2015年7月7日火曜日

【越境するサル】№139「今年出会ったドキュメンタリー 2015年4-6月期」(2015.7.1発行)

2015年4-6月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
   今回も多くの秀作と出会った。

 
    「今年出会ったドキュメンタリー 2015年4-6月期」

   2015年4月から6月までに観たドキュメンタリーを列挙する。「青森シネマディクト」と「脱原発弘前映画祭」(弘前文化センター)で観た映画がそれぞれ1本、あとの映画はDVDでの鑑賞。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、はテレビ・ドキュメンタリー。
         
4月・・・『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』
      (2013 ジャンフランコ・ロージ)
     『レッドマリア それでも女は生きていく』(2011 キョンスン)
          『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』
      (2012 ローレン・グリーンフィールド)
          『わたしの、終わらない旅』(2014 坂田雅子)                  
          『名誉殺人の闇の中で』(2015 NEXTスペシャル)
     『シリーズ 危険な時代に生きる 第5回~第9回』
      (2015 BS世界のドキュメンタリー)
     『井浦新 アジアハイウェイを行く 第1集「変貌する文明の十字路」
     ~トルコ・グルジア・アゼルバイジャン~』2015ザ・プレミアム)
          『キューバ 市民ツーリズムにかける~米との国交正常化の前夜~』
      (2015 ドキュメンタリーWAVE      
     『戦後70年 ニッポンの肖像-日本人と象徴天皇-第1回・第2回』
      (2015 NHKスペシャル)
     『失われた琉球の魂を求めて~復帰40年・甦る紅型~』
      (2012 ノンフィクションW)
          『庭師が描く、究極の小宇宙~海を越えた日本の美~』
      (2012 ノンフィクションW)
          “311”を忘れない57 女川いのちを守る会
       ~1000年後へのメッセージ~』(2015 テレメンタリー」)
          『サイゴン陥落 緊迫の脱出 前・後編』
      (2015 BS世界のドキュメンタリー)※ 
       
5月・・・『ヴァチカン美術館 天国への入口』
      (2013 マルコ・ピアニジャーニ 青森シネマディクト)
     『物語る私たち』(2012 サラ・ポーリー)
          『飯舘村 私の記録』(2013 長谷川健一 「脱原発弘前映画祭」)
     『靖国・地霊・天皇』(2014 大浦信行)              
     『RCサクセションシングル・マン』(2015 名盤ドキュメント)
     『9条を抱きしめて~元米海兵隊員が語る戦争と平和~』
      (2015 NNNドキュメント)      
     『たった一人の新聞社~活版印刷で半世紀~』
       (2015 テレメンタリー」)
          『井浦新 アジアハイウェイを行く 第2集「知られざるイスラム大国」
       ~イラン~』(2015 ザ・プレミアム)
          『揺れる原発海峡~27万都市 函館の反乱~』
      (2014 FNSドキュメンタリー大賞ノミネート」)
          『もしも建物が話せたら 前・後編』
  (2015 WOWOW国際共同制作プロジェクトヴィム・ヴェンダース製作総指揮)
     『永遠のモダン 京の春・重森三玲の庭』(2015 日曜美術館)
     『ヴィニュロンの妻 日本人マダムと名門ドメーヌ 再起の闘い
     (2015 ETV特集)      

6月・・・『ファッションが教えてくれること』(2009 R・J・カトラー)
          『世界一美しいボルドーの秘密』
     (2013 ワーウィック・ロス デヴィッド・ローチ)
          『最後の1本~ペニス博物館の珍コレクション~』
     (2012 ジョナ・ベッカー/ザック・マース)
     『天空からの招待状』   
     (2013 チー・ポーリン ホウ・シャオシェン製作総指揮)            
     『墨に導かれ 墨に惑わされ~美術家・篠田桃紅 102歳~』
     (2015 ETV特集)
          『あいつは、ミナだ 差別と闘い 新潟水俣病50年』
     (2015 NNNドキュメント)
     『ベトナム戦争40年目の真実』(2015 テレメンタリー)
          『キング牧師 vs. マルコムX
      (2015 BS世界のドキュメンタリー)※            
     『10億人が愛した高倉健』(2015 BS1スペシャル)
     『盗まれたクメール石像~密売ルートを追う~』
      (2015 BS世界のドキュメンタリー)
     『キリング・フィールドからテニスコートへ
     ~カンボジアテニスの再興と未来~』(2015 ノンフィクションW)
     『コメ サバイバル 密着!ブランド米の攻防』
      (2015 NNNドキュメント)                
               
   毎年、「今年の収穫」を選んでいるが、2015年4-6月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

   『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』(2013 ジャンフランコ・ロージ)。 ローマを取り巻く全長70キロの「環状線GRA」。その周辺に住む人々を、2年半かけて取材し撮影した、芸術的かつ詩的なドキュメンタリー。登場するの は、老いた母親の面倒をみながら人命救助のため事故現場で働く救急隊員、ヤシの木の害虫を駆除するために研究を続ける植物学者、ある建物に住むさまざまな 家族たち、車上生活者たち、ウナギ漁師そのテンポは心地よく私たちをスクリーンの中に招き入れ、93分間、私たちも「ローマ環状線」の人々となる。本作 は、「ヴェネチア国際映画祭金獅子賞」を受賞。ドキュメンタリー映画としては、映画祭史上初の快挙だった。

   『レッドマリア それでも女は生きていく』(2011 キョンスン)。 韓国の女性監督キョンスンが、社会の周縁でたくましく生きるアジアの女性たちに寄り添いながら、そのひとりひとりの姿を見つめる。韓国・日本・フィリピ ン家事労働者、性労働者、非正規労働者、移住労働者、介護労働者、路上生活者、元「慰安婦」たち。ここに登場する彼女たちは皆、ただ打ちひしがれている のではなく、前に向かって進もうとしている。冒頭に映し出される、ひとりひとりの「腹」の映像に、彼女たちの人生が詰まっている。

   『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』(2012 ローレン・グリーンフィールド)。 タイムシェア(共同所有)リゾートビジネスで大富豪となった男デヴィッド・シーゲル、その31歳年下の妻で元ミセス・フロリダのジャッキー。養子に迎えた 姪を含め8人の子どもと多くの使用人に囲まれて大邸宅に暮らすふたりは、さらにアメリカ最大の邸宅の建築を目指す。「ベルサイユ」と名付けられたこのアメ リカンドリームの象徴の完成を記録すべく、ローレン・グリーンフィールド監督のドキュメンタリー映画の撮影が始まるが、2008年、リーマン・ブラザーズ の破綻によって世界的な金融危機が起こり、彼らも1,200億円の借金を抱えてしまうかくしてこのドキュメンタリーは、大富豪の転落の記録として完成し た。2012年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門監督賞受賞。

