2016年4月1日金曜日

【越境するサル】№.144 「今年出会ったドキュメンタリー 2016年1-3月期」(2016.3.31発行)

2016年1-3月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
3ヶ月ごとに報告を行うようになって3年目。
多くのテレビ・ドキュメンタリーを紹介できるようになった。

 
         「今年出会ったドキュメンタリー 2016年1-3月期」

   2016年1月から3月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方は1本を除いてすべてDVDでの鑑賞。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、はテレビ・ドキュメンタリー。

1月・・・『ナオトひとりっきり』(2014 中村真夕)
          『MESSI/メッシー頂点への軌跡ー』
      (2015 アレックス・デ・ラ・イグレシア
     
      『北限に生きる~ニホンザル・24年目の絆~』(2016 BSフジ)
          『ヨーロッパ難民危機~越境者たちの長い旅路~』
      (2016 BS世界のドキュメンタリー)※ 
          『病が見えない~新潟水俣病は防げなかったのか~』
      (2016 テレメンタリー)
          『中国とどう向き合うのか~台湾ダブル選挙 それぞれの選択~』
      (2016 ドキュメンタリーWAVE
      『戦後史証言プロジェクト 日本人は何をめざしてきたのか 
        「未来への選択」第5回~第8回』2016 NHKEテレ)
          『分かたれた故郷 妻へ画家イ・ジュンソプとマサコ』
      (2016 日曜美術館)※                                           

2月・・・『あっちゃん』(2015 ナリオ)
          『沖縄 うりずんの雨』(2015 ジャン・ユンカーマン)
     『ア・フィルム・アバウト・コーヒー』
      (2014 ブランドン・ローパー 仙台フォーラム)

           『我ら じじい部隊~中間貯蔵に揺れる故郷~』
       (2016 NNNドキュメント)
           『輪廻~原子炉まで300m~』(2016 テレメンタリー)
           『DNA鑑定の闇(2)~神話崩壊
        警察に証拠捏造疑惑~』2016 テレメンタリー)
           『神秘の蝶アサギマダラ 2000キロを渡る旅』
        (2016 JNN共同制作)※            
           一歩一歩が人生 女性登山家・田部井淳子』
      (2016 NNNドキュメント)
           『みんなのための資本論』(2016 BS世界のドキュメンタリー)
           『FIFA 腐敗の全貌に迫る~ブラッターと私の15年戦争~』
       (2016 BS世界のドキュメンタリー)※
           『奥底の悲しみ』(2016 NNNドキュメント)
           『わが城を追われて~法律を手に戦う市民~』
      (2016 BS世界のドキュメンタリー)
           『廃炉の記録~福島第一原発・放射能との闘い~』
      (2016 BS1スペシャル)※  
            
3月・・・『極私的エロス・恋歌1974』(1974 原一男)
          『ステーキ・レボリューション』(2014 フランク・リビエレ)
          『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』
      (2014 ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル)  

          『被曝の森~原発事故 5年目の記録~』(2016 NHKスペシャル)
          311大震災シリーズ(70) ふるさと』
      (2016 NNNドキュメント)
          “3.11”を忘れない61 その時、『テレビ』は逃げた
       ~黙殺されたSOS~』2016 テレメンタリー)
          “FUKUSHIMA”後の世界~岐路に立つインディアンポイント原発
       ~前編・後編』2016 BS世界のドキュメンタリー)
          『台北を走る』(2016 NHKBS1地球タクシー)
          311大震災シリーズ(71THE 放射能 人間vs.放射線 
       科学はどこまで迫れるか?』2016 NNNドキュメント)
     『独裁者の部屋<全8回>』
      (2015 「日本賞」青少年向けカテゴリー最優秀賞)
       
   2016年1-3月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

   『ナオトひとりっきり』(2014 中村真夕)。松村直登、55歳。福島第一原発から12キロの富岡町で、ダチョウ、牛、猫、犬、イノブタと暮らす。放射能汚染で無人の町となった地で、腹をすかせた犬猫や家畜にエサを与え続け、殺処分を拒否した畜主から預かった牛たち約30頭の面倒を見る彼の一年間を追う。

