2019年7月2日火曜日

【越境するサル】№.189「今年出会ったドキュメンタリー 2019年4-6月期」(2019.6.27発行)



2019年4-6月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。




           「今年出会ったドキュメンタリー 2019年4-6月期」

2019年4月から6月までに観たドキュメンタリーを列挙する。スクリーンで観た映画は3本、あとはDVD等での鑑賞。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、※はテレビ・ドキュメンタリー。



4月・・・『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
       (2017 ルーシー・ウォーカー)
     『華氏119』(2018 マイケル・ムーア) 
     『一四一冊目の春 くめさんが伝え続けること』
       (2019 NNNドキュメント)※
     『南京の日本人』(2018 27回FNSドキュメンタリー大賞優秀賞)※
     『鯉のぼる国ドミニカ~育てて勝つ!カープの夢~』
       (2019 ドキュメントJ)
     『それでもママに愛されたい~セックスワーカーの娘たち~』
       (2019 テレメンタリー)※
     『カラーでよみがえるパリ~ベルエポック1900~』
       (2019 BS世界のドキュメンタリー)※
     『連合赤軍 終わりなき旅』(2019 ETV特集)※
     『アメリカ大使館 密着24時』(2019 BS世界のドキュメンタリー)※
     『物語のウソとホント~エトガル・ケレットの超短編小説~』
       (2019 BS世界のドキュメンタリー)※
     『めぐりあい~下甑島で出逢った仲間たち』(2019 ドキュメントJ)※
     『平成サヨナラ歌舞伎町』(2019 テレメンタリー)※



5月・・・『ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画革命』
                (2016 マット・ターナウアー)
     『わがチーム、墜落事故からの復活』
       (2018 マイケル&ジェフ・ジンバリスト)
     『激動のカンヌ 1968』(2018 ジェローム・ウィボン)
     『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012 ロラン・ブーズロー)
     『森有正 遥かなノートルダム』(2019 BSプレミアム)※
     『今また“マンザナー”を繰り返すのか?
      ~アメリカ・日系人強制収容が問いかけるもの~』(2019 BS1)※
     『ふたつの正義 検証・揺さぶられっ子症候群』
       (2018 27回FNSドキュメンタリー大賞特別賞)※
     『さすらいのシェフ』(2019 BS世界のドキュメンタリー)※
     『“微笑み”がきた道』(2019 シルクロード・美の回廊Ⅱ)※
     『けさない灯り 山の診療所』
       (2018 27回FNSドキュメンタリー大賞特別賞)※
     『ロデオ 民主主義国家の作り方』
       (2019 BS世界のドキュメンタリー)※
     『ボタ山であそんだころ』(2019 ドキュメントJ)※
     『“カメラを止めるな!”~低予算×無名が生んだ奇跡~』
                (2019 アナザーストーリーズ)※
     『残溜~イタイイタイ病公害病認定50年~』(2019 ドキュメントJ)※
     『北朝鮮 “帰国事業” 60年後の証言』(2019 ETV特集)※

      

6月・・・『放射能症候群Ⅰ』(2013 香取直孝 脱原発弘前映画祭)
     『細川牧場さゆり』(2014 香取直孝 脱原発弘前映画祭)
     『ヒトラーVSピカソ 奪われた名画のゆくえ』
       (2018 クラウディオ・ポリ 青森シネマディクト)
     『世界で一番ゴッホを描いた男』
       (2016 ユー・ハイボー、キキ・ティアンキ・ユー)
     『それでも、生きていく~見過ごされてきた 山あいの水俣病~』
       (2019 目撃!にっぽん)※
     『「自爆」 元警部の告発』(2019 NNNドキュメント)※
     『I link ~あいりんに取り残された労働者達~』
       (2019 テレメンタリー)※
     『天安門事件 運命を決めた50日』(2019 NHKスペシャル)※
     『裁判員裁判10年~死刑判決はなぜ覆るのか~』
       (2019 NNNドキュメント)
     『再審漂流 証拠隠しとやまぬ抗告』(2019 テレメンタリー)※
     『家族スパイダー』(2019 ドキュメントJ)※
     『戦場の黙示録』(2019 映像の世紀プレミアム)※
     『廃炉への道全記録2019 核燃料デブリとの闘いが始まった』
       (2019 BS1スペシャル)※
     『三島由紀夫×川端康成 運命の物語』(2019 BS1スペシャル)※

