2017年7月12日水曜日

【越境するサル】№.159「珈琲放浪記~川越、東京、松本そして仙台~」(2017.7.12発行)

6月末から4日間、JRの「大人の休日」で、妻と川越・東京・松本・仙台を巡った。あわただしい旅だったが、もちろんそれぞれの土地で珈琲を味わうことは忘れなかった。あらためて「旅先でコーヒーを飲むこと」について考えた。

 
      「珈琲放浪記~川越、東京、松本そして仙台~」


1日目 「小江戸」川越で「あぶり珈琲」と出会った

   東北新幹線から山手線そして西武新宿線特急「小江戸13号」と乗り継いで、埼玉県に入る。本川越駅に到着したのが1225分。500メートルほどの蔵造りの街並みを散策し、郷土食のランチ、橋本雅邦の作品が収められている山崎美術館、そして立ち並ぶさまざまな店巡りに満足した後、どうしても珈琲が飲みたくなった。たしか「時の鐘」の近くに立ち寄りたいと思っていた店があるはずだが、なかなか見つからない。あきらめかけていた頃、付近の裏通りにまで踏み入って、ようやくその店にたどり着いた



   川越で最も有名な「あぶり珈琲」。外観も店の中も想像通りのレトロな造り、入った途端、居心地の良さを感じてしまった。どこか懐かしさも感じる。それほど古い店ではないはずなのに。もっとも私の「珈琲放浪」の目的地はいつもこんな感じだ。



   注文したのは、焙煎の度合によって5種類あるブレンドの中で最も深煎りの「5」。一口飲んだ瞬間から、その香りとふくよかさに圧倒された。しかも、のど越しもいい。旅の最初から自分の好みの珈琲に出会えた幸運に感謝しつつ、店を出た。この後、本川越から所沢経由で西武池袋線。娘宅へ向かう。


2日目 美術館とエスプレッソ

   午前9時半、上野公園「スターバックス」。10時開館の東京都美術館「ブリューゲル『バベルの塔』展」へ向かう予定の945分まで、エスプレッソを飲みながら待とうと思っていた。私と「スターバックス」は似合わないと思われているが(そしてその通りなのだが)、この上野公園の店だけは気になっていた。炎天下の上野公園を歩いている時、いつも「オアシス」のようだったこの店の存在は気になっていた最終日前日の土曜日ゆえの長い行列に加わり、『バベル』を目指す。


   オランダのボイマンス美術館から24年ぶりに日本にやってきた、ピーテル・ブリューゲル1世の油彩「バベルの塔」。日本初公開、ヒエロニムス・ボスの2点「聖クリストフォロス」と「放浪者(行商人)」、待ち望んでいたものと出会えた幸せ
   上野をあとにして山手線から東京メトロ千代田線へ乗り継ぎ、乃木坂へ。国立新美術館「ジャコメッティ展」。
   キュビスム、シュルレアリスムを経て独自の細長い形の彫刻スタイルを生み出し、20世紀フランスを駆け抜けたジャコメッティ。彼の132点の作品を展示した大回顧展。圧巻は9体の女性像が並ぶ大作「ヴェネツィアの女」、写真撮影可のやはり大作「大きな女性立像」・「大きな頭部」・「歩く男」。しばらく興奮を抑えることができない体験だった


   おそらくこの1年間で最も感動的な出会いとなった「ジャコメッティ展」に満足した後、午後1時半、美術館内の「カフェ コキーユ」でサンドとエスプレッソの軽い昼食。美術館巡りには、エスプレッソがよく似合う。