   『わたしの、終わらない旅』(2014 坂田雅子)。 『花はどこへいった』・『沈黙の春を生きて』で枯れ葉剤の被害を描いてきた坂田雅子監督が、「核」のたどってきた道と未来を見つめる「終わらない旅」。こ の「旅」は、亡き母が1970年代から打ち込んでいた反原発運動を見つめ直し、フランス核再処理施設・ビキニ環礁・旧ソ連核実験場・第五福竜丸と関わる 人々と出会う、核エネルギーの歴史をたどる旅だ。「核の平和利用」を信じて原発を推進してきた時代と自分史(家族史)を重ね合わせた、未来のためのドキュ メンタリー。

   『物語る私たち』(2012 サラ・ポーリー)。アトム・エゴヤン監督の『スウィート ヒアアフター』(1997)のヒロインに抜擢され世界中から注目を集め、実力派女優へと成長したカナダ・トロント出身のサラ・ポーリー。監督・脚本家とし ても活躍する彼女が、元女優の母ダイアンと舞台俳優の父マイケルと5人の子どもたちのポーリー家の秘密、亡き母の秘かな恋と自らの出生にまつわる真実を描 く秀作。「山形国際ドキュメンタリー映画祭2013」のインターナショナル・コンペティション出品。映画祭では見逃していた作品と出会うことができた。

   『飯舘村 私の記録』(2013 長谷川健一 「脱原発弘前映画祭」)。福島県飯舘村の酪農家で同村前田地区区長の長谷川健一さんは、原発事故後の村で起こった出来事をビデオカメラで克明に記録し続け ている。その全域が「計画的避難地域」に指定された飯舘村。住民の避難、酪農の断念、行政との軋轢、そして長谷川さん自身の仮設住宅への転居激動の数ヶ 月の貴重な記録と証言でつづった初監督作。なお、上映後、長谷川さんの講演も行われた。

   『靖国・地霊・天皇』(2014 大浦信行)。昭和天皇を主題とした版画シリーズ「遠近を抱えて」が美術館によって売却され図録が焼却処分とされた「大浦・天皇コラージュ事件」の当事者であり、ドキュメンタリー作品『日本心中』(2002)・『9.11-8.15日本心中』(2006)・『天皇ごっこ』(2011) の監督である美術家・大浦信行のドキュメンタリー第4作。「A級戦犯合祀」・「政教分離」・「首相参拝」さまざまな論点で激しく意見が対立する靖国神社 をめぐって、大口昭彦氏と徳永信一氏、「左派」と「右派」を代表する弁護士が語るそれぞれの想いを中心に作られた作品だが、主人公はもちろん「死者たち」 だ

   『世界一美しいボルドーの秘密』(2013 ワーウィック・ロス デヴィッド・ローチ)。原題は「RED OBSESSION」、。「世界一美しい」という邦題から、ボルドーワインの魅力を余すところなく伝えようとする映画だと思って見始めたが、それ以上にシ ビアなワインビジネスの現状を伝える内容だった。とりわけ、中国人富豪たちの介入で値段が高騰(そして暴落)したボルドーワインの未来への警告という意図 が感じられたが、一方で中国ワインの生産者への期待も感じられ、なかなか一筋縄ではいかないドキュメンタリー。私にとっては、ありがたい情報満載の1本と なった。

   『最後の1本~ペニス博物館の珍コレクション~』(2012 ジョナ・ベッカー/ザック・マース)。アイスランドの港町フーサヴィークに世界で唯一のペニス博物館がある。館主が40年間にわたり収集したほ乳類の ペニスの標本が展示されているが、彼には死ぬ前にかなえたい夢があった。それは、ホモ・サピエンスつまりヒトのペニスを展示すること。申し出た候補者はふ たり。アイスランドの95歳の名士と、アメリカの中年カウボーイ。果たして、人類代表に選ばれるのは誰?この夏、日本公開。

  
『天空からの招待状』(2013 チー・ポーリン ホウ・シャオシェン製作総指揮)。台湾政府内職員として20年以上航空写真を撮り続けてきたチー・ポーリン監督が、「美麗島」と呼ばれる美しい島台湾の 山・海・田園そして工場・都市を3年間にわたって撮影し作り上げたドキュメンタリー。台湾公開時には、年間興行成績第3位の大ヒットとなった。最初、美し い景色を中心とする「台湾讃歌」と思わせるが、途中から環境破壊の進行に対する鋭い告発・批判を内包する映像へと変化する。製作総指揮のホウ・シャオシェ ンをはじめ、最高のスタッフが集結した空前絶後の映画。 

   テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

   『名誉殺人の闇の中で』(2015 NEXTスペシャル)。ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの故郷パキスタンで深刻な問題となっている「名誉殺人」。親が決めた相手以外と結 婚した場合などに、「一家の名誉が汚された」として、父親や親族が娘を殺害する事件が地方では発生する。このドキュメンタリーでは、父親に銃で撃たれ一命 を取り留めた20歳の女性や13歳の時に性的暴行を受けた女性のケースに密着し、それでも女性の権利に目覚め未来に向かっていこうとする姿を描く(初回放 送は331日)。「NEXT」は、NHKの新しいドキュメンタリー番組。

   『サイゴン陥落 緊迫の脱出 前・後編』(2015 BS世界のドキュメンタリー)。19754月、北ベトナム軍がパリ和平協定を破って南へ進軍、南ベトナムの首都サイゴンを陥落させ、ベトナムは統一され た。アメリカ人を脱出させる計画を極秘裏に策定していたアメリカ大使館が最終的に採用したのは大使館からヘリコプター輸送で脱出させる作戦だった。サイゴ ン陥落という歴史的な瞬間に至る最終局面を、アメリカ側の関係者の証言と貴重な映像で描く。2015年アカデミー賞長編ドキュメンタリーノミネート作品。

   『9条を抱きしめて~元米海兵隊員が語る戦争と平和~』 (2015 NNNドキュメント)。ベトナム戦争に従軍した元米海兵隊員アレン・ネルソンさんは、戦場で数えきれないくらいの人を殺害し、帰還後PTSDに苦しめられ る。戦争そのものの本質と向き合うことをきっかけに立ち直った彼は、96年から日本で講演活動を開始した。その中で彼が重要視したのは「憲法第9条」の役 割だった。2009年、ベトナム戦争で浴びた枯葉剤が原因と見られる癌で死去したネルソンさんの半生を描き、戦争・米軍基地の本質を鋭く突いた秀作。読売 放送制作。

