2018年9月20日木曜日

【越境するサル】№.178「カウリスマキ、オゾン、ジャームッシュ~上映会への誘い~」(2018.9.3発行)


9月29日、harappa映画館は「せつない。だけど、いとしい」と題して3本の「洋画」を上映する。ヨーロッパとアメリカ、土地も言語も監督の作風も違う3本だが、いまスクリーンで観る価値のある作品ばかりだ。必ずや弘前の観客に受け入れられるはずだ、と確信している…

 
       「カウリスマキ、オゾン、ジャームッシュ~上映会への誘い~」

   「第28回harappa映画館」で上映される作品は、『希望のかなた』(2017  アキ・カウリスマキ監督)・『婚約者の友人』(2016  フランソワ・オゾン監督)・『パターソン』(2016  ジム・ジャームッシュ監督)の3本。監督の名を聞いただけで、今度の上映会に行かなければと思うはずだ。

   『希望のかなた』は、その独特の作風で世界中の映画人の注目を集め日本でも熱狂的なファンを数多く持つ、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の最新作(最後の作品とも言われる)。2009年3月、「第2回harappa映画館」で「カウリスマキの遅い春」と題する特集上映が行われた(その時上映されたのは『罪と罰』・『浮き雲』・『マッチ工場の少女』・『コントラクト・キラー』の4本)が、弘前でもファンが多い監督である。2013年の「第14回harappa映画館」で上映された前作『ル・アーヴルの靴みがき』(2011)も、かなりの好評を博した。『希望のかなた』は、その『ル・アーヴルの靴みがき』に続く“難民3部作”の2作目として構想され、ベルリン国際映画祭(2017)で銀熊賞(監督賞)を受賞した。
   『希望のかなた』の舞台は、フィンランドの首都ヘルシンキ。
内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、この街に流れつく。難民危機のあおりで、難民申請を却下され、ネオナチからのいわれのない暴力にさらされるカーリド。しかし、レストランオーナーのヴィクストロムが彼に救いの手をさしのべる…
主人公カーリドを演じるのはシリア人俳優シェルワン・ハジ。ヴィクストロム役のサカリ・クオスマネンをはじめとする個性的なカウリスマキ組の常連たちが、今回も脇を固める。
   次は監督からのメッセージだ。「私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や家や車をかすめ取る、ずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことです。」このメッセージを心に刻み付けて、『希望のかなた』に向かおう。



   『婚約者の友人』は、世界的に評価の高いフランスのフランソワ・オゾン監督の作品。オゾン監督は、カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、エマニュエル・ベアールなどフランス映画界のトップ女優陣を集結させた『8人の女たち』(2002)でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を獲得、世界各国で大ヒットを記録した。そして、シャーロット・ランプリングを主演に迎えた『スイミング・プール』(2003)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、以後数々の作品でその才能を発揮し続けた。この夏、日本公開された最新作『2重螺旋の恋人』(2017)も話題沸騰(9/29~10/12、青森シネマディクトで上映予定)、いま世界で最も注目されている監督のひとりである。
   『婚約者の友人』は、1919年のドイツが舞台。婚約者フランツをフランスとの戦いで亡くしたアンナは、フランツの両親と共に悲嘆に暮れる日々を送っていた。ある日、アンナは見知らぬ男がフランツの墓に花を手向けて泣いているところを目撃する。アドリアンと名乗るその男は戦前のパリでフランツと知り合ったと話す。彼が語るフランツとの友情に、アンナもフランツの両親も癒やされていくが…モノクロとカラーを織り交ぜた美しい映像で描いたミステリードラマ。アンナ役を演じたパウラ・ベーアは、第73回ベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した。このパウラ・ベーアの演技を見るだけでも価値あり、と私は思う。



   『パターソン』は、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)でその独特のユーモアと新鮮な演出が絶賛され「ニューヨーク・インディーズ派」の若手映画監督として注目を浴びたジム・ジャームッシュの最新作。ジャームッシュ監督は、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』以降も話題作を発表し続け、『ミステリー・トレイン』(1989)がカンヌ国際映画祭芸術貢献賞を受賞、『ブロークン・フラワーズ』(2005)がカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞するなど、映画界に確固たる地位を築いた。なお、今回『パターソン』に出演している永瀬正敏は、工藤夕貴とともに『ミステリー・トレイン』に出演した。
   『パターソン』の主人公は、アメリカ・ニュージャージー州パターソン市で暮らすバス運転手のパターソン(アダム・ドライバーが扮する)。朝起きると妻ローラにキスをしてからバスを走らせ、帰宅後には愛犬マービンと散歩へ行ってバーで1杯だけビールを飲む、そんな彼の何気ない日常が淡々と描かれる。そして、詩人でもあるパターソンにとって、ありふれた日常のすべてが美しいものだった…大切な生活、大切な家族、大切な友人、大切な時間、私たちもまたパターソンのようにそれらを愛せるような気になる。そして、一人ひとりが詩人になれるような気がしてくる…



