2021年3月16日火曜日

【越境するサル】№.205「ドキュメンタリー時評 2021年3月 ~“台湾ひまわり運動”と“世界⼀安全な場所”~」(2021.3.15発行)

  2021年3月、青森市で2本のドキュメンタリー映画が上映される(3/20~26、シネマディクト)。2014年3月、台湾立法院を占拠した「ひまわり運動」を描いた『私たちの青春、台湾』(2017 傅楡監督)と、“核のごみ”の最終処分場候補地を巡る旅を描いた『地球で最も安全な場所を探して』(2013 エドガー・ハーゲン監督)が、その2本だ。

 これまでこの「時評」では私が鑑賞した映画を中心に紹介してきたが、今回の2本はどちらも未見である。未見ではあるが、その内容について今まで紹介してきた作品以上の関心と思い入れを抱いている。この時評を読んで2本の映画の存在を知った人たちと、同じ時期に同じ映画館で鑑賞したいと思う。



「ドキュメンタリー時評 2021年3月

       ~“台湾ひまわり運動”と“世界⼀安全な場所”~」



 2018年金馬奨と台北映画祭にて最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した『私たちの青春、台湾』の監督である傅楡(フー・ユー)は、父はマレーシア華僑、母はインドネシア華僑というルーツを持つ。1982年台北生まれの彼女は、2011年、二人の大学生と出会う。台湾学生運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)と、台湾の社会運動に参加する人気ブロガーの中国人留学生・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。やがて為廷は林飛帆(リン・フェイファン)と共に立法院に突入し、ひまわり運動のリーダーになった。この二人が、主要な登場人物である。

 2014年3月、国民党政府が中国との「サービス貿易協定」をわずか30秒で強行採決したことに反対した学生たちは立法院(国会)に突入し、23日間にわたって占拠した。占拠直後から多くの台湾世論の支持を集め、与党側は審議のやり直しと、中台交渉を外部から監督する条例を制定する要求を受け入れた。議場に飾られたひまわりの花がシンボルとなり、この一連の抗議活動を「ひまわり運動」と呼ぶ。

 実は私は、この歴史的事件が進行していた2014年3月、台北に滞在していた。その時の様子を次のように記している。


 「2014年3月18日、その前日立法院での審議を打ち切り強行採決へ突き進もうとした与党国民党の姿勢に激しく抗議する学生・市民300人は、立法院の占拠に踏み切る。私たちの滞在中には、総統府に向けた『50万人』のデモンストレーションも敢行され、メディアは連日全力で報道した。新聞ではつねに第一面一杯、テレビでは数局が立法院内部や集会の様子をライブ中継を続けていた。日本では断片的にしか報道されなかったようだが、台北にいてメディアに接しているとまるで『革命前夜』のような雰囲気なのであった。

  私たち観光客が乗っている車も、デモに向かう黒いTシャツにヒマワリの花をつけた人々を間近に見ながら、進行していた。特に混乱があるわけではない。何しろ今回の学生・市民の行動を過半数以上の人々が支持し、馬英九総統の支持率は10パーセント未満。私たちの現地ガイドも、政府の対応を冷静に批判する…

  普通の市民生活のすぐ隣を、デモに向かう人たちが通り過ぎていく。その光景を私たち観光客は、確かに記憶の底に刻みつけた。彼らのシンボルであったヒマワリ(本来『向日葵』だが『太陽花』とも書く)にちなんで、立ち上がった学生たちを「太陽花学連」と呼ぶ。巨大な龍に呑み込まれまいともがく人々の姿は、私たちの過去・現在・未来とも重なり合う…」(2014.5.1発行『越境するサル』№127「旅のスケッチ~台北の想い出」http://npoharappa.blogspot.com/2014/05/no12720140501.html)


 しかし、公式ホームページやいくつかの紹介記事を読むと、この映画は「民主化」の輝かしい記録ではなさそうだ。

 学生運動のリーダー陳為廷はスキャンダルで失墜し、中国人留学生の蔡博芸は中国人であるがゆえに敵視され、それぞれ挫折を味わう。傅楡監督の挫折感もそのまま描かれているという。そして、あるインタビューでの監督の言葉を借りると、「この映画は若者の政治運動を描きながら、じつは彼ら個人の成長の姿や青春の物語を映し出して」いるとのこと。

ならば、ますます、この映画を観るべきだろう…


▽『私たちの青春、台湾』予告編


 なお、この映画と自らについての傅楡監督の「語り」を編集した『わたしの青春、台湾』(五月書房新社)が、2020年10月に刊行された。映画の日本公開に合わせて出版されたものだが、台湾の歴史と現状を知るための貴重なドキュメントである。






 『地球で最も安全な場所を探して』のエドガー・ハーゲン監督は、1958年スイス・バーゼル生まれ。長らくスイス・ドキュメンタリー映画界のリーダー的存在であり、2016年には自らの制作会社も立ち上げた。

 ハーゲン監督の2013年の作品である本作が、いま(2020年2月20日、シアター・イメージフォーラムで初公開、以後順次公開)日本で公開されたことの意義(意味)は明白だろう。公式ホームページの「ストーリー」には次のように書かれている。


 「この60年間で、高レベル核廃棄物35万トン以上が世界で蓄積された。

 これらの廃棄物は長期にわたって、人間や環境に害を与えない安全な場所に保管する必要がある。しかし、そのような施設がまだ作られていないにも関わらず核廃棄物、いわゆる”核のごみ”は増え続けている。

 そんな中、英国出身・スイス在住の核物理学者で、国際的に廃棄物貯蔵問題専門家としても高名なチャールズ・マッコンビーが世界各地の同胞たちとこの問題に取り組む姿をスイス人のエドガー・ハーゲン監督が撮影。チャールズと監督の2人はアメリカ・ユッカマウンテン、イギリス・セラフィールド、中国・ゴビ砂漠、青森県六ヶ所村、スウェーデン、スイスなど世界各地の最終処分場候補地を巡る旅に出る。

 果たして、世界に10万年後も安全な"楽園"を探すことはできるのか―。」


 廃炉も含め60基の原発を抱える日本でも、2020年、北海道の2町村が最終処分場の候補地として手を挙げた。私たちもこの問題を避けて生きていくことはできない。原発推進派であれ、反対派であれ。

 もちろん、青森県民にとっては、「必見」の映画だ。


▽『地球で最も安全な場所を探して』予告編



・青森シネマディクト 3/20~26(3/25は休館日)

『私たちの青春、台湾』(125分) 13:20~  18:10~  

『地球で最も安全な場所を探して』(110分) 14:05~  18:40~  



<後記>

  2021年3年10日、今年度2度中止に追い込まれた「harappa映画館」はようやく上映会を開催することができた。「3.11を忘れない」シリーズ、『風の電話』(2020 諏訪敦彦)。

 従来とは違う会場(文化センター)で、1本だけの上映。これからも、さまざま工夫しながら上映会を模索していくことだろう…

 今回紹介した作品も含めて、ドキュメンタリーの上映も計画していきたい。来年度こそは。



(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、

個人通信として定期的に配信されております。



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