夢「チベット・遥かな心の旅~中国~」』(2018  BS1)初回放送は20181026日。第35回ATP賞テレビグランプリ・ドキュメンタリー部門優秀賞受賞。さまざまな困難と闘いながら夢を持って生きるアジアの子どもたちを、その国のディレクターが密着して描く3本シリーズの1本。急速な市場経済化が進む中国・チベット。離婚の増加で孤児院に預けられる子どもが増えている。父に会うため、あるいは母に会うため、長旅に出ることを決意した少女たちの姿を追いかける。

『忘れられたひろしま千人が演じたあの日~』(2019 ETV特集)。原爆投下から8年後の1953年、広島で製作された日本映画史上最大級のスケールを誇る映画『ひろしま』。原爆体験者の手記『原爆の子』をもとに関川秀雄が監督し、8万人を超える市民が撮影に参加、岡田英次・月丘夢路・山田五十鈴・加藤嘉らが出演した。「原爆投下直後の広島で何があったのか」を被爆者自らが演じたたこの作品は、ベルリン国際映画祭で長編劇映画賞を獲得するなど国際的にも高い評価を受けたが、内容が反米的と判断され一般の映画館では上映されなかった。そして、その存在は徐々に忘れられていった時代に翻弄された『ひろしま』のその後を辿り、現在の状況までしっかりと押さえたドキュメンタリー。なお、映画『ひろしま』はこの8月17日(16日深夜)、NHK(Eテレ)で放送された。

『琉球難民~証言と記録でたどる台湾疎開』(2019 ドキュメントJ)。制作:RBC琉球放送(2019220日放送)。沖縄戦の前年、沖縄から台湾へ1万人以上が国策として疎開した。沖縄戦の足手まといとなる高齢者、女性、子供たちである。その実態は近年まで本格的な調査・研究がなされず、「埋もれた歴史」となっていた。彼ら疎開者の台湾での苦難、戦後の引揚における悲劇に光をあてるナレーションはTHE BOOMのボーカリスト・宮沢和史。

サテライトの灯~消えゆく母校』(2018 27回FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞)。第27回FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞作品。初回放送は2018930日深夜、制作は福島テレビ。福島県内に唯一残されたサテライト校・相馬農業高校飯舘校は9.11」後飯舘村から福島市に避難した学校。それから7年、生徒たちは別の高校の敷地内にあるプレハブ校舎で学んでいる。通うのは、さまざまな事情を抱えた飯舘村以外の出身者が9割以上。避難指示の解除、飯舘村への帰還が進む中、いつか飯舘校は村に帰る飯舘校演劇部の生徒たちは愛したプレハブの校舎が無くなるその日を想像し、芝居『サテライト仮想劇いつか、その日に、』を上演し、母校への思いを訴え続ける。(なお、826日のBSフジ「FNSドキュメンタリー大賞」では福島県双葉町~原発と生きるということ~』を放送すると予告されていたが、この『サテライトの灯~消えゆく母校』が放送された。どちらも重要な作品である。

ウッドストック~伝説の音楽フェス 全記録~前・後編』(2019  BS世界のドキュメンタリー)原題:Woodstock: Three Days that Defined a Genaration、制作:ARK MEDIA PRODUCTION(アメリカ 2019)。40万人の若者を集めた伝説の野外コンサート「ウッドストック」から今年で50年。残された映像から全貌を伝える。「ウッドストック」を企画した、運営経験のない4人の若者達たちは様々なトラブルに直面した。保守層の抵抗から変更を余儀なくされた会場、開演後も続く突貫工事の設営、予想を上回る観客の集結による周辺道路の渋滞しかし、混乱の中始まったコンサートは地元住民の協力に支えられ、最終日まで持ちこたえる。そして、ジミ・ヘンドリックスの伝説のライブで幕を閉じる。