   『井浦新 アジアハイウェイを行く 第2集「知られざるイスラム大国」~イラン~』(2015 ザ・プレミアム)。中東の大国イラン。「テロ支援国家」、「核兵器開発疑惑」、「経済制裁」、井浦新がイメージするイランとは違うイランの姿がそこには あった。商品があふれエネルギーに満ちたマーケット、活躍する女性たち、そしてどこの国とも同じ家族の絆。イスラム教シーア派の聖地、アルメニア人のキリ スト教会さまざまな場所を訪れた井浦新は、キアロスタミ監督の映画『友だちのうちはどこ』(1987)が撮影された場所にも立ち寄る。その後の地震で廃 墟となったその村に残る、あの「ジグザグの道」。『友だちのうちはどこ』を知る者には貴重な映像であった。

   『もしも建物が話せたら 前・後編』(2015 WOWOW国際共同制作プロジェクト ヴィム・ヴェンダース製作総指揮)。ヴィム・ヴェンダース製作総指揮の下、世界で活躍する6人の映画監督が、自身がこだわる建物について描くオムニバスの ドキュメンタリー。ヴィム・ヴェンダース監督は地元ベルリンのフィルハーモニー・ホール。ミハエル・グラウガー監督はロシア最古の公共図書館、ロシア国立 図書館。マイケル・マドセン監督は再犯率がヨーロッパで最も低い、ノルウェーハルデン刑務所。ロバート・レッドフォード監督は、ポリオワクチンの開発者 ジョナス・ソーク創設のサンディエゴのソーク研究所。マルグレート・オリン監督は地元ノルウェー・オスロの海面からそそり立つオペラハウス。カリム・アイ ノズ監督は、ジョルジュ・ポンピドゥー発案のパリのポンピドゥー・センター。それぞれの監督が独自の視点で建物に迫る、異色のドキュメンタリー。

   『ヴィニュロンの妻 日本人マダムと名門ドメーヌ 再起の闘い』(2015 ETV特集)。フランス・ブルゴーニュの南端、サヴィニー・レ・ボーヌ村。その名門ドメーヌ(醸造所を備えたぶどう生産農家)の三代目当主・パトリック・ ビーズに、15年前1人の日本人女性が嫁いだ。彼女の名はビーズ千砂。元エリート銀行員の彼女の内助の功もあり、ドメーヌは順風満帆だった。しかし 2013年、ブルゴーニュ一帯を襲った雹(ひょう)でぶどう畑が壊滅した年、収穫の最中、夫パトリックは自動車運転中に心臓発作を起こし死亡する。名門ド メーヌの浮沈をかけた、日本人マダム・ビーズ千砂とドメーヌの1年間にわたる闘いが始まったドメーヌの人々の、明日をかけた生き残りの物語。その美しい 四季の映像と彼らの語り、どちらも魅力的だ。ナレーションは宮沢りえ。

   『墨に導かれ 墨に惑わされ~美術家・篠田桃紅 102歳~』(2015 ETV特集)。現役最高齢の美術家・篠田桃紅、102歳。戦後すぐに渡米、「水墨の抽象画」というジャンルを確立して世界的に高 い評価を得てきた彼女の、アトリエでの制作の姿とその人生を追う。一本一本墨の線を積み重ねていく彼女独特の作風と、全く無駄のない明快な語り口。気がつ くと、完全に魅了されている自分がいる。

   10億人が愛した高倉健』(2015 BS1スペシャル)。高倉健は中国で一番愛されている日本人俳優だ。1978年、文化大革命直後の中国で高倉健主演の『君よ憤怒の河を渉れ』(1976 佐藤純彌監督)が公開され、10億人が見たといわれる。文革後初の日本映画であるこの作品は多くの中国人観客の心をつかみ、その影響は今も各界の人々に残っている。いわれなき罪を着せられ た検事が巨悪に立ち向かっていくこの映画に魅せられた人々が語る、高倉健讃歌。

   テレビ・ドキュメンタリーは、録画はしたもののチェックできなかった作品が多く、悔いが残る。民放3局のドキュメンタリー番組、テレメンタリー、NNNド キュメント、FNSドキュメンタリー大賞。NHKのNHKスペシャルとBS世界のドキュメンタリー。これらを地道にチェックして紹介することができれば、 と思うのだが、なかなか時間がとれない。だから、ここで紹介されているのは、偶然出会ったものだけである。


<後記>

   次の発信まで、またしばらく時間がかかりそうである。当分の間、バックナンバーをプリントアウトして各シリーズの「総集編」や「自選集」を作る作業をすることを考えているが、その過程で次のテーマが生まれてくるかもしれない。 



harappaメンバーズ=成田清文)
※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。
    


2015年6月23日火曜日

【越境するサル】№138 「『越境するサル』的生活 2015~5月までの日々~」(2015.6.21発行)

毎年、この通信のもとになる精神生活(といっても、読書や映画鑑賞や街歩き程度だが)について「『越境するサル』的生活」という題名でエッセイ風に記述し、友人たちへの報告としている。
  
今年は、長い間こだわり続けてきた「あるテーマ」について考えるために、自分が「準備」する過程を報告する。

 
      「『越境するサル』的生活 20155月までの日々~」

   その日曜日、録画していたテレビ・ドキュメンタリー2本を午前中に観た後、軽い昼食とお決まりの珈琲(もちろんマンデリン)を済ませた私は、かねてより計 画していた午後のドキュメンタリー映画鑑賞に出かけるための準備を始めた。弘前文化センターで開催されている「脱原発弘前映画祭」の1本、酪農家の長谷川 健一氏の『飯舘村 私の記録』(2013)。長谷川氏が自らビデオカメラで撮影し続けた、飯舘村の原発事故後数ヶ月の記録を編集したものだが、上映後に長谷川氏の講演も予定 されているので、外すわけにはいかなかった。ちょうど、午前中に観たテレビ・ドキュメンタリーも原発を扱った作品だった。フジテレビで2014年に放送さ れた『揺れる原発海峡~27万都市 函館の反乱~』(FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品)。対岸で建設されている大間原発に対する函館市の訴訟を北海道文化放送が取材し制作したこの 作品は、私自身にとって無視できない内容だが、深夜にBSフジで放送されることを発見したのは本当に偶然だった。こういう偶然で、数々のドキュメンタリー と出会った。
   「今年出会ったドキュメンタリー」を年4回発信するようになってから、ほぼ毎日1本、テレビ・ドキュメンタリー番組かドキュメンタリー映画のDVDを観るようになった。ほとんど飯を食うような感覚で、日常的に、録画しておいた、あるいは宅配レンタルの作品を消化する日々…

   講演を聴き終わってすぐ、弘前図書館を目指す。
   返却が2冊、内田樹『街場の戦争論』(2014)と『新潮』20153月号。借りたのは3冊、四方田犬彦『台湾の歓び』(2015)、内田樹他『この国はどこで間違えたのか 沖縄と福島から見えた日本』(2012)、内田樹編『街場の憂国会議 日本はこれからどうなるのか』(2014)。
  