   9月29日は、harappa映画館へ。

   日程等は次の通り。

   9月29日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

   「せつない。だけど、いとしい」

        10:30   『希望のかなた』(98分)
        13:30   『婚約者の友人』(113分)      
        16:00   『パターソン』(118分)
                              
   1回券 前売 1,000円   当日 1,200円  
   会員・学生 500円
   3回券 2,500円(前売りのみの取り扱い)
   ※1作品ごとに1枚チケットが必要です。

   チケット取り扱い                                                       
       弘前中三、紀伊國屋書店、まちなか情報センター、弘前大学生協、
       コトリcafe(百石町展示館内)

   詳細は、次をクリックせよ。



<後記>

   今年度のharappa映画館は、9月・12月・3月の3回を予定している。もちろん私は、3回すべてに積極的に関わろうと思う。
   次号は、「珈琲放浪記~青森県の珈琲を歩く(2)~」か「今年出会ったドキュメンタリー  2018年7-9月期」。珈琲の取材状況次第…




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。



2018年9月5日水曜日

【harappa Tsu-shin】harappa映画館 前日準備・当日運営ボランティアスタッフ募集


「弘前のまちなかに映画館を!」と、
harappaが行っている上映会「harappa映画館」。
次回は、9月29日(土)に弘前中三8F・スペースアストロにて開催されます。

この上映会を一緒につくってくれるボランティアスタッフを募集しております。

◯前日準備 9/28(金) 15:00〜17:00頃
作業内容:スクリーン設置、客席・受付設営など
・交通費や謝礼はございませんので、ご了承ください

◯当日運営 9/29(土) 9:00〜19:00頃
作業内容:受付、会場案内など
・お弁当をご用意しております
・希望する上映作品をご覧いただけます
・交通費や謝礼はございませんので、ご了承ください

暗闇の中、物語が映し出される場をつくる面白さがあります。

少しでも興味のある方は、ぜひ事務局までご連絡くださいませ。
メール場合、件名に「harappa映画館 ボランティアスタッフ希望」と明記の上、
お手伝いいただける日にちをお知らせください。
ぜひお待ちしております!!

問合:harappa事務局
   tel: 0172-31-0195(平日 9時〜18時) e-mail: post@harappa-h.org

☆上映会の詳しい情報はこちら




2018年8月31日金曜日

【越境するサル】№.177「珈琲放浪記~函館、映画の記憶と珈琲~」(2018.8.29発行)


 8月25日、映画『きみの鳥はうたえる』の函館先行上映がスタートした(※注1)。函館出身の作家・佐藤泰志原作映画第4弾、待ちに待った公開である。もちろんその初日、私は駆けつけたが、今回、映画館のほかに、行ってみたい場所があった。それは珈琲に関わる場所であり、映画の記憶にもつながる場所だった…

 
             「珈琲放浪記~函館、映画の記憶と珈琲~」
  
  午前10時46分、新幹線と在来線を乗り継いで、函館駅に到着した。これもちょうど初日のGLAY野外コンサートに向かう人々で混雑する函館駅を抜け出し、まず腹ごしらえに向かったのは自由市場。駅や朝市、ベイエリアや元町からできるだけ離れるのが賢明と思われた。駅から歩いて15分、新川町電停に近い自由市場を訪れるのは2回目だが、函館に来て最初の食事はここにしようと決めていた。海鮮を味わえる「カフェ」で刺身定食…映画館に向かう準備は整った。







  市電で五稜郭電停を目指す。そこから歩いて数分、市民映画館「シネマアイリス」にたどり着く。座席数66の小さな劇場だが、ミニシアター系の映画を中心に組まれたプログラムは充実していて、この映画館があるというだけで函館に住みたくなる。




  『きみの鳥はうたえる』は、佐藤泰志が1981年に発表した(『文藝』)長編小説で、第86回芥川賞候補となった。1982年には河出書房新社より出版された彼の最初の作品集(同名)に収録された。この作品について、かつて私は次のように紹介している。

