2023年4月12日水曜日

【越境するサル】№.210「珈琲放浪記プラス~『ケイコ 目を澄ませて』から池袋へ~」(2023.04.13発行)

 

20233、東京滞在2日目。モーニングコーヒーと、ニコライ堂と、映画と、池袋駅近くの珈琲店。「エゴン・シーレ展」とともに今回の目玉としていた映画鑑賞を軸に、ひたすら歩く……

 

「珈琲放浪記プラス~『ケイコ 目を澄ませて』から池袋へ~」

 


 2023315日。山の上ホテルで迎える朝。

 実はこのホテル、昔、生徒の就職先として世話になっていた。宿泊したこともあるが、それは当時あった別館(アネックス)の方で、今回泊まった当時の本館は一度朝食のために入ったことがあるだけだった。


 

かつて、缶詰にされた作家たちの原稿完成を待つ編集者たちが詰めていたであろうロビーの雰囲気を味わい、朝食と珈琲を求めて散歩に出る。


 

まず、モーニング珈琲が飲みたかった。出発前に、ホテルから歩いてゆける店をいくつか調べていたが、第一希望の「高山珈琲」(神田須田町)が臨時休業中ということがわかったので、御茶ノ水駅付近の「穂高」に決めた。


 

モーニングに関しては、求めるのは厚焼きトーストと熱い珈琲と落ち着ける雰囲気。「穂高」の店内は、店名の通り山好きの人々が集まりそうな気楽な空気に満ちていた。そして、期待通りのトーストと珈琲。




 

 さて、ニコライ堂あたりまで散策してみる。


 

神田駿河台のニコライ堂(日本ハリストス正教会 東京復活大聖堂)は、日本の正教会のいわば本山にあたる。残念ながら聖堂内部の見学(拝観)は出来なかったが、周囲を巡りながらその外観を頭に刻みつける。



この日のメインは、映画だった。東京で映画館に行かなくなってから久しい。今回は、どうしても行きたい作品があった。三宅唱監督の『ケイコ 目を澄ませて』2022)。昨年の映画賞レースでベストワンと主演女優賞を総なめした話題作だが、地方にいるとなかなか観ることが出来なかった。

新宿「テアトル新宿」、伊勢丹の隣の区画だがなかなか見つけられず、上映10分前にようやくたどり着いた。



 

三宅唱監督の作品は、佐藤泰志原作の『きみの鳥はうたえる』(2018)を弘前で自主上映したこともあり注目していた。

『ケイコ 目を澄ませて』は、聴覚障害と向き合いながら闘い続ける女子プロボクサー・ケイコ(岸井ゆきのが演じている)の物語だ。聴覚障害というボクサーとして致命的なハンディキャップを背負いながら、実直に「目を澄ませて」生きていく彼女の姿がまぶしい。彼女の人生が(喜びも悲しみも)まっすぐに観客に伝わってくる映画だ。

脇を固める、三浦友和・三浦誠己・松浦愼一郎らの抑えた演技もいい。そして何よりも、私が長年愛してきたボクシング映画(寺山修司の原作や監督作品も含めて)の中で唯一不満を感じる部分(例えば、ストップモーションで打たれ続けるような不自然なシーン)が全くないという奇跡……そのようなシーンなど必要ないことを証明してくれたこと、このことが嬉しい。

今までのボクシング映画が、全部飛んでしまった……

このノートのようなものが、公式パンフレット。



 

映画館を出て、池袋を目指す。娘一家が住む、西武池袋線沿線の町に行くためだが、どうしても訪れたい珈琲店が、東池袋にあった。

 

「炭火煎珈琲 皇琲亭」。池袋駅から徒歩3分ほどの距離だが、まるで隠れ家のような安心感を与えてくれる立地、そして外観だ。

客であふれる店内に、なんとかカウンター席を確保し、チーズケーキとマンデリン(深煎り)という私の基本コースを選択。



思ったより優しい味のマンデリンだったが、これが現在のスタンダードなのだろう。というか、今まであまりにも深い焙煎を追い求めすぎていたのだ……

 

