2016年12月26日月曜日

【越境するサル】№.153「珈琲放浪記~本郷三丁目、横浜元町そして渋谷~」(2016.12.23発行)

今月、サッカー「クラブワールドカップ決勝」観戦の為、東京に2泊した。試合会場は新横浜だが、例によってあちらこちら足を延ばし、1日1軒のペースで「珈琲放浪」を試みた。

 
                 「珈琲放浪記~本郷三丁目、横浜元町そして渋谷~」

   月曜日だというのに、ひっきりなしに人々が行き交う渋谷駅前。その雑踏から少し離れて宮益坂を上り、しばらくして今度は下り、小路をのぞく。
   正確な場所を地図で確認していなかったので、果たしてたどり着けるか不安だった。方向としては、間違ってないはずだ。もしかしたら明治通りに近いのかもしれない。何度か小路を通り抜け、ついにその店を見つけた。明治通りを原宿方面へ歩いてすぐの路地を右手に入った所にある、「茶亭 羽當(ちゃてい はとう)」。午前11時開店だとしたらあと10分ほどだ。店内の灯りが見える。
   開店と同時に店内に入り、長いカウンターの奥の席を目指す。店内は、骨董に囲まれた昭和の喫茶室といった趣き。カウンターの正面には(そして店内のありとあらゆる場所にも)、夥しい数のカップ&ソーサー。何故か、懐かしい。初めて入った店で感じるこの既視感は、最近の「珈琲放浪」で何度か経験したものだ。
   「羽當オリジナルブレンド」とシフォンケーキ(メイプル)を注文し、ようやく一息つく。あわただしかった土日を思い出しながら、まずは一服(もちろん煙草ではない)といったところか。喫茶店とは、こういうふうに利用するものなのだ…

   土曜日、午後1時、例によって上野駅に到着し浅草口のコインロッカーに荷物を預けると、すぐ本郷三丁目の「TIES(タイズ)」に向かった。前回最後に訪れた店だ。迷わずに、イブラヒムモカ(マタリ)の深煎り。相変わらず、強烈な苦みと官能的な味わい。いいスタートだ。数年間熟成させたオールドビーンズ珈琲(フレンチロースト)「ファイブブレンド」200gをお土産に購入し(後日、自宅で堪能したこの豊潤な世界について、いつか語るべきだろう)、上野公園に向かう。この日は、国立科学博物館の「世界遺産 ラスコー展」見学がメイン。クロマニヨン人による芸術とも言える洞窟絵画は、今回の旅行で外すわけにはいかなかった。

   日曜日、宿泊している五反田のホテルから渋谷に向かい、東横線特急で横浜、元町・中華街駅へ。この駅周辺で気になる喫茶店がいくつかあったが、ちょうど10時開店の元町「無」に少し早く入れてもらった。私のお気に入りの店は大体そうなのだが、カウンター正面にたくさんのカップ&ソーサー。自分で好きなカップを選び、この店のブレンド「無珈琲」と手作りレアチーズケーキのセットを注文する。
   「無珈琲」は、ちょうど良い深煎り。レアチーズケーキともよく合う。朝の喫茶店特有の雰囲気を味わいながら、一日の計画を立てる。午後からは新横浜、横浜国際総合競技場(日産スタジアム)。クラブワールドカップ3位決定戦および決勝、レアルマドリッドvs鹿島アントラーズ。チケットを握りしめ、会場を目指す。

   …さて、渋谷の「茶亭 羽當」だが、深煎り好きの私には少し物足りないが優しい味わいのブレンドと、これは大満足のケーキでリラックスした時間を過ごし、気がつくと何組かの客がボックス席にいる。それぞれ談話やパソコン仕事。そのうち、旅行者らしき客もカウンターへ。もう一度メニュー表を眺めると、私の好きな「マンデリン」や気になる「エージング珈琲」も目につく。もう一杯といきたいところだが、風邪と疲労のせいか胃の調子があまり良くない。味わえないなら無理をしないと決断し、店を出た。
   次の上京の際にはこの店からスタートしたいものだ、といつものように思った。


<後記> 

   ここしばらく、「上京篇」とも言うべき「珈琲放浪記」が続いたが、今回で一段落といったところか。年内に「今年出会ったドキュメンタリー」を発信したら、来年の『越境するサル』について考えるとしよう。3月の上映会「ドキュメンタリー最前線 2017」については1月中に発信したいが、そのほかは未定。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。



2016年12月7日水曜日

【harappa Tsu-shin】キッズ・アート「Viewing+創 inヒロロ」♪


12月3日・4日に開催されていたキッズ・アート「Viewing+創」inヒロロの様子をご紹介します♪

ワークショップや映画上映など様々な催しがありましたが、
harappaでは子どもたちの作品の展示をお手伝いしました♪

こちらの展示会場はヒロロ3階のイベントスペースです。

特別支援学級や学校に通う子どもたちが、たくさんの作品を出展してくれました♪

作品の形状もテーマも自由!


