2016年10月17日月曜日

【越境するサル】№.150「珈琲放浪記~東京、珈琲の“聖地”へ~」 (2016.10.14発行)

映画の試写会のため、東京を訪れた。わずか2泊3日の滞在だが、この機会を逃さず、上野界隈・台東区の「気になる」珈琲店を3つほど「放浪」した。映画と、そしてもうひとつの目的であった美術館巡りの合間を縫って、私にとっての珈琲の聖地を目指して、ひたすら歩く

 
    「珈琲放浪記~東京、珈琲の聖地へ~」


1日目 台東区下谷「北山珈琲店」 

   上野駅から鶯谷方面に歩くこと10分弱、入谷駅から500メートルほどの所にその店はあった。ひたすら珈琲の味を追究し、「珈琲を飲む為だけの店」を標榜。店内では「待ち合せ」・「商談」・「読書」・「事務処理」・「携帯」等すべて禁止、滞在時間も30分以内こう書くと堅苦しい店のようだが、珈琲を味わうのが目的の者には大して苦にならない。前述の禁止事項をしっかりと認識している客に対しては、きわめて親切な店なのだ。
   さて、以前一度だけ訪れたことがあったが、その時は真夏でアイスコーヒーを注文してしまった。それはそれで美味しかったのだが、今回はぜひ熟成3年あたりのホットが飲みたかった。メニューをじっくりと眺め、迷わず「マンデリン(3年熟成)」を注文。しばらくして運ばれてきたやや小さめのカップを、ゆっくりと口まで持っていく突き抜けるような苦み、ふくよかな香り、そして普通のエスプレッソが薄く感じるほどの圧倒的な重厚感。まず三口ほどそのまま味わい、その後砂糖を少量入れてゆっくりと口の中をころがす。徐々に、落ち着いて味わえるようになった。しまった。さっき、見栄を張ってミルクは不要と、断ってしまった。最後に、ミルクを入れて、しかもかき回さないで味わう、という楽しみ方もあったのだ次回は、素直にミルクで味わおう。そして別な銘柄にも挑戦しよう。「北山珈琲店」恐るべし
  
   鶯谷のホテルでチェックインを済ませ、歩いて8分ほどの上野公園へと向かう。しばらく散策し、上野駅とその近辺にも足を運んでみる。次の日のためのチェックなのだが、歩いていると妙に心が落ち着いてくる。このまま浅草あたりまで行ってみようかとも思ったが、ホテル近くで見つけた気になる「やきとりや」のことを思い出した。
   鶯谷駅南口から1分、歩道橋を渡って階段を下りる。「ささのや」、串焼き(「焼き鳥」とは言わないようだ)1本70円の店。人々が、老いも若きも、男も女も、群がって串焼きを食べ、あるいは持ち帰り、とにかく楽しんでいる。常連さんの店だろうなと思いながらも、店に入ってみる。皿を受け取り、自分で焼き台の串焼き(タレ)を選ぶ。ハツ・ナンコツ・ネギマ・レバーこれに生ビールで、夕食は済ませよう。鶯谷の夜は更けていく(この店、BS-TBSの『酒場放浪記』と『おんな酒場放浪記』で紹介された店だった。道理で既視感があったわけだ。)

2日目 台東区上野「カフェ・ラパン」

   御徒町「カフェ・ラパン」で朝の珈琲を飲みたい。今回の旅行が決まってから、急にその考えは大きくなった。いつも上野を東京旅行の拠点としていた私だが、落ち着いて珈琲を味わう店を見つけられずにいた。人々が普通に食事をとり、会話を楽しみ、新聞を読み、そして珈琲のメニューには深煎りのブレンドがあるまさに昭和の喫茶店のような店で午前中を過ごしたかった。昼、東京メトロ銀座線で新橋に向かう予定だったので、御徒町界隈というのも都合がよかった。
   上野広小路を彷徨うこと15分、何度か道を間違えた末、ビルの谷間に「カフェ・ラパン」を発見した。想像通りの外観、そして店内に入るとこれも期待通りのカウンター。ブレンドの焙煎の度合いを確かめ、フレンチブレンドとチーズケーキを注文する。ジャズが流れる店内の雰囲気も、店の人の客との距離感も、深煎りの珈琲も、甘過ぎないチーズケーキも、すべてちょうどいい次に訪れた時は、軽い食事、サンドイッチあたりも試してみよう。そう思いつつ、店を出た。