  「『きみの鳥はうたえる』の主要な登場人物は3人。本屋の店員の『僕』と、同じ店で働く佐知子、『僕』と同居する失業中の静雄、21歳の3人の共同生活ともいえる夏の日々が描かれる。ジャズ喫茶、ビートルズへの思い、深夜映画館、若者がたむろす酒場…70年代そのもののような舞台設定の中、出会い・揺れ動く心・別れの予感・あやうい友情といった『青春小説』のすべての要素が詰め込まれたこの作品は、青春を描き続けた佐藤泰志の一つの到達点といえる。女1人に男2人という『黄金の組み合わせ』によるストーリー展開は他の佐藤作品に比べてもリズミカルで、思わず映画化されたものを観てみたいという誘惑に駆られてしまう。」(2006、『越境するサル』№39「佐藤泰志、きみの鳥はうたえるか?」より)



  今回映画化された作品では、舞台を原作の東京から現代の函館に移し、大胆な翻案がなされた。だが、「出会い・揺れ動く心・別れの予感・あやうい友情」という要素(というより骨格)は継承され、「函館の夏」を生きる青春の物語として強く印象に残る作品に仕上がっている。エンドロール後もまだまだ物語は続いていくと思わせる、このリアルさ、存在感は何だ…
  主役の「僕」には柄本佑、静雄には染谷将太、佐知子には石橋静河。若手実力派が揃った。監督は注目の新鋭・三宅唱。今年屈指の話題作になることは間違いない。



  佐藤泰志は、私にとって最も大切な作家のひとりであり、一連の映画化作品の上映もまた大切なイベントであった。この通信でも何度か、熱っぽく報告してきた(※注2)。
  最近では一昨年(2016年)、佐藤泰志原作映画第3弾『オーバー・フェンス』試写会の体験をもとに、「北海道新聞(道南版)」に紹介文を書かせてもらった。佐藤泰志とその原作映画とのつきあいは、いつまでも続きそうである…



  さて、佐藤泰志原作映画すべてのプロデュースに携わってきたのが、「シネマアイリス」オーナー菅原和博氏である。実は菅原氏は、喫茶店(珈琲店)も経営しているのだが、その店を訪れるのが今回のもうひとつの目的である。
  店の名は「水花月茶寮(みかづきさりょう)」。五稜郭電停から産業道路方面へ(というより産業道路の近くまで) キロ。富岡の住宅街の中にある「隠れ家」のような喫茶だ。





  思いのほか広い店内に驚きつつ、右手のカウンターに目を移す。ああ、ここが、かつて佐藤泰志原作映画第1弾『海炭市叙景』の撮影に使われたカウンターだ。映画の記憶が蘇る。ここに、喫茶店のマスター役のあがた森魚が立っていた…今回の『きみの鳥はうたえる』で撮影に使われたテーブル席も確認できた。石橋静河が座っていた椅子だ…




  「ブレンドB(ほろ苦)」と「チーズケーキ」のセットを注文する。ブレンドBは、懐かしい、記憶の中の北海道(というより札幌)の珈琲だった。フレンチローストだろうか。苦いのに、優しい味だ。チーズケーキも、癒される味だ。これほど珈琲やケーキをゆったりと味わえたのは、いつ以来だろうか…




  「シネマアイリス」のチラシや展示会のカードと一緒に、土産の珈琲豆(ブレンドBとマンデリン)を買って店を出た。また、いつか、いや近いうちに再び訪れることだろう。函館駅からのアクセスも、思っていたより簡単だった…

  午後8時発の列車で新函館北斗駅に向かい、そこから新幹線で新青森を目指した。出発前に、閉店が決まった「棒二森屋」デパートの中を歩き、その後、大門横丁界隈を彷徨った。
様変わりはしたが、相変わらず函館は「記憶の中の街」だった。





(※注1)
次は、公式ホームページ。
 http://kiminotori.com/

(※注2)
   次は、『越境するサル』№143「『函館発 佐藤泰志映画祭』~上映会への誘い~」(2016)。この号にはバックナンバーとして、「函館にて」(1996)・「佐藤泰志、きみの鳥はうたえるか?」(2006)・「『佐藤泰志作品集』、17年ぶりの再デビュー」(2008)・「『海炭市叙景』、函館先行上映」(2010)の4本も収録している。佐藤泰志について『越境するサル』に書いたのは、これですべてである。



<後記>
   とっておきの映画(映画館)と、とっておきの珈琲(珈琲店)。自分にとって大切なものに向かう旅。その前後の昼飯や夕飯、酒も含めて、最高の日帰り旅…
   次号は、「上映会への誘い」。





(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。