グループで大きな作品を作ってくれた子どもたちもいました♪

個人的に一番好きな作品でした。
カエルがなんとも愛らしいです。

子どもたち一人ひとりの感性を楽しめる作品展示でした♪

こちらは1階のエスカレーターの展示の様子です♪

「好きな歌詞と私のイメージ」シリーズです♪

歌詞のチョイスが渋いですね♪

手ぬぐいの作品もありました♪

2階エスカレーターの展示です。

ねぷた絵がカッコイイですね。

4階エスカレーターの展示。

「みらいのおうち」シリーズ♪


週末のヒロロでの開催ということで、たくさんの方にご覧いただけたのではないでしょうか?
今回、子どもたちの作品をたくさんの人に見てもらえるお手伝いができて良かったです♪




(harappaスタッフ=太田)


【harappa Tsu-shin】harappa映画館「ミステリアスな男たち&女たち」開催しました♪

みなさん、こんにちは!
harappa通信は久しぶりな気がします。
あっという間に寒くなったと思ったら、
あっという間に年末ですね、、、


さて、先週末は毎年恒例のharappa映画館が開催されました♪
今回のテーマは「ミステリアスな男たち&女たち」
何やら気になるテーマですね。。。

上映会当日はお天気にも恵まれ、
たくさんのお客さまにご来場いただきました♪

上映作品は、
「東ベルリンから来た女」
「ローマに消えた男」
「アクトレス ~女たちの舞台~」
の3作品でした。
3作品全てご覧いただいたお客さまも多く、
とても嬉しく思います♪

会場でも予告編が流れましたが、
次回のharappa映画館は3月4日(土)!!
ドキュメンタリー作品3本を上映予定となっております。
詳細は後日、harappaのHP等でチェックしてください。

次回のharappa映画館も皆さまのご来場お待ちしております♪





(harappaスタッフ=太田)


2016年12月6日火曜日

【越境するサル】№.152 「珈琲放浪記~東京、湯島から本郷三丁目へ~」(2016.12.4発行)

先月、「大人の休日」で東京とその近辺を旅した。妻と一緒に娘一家の家を訪れるのが主たる目的だったが、例によって美術館や博物館をまわり、さらにワイナリーとビアホールに足を延ばし、結局観光を満喫した。そして最終日、ひとりで上野から御徒町へ向かい、湯島方面まで歩き、ある喫茶店にたどり着いた。

 
    「珈琲放浪記~東京、湯島から本郷三丁目へ~」

  湯島天神を左に見て、坂の道をしばらく歩く。すでに本郷三丁目、その店はあった。「TIES(タイズ)」、「Old beans coffee & Hand made cake」とある。店の前と店内入り口付近にはケーキを買い求める数人の客がいたが、幸いなことに喫茶部分はすいているように見えた。カウンターの奥に座り、メニュー表をじっくり眺めてから、おもむろにレアチーズケーキとマンデリンを注文する。自家焙煎の珈琲は20110㏄、ネルドリップで抽出。マンデリンは期待通りの味わい。濃厚かつ妥協なき苦さだが、すっきりとしたのど越しに満足。これも水準をはるかに超えているレアチーズと交互に味わいながら、いつのまにか飲み干してしまった。この日ここまで珈琲を我慢してよかった、と素直に思った。

   この旅では、毎日美味い珈琲にありついた。

   1日目は、上野駅から御徒町「カフェ・ラバン」に直行。前回の訪問で気に入っていた「フレンチブレンド」と、高い評判のサンドウィッチで昼食を済ませ、「マンデリン」100gを購入。その後、御徒町駅ガード下の「2k540 AKI-OKA ARTISAN」で工芸品を物色し、上野公園へ。東京都美術館「ゴッホとゴーギャン展」を堪能し、池袋経由で娘一家宅へ。

   2日目は、中央本線新宿発特急「かいじ」で山梨県勝沼ぶどう郷へ。笛吹市一宮町の「ルミエール」ワイナリーのレストラン「ゼルコバ」でランチ、「光甲州」(白)と「シャトールミエール」(赤)の2種類のワインを楽しむ。その最後に出されたのが、山梨県韮崎市で熟成された「コクテール堂」のエイジングコーヒー。レストランで美味い珈琲に出会うというのは、ちょっと得をした気分だ。

   3日目は、娘一家とともに半日近く「恵比寿ガーデンプレイス」で過ごしたが、恵比寿三越地下1階「宮越屋珈琲」で飲んだエスプレッソは本当に美味しかった。エスプレッソ初心者にもわかりやすいコクと苦み、しかもたっぷりの量。さすが札幌。「宮越屋珈琲」は、札幌でも東京でもはずれがない…この日は帰り道、中村橋駅付近の自家焙煎珈琲豆販売店「まめせん珈琲」で「まめせんブレンド」と「トラジャ」(もちろんどちらも深煎り)を購入。どちらも有名店と比べても遜色ない味わい、しかもリーズナブル。

   そして、最終日がこの「TIES(タイズ)」だ。

   何やら2杯目が飲みたくなって、もう一度メニュー表を見せてもらう。オールドビーンズ珈琲、紅茶、アイス珈琲等々選択肢は豊富だが、やはり何かストレート珈琲が飲みたかった。そして目に留まったのがイブラヒムモカ(マタリ)の深煎り。モカの深煎りは今年いくつかの店で出会い、その都度新鮮な感動を与えてもらっていた。しばらく待って、1杯目とは違う薄手で小ぶりのカップで出されたイブラヒムモカは、もう絶品と言うしかない味わいだった。濃厚でコクがあるのはもちろんだが、甘味というか何やら色気を感じてしまった。途中から砂糖を少量加えて味の微妙な変化を楽しみ、2杯目の珈琲を堪能した。まだ味わってみたいメニューはたくさんあるが、今日はこれで満足。近所で蕎麦でも食べて、それから湯島天神をのぞいて、上野に戻ろう。東京国立博物館の特別展「平安の秘仏」を鑑賞する時間も確保しなければ。