   昼過ぎ、リオ五輪・パラリンピックパレードの余韻が残る銀座線新橋駅から、銀座8丁目高速道路地下「TCC試写室」を目指す。今回の旅行の目的であった映画『秋の理由』(福間健二監督)マスコミ試写に参加するためだ。この映画に出演している弘前出身の映画監督木村文洋との縁によって実現した試写会参加だったが、いずれ木村監督の新作(完成間近という)と今回鑑賞した『秋の理由』を一緒に弘前で上映したい、そう思った。
   詩人としても著名な福間監督は、私が追い求めてきた作家佐藤泰志と親交が深く、また佐藤文学の最大の理解者でもある。試写会終了後、福間夫妻から佐藤泰志と今回の映画について多くの話を聞くことができたが、この旅行一番の収穫となった

   夕刻から、六本木「国立新美術館」で開催中の「ダリ展」、さらに渋谷「元祖くじら屋」で「はりはり鍋」と「さえずり」を堪能した。こうして充実の2日目を終え、あとはホテルに戻って眠るだけだと思われたが、帰り道、再び串焼きのタレのにおいに誘われて、鶯谷「ささのや」に入ってしまった。串焼き、恐るべし

3日目 台東区日本堤「カフェ・バッハ」

   朝、上野駅のコインロッカーに荷物を預け、山手線・中央線を乗り継ぎ、国分寺駅を目指す。府中市美術館で開催されている「藤田嗣治展」を訪れること、これがこの日の午前中の目標だった雨の中、ようやくたどり着いた「藤田嗣治展」は、初期から晩年に至るまでの作品が網羅された本格的なものだった。長い間、間近で鑑賞することを熱望していた戦争画「アッツ島玉砕」とも出会えた

   鶯谷に戻り、地図を頼りに今回の旅最後の目的地「カフェ・バッハ」を目指して歩き始めた。「カフェ・バッハ」は「東京珈琲四天王」・「自家焙煎珈琲の御三家」などと呼ばれる、世の珈琲好きたちの聖地のひとつである。
   言問通りから昭和通り、三ノ輪から明治通り、日本堤、ひとつひとつ地名と道を確かめながら、小一時間ほどゆっくりと歩き、通りに面した店「カフェ・バッハ」を発見する。近くに「泪橋」の交差点、玉姫公園そう、ここはあの『あしたのジョー』の舞台となった地だ
   店内は、思っていた以上に明るく、テーブルも椅子も昭和を感じさせるが決して古びた印象はない。そんな店内を5人ほどのスタッフがテキパキと動き回る。注文したのは「バッハブレンド」、店のスタンダードである。中深煎りといったところか。上品で、のど越しがよく、飽きが来ない味だ。長い間歩いたこともあり、ようやく喫茶店でくつろいだという満足感が体中に広がる。
   しかし、もっと深煎りの豆も試したかった。メニューを見て、かなり深い煎りの「ケニアAA」をお土産に購入することにした。最近、複数の店で体験し、興味を持っていた銘柄だ。自宅用に100g、職場用に100g、もちろん豆のまま。これでしばらく「バッハ」を楽しめる。

   こうして、聖地巡礼はひとまず終了。数日後、職場で「バッハ」の「ケニアAA」を皆にふるまったが、ほどよい苦みと優しい酸味が高い評価を得たことを報告しておく

<後記>

   例によって、速報のような、珈琲と出会った記録である。珈琲以外の出会いについては、醸成されて、いつかこの通信の中で語られるだろう。
   次号、この4月以降の日々についてまとめて語りたいと思っているが、はたしてどうなるか… 




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

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