『新潮』を借りていたのは、杉田俊介の評論「ジェノサイドについてのノートーリティ・パニュ、ジョシュア・オッペンハイマー、伊藤計劃」が掲載されていたからだ。昨年私が出会った『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2013)のリティ・パニュ監督と『アクト・オブ・キリング』(2012)のジョシュア・オッペンハイマー監督に関する内容を含む評論とあっては、無視するわけにはいかなかった。
  
『台湾の歓び』は、台湾映画や台湾現代史の知識を私に与え続けてくれた四方田犬彦の初の台湾紀行。すでに読んでいた「台湾人の三人の父親」を含む「第一部 台北」と、「第二部 黒い女神を求めて」・「第三部 台南」で構成されている本書は、再び台湾と向き合うための基礎知識となるはずだ。実は、今年1月の「『越境するサル』「「丸谷才一『裏声で歌へ君が代』再 読~「台湾体験」の記憶へ~」発信以降、おそらく丸谷才一に影響を与えたはずの直木賞作家邱永漢(台湾出身)の短編小説を読んだり、いまの私にとって最も 重要な台湾映画の『多桑(トーサン)』(呉念眞監督 1994)を北京語字幕版で観たり…少しずつ、いつか再び台湾について考える時のための準備だけはしていたのだ。
   そして、内田樹の著書および内田が関わるアンソロジー。この4月から5月、私は内田樹を含む何人かの人々の著 書を中心に、あるテーマのもと、かなり意識的に読書計画を立てて読み続けてきた。おそらく夏まではこのペースが維持されるはずだが、そのテーマとは「戦後 日本」だ。

  
昨年、加藤典洋の『3.11 死に神に突き飛ばされる』(2011)と『ふたつの講演 戦後思想の射程について』(2013)の2冊を読んで以来、思想家・吉本隆明の「反・反原発」のスタンスに対する違和の感覚を自分なりに処理できるように なった。要するに、「吉本無謬神話」から脱却すればいいだけなのだ。吉本の「原発政策」に関する言説・分析は誤謬であり、そしてその誤謬は戦後の日本人が 「原子力の平和利用」という言葉に欺かれてきた歴史と同じ根を持つものである。そのように納得して、吉本のすぐれた著作に向き合い、一方で吉本の限界を超 えたものに関しては「吉本を頼りにせず」自分の頭で考える。前提となる条件が変わったら、結論を修正する…そう考えるようになってから、それは昨年の末あ たりからなのだが、「戦後日本」について書かれたいくつかの著作が気になり始めた。仕事のほかには、台湾とドキュメンタリー映画の企画とコーヒーと酒のこ とだけ考えていた頃だ。概略すると、次のような流れで読書計画は進んでいった。

  
2月末、自分が関わる企画「ドキュメンタリー最前線2015」の準備と並行して、赤坂真理『東京プリズン』(2012)を読み始める。アメリカ・メーン州 に留学(というより行かせられた)少女時代の経験を持つ主人公が、その過去と現在を往き来するファンタジー仕立ての小説だが、過去の時間で展開されるのは 「天皇の戦争責任」をめぐるディベートだ。彼女は「責任あり」の立場でアメリカ人聴衆の前に立つ…この小説を出発点として、読むべき書物を物色し始める。
  
3月、「ドキュメンタリー最前線2015」終了とともに用意した何冊かを、4月上旬から読み始める。まず、創元社「戦後再発見」双書の仕掛け人矢部宏治の 『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』(2014)。続いて、「戦後再発見」双書第一弾である孫崎亨『戦後史の正体-19452012』 (2012)。「戦後日本」の政治がどれだけアメリカの意向によって作られてきたか、対米独立と対米追従のせめぎ合いの歴史を追及するこの2作によって、 このあとの流れは決定づけられた。やがて私は、「戦後再発見」双書第二弾『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(前泊博盛 2013)と第三弾『検証・法治国家崩壊-砂川裁判と日米密約交渉』(吉田敏浩/新原昭治/末浪靖司  2014)を読むことになるだろう。『戦後史の正体』の各論として。
  
ここまで、日米の、あるいは日本人の心の中の「ねじれ」について語る著作と向き合ってきた私は、4月中旬、加藤典洋『人類が永遠に続くのではないとしたら』(2014 新潮社)を丹念に再読する。この「ねじれ」については、加藤典洋が『アメリカの影ー日本再見』(1985)・『敗戦後論』(1997)等で執拗に分析してきたテーマだ…
  
こうして私は、白井聡『永続敗戦論』(2013)にたどり着く。戦後日本のレジームの核心的本質が「敗戦の否認」にあるとし、その一方でアメリカに対する 盲従を続ける日本の戦後を「永続敗戦」ととらえる白井のこの著作との出会いは、今回の一連の読書のメインとなるものだった。そして引き続き、私にとっては 加藤典洋と同じくらい重要な位置を占める文芸評論家(および推理小説作家)笠井潔の『8.153.11 戦後史の死角』(2012)を読み終わったとき、この後に読むべき書籍の一群が眼の前にひろがってきた…
 
   このあと、とりあえず8月まで、私は「戦後日本」について考え続けるだろう。「とりあえず8月」と書いたのは、8月以降、これらの著作の紹介をプロローグとする複数の発表を考えていたからだ。
   
ポツダム宣言受諾、新憲法制定、日米安保条約、日米地位協定、砂川判決…これら(すべて当たり前のように教科書に載っているものばかりだが)を私自身の授業の中でどのように教材化していくか。さらに映画『ゴジラ』(1954)と「第五福竜丸事件」の分析から、日本人の「原子力」と「平和利用」への想いについて考える。そのような発表を目論んでいた。その完成の目安が8月だった。

  
さて、このようにして5月まで、最近にしては珍しく読書に没頭する日々を送っていたのだが、実は5月には私的なイベント、それも大きなイベントがあった。 娘の結婚式である。そちらの方にもかなりのエネルギーを注ぐ必要があったし、実際相当の体力を費やしたわけだが、そんな中でも「『越境するサル』的生活」 と言える時間を持つことができた。それを紹介して、「5月までの日々」の締めくくりとする。 

   …5月下旬の休日、私は母とともに仙台青葉城址にいた。その前日仙台で行われた娘の挙式と披露宴のため家族そろって仙台に滞在していたが、父親としての大役もホテル宿泊と荷物発送の雑務も終え、最終日は新幹線の発車時刻までかなりの余裕があった。
   なぜか、青葉城址に行きたかった。もちろん伊達政宗像を観るためだが、山の上にあるその場所に立ちたいと思ったのだ。家族はそれぞれ予定を立てていたが、私は母を誘い、タクシーで青葉山を登ることにした。
  
伊達政宗像に一番近い場所に駐車し、運転手さんに案内してもらって少し歩き、眼下にひろがる仙台市内の眺望を楽しんだ。私にとっては四十数年ぶり、母にとっては六十数年ぶりの景色だった。
  