   こうして、今回も満足すべき「珈琲放浪」だった。次の東京(もう再来週だが)も「TIES(タイズ)」からスタートしたいと思い始めているが、どうなることだろう。


<後記>

   前号(№151)紹介したharappa映画館「ミステリアスな男たち&女たち」は、123日、のべ244名の観客を動員して終了した。観客の反応も良好で、次のharappa映画館にも期待がかかるところだが、プレッシャーも若干あり。

   次号は、クラブワールドカップ決勝観戦の旅。というより、その際の「珈琲放浪」の記録。



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2016年11月7日月曜日

【越境するサル】№.151「ジュリエット・ビノシュの“時間”~上映会への誘い~」(2016.11.6発行)

来月、12月3日、harappa映画館は「ミステリアスな男たち&女たち」と題して3本のヨーロッパ映画を上映する。『東ベルリンから来た女』・『ローマに消えた男』・『アクトレス~女たちの舞台~』、すべて高い評価を得ている作品だが、その中でも『アクトレス~女たちの舞台~』は私にとって特別な映画である。主演のジュリエット・ビノシュは二十数年前『存在の耐えられない軽さ』に出演したが、それ以来私は彼女の演技に魅了され続けてきた。けっして熱烈なファンではなかったが、私にとってその存在感は別格だった…

 
     「ジュリエット・ビノシュの“時間”~上映会への誘い~」

  『存在の耐えられない軽さ』(1988 フィリップ・カウフマン監督)は、チェコ生まれのフランス作家ミラン・クンデラの同名小説を原作とするアメリカ映画である。1968年頃、チェコスロヴァキアの「プラハの春」の時代を背景とするこの映画の主人公は、プラハの脳外科医トマシュ(ダニエル・デイ=ルイス)とカフェのウェイトレスをしながら写真家を目指すテレーザ(ジュリエット・ビノシュ)。ふたりは同棲生活を経て結婚するが、テレーザはトマシュの愛人たちとの関係に傷つき苦しむ。そして19688月、ソ連軍のチェコスロヴァキア侵攻の夜がやってくる…ジュリエット・ビノシュ演ずる純情でかつ情熱的なテレーザ、その姿はしっかりと心に焼き付いた。
  その後私は、ビノシュがドニ・ラヴァンと共演した『汚れた血』(1986 レオス・カラックス監督)・『ポンヌフの恋人』(1991 レオス・カラックス監督)の2本にのめり込むが、特に彼女主演の映画を意識することは少なくなった。このあと名実ともに大女優の道を歩んだ彼女の作品と、意識して向き合ったのはそれから20年後、『トスカーナの贋作』(2010 アッバス・キアロスタミ監督)の出現によってだ。イタリアの小さな村で出会った男女が長年連れ添った夫婦を演じるという、虚と実が入り混じったいかにもキアロスタミ的なこの作品の中のビノシュが、とても輝いて見えた。まるで『存在の耐えられない軽さ』のテレーザのように。そして、今回上映する『アクトレス~女たちの舞台~』だ…

  『アクトレス~女たちの舞台~』(2014 オリヴィエ・アサイヤス監督)の主人公は女優マリア・エンダース(ジュリエット・ビノシュ)。彼女は、マネージャーのヴァレンティン(クリステン・スチュアート)とともに特急列車でチューリッヒに向かっている。新人女優だった彼女を発掘した劇作家ヴィルヘルム・メルヒオールに代わって、彼の功績を称える賞を受け取るためだ。その途上、メルヒオールが亡くなったという知らせが入る。授賞式当夜、新進演出家のクラウスが、彼女を世に送り出したメルヒオール作『マローヤのへび』のリメイクへの出演を要請する。マリアの役柄は、かつて自分が演じた20歳の主人公シグリットではなく、シグリットに翻弄され自殺する40歳の会社経営者ヘレナ役だった。そしてシグリット役には19歳のハリウッド女優ジョアン・エリスが決まっていた…
  スイスの美しい景観を背景に(この景観もまたテーマにつながる)、マリア、ヴァレンティン、ジョアンの3人を軸にした葛藤のドラマが演じられていくのだが、何度かチームを組んできたアサイヤス監督とビノシュがこの映画で試みたのは「過ぎゆく時間」に関するアプローチだと言う。その「時間」と対峙する女優として、ビノシュは何とふさわしいことだろう。まるで彼女自身の半生のようだ。



  「ミステリアスな男たち&女たち」、そのほかの2本についても紹介しよう。
  
  『東ベルリンから来た女』(2012 クリスティアン・ペッツォルト監督)。1980年、旧東ドイツの田舎町の女性医師バルバラは、秘密警察に監視されながら、恋人の待つ西側へ密出国する準備を進めていた。同僚の医師アンドレは彼女に惹かれるが、バルバラは頑なな態度を崩そうとしない。しかし、アンドレの誠実な姿に彼女の心は揺れ動いていく。そして彼女を必要とする患者たちの存在も、彼女の出国の決意を鈍らせる…2012年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞。




