2014年7月14日月曜日

【越境するサル】No.128「今年出会ったドキュメンタリー 2014年4-6月期」(2014.07.12発行)

2014年4-6月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
今年から、3ヶ月ごとにこの報告を行っている。テレビ・ドキュメンタリーをできるだけたくさん紹介することを目標としているが、今回も多くのの秀作と出会った。

「今年出会ったドキュメンタリー 2014年4-6月期」

2014年4月から6月までに観たドキュメンタリーを列挙する。「青森シネマディクト」で観た映画が3本、あとの映画はDVDでの鑑賞。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、※はテレビ・ドキュメンタリー。
     
▼4月
『メキシカン・スーツケース <ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実』(2011 トリーシャ・ジフ)
『ネクスト・ゴール』(2013 マイク・ブレット スティーブ・ジェイミソン)
『追跡 アフリカゾウ密猟最前線』(2014 ドキュメンタリーWAVE)※
『南北統一という夢~作曲家ユン・イサンの生涯~』(2014 BS世界のドキュメンタリー)※
『昭和の微笑 夏目雅子29年目の真実』(2014 BSジャパン )※
『神聖喜劇ふたたび~作家・大西巨人の闘い~』(2008 ETV特集・Eテレセレクション)※
『沈黙の春~レイチェル・カーソンの警告~』(2014 NHKアーカイブス)※
『袴田事件 拘禁48年の果てに 』(2014 NNNドキュメント)※
『シリーズ 廃炉への道 第1回 放射能“封じ込め” 果てしなき闘い』(2014 NHKスペシャル)※

▼5月
『ある精肉店のはなし』(2013 纐纈あや 青森シネマディクト)
『ひろしま 石内都・遺されたものたち』(2012 リンダ・ホーグランド)
『ROOM 237』(2012 ロドニー・アッシャー 青森シネマディクト )
『ラーメンより大切なもの~東池袋大勝軒 50年の秘密~』(2013 印南貴史)
『椿姫ができるまで』(2012 フィリップ・ベジア)
『我々は新聞だ~仏 メディアの未来をかけた激論~』(2014 ドキュメンタリーWAVE)※
『カラーでよみがえる第一次世界大戦』(2014 BS世界のドキュメンタリー)※   『BLUE~青森から世界への挑戦~』(2014 テレメンタリー」)※
『議会占拠24日間の記録~中台急接近に揺れる台湾~』(2014 ドキュメンタリーWAVE」)※
『綾戸智恵 その歌声が変わった日~父と母の痛みを抱いて~』(2014 ノンフィクションW ヤン ヨンヒ )※

▼6月
『サバイビング・プログレス-進歩の罠』(2011 マチュー・ロワ ハロルド・クロックス マーティン・スコセッシ製作総指揮)
『Dear Fukushima, チェルノブイリからの手紙』(2012 大竹研吾)
『アクト・オブ・キリング』(2012 ジョシュア・オッペンハイマー 青森シネマディクト)
『リトルファイター 少女たちの光と影』(2012 トッド・キールステイン)
『Dr.ゼンスケ~青森の神様になったる~』(2014 テレメンタリー」)※
『あの舞をもういちど~原発事故と民俗芸能~』(2014 ETV特集)※
 『愛しのマラカナン~ブラジル 情熱と希望の殿堂~』(2014 BS世界のドキュメンタリー)※
『ファベーラの十字架 2010夏』(2010 BS世界のドキュメンタリー)※
『“テヘランダービー”イランが最も熱狂する日~サッカーは革命と戦争をこえる~』(2014 ノンフィクションW)※
『大沐浴(だいもくよく)~インド・3000万人の祈りの日』(2012 名作選 HVスペシャル)※
『民族共存へのキックオフ~"オシムの国"のW杯~』(2014 NHKスペシャル)※
『津軽のミサオさん 笹餅、ときどき五・七・五』(2014 NNNドキュメント)※
『シリーズ 故宮』(1回 流転の至宝・第2回 皇帝の宝 美の魔力)(2014 NHKスペシャル)※
           