              

毎回、「収穫」を選んでいるが、今回も数本紹介する。まず、映画から。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』(2017 ルーシー・ウォーカー)。 
 1997年、アメリカのギタリスト、ライ・クーダーがプロデュースした1枚のアルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」が、世界にセンセーションを巻き起こした。かつて第一線で活躍していたキューバのベテラン歌手や音楽家たちを復活させたこのアルバムの出現を受けて、名匠ヴィム・ヴェンダースが監督したドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)が全世界で破格のヒットを飛ばす…この50年代のキューバの大物ミュージシャンを集めたビッグバンドのグラミー賞受賞、最初のコンサート(1998 アムステルダム)、その2か月後のニューヨーク公演、彼らそれぞれのルーツ、その後の世界ツアー、そして死の直前までステージに立ち続けた彼らの姿を伝える圧巻の音楽ドキュメンタリー。制作総指揮ヴィム・ヴェンダース。




『華氏119』(2018 マイケル・ムーア)。
 あのマイケル・ムーアが、アメリカ合衆国第45代大統領ドナルド・トランプを題材に手がけたドキュメンタリー。タイトルの『華氏119(原題:Fahrenheit 11/9)』は、トランプの大統領当選が確定し勝利宣言をした2016119日に由来する。ムーア監督の代表作であり、当時のジョージ・W・ブッシュ政権を痛烈に批判した『華氏911Fahrenheit 9/11)』(2004)に呼応するものだ。1999年4月コロラド州コロンバインの高校で起きた2人の生徒による銃乱射事件を題材に「銃社会アメリカ」を「アポなし突撃取材」で徹底的に分析・諷刺した『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)以前から、巨大権力とゲリラ戦で闘い続けるムーア監督が、「悪の天才」トランプを当選させたアメリカ社会そのものにメスを入れ、権力と局地戦で闘い続ける人々を紹介する。彼の故郷ミシガン州フリントの水道水汚染問題に対する当時のオバマ大統領の姿に幻滅する住民の姿は、彼の告発がトランプや共和党だけに向けられているのではないことを示している。




『ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画革命』(2016 マット・ターナウアー)。
 「アメリカ大都市の死と生」の著者ジェイン・ジェイコブズは、モダニズムを背景に自動車中心に合理的な都市計画を進めていた1950年代のアメリカで、仲間たちとともに都市開発の帝王ロバート・モーゼスらが推し進める開発プロジェクトと闘いを繰り広げていく。当時の貴重な記録映像で綴る、「公共の空間」を重要視する都市論の実践の記録。




『わがチーム、墜落事故からの復活』(2018 マイケル&ジェフ・ジンバリスト)。
 20161128日、ブラジル1部リーグのチーム・シャペコエンセの選手と首脳陣、ジャーナリストたちを乗せた飛行機が墜落。乗客77名中71名が命を落とした。その悲しみの中から、シャペコエンセはゼロからの再出発を開始する…まるでドラマのような、いやドラマ以上の奇跡のシーズンを描いたドキュメンタリー。




『激動のカンヌ 1968』(2018 ジェローム・ウィボン)。
 19682月、名画の収集・保存・上映をしてきたパリのシネマテーク・フランセーズの創設者ラングロワが、ド・ゴール政権の文化相アンドレ・マルローに突如解任された。トリュフォー、ゴダールら映画人たちは猛烈な抗議活動を展開。やがて同年5月、パリで学生・労働者たちのゼネストから“五月革命”が起きると、その中で幕を開けた第21回カンヌ国際映画祭は、中止すべきだと主張するトリュフォー、ゴダールらの活動により会期半ばで中止に追い込まれる…映像と証言で検証する事件の全容。