  『ローマに消えた男』(2013 ロベルト・アンドー監督)。イタリア最大野党を率いる大物政治家エンリコが、国政選挙を前に突然の失踪を遂げた。「ひとりになる時間がほしい」、彼の書き置きを見た腹心の部下アンドレアは、失踪の事実を隠し、エンリコの双子の兄弟ジョヴァンニを替え玉に起用する。この窮余の策で替え玉となったジョヴァンニは、その弁舌によってメディアと大衆を魅了していく…2013年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア・アカデミー賞)最優秀脚本賞・最優秀助演男優賞受賞。
  

  
 
 フランスから、ドイツから、イタリアから、私たちに届けられた魅力的な映画たちを、ともに味わいたいと思う。

  日程等は次の通り。

123日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

「ミステリアスな男たち&女たち」
      10:30   『東ベルリンから来た女』(105分)
      13:30   『ローマに消えた男』(94分)
      15:45   『アクトレス~女たちの舞台~』(124分)

3回券 2500円(前売りのみ)
1回券 前売 1000   当日 1200  
会員・学生 500 
 ※1作品ごとに1枚チケットが必要です。

チケット取り扱い                                                       
    弘前中三、紀伊國屋書店、まちなか情報センター、弘前大学生協、
    コトリcafe(百石町展示館内)

詳細は、次をクリックせよ。


<後記>

   ひさびさの「上映会への誘い」である。次のharappa映画館は来年3月、「ドキュメンタリー最前線」を予定している。
 次号は「『越境するサル』的生活」といきたいところだ。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2016年10月17日月曜日

【越境するサル】№.150「珈琲放浪記~東京、珈琲の“聖地”へ~」 (2016.10.14発行)

映画の試写会のため、東京を訪れた。わずか2泊3日の滞在だが、この機会を逃さず、上野界隈・台東区の「気になる」珈琲店を3つほど「放浪」した。映画と、そしてもうひとつの目的であった美術館巡りの合間を縫って、私にとっての珈琲の聖地を目指して、ひたすら歩く

 
    「珈琲放浪記~東京、珈琲の聖地へ~」


1日目 台東区下谷「北山珈琲店」 

   上野駅から鶯谷方面に歩くこと10分弱、入谷駅から500メートルほどの所にその店はあった。ひたすら珈琲の味を追究し、「珈琲を飲む為だけの店」を標榜。店内では「待ち合せ」・「商談」・「読書」・「事務処理」・「携帯」等すべて禁止、滞在時間も30分以内こう書くと堅苦しい店のようだが、珈琲を味わうのが目的の者には大して苦にならない。前述の禁止事項をしっかりと認識している客に対しては、きわめて親切な店なのだ。
   さて、以前一度だけ訪れたことがあったが、その時は真夏でアイスコーヒーを注文してしまった。それはそれで美味しかったのだが、今回はぜひ熟成3年あたりのホットが飲みたかった。メニューをじっくりと眺め、迷わず「マンデリン(3年熟成)」を注文。しばらくして運ばれてきたやや小さめのカップを、ゆっくりと口まで持っていく突き抜けるような苦み、ふくよかな香り、そして普通のエスプレッソが薄く感じるほどの圧倒的な重厚感。まず三口ほどそのまま味わい、その後砂糖を少量入れてゆっくりと口の中をころがす。徐々に、落ち着いて味わえるようになった。しまった。さっき、見栄を張ってミルクは不要と、断ってしまった。最後に、ミルクを入れて、しかもかき回さないで味わう、という楽しみ方もあったのだ次回は、素直にミルクで味わおう。そして別な銘柄にも挑戦しよう。「北山珈琲店」恐るべし
  
   鶯谷のホテルでチェックインを済ませ、歩いて8分ほどの上野公園へと向かう。しばらく散策し、上野駅とその近辺にも足を運んでみる。次の日のためのチェックなのだが、歩いていると妙に心が落ち着いてくる。このまま浅草あたりまで行ってみようかとも思ったが、ホテル近くで見つけた気になる「やきとりや」のことを思い出した。
   鶯谷駅南口から1分、歩道橋を渡って階段を下りる。「ささのや」、串焼き(「焼き鳥」とは言わないようだ)1本70円の店。人々が、老いも若きも、男も女も、群がって串焼きを食べ、あるいは持ち帰り、とにかく楽しんでいる。常連さんの店だろうなと思いながらも、店に入ってみる。皿を受け取り、自分で焼き台の串焼き(タレ)を選ぶ。ハツ・ナンコツ・ネギマ・レバーこれに生ビールで、夕食は済ませよう。鶯谷の夜は更けていく(この店、BS-TBSの『酒場放浪記』と『おんな酒場放浪記』で紹介された店だった。道理で既視感があったわけだ。)