『生ききる』(2019 ドキュメントJ)。制作SBC信越放送(初回放送:2019522日)。長野県上田市の戦没画学生慰霊美術館・無言館館主の窪島誠一郎さん(77歳)。早世した天才画家・村山槐多の絵を追って東京から移住、1979年、夭折画家の作品を集めた「信濃デッサン館」を開館。その後、戦争で亡くなった画学生たちの絵を全国の遺族を訪ね歩いて集め、1997年、「無言館」を開館する。しかし、時代の移り変わりの中で経営は苦しくなり、窪島さんもくも膜下出血で死の淵をさまよう。戦没画学生の遺族と交わした「この絵を守ります」という約束を果たすため、彼はある決断を下すナレーションは歌人・福島泰樹。


<後記>

  映画館で観ることができたのは2本だけ。その分、テレビ・ドキュメンタリーのチェックには身を入れたつもりだが、見逃した作品も多い次号は10月の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の報告の予定。「珈琲放浪記」という形にしたいと考えている。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。


2019年9月20日金曜日

【越境するサル】№.191「アルモドバル、シュレンドルフ、そして『ライ麦畑…』~上映会への誘い~」(2019.8.31発行)


9月28日、harappa映画館は「こんな愛もある」と題して3本の「洋画」を上映する。
 スペインの巨匠アルモドバルとドイツの名匠シュレンドルフの最新作、サリンジャーの謎の生涯に迫る実録どれも話題性は充分、もちろん映画の質も保証付き。スクリーンで観る価値ありの3本。


「アルモドバル、シュレンドルフ、そして『ライ麦畑』~上映会への誘い~」

  「第31harappa映画館」で上映される作品は、『ジュリエッタ』(2016 ペドロ・アルモドバル監督)・『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(2017 ダニー・ストロング監督)・『男と女、モントーク岬で』(2017 フォルカー・シュレンドルフ監督)の3本。私にとっても、思い入れのあるラインナップとなった。

   『ジュリエッタ』の監督ペドロ・アルモドバルは、1951年スペインで生まれた。1967年、映画監督になる夢を抱いてマドリードへ移るが、フランコ独裁政権によって国立映画学校は閉鎖。以後さまざまな仕事に従事し、フランコ政権から民主化へ移行するなかで起こった反権威的な芸術運動に参加。1980年、初の長編映画を自主制作、初期作品の独特なストーリーと世界観、強烈な色彩感覚は国内外で注目された。
 7本目の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(1988)でヴェネツィア国際映画祭脚本賞を受賞、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされ、国際的に高い評価を受ける。以後、『キカ』(1993)、『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999、アカデミー外国映画賞)、『トーク・トゥ・ハー』(2002、アカデミー脚本賞)、『ボルベール〈帰郷〉』(2006、カンヌ国際映画祭脚本賞)等々多くの作品を発表し、巨匠と呼ぶにふさわしい活躍を続けている。


  『ジュリエッタ』は20本目の長編監督作品で、主人公ジュリエッタの現在をエマ・スアレス、若い頃のジュリエッタをアドリアーナ・ウガルテが演じている。20164月にスペインで一般公開され、6月には第69回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映された。9月には、第89回アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表に選ばれている。
  物語はスペイン・マドリードから始まる。一人で生活しているジュリエッタは、信頼する恋人ロレンソにも打ち明けられない秘密を持っていた。ある日、音信不通の一人娘を見かけたと知人に言われ、衝撃を受ける。一人娘のアンティアは、12年前に理由を語らぬままジュリエッタの前から消えてしまっていた。封印していた過去と向き合い、娘との和解を求めて苦悩するジュリエッタ見事な色彩と、物語の世界に引き込むテンポと、観終わったあとの心地よい余韻を、私たちは堪能する。




   『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』は、201911日に生誕100周年を迎えた小説家JD・サリンジャー(1919-2010)の半生を描いたドラマ。
  1951年に出版された、作者の分身ともいうべきホールデンを主人公とする『ライ麦畑でつかまえて』は、その内容が反道徳とされて保守層から非難されるが若者たちの圧倒的な支持を受けた。現在までに6000万部以上の売り上げを記録し、日本でも1964年に野崎孝訳(『ライ麦畑でつかまえて』、白水社)が、2003年に村上春樹訳(『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、白水社)が出版されている。
  1953年、短編集『ナイン・ストーリーズ』、1961年、『フラニーとズーイ』、1963年、『大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア序章』を発表。この「グラース家」シリーズは刊行が続くものと思われたが、1965年発表の『ハプワース161924年』を最後に完全に沈黙、作家業から事実上引退した。以後、晩年に至るまで、その生活は謎に包まれていた。