『細川牧場さゆり』(2014 香取直孝 脱原発弘前映画祭)。
 第13回を迎えた「after311 脱原発弘前映画祭」、今回は『無辜なる海1982・水俣』(1983)の香取直孝監督の「被曝を記録する」5作品一挙上映。『細川牧場さゆり』は、飯舘村細川牧場で死んでいく母馬さゆりと牧場主細川徳栄の姿を描いた作品。樋口司朗のカメラワークの凄さに息をのむ…この作品と『放射能症候群Ⅰ』の2本だけしか観ることはできなかったが、残る『飯舘村佐藤八郎』(2016)・『放射能症候群Ⅱ』(2016)・『細川牧場の娘』(2017)と合わせて5本のDVDを会場で購入、監督と話すこともできた。



『ヒトラーVSピカソ 奪われた名画のゆくえ』
 (2018 クラウディオ・ポリ 青森シネマディクト)。ナチス・ドイツがヨーロッパ各地で略奪した芸術品の総数は約60万点。そのうち10万点が今でも行方不明だという。ヒトラーはピカソ、ゴッホ、ゴーギャン、シャガールらの傑作に「退廃芸術」の烙印を押し古典主義的作品を擁護したが、「総統美術館」設立の野望を抱き、ゲーリング国家元帥とともに略奪を繰り返した…この作品は、史上最大の略奪の全貌と本来の相続人たちの粘り強い戦いを丹念に描く。ただし、題名から想像されるような、ヒトラーとピカソの闘いを描いた作品ではない。




『世界で一番ゴッホを描いた男』(2016 ユー・ハイボー、キキ・ティアンキ・ユー)。
 20171124日、「BS世界のドキュメンタリー」で放送された『中国のゴッホ 本物への旅』の劇場公開版。『越境するサル』№16620171225日発行)では、次のように紹介している。「制作:Century Image Media/TRUEWORKS(中国・オランダ  2016)。原題:China’s Van Goghs。世界の名画の複製画の大半を製作する中国広東省深圳市・大芬油画村。ゴッホを専門にする絵師・シャオヨンは10万枚を超すゴッホの複製画を描いてきたが、まだ本物のゴッホを見たことがなかった。オランダを訪れる機会を得た彼は、初めて本物のゴッホと出会う…アムステルダム、自身の絵が土産物店で売られていることにショックを受け、ゴッホ美術館で本物のゴッホ作品に感激し、フランス・アルルからパリ郊外オーヴェル墓地を訪問して中国に帰ってきた彼は、やがて家族や町の風景を描き始める。それは、複製画とは違う、自分のオリジナルの絵だ。」



        

                        

テレビ・ドキュメンタリーからも数本。


『一四一冊目の春 くめさんが伝え続けること』(2019  NNNドキュメント)。
 制作:南海放送。生まれつき背骨に障害のある小倉くめさん(72)は、幼少期からいじめを受けて育った。37歳で仕事を失い、死も考えた彼女だが、障害児を抱えた母親が親子心中する事件に遭遇し、障害者問題を世に問う季刊誌"秘めだるま"を創刊した。以来35年間、たった一人で出版を続け、今春141冊目となった…ナレーションは余貴美子。


『南京の日本人』(2018 27回FNSドキュメンタリー大賞優秀賞)。
 制作:石川テレビ。201810月、初回(FNSドキュメンタリー大賞)放送。歴史認識をめぐり今も日中関係のわだかまりが残る中国・南京市。その南京市で、日本と中国をありのままに紹介するインターネット番組を発信し続ける竹内亮さん(39)。日本のテレビディレクターとして活躍していた彼は、2012年、妻の実家がある南京に移住し、翌年、インターネット番組制作会社を立ち上げた。中国に住む日本人、日本に住む中国人を主人公とする看板番組『私がここに住む理由』は、圧倒的な人気を誇る。今や“両国の架け橋”とまで呼ばれるようになった彼の日々を追う。