2日目 台東区上野「カフェ・ラパン」

   御徒町「カフェ・ラパン」で朝の珈琲を飲みたい。今回の旅行が決まってから、急にその考えは大きくなった。いつも上野を東京旅行の拠点としていた私だが、落ち着いて珈琲を味わう店を見つけられずにいた。人々が普通に食事をとり、会話を楽しみ、新聞を読み、そして珈琲のメニューには深煎りのブレンドがあるまさに昭和の喫茶店のような店で午前中を過ごしたかった。昼、東京メトロ銀座線で新橋に向かう予定だったので、御徒町界隈というのも都合がよかった。
   上野広小路を彷徨うこと15分、何度か道を間違えた末、ビルの谷間に「カフェ・ラパン」を発見した。想像通りの外観、そして店内に入るとこれも期待通りのカウンター。ブレンドの焙煎の度合いを確かめ、フレンチブレンドとチーズケーキを注文する。ジャズが流れる店内の雰囲気も、店の人の客との距離感も、深煎りの珈琲も、甘過ぎないチーズケーキも、すべてちょうどいい次に訪れた時は、軽い食事、サンドイッチあたりも試してみよう。そう思いつつ、店を出た。

   昼過ぎ、リオ五輪・パラリンピックパレードの余韻が残る銀座線新橋駅から、銀座8丁目高速道路地下「TCC試写室」を目指す。今回の旅行の目的であった映画『秋の理由』(福間健二監督)マスコミ試写に参加するためだ。この映画に出演している弘前出身の映画監督木村文洋との縁によって実現した試写会参加だったが、いずれ木村監督の新作(完成間近という)と今回鑑賞した『秋の理由』を一緒に弘前で上映したい、そう思った。
   詩人としても著名な福間監督は、私が追い求めてきた作家佐藤泰志と親交が深く、また佐藤文学の最大の理解者でもある。試写会終了後、福間夫妻から佐藤泰志と今回の映画について多くの話を聞くことができたが、この旅行一番の収穫となった

   夕刻から、六本木「国立新美術館」で開催中の「ダリ展」、さらに渋谷「元祖くじら屋」で「はりはり鍋」と「さえずり」を堪能した。こうして充実の2日目を終え、あとはホテルに戻って眠るだけだと思われたが、帰り道、再び串焼きのタレのにおいに誘われて、鶯谷「ささのや」に入ってしまった。串焼き、恐るべし

3日目 台東区日本堤「カフェ・バッハ」

   朝、上野駅のコインロッカーに荷物を預け、山手線・中央線を乗り継ぎ、国分寺駅を目指す。府中市美術館で開催されている「藤田嗣治展」を訪れること、これがこの日の午前中の目標だった雨の中、ようやくたどり着いた「藤田嗣治展」は、初期から晩年に至るまでの作品が網羅された本格的なものだった。長い間、間近で鑑賞することを熱望していた戦争画「アッツ島玉砕」とも出会えた

   鶯谷に戻り、地図を頼りに今回の旅最後の目的地「カフェ・バッハ」を目指して歩き始めた。「カフェ・バッハ」は「東京珈琲四天王」・「自家焙煎珈琲の御三家」などと呼ばれる、世の珈琲好きたちの聖地のひとつである。
   言問通りから昭和通り、三ノ輪から明治通り、日本堤、ひとつひとつ地名と道を確かめながら、小一時間ほどゆっくりと歩き、通りに面した店「カフェ・バッハ」を発見する。近くに「泪橋」の交差点、玉姫公園そう、ここはあの『あしたのジョー』の舞台となった地だ
   店内は、思っていた以上に明るく、テーブルも椅子も昭和を感じさせるが決して古びた印象はない。そんな店内を5人ほどのスタッフがテキパキと動き回る。注文したのは「バッハブレンド」、店のスタンダードである。中深煎りといったところか。上品で、のど越しがよく、飽きが来ない味だ。長い間歩いたこともあり、ようやく喫茶店でくつろいだという満足感が体中に広がる。
   しかし、もっと深煎りの豆も試したかった。メニューを見て、かなり深い煎りの「ケニアAA」をお土産に購入することにした。最近、複数の店で体験し、興味を持っていた銘柄だ。自宅用に100g、職場用に100g、もちろん豆のまま。これでしばらく「バッハ」を楽しめる。

   こうして、聖地巡礼はひとまず終了。数日後、職場で「バッハ」の「ケニアAA」を皆にふるまったが、ほどよい苦みと優しい酸味が高い評価を得たことを報告しておく

<後記>

   例によって、速報のような、珈琲と出会った記録である。珈琲以外の出会いについては、醸成されて、いつかこの通信の中で語られるだろう。
   次号、この4月以降の日々についてまとめて語りたいと思っているが、はたしてどうなるか… 




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2016年10月4日火曜日

【越境するサル】№.149「今年出会ったドキュメンタリー2016年7-9月」(2016.9.30発行)

20167-9月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。 

 
          「今年出会ったドキュメンタリー 20167-9月期」

   20167月から9月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はいつもの通りほとんどがDVDでの鑑賞。スクリーンで観たのは2本。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、「青森市民図書館」は館内ブースでの鑑賞。はテレビ・ドキュメンタリー。