 毎年、「今年の収穫」を選んでいるが、2014年4-6月期上半期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

『メキシカン・スーツケース <ロバート・キャパ>とスペイン内戦の真実』(2011 トリーシャ・ジフ)
パリのキャパのスタジオから消えたネガがどこかに残っている…長くささやかれていた「伝説」は、2007年メキシコで、ロバート・キャパが撮影したスペイン内戦の写真のネガが数多く入る3つの箱が発見されたことで事実であることが証明された。写真家ゲルダ・タローとデヴィッド・シーモア“シム”の写真を含むこの箱を、「メキシカン・スーツケース」と呼ぶ。彼らのネガを海外に持ち出したのはキャパの暗室助手イメレ“チーキ”ヴァイス。この4人の足跡と、メキシコが当時人民戦線派に果たした役割、スペイン内戦の傷跡、さらには歴史の記憶回復に取り組もうとする現在の動きを見つめたスリリングな作品。内戦終結後の共和国派の運命の詳細を、恥ずかしながら私は初めて知った…

『ネクスト・ゴール』(2013 マイク・ブレット スティーブ・ジェイミソン)

2010年のFIFAワールドカップ予選、国際Aマッチ史上最大の得点差となる0対31でオーストラリア代表に大敗したアメリカ領サモアのサッカー代表。2014年ワールドカップ・ブラジル大会の予選で初勝利を目指す彼らの姿を追いかけたドキュメンタリー。FIFAランクでも長く最下位の世界最弱のチームに、アメリカサッカー連盟からやってきたオランダ人監督が就任する。監督と選手たちは、お互い刺激を受けながら徐々にチーム力をアップさせ、ついに予選を迎える。はたして彼らは初勝利を勝ち取ることができるのか…FIFA(国際サッカー連盟)が公式に応援する、これぞサッカー映画。

『ある精肉店のはなし』(2013 纐纈あや 青森シネマディクト)

大阪貝塚市での屠畜見学会のシーンから映画は始まる。ここで出会った精肉店の家族の日々を監督は記録してゆく。牛を飼育し、屠畜・解体し、その肉を丁寧に切り分け店頭へ並べる貝塚市の北出精肉店。4世代がともに働く7代目兄弟と家族たちの姿は優しく、暖かく、しかも毅然としている。彼らは、被差別部落へのいわれなき差別と闘う部落解放運動にも身を投じているのだ。いのちと向き合う日常と、闘いと、祭りの高揚…108分間、全く飽きさせない、生き生きとした時間が流れる、奇跡の傑作。

『ROOM 237』(2012 ロドニー・アッシャー 青森シネマディクト )

スタンリー・キューブリック監督の傑作『シャイニング』。監督と原作者スティーヴン・キングが対立したというこの映画の謎に、キューブリック研究者たちがそれぞれの持論を展開しつつ挑む。細部にわたる研究者たちの分析、繰り返される『シャイニング』とキューブリック作品の映像の引用、いつのまにか研究者たちの世界に引き込まれる観客たち。エキサイティングな体験と言うべきか…

『椿姫ができるまで』(2012 フィリップ・ベジア)

2011年、エクサン・プロヴァンス音楽祭で上演されたヴェルディのオペラ「椿姫」。オペラ歌手ナタリー・デセイ、演出家ジャン=フランソワ・シヴァディエ、指揮者ルイ・ラングレ…天才プロフェッショナルたちが、稽古場で顔を付き合わせて舞台「椿姫」を作り上げていく過程を描く。それぞれのプライドをかけた稽古場でのぶつかり合いの末、舞台は完成に近づく…

『Dear Fukushima, チェルノブイリからの手紙』(2012 大竹研吾)