その帰り道、運転手さんと母にお願いして、仙台市博物館に立ち寄った。東日本大震災復興祈念特別展「国宝 吉祥天女が舞い降りた!ー奈良 薬師寺 未来への祈りー」が開催されていたのだ。「薬師寺聖観世音菩薩立像」を、どうしても観たかった。実は3年前、修学旅行の引率で薬師寺を訪れた際、手違いがあって見逃していた。その後、後悔の念というか、無念の気持が大きくなっていた。
  
約束した時間は10分。母を車中に残し、小走りで階段を駆け上がり、チケット売り場を目指す。少し手間取ったが、チケットを右手に持ち一気に階段を走って 上り、特別展のエリアにたどり着く。すべてが魅力的な展示だが、目標はただひとつ、「聖観世音菩薩立像」。急ぎ足で、ひたすらその場所だけを目指す。そし て、ついに、対面することができた。合掌…
そういえば、「唐招提寺鑑真和上像」(2004)や「平等院鳳凰堂雲中供養菩薩像」(2000)にも、偶然この仙台市博物館で出会ったのだった…

   お気に入りの仏像との、わずか3分ほどの対面。それでも、充分幸福な時間。そのような時間を「『越境するサル』的生活」と、私は呼ぶ。
  

<後記>

   結局、8月に予定されていた「発表」は取り消しとなっ た。今後規模の小さな集まりでの「発表」は考えられるが、それほど急ぐ必要もなくなった。だが、私の中の「準備」はそのまま続けられている。何よりも、自 分のための「準備」であり、しかも情勢はかなり切迫している。
   次号は「今年出会ったドキュメンタリー」、4-6月期。その後は未定。



harappaメンバーズ=成田清文)
※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。
    
    

2015年6月5日金曜日

【harappa Tsu-shin】弘前のアートについてあれこれ話し合う会♪



「弘前のアートについてあれこれ話し合う会」を開催します♪

自分の作品を展示してみたい!
こんなことをやってみたい!
弘前のアートについて、みんなで一緒に、あれこれ考えてみませんか?

弘前アートプロジェクト実行委員会では、
一緒に弘前のアートについて考えてくれる方を募集します!!
実行委員会の定期ミーティングに参加してみませんか?
日時は毎月第4火曜日18時~コトリカフェ(百石町展示館内)にて
誰でも参加自由ですので、少しでも興味のある方はぜひ遊びに来てください!
次回は6月23日(火)開催です。
事前の申し込みなどは必要ありません。どうぞお気軽にお越しください。

主催:弘前アートプロジェクト実行委員会
問合せ:NPO harappa ℡.0172-31-0195 e-mail. post@harappa-h.org





(harappaスタッフ=太田)



2015年4月10日金曜日

【harappa Tsu-shin】「夜行庭園」開催しました♪

みなさん、こんにちは!!
寒い日も少し続きましたが、
来週には桜が咲いているなんてルンルンですね♪

さて、少し遅くなってしまいましたが、
先月、28日に開催した「夜行庭園」についてご報告します!

場所は、藤田記念庭園洋館♪
喫茶スペースも開放していただき、
本当にたくさんの方々にご来場いただきました!

出演者トップバッターは鳴海徹朗さん♪
少しずつ暮れていく洋館の雰囲気と鳴海さんの音楽がぴったりです♪

お次はnicotoneさん♪
明るくポップなサウンドにお客さんも楽しそうです♪

3番手はオオシマコウスケ&HORNSさん♪
今日の出演者では唯一のバンド編成ということで、
会場を一気に盛り上げてくださいました♪

そして!そして!!
最後はヨーコトリヤベさんです♪
前からこの洋館で歌ってみたかったというトリヤベさん♪
洋館に響き渡るステキな音楽にお客さんも聞き入っていました♪

夜の藤田記念庭園洋館!!
会場の雰囲気も然ることながら、
ご出演いただいた4組のアーティストの音楽を、
じっくり味わうことができたイベントになったのではないかと思います♪

ご来場いただいたみなさん、
ご出演いただいたアーティストのみなさん、
ご協力いただいた大正浪漫喫茶室のみなさん、
弘前アートプロジェクト実行委員会のみなさん、
本当に、本当にありがとうございました♪

また、こんな素敵なイベントが開催できればいいなと思っております♪



(harappaスタッフ=太田)





2015年4月8日水曜日

【越境するサル】№137 「今年出会ったドキュメンタリー 2014年1-3月期」


2015年1-3月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。

 3ヶ月ごとに報告を行うようになって2年目。

多くのテレビ・ドキュメンタリーを紹介できるようになった。

 

    「今年出会ったドキュメンタリー 2014年1-3月期」


   2015年1月から3月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はほとんどがDVDでの鑑賞であるが、3月に6本、スクリーンで観ることができた。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、「最前線」は、harappa映画館「ドキュメンタリー最前線2015。※はテレビ・ドキュメンタリー。

 1月・・・『VERA 68~五輪の名花チャスラフスカ 栄光と失意の五十年~』
     (2012 オルガ・ソメロバー)
           『福島の未来 0.23μSv』(2013 イ・ホンギ)
           『ファイアbyルブタン』(2012 ブリュノ・ユラン)                                  
     『戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか 第5回~第8回
      (「知の巨人たち」)』(2015 NHKEテレ)※              
     『THE ’60s:「ジョン・F・ケネディ暗殺」』(2015 スターチャンネル )※            

           『わたしの村は燃えている~インド~』(2015 発掘アジアドキュメンタリー)※
           『レベル1~見過ごされた予兆~』(2015 テレメンタリー)※
           『カンフー・ガールズ~台湾~』(2015 発掘アジアドキュメンタリー)※
          『100歳、叫ぶ  元従軍記者の戦争反対』(2015 NNNドキュメント)※
     『祖国を引き裂いた真珠湾~日系二世のゼロ戦~』(2015 TBS報道の魂)
          『実録 アイヒマン裁判』(2015 BS世界のドキュメンタリー)※ 
           『悲願~再審の扉と証拠開示』(2015 テレメンタリー)※
                    
  2月・・・『アメリカ通り』(2008 キム・ドンリョン 「小川紳介賞」
            『パーソナル・ソング Alive Inside」(2014 マイケル・ロサト=ベネット
            『中国・日本 わたしの国』(2013 ちと瀬千比呂)    
            
         『湯気の向こうに 大将と女将 ときどき、おでん』(2015 NNNドキュメント)※
      『「清掃のプロ」スペシャル』(2015 プロフェッショナル 仕事の流儀)※
             『住民帰還~福島・楢葉町 模索の日々~』(2015 ETV特集)※
             『裁判官はその目を閉ざした~高知白バイ衝突死 疑惑の証拠はどう裁かれたのか~』
      (2015 テレメンタリー)※