   7月・・・『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、
       そして愛された男』2014 ロン・マン) 
            『FAKE』(2016 森達也 函館シネマアイリス)
      『三里塚 第二砦の人々』(1971 小川紳介)
            『三里塚 辺田部落』(1973 小川紳介)        
      『モハメド・アリの時代』
       (2016 BS世界のドキュメンタリー)
            『よみがえる国宝 瑞巌寺~100年先に繋ぐ匠の技~』
2016 テレメンタリー)
      『ハバナ Wi-Fi公園の一週間~変わるキューバ 人生模様~』
2016 BS1スペシャル)
      『廃炉への道 全記録2016「核燃料デブリ 迫られる決断」』
2016 BS1
       『モハメド・アリ追悼ドキュメンタリー「Sweet Ali With Bert Sugar」』
       (2016 WOWOWエキサイトマッチ)
            『ドーピング~ロシア陸上チーム・暴かれた実態~』
2016 BS世界のドキュメンタリー)
       『名古屋 レトロ喫茶へようこそ』(2016 ドキュメント72時間)
       『母と子 あの日から~森永ヒ素ミルク中毒事件60年~』
2016 ETV特集)
            『避難計画で原発やめました~違いは何だ?
    伊方と米・ショアハム~」(2016NNNドキュメント)※

  8月・・・『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』(2015 阪本順治)
            『どっこい!人間節 寿・自由労働者の街』(1975 湯本希生)
            99分,世界美味めぐり』2014 トーマス・ジャクソン,
       シャーロット・ランデリウス,ヘンリック・ストッカレ)            
      『知られざる被爆米兵~ヒロシマの墓標は語る~』
2016 NNNドキュメント)
      『ソニータ~アフガニスタン難民 少女ラッパーは叫ぶ~』
      (2016 BS世界のドキュメンタリー 発掘アジアドキュメンタリー)
      『もてなしの原点を再び~由布院・ふたつの地震を越えて~』
2016 テレメンタリー)
       『ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~』
2016 NHKスペシャル)
      『沖縄 空白の1年~基地の島はこうして生まれた~』
2016 NHKスペシャル)
           『ゲンよ、中国へ渡れ~被害と加害の狭間で』
      (2016 テレメンタリー)
           『五島のトラさん~父親と家族の22年~』
2015 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)※            
      
   9月・・・『ラスト・タンゴ』(2015ヘルマン・クラル 青森シネマディクト)
            『ZONE 存在しなかった命』(2013 北田直俊)
            『SELF AND OTHERS』(2000 佐藤真 青森市民図書館)
            袴田巖 夢の間の世の中』(2016 金聖雄 試写用サンプル)
            『関東大震災と朝鮮人 悲劇はなぜ起きたのか』(2016 ETV特集)
            『獣医師・徳田竜之介』(2016 情熱大陸)
      『暴かれる王国 サウジアラビア』
      (2016 BS世界のドキュメンタリー)
            『武器ではなく 命の水を~医師・中村哲とアフガニスタン~』
2016 ETV特集)
            『誤判 ~娘殺しの母と呼ばれた21年~』
      (2016 テレメンタリー)
            『女子刑務所 彼女たちの素顔』(2016 ドキュメント72時間)
            『ひまわりに願いを込めて~福島・飯舘村への帰還~』
2016 クローズアップ東北)
          
   毎回、「私のベストテン」とでも言うべき「収穫」を選んでいるが、20167-9月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

   『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』(2014 ロン・マン)。カンヌ映画祭パルムドール受賞の『M★A★S★H マッシュ』(1970)、ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞の『ショート・カッツ』(1991)、そして近年では『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(2006「インディペンデント映画」のルーツとされるロバート・アルトマン監督の波乱万丈の映画人生を、関係者・家族・本人の証言と数々の映像で綴る「完全版アルトマン」。『M★A★S★H マッシュ』の撮影風景の映像は鳥肌ものだ。            

   『FAKE』(2016 森達也 函館シネマアイリス)。『A』(1997)『A2』(2001)でオウム真理教(宗教団体アレフ)信者たちの日常を追い、アレフの側からマスコミ報道を描いた森達也の15年ぶりの監督作品。「ゴーストライター騒動」の当事者佐村河内守氏の自宅でカメラを廻し、佐村河内夫妻の側に立って、安易な二極化を求めるメディアと社会を撃つ。決して一方を「善」、片方を「悪」として描いているのではなく、二分法そのものを撃つこの作品は、公開とともに観客たちに衝撃を与えたまたしても私たちは森達也の術中にはまったか?

   『三里塚 第二砦の人々』(1971 小川紳介)。小川プロダクション全20作品を順次DVD化するという「DIGレーベル」のプロジェクトの第二弾。成田空港の建設と土地収用に反対する三里塚芝山連合空港反対同盟の用地6か所に、千葉県と空港公団が強制代執行を行う。それに立ち向かう農民たちは砦を築き戦うのだが第二砦の人々を中心に、長い討論の末に穴を掘り続ける農民たちの姿と過酷な代執行の実態を描く。マンハイム映画祭ジョセフ・フォン・スタンバーグ賞受賞。7月のプロジェクト第二弾はこのほかに、『日本解放戦線 三里塚の夏』(1968 小川紳介)・『日本解放戦線 三里塚』(1970 小川紳介)・『三里塚 第三次強制測量阻止斗争』(1970 小川紳介)・『三里塚 岩山に鉄塔が出来た』(1972 小川紳介)・『三里塚 辺田部落』(1973 小川紳介)・『三里塚 五月の空 里のかよい路』(1977 小川紳介)の6本。