   のんびりはできなかった。新宿午後3時発特急「あずさ21号」で松本に向かう予定になっていた。



3日目 松本城と街歩きと珈琲と

   8時、長野県松本市駅前大通、喫茶「珈琲美学 アベ」。ホテルの朝食は利用せず、この老舗喫茶店のモーニングサービスで1日を始めたかった
   …前日夕刻、松本に到着。ホテルでチェックインを済ませた後、周辺を歩きまわり、パルコ裏通りの「ワイン酒場 かもしや」で夕食をとった。白馬豚のステーキや馬刺しのカルパッチョを肴に、長野県産ワインを数種類。「安曇野ワイナリーの白(ソーヴィニョン・ブラン)」・「山辺ワイナリーの白(ピノグリ)」・「サンサンワイナリーの白(シャルドネ)」・「五一ワインの赤(メルロー)」続いて居酒屋で地場の肴とビールと〆のもり蕎麦、すでに夜の松本に満足していた
   さて、「珈琲美学 アベ」だ。いかにも「街の喫茶店」といった趣きのカウンターとテーブル席が、少しずつ客で埋まっていく。みな、モーニングサービスが目当ての客だ。私も珈琲にサイドオーダー(一品ずつ注文する方式だ)のバタートースト・ベーコンエッグ・ポテトサラダをチョイス、初めて体験する流儀のモーニングを味わう。当たり前のように、喫茶店で朝食をとる。満足して、いよいよ街へ出る。



   黒い色彩が印象的な松本城(城内も見学)と隣接する松本市立博物館に午前いっぱいを費やし、昼食は老舗の蕎麦屋「こばやし本店」で「天ざる」。午後は縄手通り・中町通りを中心にたっぷりと街歩きを楽しむ。そして、午後2時、女鳥羽川沿いの民芸茶房「珈琲 まるも」にたどり着いた。



   民芸家具があふれた「珈琲 まるも」は、たくさんの観光客でほぼ満員。何とか見つけた席で「炭火焼珈琲」にありついた。しかし、体はすでに極度の疲労で、しっかりと味わうどころではなかった。ホテルで仮眠をとりたかった


 休息の後、駅前大通を急ぎ足で歩く。松本旅行最後のポイント、松本市美術館。ここで松本出身のアーティスト・草間彌生の作品を贅沢に楽しむ。「コレクション展  草間彌生  魂のおきどころ」の大作「レッド・ドッツ」や館外に置かれた作品群この出会いは収穫だった。






4日目 仙台青葉通り、「わでぃはるふぁ」で一休み 

   朝、松本駅6番線ホームで「駅そば」。冷たい蕎麦が思いのほか美味い。今回の松本旅行で食べた蕎麦は、相性がよかったのかすべて美味しかった。
   特急「しなの3号」で長野へ、長野から新幹線「あさま614号」で大宮へ、大宮から新幹線「やまびこ51号」で仙台へ。大人の休日、最後はこの仙台で一息つこうと計画していた。
   地下鉄東西線で大町西公園駅に向かい、「くらしギャラリー 風ち草」へ。和風テイストの雑貨中心のショップ「風ち草」には、仙台に来るたびに立ち寄ることにしていた。私のために、ステンレス製タンブラーを購入した。この夏、美味いビルが飲めそうだ
   店を出て、青葉通りを歩いて仙台駅に向かう。途中、喫茶「わでぃはるふぁ」で一休み。これまで何度も店の前を通りながら、なぜか縁がなかったこの隠れ家のような喫茶店に、ようやく入ることができた。入った途端、まるでずっとこの店の常連客だったような既視感。年季の入ったテーブルと椅子、本棚にあふれる「地球の歩き方」、輸入雑貨「定休日は満月の日」。



   ブレンドコーヒーの「ストロング」と「チーズケーキ」、どちらも満足。珈琲の強さとチーズケーキの濃厚さが見事にマッチし、旅の疲れが癒されたように感じる特別な時間が流れる

   4日間で入った喫茶店は6軒。旅の最初と最後に、思いがけない出会いがあった。「旅先でコーヒーを飲むこと」の意味をかみしめる。
    
 

<後記>


   今回の報告も例によって、速報のようなものである。この4日間の旅で出会ったさまざまなもの、たとえば美術作品や国産ワインについて、別な形でこの通信の中で語る日が来るような気がする。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。