『連合赤軍 終わりなき旅』(2019  ETV特集)。
 連合赤軍事件から47年。7年にわたる、服役を終えた元メンバーへの取材により、「連合赤軍とは何だったのか」という疑問をに対する答を見つけようとする。物足りなさは感じるが、メンバーひとりひとりの人生が具体的に語られていることは評価に値する。続編、というかもっと掘り下げた拡大版を期待したい。


『森有正 遥かなノートルダム』(2019  BSプレミアム)。
 哲学者・森有正(1913-76)の代表作『遙かなノートル・ダム』(1967)を映像化したドキュメンタリー。東京大学文学部仏文科助教授だった彼は、1950年フランスに留学するがそのままパリに留まり、東京大学を退職。1976年パリで客死するまで、フランスで研究・執筆を続ける。パリのタクシー運転手が思い出を少女に語り、「森有正が見たノートルダム大聖堂とは何か」を探る構成。2002年初回放送。ノートルダム大聖堂尖塔焼失を受け、再放送された。語りは遠藤憲一、柴田祐規子。


『北朝鮮 “帰国事業” 60年後の証言』(2019  ETV特集)。
 1959年から25年間続いた“帰国事業”。93000人余り(日本国籍者約7000人を含む)の在日が北朝鮮に渡った。1958年、金日成政権と朝鮮総連は、在日朝鮮人に、祖国に帰り国家建設に参加するよう帰国を呼び掛ける。日本では自民党から共産党までの政党、労組、自治体、文化人が帰国事業を支持、応援した。しかし、北朝鮮に渡った在日は、結果的に北朝鮮で新たな貧困と迫害にさらされた。彼らの北朝鮮での生活の詳細を、脱北した在日コリアンと日本人妻への取材でつづる意欲作。『ディア・ピョンヤン』・『愛しきソナ』・『かぞくのくに』のヤンヨンヒ監督も証言者として登場している。

『「自爆」 元警部の告発』(2019 NNNドキュメント)。
 制作:日本テレビ。語り:松尾スズキ。1990年代後半、北海道警の拳銃押収数をトップクラスに導いた道警のエース稲葉圭昭。しかし彼は、突然、勤務していた道警に覚醒剤取締法違反で逮捕される。その後、「拳銃押収のやらせ捜査」など警察の組織的な犯罪行為が浮上するが闇に葬られた…。懲役9年の刑期を終え出所してきた稲葉圭昭が語る「道警の闇」。なお、彼はこの「稲葉事件」の全貌を『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社文庫)で告白。この著書を原作として、映画『日本で一番悪い奴ら』(2016 監督:白石和彌、主演:綾野剛)が制作された(日活)


『三島由紀夫×川端康成 運命の物語』(2019 BS1スペシャル)。
 三島由紀夫と川端康成。師弟関係にあった2人の作家の確執、それぞれの葛藤を、演出家・宮本亜門が瀬戸内寂聴・岸惠子らの証言でたどる…1968年、川端はノーベル文学賞を受賞、その2年後、三島は自衛隊駐屯地で割腹自殺。さらに2年後、川端がガス自殺。このノーベル賞をめぐる2人の確執を軸に、彼らの生い立ちから自死に至る過程を追う。50分枠だが、倍の長さが欲しい。“完全版”の放送を期待する。それほど興味深い内容だ。





<後記>
  映画館と自主上映会で3本、スクリーンでドキュメンタリー映画を観ることができた。テレビ・ドキュメンタリーは、まだまだ秀作がたくさんある…次号は「珈琲放浪記」の予定。クリムト展の行き帰りに出会った喫茶店が紹介できれば。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。



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