   『三里塚 辺田部落』(1973 小川紳介)。激しい闘争シーンではなく部落の日常を描きながら、三里塚闘争の内実と追い詰められていく部落の人々の姿を私たちに突きつける、「三里塚シリーズ」中の傑作。闘いの中で3人の警察官が死亡したことにに端を発した、部落への捜索、青年行動隊の若者たちの逮捕・勾留、そして残された者たちの不安老人たちの昔語りも含めて、農民たちの総体を描いた、その後の小川プロの姿を予感させる作品。 

   『ジョーのあした 辰吉𠀋一郎との20年』(2015 阪本順治)。元プロボクサー赤井英和主演の『どついたるねん』(1987)で映画デビューし、ドキュメンタリー風ドラマ『BOXER JOE』(1995)で辰吉𠀋一郎の苦悩を描いた阪本順治監督が、1995年以降20年間にわたり辰吉を定期的に取材・撮影した自身初のドキュメンタリー映画。リングに上がり続ける辰吉の人間性を執拗に追い続ける監督の執念に脱帽。

   『どっこい!人間節 寿・自由労働者の街』(1975 湯本希生)。1974年、三里塚を離れた小川プロは、東京の山谷・大阪の釜ヶ崎と並ぶ日本三大寄せ場の横浜・寿町に1年間近く泊まり込んで、労働者たちの日々を記録する。登場するひとりひとりの労働者前科を持った者、仕事で片足を失った者、筋ジストロフィー患者、酒をやめられない者、在日の青年等々は、「どっこい生きていた」。小川プロダクション全20作品DVD化プロジェクトの第三弾。8月のプロジェクト第三弾はこのほかに『パルチザン前史』(1969 土本典昭)。

   99分,世界美味めぐり』(2014 トーマス・ジャクソン,シャーロット・ランデリウス,ヘンリック・ストッカレ)。食べることに執着し、料理を批評しブログで世界に発信する、それぞれタイプの違う5人の美食家(フーディーズ)。三ツ星109軒制覇のシェル石油元重役アンディ、美食のために世界を駆け巡るタイ金鉱会社御曹司パーム、有名シェフを斬る音楽業界大物スティーヴ、リトアニア生まれのスーパーモデルアイステ、仕事で得た収入を美食に費やす香港生まれの普通の女の子ケイティ彼らに導かれ、私たちもまた世界各地のミシュラン付きレストランを旅する。

   『ラスト・タンゴ』(2015 ヘルマン・クラル 青森シネマディクト)。ヴィム・ヴェンダース製作総指揮。アルゼンチン・タンゴ・ダンスの伝説のカップル、マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペス。14歳と17歳で出会ってから半世紀近くコンビを組み、世界中で喝采を浴びたふたりは、1997年ペアを解消する…83歳の今も舞台で踊るフアン、ペア解消の後に不死鳥のように蘇ったマリア、ふたりの語りと当時の映像、若き日の彼らを演ずる現代のダンサーたち。愛と憎しみの軌跡を描いた新しいドキュメンタリー。監督のヘルマン・クラルは『不在の心象』(1999)で山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞受賞。この『ラスト・タンゴ』も、2015年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された。

   『SELF AND OTHERS』(2000 佐藤真 青森市民図書館)。1983年に36歳で夭逝した写真家、牛腸茂雄。3冊の写真集だけを残して逝った彼ゆかりの地の現在、残された写真や映像、手紙、草稿、そして録音されていた肉声。これらをつなぎ合わせて、牛腸茂雄という人間のイメージが私たちに提示される。『阿賀に生きる』(1992)・『まひるのほし』(1998)に続く佐藤真監督のドキュメンタリー3作目。

   『袴田巖 夢の間の世の中』(2016 金聖雄 試写用サンプル)。1966年、静岡県清水で起こった一家惨殺事件。その犯人とされた袴田巖さんは自白を強要されるも、裁判では一貫して無罪を主張、しかし1980年最高裁で死刑が確定、以後再審を求め続ける。そして20143月、静岡地裁は再審開始を決定、袴田さんは獄中48年目にして解放される私たちがテレビのニュース映像で目撃した歴史的な瞬間。その後の袴田さんと、彼を支えてきた姉の秀子さんの日々を記録した本作は、淡々と静かな時間が流れる作品だが、「狭山事件」の石川一雄さん(東京拘置所で一緒だったという)が登場するシーンと、ボクシングの聖地「後楽園ホール」に招かれた袴田さんが観客に手を振るシーンは、エキサイティングな記憶として残り続けるだろう。

 テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

   『ドーピング~ロシア陸上チーム・暴かれた実態~』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。制作はドイツ・WDR2014年。ロシアの組織的なドーピングを追究した調査報道。この番組がきっかけになって、その後のドーピングをめぐる動きが起こることになる。歴史的なドキュメンタリー番組である。ロシアの陸上選手ユリア・ステパノワとアンチドーピング機構に勤務していた夫、そして複数の関係者が語る驚きの実態は世界に衝撃を与えた。8月に開催のリオデジャネイロオリンピックを前に放送された「シリーズ まもなくリオ五輪 スポーツ・ドキュメンタリー特集」の1本。このシリーズ他の3本は、『ベルリン1936  ヒトラーに勝った黒人アスリートたち』(2016 制作:アメリカ Coffee Bluff Pictures)・『時を超えたアスリート対決!~人間は進化したのか?~』(2016  制作:ドイツ/カナダ Berlin Producers/Kensington Communications)・『勝てる脳の秘密~完璧なアスリートをめざして~』(2015  制作:フランスrenchConnectionFilms /CodexNow/Amopix/Arte France)。

   『母と子 あの日から~森永ヒ素ミルク中毒事件60年~』(2016 ETV特集)。粉ミルクに猛毒・ヒ素が混入した「森永ヒ素ミルク中毒事件」。130人の乳幼児が死亡、全国で13000人以上の被害者を出したこの事件の後遺症の存在は、事件から10年以上認められなかった。1973年の救済合意後も重い障害が残る、被害者と親たちの60年の歳月。 

   『知られざる被爆米兵~ヒロシマの墓標は語る~』(2016 NNNドキュメント)。制作は広島テレビ。長い年月の間ほとんど知られることのなかった、ヒロシマへの原爆投下で死亡した12人の米軍捕虜。この「被爆米兵」の存在を調査し続け、アメリカの遺族と連絡をとってきた森重昭さんの足跡と、遺族らの思いに迫る。オバマ大統領の広島訪問時の演説でも言及された「被爆米兵」の存在をめぐるさまざまな動きは、「核なき世界」への一つの楔となるか

   『ソニータ~アフガニスタン難民 少女ラッパーは叫ぶ~』(2016 BS世界のドキュメンタリー 発掘アジアドキュメンタリー)。タリバンの影響力を避けイランに逃れてきたアフガニスタン難民の少女ソニータ。NGOの支援で暮らす18歳の彼女は家族から結納金と引き換えの結婚を強いられるが、アフガニスタンの少女たちが抱える怒りや悲しみをラップ音楽にぶつけ、その才能は海外でも認められるようになる。そして彼女は、コンサートのため、アメリカに旅立つNHKとの国際共同制作で、アジアの若手ドキュメンタリストたちが制作した番組を放送する「発掘アジアドキュメンタリー」、この作品は国際共同制作/NHKKBSPTSMediaCorpTAG/TRAUMIntermezzo Films(スイス/ドイツ/イラン 2015)。

   『ゲンよ、中国へ渡れ~被害と加害の狭間で』(2016 テレメンタリー)。制作は名古屋テレビ放送。原爆を描いた中沢啓治の漫画『はだしのゲン』を中国で出版しようと、翻訳の作業を続けている坂東弘美さん。さまざまな言語に翻訳されている『はだしのゲン』だが、「加害者である日本を被害者として描くのは時期尚早」ということで中国の出版社が見つからない。加害者の視点も描かれていることを中国の人々にも理解してほしいと願う坂東さんは、まず台湾での出版を実現させる

   『五島のトラさん~父親と家族の22年~』(2015 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)。制作はテレビ長崎。長崎県五島列島北部にある新上五島町、この島で暮らす犬塚虎夫さん通称トラさんは、名物の五島うどんと天然塩を家族で作り生計を立てている。妻益代さんとの間に生まれた子どもは7人。子どもたちはみな家の仕事を分担し、父と一緒に働く。1999年から22年間に及ぶ取材で記録した家族の軌跡フジテレビ系列のテレビドキュメンタリー作品に与えられるFNSドキュメンタリー大賞受賞(平成25年)・上海テレビ祭ドキュメンタリー部門最高賞受賞の本作は、その後再編集・映画化され、20168月より東京都の映画館「ポレポレ東中野」で公開された。

   『暴かれる王国 サウジアラビア』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。制作はイギリスHardcash Productions2016)。世界最大の産油国でありイスラム教スンニ派の盟主サウジアラビア。欧米と良好な関係を築いてきた同国は、外国メディアの取材が厳しく制限され、人権弾圧が続く独裁国家だイギリスの制作会社が潜入取材を試み、隠しカメラによって宗教警察による市民への監視・取り締まりの実態を映像で示す。9月第2週のシリーズ「知られざる国々の素顔」の1本。このシリーズ他の3本は、『イランは変貌するか~核合意と経済制裁解除のはざまで』(2016 制作:フランス Point du Jour)・『ベラルーシ自由劇場の闘い~欧州最後の独裁国家の中で~』(2013 制作:アメリカ Great Curve Films)・『City40~旧ソビエトの秘密都市を行く~』(2016 制作:アメリカ D.I.G. Films)。


<後記>

   ようやく、映画館でドキュメンタリーを鑑賞する環境が整いつつある。青森市のシネマディクトが中心だが、そのほかにさまざまな団体の上映会等に積極的に出かけるパワーがあれば、もっと多くの作品を鑑賞することができると思う。

   今回紹介したドキュメンタリー映画のうち、『FAKE』・『ジョーのあした 辰吉𠀋一郎との20年』・『袴田巖 夢の間の世の中』の3本は、来年3月予定のharappa映画館「ドキュメンタリー最前線2017(仮称)」での上映を計画している。詳細は後日



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。