1986年、チェルノブイリ。そしてその25年後、福島。チェルノブイリの現在から四半世紀後の福島の姿を探るために、大竹研吾監督が自身でカメラを回しつつ、当時チェルノブイリにいた人々、原発関係者にインタビューを試みる。原発のための都市プリピャチで生活していた人々の記憶。事故後その代替都市として建設され、今も事故処理のためチェルノブイリ原発で働く人々が住むスラブチチ。チェルノブイリがたどった「復興」のみちのりに、福島の未来のためのヒントはあるのか…

『アクト・オブ・キリング』(2012 ジョシュア・オッペンハイマー 青森シネマディクト)

1965年9月、インドネシアで発生したクーデター未遂事件。これを収拾したスハルト(のちの大統領)らは、事件の背後に共産党がいると非難。やがてインドネシア全土で、共産党関係者に対する100万人規模の大虐殺が始まる。その殺害に手を染めたのは、国軍から武器を供与された反共の民間人、民兵たちだった…現在は町の名士や顔役である、当時虐殺に加わった人々。彼らが当時の殺害(それは政府からも認められた英雄的行為だった)を再現する劇映画を作っていく過程を、オッペンハイマー監督はドキュメンタリーとして記録する。最初はスター気取りだった彼らも、やがて自らのトラウマと向き合わざるをえなくなる…人間の正体をえぐり出し、世界を驚愕させた問題作。

『リトルファイター 少女たちの光と影』(2012 トッド・キールステイン)

タイの国技ムエタイ。賭博の対象となっているこの格闘技で、貧しい家族の生計を支える子どもたちがいる。8歳の少女ファイター、スタムとペットそれぞれの2年間の過酷な闘いを記録した本作は、貧富の差が激しいタイ社会で生きていくことの問題を淡々と描いていく。勝者と敗者の明らかなコントラストには悲哀を感じるが、それでも生きていく彼女たちの表情は魅力的だ。

このうち、『ある精肉店のはなし』と『アクト・オブ・キリング』は「山形国際ドキュメンタリー映画祭2013」で上映されたもの(『アクト・オブ・キリング』は山形では『殺人という行為』という題名)。山形で見逃した作品がその後一般公開され、それを地方の劇場で観る…この幸運というか、巡り合わせを何と表現したらいいだろう。

テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

『昭和の微笑 夏目雅子29年目の真実』(2014 BSジャパン)
27歳の若さで夭折した女優・夏目雅子の生涯・素顔を、関係者の証言と貴重映像で綴る「決定版・夏目雅子」。「お嬢さま芸」から変身したとされる映画『鬼龍院花子の生涯』のエピソード、映画『魚影の群れ』での相米慎二監督との闘い、結婚、闘病…家族、共演者、スタッフの証言は貴重なものだ。とりわけ、私も撮影現場周辺にいた(当時、私は撮影が行われた下北半島大間に勤務していた)『魚影の群れ』のエピソードは、私自身の記憶とも重なり合う部分が多く、感無量であった。

『沈黙の春~レイチェル・カーソンの警告~』(2014 NHKアーカイブス)
「未来潮流 地球と生命のために~環境運動の先駆者レイチェル・カーソン~」(1999年1月30日放送/74分<ETV>※一部抜粋)と NHKスペシャル「世紀を越えて 地球 豊かさの限界 第3集 それはDDTから始まった」(1999年2月21日放送/59分※一部抜粋)の2本。レイチェル・カーソンについてコンパクトにまとめられた番組。社会科教師として、見逃すわけにはいかない2本。どちらも授業で利用したことがあるが、特に「それはDDTから始まった」は生徒とともに数十回にわたり鑑賞し、内容について話し合ってきた作品だ。「NHKアーカイブス」
 
『シリーズ 廃炉への道 第1回 放射能"封じ込め" 果てしなき闘い』(2014 NHKスペシャル)
東日本大震災で、3つの原子炉がメルトダウンするという世界最悪レベルの事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所。NHKは、数十年かかる廃炉の作業を、シリーズとして取材制作スタッフも代替わりしながら長期的に記録していくことに挑戦する。第1回は、廃炉の大前提である「放射能の封じ込め」について、アメリカ・スリーマイルやチェルノブイリへの取材による映像を通して考える。同じく4月に放送された第2回は、『誰が作業を担うのか』。作業員の確保という課題について考える。

