2017年2月3日金曜日

【越境するサル】№.155「『ドキュメンタリー最前線 2017―私たちは、人間と出会う』~上映会への誘い~」(2016.1.30発行)

3月4日、harappa映画館は「ドキュメンタリー最前線 2017―私たちは、人間と出会う」と題して3本のドキュメンタリー映画を上映する。『ジョーのあした辰吉丈一郎との20年』・『袴田巌 夢の間の世の中』・『FAKE』、主人公はすべて私たちがメディアを通してよく知っている、あるいはよく知っていると思い込んでいる人物である。しかし、それぞれの映画を鑑賞した後、私たちはこう思うかもしれない。まだ、自分は出会っていなかったのだ

 
「『ドキュメンタリー最前線 2017―私たちは、人間と出会う』~上映会への誘い~」

   1991年、プロデビュー後8戦目で辰吉丈一郎がWBC世界バンタム級王座を獲得した時、私たちは思った。これから当分の間、天才辰吉の時代が続くはずだしかしその年、彼は網膜裂孔で長期入院、1992年王座陥落。1993年王座に返り咲くも網膜剥離のため王座返上、その後JBC(日本ボクシング・コミッション)が辰吉のみを特例として国内復帰を認める(1回でも敗れて王座を失うか、眼疾が再発すれば引退)が、199412月王座統一戦で薬師寺保栄に判定で敗れる
   『ジョーのあした辰吉丈一郎との20年』(2016 阪本順治監督)は、19958月、アメリカ・ラスベガスから始まる。JBCのルールにより国内戦を禁じられた辰吉は、海外にリングを求める。この時25歳。以後、次男・辰吉寿以輝がプロテストに合格した201411月までの20年間、カメラの前で辰吉丈一郎は語り続ける。その語り口は私たちの予想とは違う静かなものであり、この映画自体に流れる時間も淡々としたものだ。こうして私たちは辰吉の人間性と真正面から出会う。
   監督は阪本順治。元ボクサー赤井英和を主演に起用した『どついたるねん』(1989)で監督デビュー。『傷だらけの天使』(1997)・『顔』(2000)・『闇の子供たち』・(2008)『大鹿村騒動記』(2011)・『団地』(2016)など数々の監督作があるが、やはり辰吉を主人公とするドキュメンタリードラマ『BOXER JOE』(1995)の監督もつとめている。そして辰吉とは新人ボクサー時代からの付き合いだという。この25年以上にわたる歳月が創りあげた関係性が、この作品の背後にはある。
   
   2014327日、静岡地裁は「袴田事件」(1966年静岡県清水市で起きた一家4人殺害事件)の再審開始と、袴田死刑囚への死刑及び拘置の執行停止を決定。同日午後、袴田巌は東京拘置所から釈放された。30歳で逮捕されて以来、48年にわたる収監拘束だった
  
『袴田巌 夢の間の世の中』(2016 金聖雄監督)は、釈放後の袴田死刑囚(検察の即時抗告により彼は「死刑囚」のままだ)の生活にカメラを向ける。長い獄中生活と死刑執行の恐怖から妄想の世界に生きるようになった彼に、姉秀子さんが今までの時間を取り戻すように寄り添っていく。家の中をひたすら歩く日々、元ボクサーである彼を支援してきた日本ボクシング協会が、いつか彼がボクシング観戦する日のために用意した「袴田シート」がある聖地東京後楽園ホールへ、彼は向かう。
  
監督は金聖雄(キム ソンウン)。「狭山事件」の被告として32年間獄中生活を送り、仮出獄後も自身の無実を訴え続ける石川一雄氏の日常を記録した『SAYAMA 見えない手錠をはずすまで』(2014)で注目された。今回の『袴田巌 夢の間の世の中』にも石川一雄氏を登場させている。
  
なお、今回の上映は、「アムネスティ・インターナショナル 弘前グループ」との共催。また、上映後、金監督のシネマトークが予定されている。

   そして、今回の上映会のクロージング作品『FAKE』(2016 森達也監督)。異例の観客動員、そして各界からのこれも異例の多岐にわたる反応で話題のドキュメンタリー。この映画をとにかく弘前で上映したかった
   聴覚障害を持ちながら数々の楽曲を発表し、マスメディアから称賛されていた佐村河内守。しかし「週刊文春」の記事を発端とする「ゴーストライター騒動」によって逆にマスメディアからバッシングを受け、彼はその後沈黙を続けていた。その自宅へ、森達也監督は入り込み、彼とその妻の素顔に迫ろうとする。取材の申し込みに来るメディア関係者たち、鋭い質問を彼に浴びせる外国人ジャーナリスト佐村河内の側からカメラはその様を記録し続け、私たちは時には笑い、時にはカタルシスを感じながら、ラストに向かって進行していく森監督の仕掛けに付き合っていく。だが、エンディングの直後、観客は突然居心地の悪さ、後味の悪さに愕然とする。いったい何が「真実」で、何が「嘘」だったのだ。この映画自体が「フェイク」なのか。
   森達也監督は、オウム真理教広報部長だった荒木浩と他の信者たちを被写体とする映画『A』(1998)・『A2』(2001)で高い評価を受けた(『A2』は山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞)が、その後長編作品はなく、『FAKE』は15年ぶりの新作長編となる。

   3本の映画それぞれに、あるいはそれぞれの主人公に、思い入れを持つ人々の来館を期待したい。

  
    日程等は次の通り。

3月4日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

「ドキュメンタリー最前線 2017―私たちは、人間と出会う」
      10:30   『ジョーのあした辰吉丈一郎との20年』(82分)
      13:00   『袴田巌 夢の間の世の中』(119分)
      上映後、金聖雄監督によるシネマトーク
      16:15   『FAKE』(109分)

3回券 2500円(前売りのみ)
1回券 前売 1000   当日 1200  
会員・学生 500 
 1作品ごとに1枚チケットが必要です。

チケット取り扱い                                                       
    弘前中三、紀伊國屋書店、まちなか情報センター、弘前大学生協、
    コトリcafe(百石町展示館内)

詳細は、次をクリックせよ。



<後記>

   ほぼ2年に1回開催されている「ドキュメンタリー最前線」の「上映会への誘い」である。私はこの企画には特に主体的に関わっているので、毎回「客の入り」がやはり気になる。ドキュメンタリーを作品として楽しむ土壌が弘前にはある、という感触はつかんでいるのだが。

   次号は、「珈琲放浪記」(ついに完成した木村文洋監督新作試写会のための東京行きがある!)か、「『越境するサル』的生活」か、あるいはひさしぶりに読書の話か来月、村上春樹の新作長編が発売される。初めて、書店に予約した…  




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております

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