   『MESSI/メッシー頂点への軌跡ー』(2015 アレックス・デ・ラ・イグレシア)。サッカー界のスーパースター、リオネル・メッシのこれまでの人生を、一部再現映像を交えて描く話題のドキュメンタリー。1987年アルゼンチンで生まれたメッシは、地元の少年サッカー・チームで活躍するが、成 長ホルモンの分泌異常と診断され毎日のように成長ホルモンを注射することが必要になる。その高額な費用を負担してくれるクラブを求めてそしてサッカー選手 としての可能性を求めて、13歳になった彼は父とともにスペインに渡り、バルセロナの入団テストを受ける少年時代を知る人々、バルセロナの仲間や指導者 たち、彼らの証言はみなメッシに優しい。なお、今回私が鑑賞したのはテレビ版(NHKBS)。

   『あっちゃん』(2015 ナリオ)。2014 年に結成30年を迎えたパンクバンドニューロティカ。そのボーカルであり唯一のオリジナルメンバーであるイノウエアツシ通称あっちゃんは八王子で 母親とともにお菓子やを営み、ライブの日はピエロに変身してステージでパフォーマンスを繰りひろげる…8090年代のバンドブーム時代の当事者たちへの インタビューと、お菓子やの若旦那として日常の姿をとらえた映像で、あっちゃんとひとつの時代を描く、ナリオ監督の会心作。

   『沖縄 うりずんの雨』(2015 ジャン・ユンカーマン)。1986年設立、沖縄をテーマにしたドキュメンタリー映画の製作からスタートした「シグロ」の30周年記念映画として製作されたのが本作。沖縄戦から戦後の沖縄の歴史を見つめ直し、沖縄の「終わらない戦後」を私たちに問う、まさに集大成といえる作品である。第1部「沖縄戦」・第2部「占領」・第3部「凌辱」・第4部「明日へ」それぞれが貴重な資料映像と証言で構成され、「正史」としての価値は充分。監督は『チョムスキー9.11』(2002)・『映画 日本国憲法』(2005)のジャン・ユンカーマン。第89回キネマ旬報文化映画ベストテン第1位・2015年度毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞この2月も、「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」コンペティション部門大賞受賞、必見の映画だ。

   『極私的エロス・恋歌1974』(1974 原一男)。奥崎謙三を追ったドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』(1987)の原一男監督の伝説的問題作。フェミニストであるかつての同棲相手を追って 沖縄に行き、最終的に東京で彼女の自力出産を撮影、さらには自らの映画の製作者であり新しい伴侶である女性の出産も撮影「『極私』の極致へと到達した未 踏のドキュメンタリー」という当時の評価について自分なりに考えてみようと思い鑑賞したが、なかなか作品に感情移入することができない自分がいた。この感 覚も狙った効果のひとつなのか。201516年、映画復刻レーベルDIGより3本の原一男作品が再DVD化され、この作品と出会うことができた。他の2 本は、脳性麻痺の障害者自立運動組織メンバーを描いた『さようならCP』(1972)と、作家井上光晴の実像に迫る『全身小説家』(1994)。

   『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』(2014 ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル)。 2007年、シカゴ在住の青年がオークションで入手した大量のネガ。プリントアウトされた写真は、20世紀の写真史を塗り替えるような優れた作品群だっ たブログへのアップ、写真集の発売、ニューヨーク・パリ・ロンドンでの展覧会、人々に熱狂的に受け入れられたこの作品群の撮影者の名はヴィヴィアン・マ イヤー
、ナニー(乳母)を職業としていた無名の女性である。ヴィヴィアン・マイヤーとは何者か?なぜ自ら作品を発表しな かったのか?ヴィヴィアン・マイヤーの発見者である監督ジョン・マルーフが、彼女の実像を求めて関係者の人々・故郷の人々・晩年を知る人々へのインタ ビューを試みる。第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作品。

    テレビ・ドキュメンタリーからも数本。「311」から5年目の3月、「東日本大震災」のその後を追跡した作品が数多く作られたが、その他のテーマを扱った秀作も目立った。

   『ヨーロッパ難民危機~越境者たちの長い旅路~』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。2015年イギリスBBC制作。ギリシャ・コス島からオーストリアまで、その7割がシリア人である難民とともに2000キ ロ移動して取材したリポート。難民の現状を知ることができる貴重なドキュメンタリーといえる。「BS世界のドキュメンタリー」1月最初の週は、この作品と 『密航 地中海を渡ったシリア難民の記録』(2015 ノルウェー)・『パリ 戦慄の3日間~シャルリ・エブド襲撃事件~』(2015 イギリス)・『わたしはシャルリではない』(2015  ドイツ)の4本。ヨーロッパが直面するテーマを真正面から取り上げた週となった。