             『アフガニスタンの遠い春~密着 陸軍重兵器中隊~』(2015 ドキュメンタリーWAVE)※
      『フルシチョフ アメリカを行く』(2015 BS世界のドキュメンタリー)※
            『アンジェイ・ワイダ 若き映画人たちへ贈る授業』(2015 ノンフィクションW)※
      『報道は“罪”なのか~エジプト 拘束された記者たち~』(2015 ドキュメンタリーWAVE)※
             『薬禍の歳月~サリドマイド事件・50年~』(2015 ETV特集)※         
            
  3月・・・『無人地帯』(2012 藤原敏史)
            『日本と原発』(2014 河合弘之 「脱原発弘前映画祭」
            『フタバから遠く離れて 第二部』(2014 船橋淳 「harappa映画館      
      『消えた画 クメール・ルージュの真実』(2013 リティ・パニュ 「最前線」再
            『ある精肉店のはなし』(2013 纐纈あや 「最前線」再)
            『ふたつの祖国、ひとつの愛ーイ・ジュンソプの妻ー』(2013 酒井充子 「最前線」)
            『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』
      (2014 フレデリック・ワイズマン 仙台チノ・ラヴィータ)      
             『ふたりの約束 魂の惣菜』(2015 プロフェッショナル 仕事の流儀)※
             『シリーズ 危険な時代に生きる 第1回~第4回』(2015 BS世界のドキュメンタリー)※
             『“3.11”を忘れない54 分断の町』(2015 テレメンタリー)※
             『父が消えて』(2015 極私的ドキュメント にっぽんリアル)※
             『漫画で人間社会を問う~東北の異端・いがらしみきお~』(2015 ノンフィクションW)※
             『冷戦終結 首脳たちの交渉~ゴルバチョフが語る舞台裏~』(2015 ETV特集)※
      『生態学者・田邊優貴子』(2015 情熱大陸
      『阪神・淡路大震災から20年② ガレキの街の明暗~誰のための復興か~
       (2015 NNNドキュメント)※
       
   2015年1-3月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

  『VERA 68~五輪の名花チャスラフスカ 栄光と失意の五十年~』(2012 オルガ・ソメロバー)。NHKBS1で1月2日に放送されたチェコ制作のドキュメンタリー映画。東京五輪そしてメキシコ五輪の女子体操金メダリストである ベラ・チャスラフスカの、波乱に満ちた人生の物語。「五輪の名花」と親しまれた選手時代、母国の民主化運動「プラハの春」への支持を貫いたため加えられた 当局の圧力に耐えた1968年以降、1989年のビロード革命による復権…ベラ自身がフィルムとともに語る貴重な記録。この放送自体が特筆すべき出来事。
   『福島の未来 0.23μSv』(2013 イ・ホンギ)。韓国のイ・ホンギ監督による福島の未来への警鐘。放射能測定器で線量をチェックすることが日常となった人々、彼らを含む全国から集まった 17人の市民は、1986年に原子力事故が起きた旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所を訪問する。現在も続く、放射能が引き起こした被害。中でも深刻な子 どもたちへの影響、それは福島の明日かもしれない。
 
 『アメリカ通り』(2008 キム・ドンリョン 「小川紳介賞」)。米 軍基地の街東豆川(トンドゥチョン)市の一角にある「アメリカ通り」。この街のクラブで働くロシア人、フィリピン人女性たち、ここで40年以上働いてきた 韓国人女性「K」…米軍基地の街で「不法就労」も辞さず米兵や仲間たちと生活を続けていく彼女たちをカメラは記録する。この作品は「山形国際ドキュメンタ リー映画祭 2009」の「アジア千波万波」部門(アジアの新人監督の登竜門)最優秀賞「小川紳介賞」を受賞した。一昨年、「BSスカパー」で過去の受賞作5本が放送 されたが、まさに珠玉の作品揃いであった。
 
 『パーソナル・ソング Alive Inside」(2014 マイケル・ロサト=ベネット )。 認知症の人々が500万人以上もいると言われているアメリカ。この人々に思い入れのある曲を聴かせることによって当時の自分や家族の記憶を呼び起こすこと ができないか。ソーシャル・ワーカーのダン・コーエンの試みは、劇的な効果を上げるプロジェクトとして全米で注目されるようになる。マイケル・ロサト=ベ ネット監督による3年に渡る取材で完成した本作は、サンダンス映画祭で高い支持を得て、観客賞を受賞。その後も世界で公開され続けている。


 『中国・日本 わたしの国』(2013 ちと瀬千比呂)。来日して20年になる、残留邦人二世山田静、59 歳。現在は東京葛飾区で、男性ばかりの同僚に混じって働く女性タクシードライバー。中国で二度、日本で一度の離婚を経て、異父兄妹4人の子を女手一つで育 て上げた「肝っ玉おっ母」だ。そんな、病気をする暇もなかったという彼女が、腎臓を患い手術をした。「長く大連の、母の墓を訪ねていないため」だと考えた 彼女は、二人の子を連れ中国に里帰りをする。カメラはその旅に同行し、彼女のルーツに迫ろうと試みる。


 『無人地帯』(2011 藤原敏史)。2011年の福島、「20km圏内」。住民が避難し、無人地帯となった被災地の風景。そして、避難させられる期日が迫る飯舘村の人々。被災地 にとどまり続ける人々と避難で故郷を追われる人々、彼らの言葉から福島の現状を浮き彫りにしようと試みた作品。公開時のプログラムには「小川プロ出身の加 藤孝信が撮影を担当。ナレーションをアトム・エゴヤン作品で知られる女優アルシネ・カーンジャンが担当し、アモス・ギタイ作品を多く手掛けるイザベル・イ ンゴルドが編集。音楽はロバート・クレイマー作品の音楽でも知られるフリージャズの重鎮バール・フィリップス。」とある。実は、この映画の冒頭のシーンに は「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2011」で出会っていた。「山形市中央公民館」、プレスの取材室があるここの5階の壁に映し出された津波と地震の爪痕の映像。「3.11」をめぐる特集のインスタレーションのひとつだった…
  
『日本と原発』(2014 河合弘之 「脱原発弘前映画祭」)。弁護士河合弘之、弁護士海渡雄一、そして原発訴訟を共に闘う木村 結。3人は、丸2年の歳月をかけて被災地での情報収集、関係者と有識者へのインタビュー取材を続け、原発事故の背景から規制基準の問題点、エネルギー政策 の真実を徹底的に明らかにする。小出裕章、古賀茂明、青木秀樹、田中三彦、飯田哲也…彼らの語りひとつひとつが私たちの眼を開かせ、弁護士たちの活動や訴 訟は私たちを励ます。このような映画が、必要だったのだ。
  