  『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の監督は、本作が長編監督デビュー作となるダニー・ストロング。サリンジャー役をニコラス・ホルト、師匠バーネット役をケビン・スぺイシーが演じる。原作は、『サリンジャー 生涯91年の真実』(ケネス・スラウェンスキー著、田中啓史訳、晶文社)。
  描かれているのは、20歳で作家を志望した1939年から、作家活動を引退した1960年代までの日々。コロンビア大学の創作学科に編入したサリンジャーは、ウィット・バーネット教授との出会いにより才能を開花させ、教授が編集長をつとめる文芸誌で初めて原稿料を手にする。その後、出版社が発行する文芸誌への作品掲載が決定するが、第二次大戦により掲載は見送られ、サリンジャーも召集により戦地に赴く。最前線で地獄を体験した彼は、戦後もそのトラウマに苦しみながら初長編『ライ麦畑でつかまえて』を完成させる。そして、突然、名声を手に入れる師バーネットとの「つながり」が心に残る作品である。



 
  『男と女、モントーク岬で』は、『ブリキの太鼓』(1979)などで知られるドイツの名匠フォルカー・シュレンドルフが描く「大人のラブストーリー」である。そのように、キャッチコピーでは謳っている。
  フォルカー・シュレンドルフは1939年生まれのドイツの映画監督・脚本家。19601980年代、世界の映画界を席巻したドイツの映画運動ニュー・ジャーマン・シネマの代表的監督である。
  『テルレスの青春』(1966)、ハインリヒ・ベル原作の『カタリーナ・ブルームの失われた名誉』(1975、マルガレーテ・フォン・トロッタと共同監督、なおトロッタとは1971年結婚)で評価を確立した後、1979年にギュンター・グラス原作の『ブリキの太鼓』を発表。この作品は、第32回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)受賞、翌1980年の第52回アカデミー外国語映画賞を受賞した。



 『男と女、モントーク岬で』では、ハリウッドで活躍するスウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドと、harappa映画館でも上映した『東ベルリンから来た女』(2012)・『あの日のように抱きしめて』(2014)の主演女優ニーナ・ホスが共演している。
  舞台はニューヨーク。過去の恋の思い出を綴った新作小説を書き上げた作家のマックスは、そのプロモーションのためニューヨークを訪れた。そこで彼は、かつての恋人レベッカと再会する。レベッカはなかなか彼と会おうとはしなかったが、ニューヨークを去る3日前、彼女からモントーク岬への旅の誘いが来る。そこは恋人だった二人の思い出の場所だったさて、この物語を「ラブストーリー」と言ってしまっていいのか。それは映画を観てから考えよう。

  9月28日は、harappa映画館へ。


   日程等は次の通り。

   9月28日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

   「こんな愛もある」

        10:30   『ジュリエッタ』(99分)
        13:30   『ライ麦畑の反逆児』(106分)      
        16:00   『男と女、モントーク岬で』(106分)
                              
  1回券 前売 1000   当日 1200      会員・学生 500
  3回券 2500円(前売りのみの取り扱い)  
  ※1作品ごとに1枚チケットが必要です。
 チケット取り扱い                                                       
  弘前中三、まちなか情報センター、弘前大学生協、コトリcafe(百石町展示館内)


   詳細は、次をクリックせよ。
 
   https://harappa-h.org/contents/20190928harappamovie.php
 

<後記>

   今年度のharappa映画館は、9月・11月・2月の3回を予定している。「洋画」・「邦画」・「ドキュメンタリー」の順となる。
  次号は、「今年出会ったドキュメンタリー  2019年7-9月期」。その次は、山形国際ドキュメンタリー映画祭の報告(珈琲放浪付き)。





(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。