   『病が見えない~新潟水俣病は防げなかったのか~』(2016 テレメンタリー)。新潟テレビ21制作。熊本水俣病発生から9年後に確認された「新潟水俣病」。その確認から半世紀が経過した現在、国が水銀汚染の存在を知りながら隠蔽していたことをうかがわせる資料が見つかった。国の行政責任を問うべく、80歳を過ぎた被害者兄弟が立ち上がった…            

   『輪廻~原子炉まで300m~』(2016 テレメンタリー)。青森朝日放送制作。本州最北端、原発の建設が進む青森県大間町の原子炉予定地から300m離れた場所に建つログハウス「あさこはうす」。反原発のシンボルとなった「あさこはうす」だが、たったひとりで闘った母からその意志を受け継いだ娘にも、生活者としての思いがあった

   『みんなのための資本論』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。 2013年アメリカ72 Productions制作。サンダンス映画祭審査員特別賞などを獲得したドキュメンタリー映画『みんなのための資本論』(89分)のテレビ版(50分) 。クリントン政権下で労働長官を務めた経済学者ロバート・ライシュのカリフォルニア大学での授業をもとに制作されたドキュメンタリー。格差社会を生み出した原因を徹底的に明らかにする。この週の「BS世界のドキュメンタリー」は「シリーズ 大統領選が本格始動!アメリカ社会はいま」。残り3本は『銃社会アメリカ ある牧師の挑戦』(2015 アメリカ)・『すべてのホームレスに家を』(2013 アメリカ)・『ラティーノ~変わりゆくアメリカの姿~』(2016 フランス)。

   『奥底の悲しみ』(2016 NNNドキュメント)。 山口放送制作。敗戦後、数百万人の引揚者の帰国を支援した厚生省の引揚援護局の記録にある「特殊婦人」の文字。旧満州・朝鮮北部から引揚げの際に行われた ソ連兵の性的暴力の被害を受けた女性たちを示す言葉である。引揚げ者の悲しみの記憶を辿り、第11回日本放送文化大賞のグランプリ、平成27年民放連賞報 道番組部門の最優秀を受賞した『奥底の悲しみ~戦後70年、引揚げ者の記憶~』(2015530日山口放送)の再構成版。
  
   『わが城を追われて~法律を手に戦う市民~』(2016 BS世界のドキュメンタリー)。急速な土地開発が進む中国で、立ち退きを迫る市当局に対して法律を武器に闘う市民の姿を追う。中国市民の権利意識の形を取材する本作はNHK / CNEX国際共同制作(台湾 2015年)。この週の「BS世界のドキュメンタリー」は「シリーズ アジアの今を見つめて」。残り3本のうち2本『安全なを求めて』(2015 台湾)と『母と私』(2015 台湾)も日本(NHK )と台湾の国際共同制作。

   『被曝の森~原発事故 5年目の記録~』 (2016 NHKスペシャル)。福島第一原発事故によって生まれた広大な無人地帯。「野生の王国」となった被曝の森で進行する生態系の激変を調査する科学者たち の活動と住民たちの現在これらを記録し続けることは「NHKスペシャル」の使命であるという制作者たちの意志が伝わってくる。「311」から5年目の 3月、「NHKスペシャル」は続けざまに数本の意欲作を放映した。『原発避難”7日間の記録~福島で何が起きていたのか~』・『ゼロから町をつくる~陸前高田・空前の巨大プロジェクト~』・『風の電話~残された人々の声~』・『私を襲った津波~その時 何が起きたのか~』・『シリーズ東日本大震災26兆円復興はどこまで進んだか』・『原発メルトダウン 危機の88時間』、そして「NNNドキュメント」と「テレメンタリー」も「311」の記憶を風化させないための番組作りを地道に続けている。すべてをチェックすることは不可能だが、できるだけこの通信でも紹介していきたい。

   『独裁者の部屋<全8回>』(2015 「日本賞」青少年向けカテゴリー最優秀賞)。もし市民としての権利や自由を奪われた社会に暮らしたら、私たちはどうなるだろうか?8人の若者が、独裁者の指令の下での8日間の暮らしに挑戦する、スウェーデン制作のリアリティーショー番組。自由を奪われた世界についての想像力を刺激する企画である。


<後記>

   -3月期は思いのほか忙しく、映画館でドキュメンタリー映画を観るチャンスを何度も逃した。4月以降、時間的余裕だけは増えるはずなので、何とか映画館 に行く機会を増やしたい。せめて青森市のシネマディクト、あるいは八戸・盛岡のフォーラムへ。あと、市民による上映会も逃さないように

   次号は、「珈琲放浪記」再開を予定している。退職後最初の『越境するサル』となる。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

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