 『フタバから遠く離れて 第二部』(2014 船橋淳 「harappa映画館)。ドキュメンタリー映画『フタバから遠く離れて』(2012 舩橋淳監督)は、 福島第一原発事故後地域社会丸ごと移転した、福島県双葉町民の避難生活を描いた作品。町全体が全面立入禁止の警戒区域となり、町民1423人が約250キ ロ離れた埼玉県の旧騎西高校校舎へ避難。カメラは9ヶ月にわたって彼らの生活を記録した。「第二部」は、それ以後から現在に至る約3年間を記録した作品で ある。長い避難生活が続く中、町議会と町長が対立し、井戸川町長が辞任に追い込まれ、避難先で町長選挙が行われ、新町長が誕生し、役場がいわき市へ移転 し、町が帰宅困難地域に指定され、中間貯蔵施設の建設計画が起こり…そして、旧騎西高校避難所が閉鎖され、人々は去っていく。まだ、一人も、故郷への帰還 は果たしていない。

 『ふたつの祖国、ひとつの愛ーイ・ジュンソプの妻ー』(2013 酒井充子 「最前線」)。harappa映画館「ドキュメンタリー最前線2015」。韓国の国民的画家イ・ジュンソプとその妻山本方子の物語。1939年、朝鮮半島 から日本に留学し文化学院美術部に在籍していたジュンソプと、そこで学んでいた方子は恋に落ち、1945年、彼らは現在の北朝鮮・元山で結婚。しかし、戦 争終結・南北分断・朝鮮戦争・李ラインと続く激動の中、彼ら家族は時代に翻弄され、別離を余儀なくされていく…ジュンソプは1956年死去。2013年、 ふたりの生涯を描くドキュメンタリー制作のため、酒井監督は方子とジュンソプを知る人々へのインタビューを開始する。
  
 『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014 フレデリック・ワイズマン 仙台チノ・ラヴィータ)。あらゆる領域に好奇心を持ち、ドキュメンタリー作品を作り続けてきた、巨匠フレデリック・ワイズマン。彼が30年間撮影を切望し 続けてきた英国の国立美術館、ロンドン・トラファルガー広場に建つナショナル・ギャラリー。「世界最高峰」と称えられるこの美術館の全館に3ヶ月間潜入 し、すべてをありのままにカメラに収めた至福の3時間。館内で行われる講演会、ギャラリートーク、ワークショップ、そして高度な修復作業。美術館スタッフ の情熱が、スクリーンを通して伝わってくる。
     

テレビ・ドキュメンタリーからも数本。今回も、すぐれた作品とたくさん出会うことができた。

『戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか 第5回~第8回(「知の巨人たち」)』(2015 NHKEテレ)。Eテレの大型シリーズ「日本人は何をめざしてきたのか」2015年1月は「知の巨人たち」(第5回~第8回)。
   「第5回 自らの言葉で立つ~思想家 吉本隆明~」は、戦後言論界のカリスマ吉本隆明の少年時代からその晩年にいたるまでの思索の軌跡を検証する。軍国少年であった吉本は、戦後、知識人・文学 者の戦争責任を激しく追及する活動と詩作を開始し、六十年安保ではブンド・全学連とともに行動し、その後自ら主宰する雑誌『試行』を拠点に思想家として活 躍する。詩作品、代表作『共同幻想論』、その「大衆」像、反「反核」の姿勢…西部邁、上野千鶴子、橋爪大三郎、高橋源一郎、そしてミュージシャン遠藤ミチ ロウらが語る「それぞれの吉本隆明」。吉本の全体像をつかむという意図からか、それぞれに物足りなさは残るが、さまざまな切り口を示した90分は刺激的で ある。      
  「第6回 近代とは何か 魂の行方~作家 石牟礼道子~」は、『苦海浄土』で水俣病を描いた作家・石牟礼道子の魂の軌跡とも言うべきその人生を追う。水俣の美しい自然の中で育ち、兄を沖縄戦で亡く し、戦後結婚して家族を作り、そして、筑豊を拠点とした「サークル村」に参加し、詩人・谷川雁や作家・上野英信、森﨑和江らと出会う…その後水俣病と、患 者たちと深く関わっていく石牟礼の生きざまを、息子の石牟礼道生さん、編集者の渡辺京二さん、彼女と行動をともにした人々や患者たちの証言と彼女の語りで 綴っていく。   
   「第7回 昭和の虚無を駆けぬける~三島由紀夫~」は、戦後日本を代表する文学者三島由紀夫の少年時代から1970年に自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自殺するまでの軌 跡。ドナルド・キーン、三島担当の編集者、美輪明宏、三島が結成した“楯の会”会員、三島との討論を行った東大全共闘メンバーなどの証言をもとに彼の「虚 無」を追求する。『仮面の告白』から『豊饒の海』に至る代表作品の解説も簡潔で、三島の思索の全貌が整理されている…しかし、謎は残る。   
   「第8回 手塚治虫」は、敗戦直後17歳の若さで漫画家としてデビューした手塚治虫の戦後の足跡を、漫画家の松本零士さん、萩尾望都さん、かつて手塚担当の編集者だったスタジオジブリ代表の鈴木敏夫さん、哲学者の梅原猛さん、手塚の実弟の手塚浩さんらの証言で綴る。              
      
   『THE ’60s:「ジョン・F・ケネディ暗殺」』(2015 スターチャンネル)。スターチャンネルが独占放送するトム・ハンクス製作のドキュメンタリー・シリーズ『THE ’60s』(2014 CNN)。第1回目は無料放送ということで観ることができた。1960年代のアメリカ社会で起こった「事件」、社会の変化・変遷を、当時の映像・記録と証言で描いていく。第 1回目のテーマは“ケネディ大統領の暗殺”。混乱する地元テレビ局の様子や目撃した人々の証言を、当時の放送映像や記録映像を織りまぜながら紹介する。第 2回目以降、“ベトナム戦争”・“テレビ黄金期の到来”・“英国音楽の襲来”…と続くが、残念ながら観ることはできない。

  『カンフー・ガールズ~台湾~』(2015 発掘アジアドキュメンタリー)。アジアの公共放送局4社(NHK、韓国・KBS、台湾・PTS、シンガポール・MediaCorp)が、協力して開催する国際企画提案会議「アジアン・ピッチ」。「発掘アジアドキュメンタリー」は「アジアン・ピッチ」で 選ばれた作品群、BS1放送の「BS世界のドキュメンタリー」(毎週月曜~木曜深夜24時~)の特集番組として放送。『カンフー・ガールズ』の舞台は、台 湾西北部の苗栗市にある台湾唯一の中国武術専門学校「福興武術学校」。親元を離れて寮生活を送る思春期の少女たちの厳しい訓練の日々を、国際大会で金メダ ルを狙う春如の成長していく姿を中心に追いかける。
  