池袋駅で、恵比寿「猿田彦珈琲」のショップを発見し、深煎りの豆「neo 猿田彦 フレンチ」を購入。恵比寿の本店にはまだ行ったことがなかったので、ちょうどいい土産になった。






(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。


2023年4月3日月曜日

【越境するサル】№.209「珈琲放浪記プラス~『エゴン・シーレ展』から御茶ノ水へ~」(2023.04.04発行)

 

20233、いくつか目的があって東京に滞在した。わずか3日ほどの旅だったが、結局珈琲放浪を中心に計画を立てている自分がいた。

そういえば、しばらく「珈琲放浪記」を発信していない。旅行が制限されていたというのが一番大きな理由だが、その間も私はさまざまな珈琲と出会い、前と同じように珈琲中心の日々を過ごしていたのだ。前号の「函館幻視行」も、何割かは「珈琲放浪記」と言えるような内容だった。

しばらく、「珈琲放浪記プラス」という形で、出会った珈琲について(もちろんそれ以外の出会いも含めて)語り始めたいと思う。まずは今回の東京滞在から、3本ほど。

 

 

「珈琲放浪記プラス~『エゴン・シーレ展』から御茶ノ水へ~」

 

 2023314日。122分、上野駅着。ずっと東京には来ていなかった。もちろん、コロナ禍のせいだ。美術館も、博物館も、映画館も、すべて断念していた。というか、計画を立てる気力がなかった。せいぜい、近隣の街(県内か、隣県)に行くぐらいしか思い浮かばなかった。

 ようやく東京に来る気になったのは、東京都美術館で「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が開催(1/264/9)されているからだ。若いときから、私にとってエゴン・シーレは特別な存在だった。彼を描いた2本の映画(1980エゴン・シーレ 愛欲と陶酔の日々』、2016『エゴン・シーレ 死と乙女』)の影響もあるが、美術の門外漢である私が画集を購入したりしたのだから、相当入れ込んだと言っていい。

 2019年(4/248/5)、国立新美術館で開催された「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」でも直にシーレ作品のいくつかを鑑賞することは出来たが、いつか本格的なシーレ展と出会いたいものだと思い続けていた。そして、その日は来た……


この日、東京では桜が開花。春の到来を体全体で受けとめた人々で溢れる上野公園を歩く。東京都美術館まで、まっすぐに。




 30年ぶりの日本での回顧展、全14章でシーレの作品50点を含む同時代の画家の作品120点、そのうち風景画のコーナーは撮影可……なんという、濃密な時間だ。遠くから、この時間を過ごすために、はるばるやって来たのだ……







ミュージアムショップで長い行列の末公式図説と絵はがきを購入し、美術館をあとにした。




すぐ、ホテルのチェックインのため、上野駅から御茶ノ水駅に向かう。かなり密なスケジュールを組んでいたため、カフェに寄っている余裕もなかった。

御茶ノ水駅からほど近い、明治大学に隣接する「山の上ホテル」を1ヶ月前に連泊で予約していた。



チェックインを済ませ、ようやく珈琲にありつくことにした。行く店は決めていた。ホテルからすぐ、明大通りの「古瀬戸珈琲店」。深煎りの「古瀬戸ブレンド」が飲めるはずだ。



 

初めての店だが、隣の古書店「文庫川村」には文庫や新書を求めて訪れたことがあった。




 

大勢の客で賑わう店に入り、カウンターに座って一息つく。もちろん注文は、「ブレンド」。選択した白い磁器のカップで、ゆっくり口に運ぶ。しっかり苦いが、優しい深煎りだった。この滞在中、出会った深煎り珈琲はみな一様に優しい飲み口だったが、それを象徴するような最初の一杯……



その後、古い友人たちと会うために、飯田橋に向かった……

 

夜、もうすでにお気に入りになったホテルに「帰宅」する。この感覚を味わいたいから、滞在するのだ。






(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。