『カラーでよみがえる第一次世界大戦』(2014 BS世界のドキュメンタリー)
近代兵器の投入、総力戦、過去に類のない大量殺戮。開戦100年を迎えた第一次世界大戦の実像に迫る、ドイツZDF制作による3部作。第1話「人間性の喪失」は、戦争が勃発した1914年8月から12月まで。第2話「際限なき殺戮」は、北フランス・ベルダンの戦いを中心に、第一次大戦による被害の詳細。第3話「総力戦の結末」は、1918年、アメリカの参戦によってドイツが追い込まれていく過程と、第二次世界大戦への伏線。カラーで鮮やかに蘇る第一次世界大戦史。映像の力は強烈だ。

『議会占拠24日間の記録~中台急接近に揺れる台湾~』(2014 ドキュメンタリーWAVE」)
2014年3月18日、台湾の立法院(国会)が学生たちによって占拠された。国民党の馬英九政権が中国との「サービス貿易協定」の承認を議会で強引に進めたことに対する抗議の行動だ。貿易の自由化によって中国の大企業が進出し、台湾の中小企業が淘汰され若者の雇用状況がさらに悪化すると考えた学生たち。一方、馬政権と経済界は、巨大な中国市場とより密接に結びつくことにが台湾経済にメリットをもたらすと考える。多くの市民は学生たちを支持し、馬英九政権の支持率は急落。総統府前では30万人規模のデモが敢行され、立法院周辺は支援の人々で埋めつくされる…政府との対話を求める「市民革命」の実験ともいえる「24日間」を詳細にレポートしたこのドキュメンタリーは、ちょうどこの時期台北に滞在していた私にとっても貴重な記録となった。

『綾戸智恵 その歌声が変わった日~父と母の痛みを抱いて~』(2014 ノンフィクションW ヤン ヨンヒ)
ジャズシンガー・綾戸智恵が、介護を続ける認知症の母から受けた突然の告白、「実は本当の父がいる」。デビュー15周年を機に、綾戸は自らのルーツを知るために実父を探す旅に出ることを決意、友人の映画監督ヤン ヨンヒに協力を依頼する…自身のルーツを知る人々との再会を経て、実父の存在にたどり着く綾戸の旅と、父に向けて作られたニューアルバム制作の日々に密着した、魂を揺さぶるドキュメンタリー。ディレクターを務めるヤン ヨンヒにとっては、映画『かぞくのくに』以来の作品となる。

『愛しのマラカナン~ブラジル 情熱と希望の殿堂~』(2014 BS世界のドキュメンタリー)
1950年のワールドカップ・ブラジル大会決勝戦ブラジル対ウルグアイが行われたスタジアム、マラカナン。ブラジルの敗北により悲劇のスタジアムとなった。その後、ペレが1000ゴール目を決めた試合、フランク・シナトラのデビュー30周年ライブ、ローマ法王によるラテンアメリカ最大のミサなど、さまざまな歴史的イベントが行われてきたこのスタジアムの、過去と現在を描く。2014年のワールドカップ、2016年のオリンピックに向け進む改修工事にまつわる諸問題もしっかり押さえた内容である…6月は、ワールドカップ・ブラジル大会開催に合わせたサッカー関連番組が目白押しだった。

<後記>
パソコンの不具合そして修理という事情で、発信が遅れてしまった事を報告しなければならない。この不具合のために、速報的に報告しようと考えていた佐藤泰志原作の映画『そこのみにて光輝く』(2014 呉美保監督)の紹介も宙に浮いてしまった。したがって、次号は未定。そろそろ書物についても書かなければならない頃か…

(harappaメンバーズ=成田清文)
              

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