 『実録 アイヒマン裁判』(2015 BS世界のドキュメンタリー)。1961年4月にイスラエルで始まった、ナチス・ドイツ下で行われた大量虐殺においてユダヤ 人の大量移送計画を指揮した人物アドルフ・アイヒマンに対する裁判。敗戦後アルゼンチンに身を潜めていた彼は、イスラエルの情報機関に逮捕され、裁判にか けられた。世界中から注目されたこの裁判で、初めてホロコーストが集中的に取り上げられ、アイヒマン自身も検事の質問に対し答えた。それは「自分は単なる 公僕であり、命令に従っただけだ」というものだったが…この裁判の記録と裁判関係者たちの証言で構成された本作品は、2011年フランスで制作された。

  『フルシチョフ アメリカを行く』(2015 BS世界のドキュメンタリー)。1959年、ソビエト連邦の最高指導者ニキータ・フルシチョフがアメリカを公式に訪問した。 時は冷戦のまっただ中、アメリカに到着した彼を待っていたのは好奇と敵意の眼だった。しかし、ワシントンから全米各地へ訪問を続けるフルシチョフの人柄 は、メディアによって全米に伝えられ、一大旋風を巻き起こしていく。アメリカとソビエト、双方の記録映像によるフルシチョフアメリカ訪問の全容。「インパ クトメディア 歴史アーカイブス賞」を受賞した、2013年フランス制作作品。
  
 『アンジェイ・ワイダ 若き映画人たちへ贈る授業』(2015 ノンフィクションW)。カンヌ映画祭パルムドールなど数々の受賞歴を誇る“ポーランド派”の巨匠アンジェイ・ワイダ。2002年、ワイダはワルシャワに 「アンジェイ・ワイダ映画学校」を設立、現在も特別授業という形で映画監督を目指す後進の指導にあたっている。2014年秋、この学校のリハーサル・スタ ジオ・コースに加わった12人の生徒が、ワイダの指導のもと課題の短編映画製作に挑む。その合評会までの生徒たちの姿を追う。なおWOWOWでは、2月、 『世代』(1955)・『地下水道』(1957)・『灰とダイヤモンド』(1958)の「抵抗三部作」と『ワレサ 連帯の男』(2013)を放送。

  『シリーズ 危険な時代に生きる 第1回~第4回』(2015 BS世界のドキュメンタリー)。アメリカと世界の気候変動や環境破壊について、その最新の状況をルポするシリーズ。2014年、アメリカで制作された9回シリーズ。
   第1回「乾く大地」は、干ばつの社会的影響を探る。ピュリツァー賞記者トーマス・フリードマンは内戦と干ばつの関係を明らかにするためシリアを訪れ、俳優 ドン・チードルは干ばつの影響で食肉工場が閉鎖されている米テキサス州を訪れ、俳優ハリソン・フォードはインドネシアの森林破壊が温暖化を促進している現 状をルポする。
   第2回「森がなくなるとき」は、森林破壊の原因をさらに追及する。アメリカで大量に消費されるパーム油の生産がインドネシア森林破壊を引き起こしたことを ハリソン・フォードがルポし、米カリフォルニア州の森林火災に立ち向かう消防士たちのもとををアーノルド・シュワルツェネッガー前知事が訪れる。さらに、 森林を枯れさせる害虫マウンテン・パイン・ビートルの生態を研究する学者の告発…破壊の現場が次々に紹介される。そして将来への道筋も。
   第3回「高潮に揺れる街」は、2012年10月、米東海岸を直撃した巨大ハリケーン・サンディの高潮で多くの住民が命を落としたニューヨーク州。地球温暖化に懐疑的な立場を取ってきた地元の共和党議員の、被災地復興に取り組む姿を取材する。
   第4回「氷と業火」は、地球温暖化に一貫して懐疑的立場をとってきたアメリカの保守派の牙城、南部の“バイブル・ベルト(聖書地帯)”の変化を追う。ノースカロライナ州の福音派の教会指導者である父と、環境問題に目覚めた娘の確執。

  『“3.11”を忘れない54 分断の町』(2015 テレメンタリー)。福島県内で発生した除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設建設予定地の大熊町。国と予定地の地権者は交渉が難航、そして全町民の約2割を占める地権者と非地権者間に、補償の差から見えない溝が生まれている。原発事故から4年、進む分断…。制作は福島放送。

  『漫画で人間社会を問う~東北の異端・いがらしみきお~』(2015 ノンフィクションW)。宮城県仙台市を拠点に活動する漫画界の異端児・いがらしみきお(60歳)。代表作『「ぼのぼの』の他、『かむろば村へ』・ 『「I[アイ]』・『羊の木』などの作品で知られる彼は、自身も仙台で東日本大震災を経験した。その彼が今取り組んでいる連載が、宮城県の海辺の町を舞台 に震災の3年後から始まる『誰でもないところからの眺め』。復興が進む中、震災や津波がどんどん風化していく町を描く彼の、創作過程に密着する。

  『生態学者・田邊優貴子』(2015 情熱大陸)。 南極と北極をフィールドに厳しい自然環境下に生きる生物の研究を続ける、国立極地研究所の生態学者・田邊優貴子。青森県出身の「極ガール」田邊の南極調査 の姿を追いかける。100万年という時間が作り出した厚い氷の下に広がる「緑の森」。数ある「情熱大陸」の傑作の中でも、最高の1本。

<後記>
  1-3月期に観た「ドキュメンタリー映画」13本のうち4本は、harappa映画館で自分たちが上映したもの。だが、近年、映画館でドキュメンタリー映画を観るチャンスは着実に増えてきている。ワイズマンの『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』も、仙台を訪れた際、普通に観ることができた。このチャンスを逃してはならない。
   次号は、全くの未定。少々充電が必要か…



(harappaメンバーズ=成田清文)

※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。



2015年3月17日火曜日

【harappa Tsu-shin】harappa映画館『忘れてはいけないことがある』



みなさん、こんにちは!

3月11日・14日とharappa映画館『忘れてはいけないことがある』を開催しました。

震災から4年を迎える3月11日には「フタバから遠く離れて 第二部」を上映。

あいにくの悪天候の中、ご来場いただきありがとうございました!!

14日には『ドキュメンタリー最前線2015』として、

「消えた画 クメール・ルージュの真実」、「ある精肉店のはなし」、

「ふたつの祖国、ひとつの愛 -イ・ジュンソプの妻-」を上映。

シネマトークには、「ふたつの祖国、ひとつの愛」の酒井充子監督が登壇!!

貴重なお話をたくさんお聞かせくださいました!


シネマトーク後には、サイン会も行われました。

たくさんの方にご来場いただき、誠にありがとうございました!!


今年度のharappa映画館は終了しましたが、

来年度もみなさんにステキな映画をお届けできるようにがんばります♪




(harappaスタッフ=太田)