2017年10月3日火曜日

【越境するサル】 №.162「今年出会ったドキュメンタリー 2017年7-9月期」(2017.9.30発行)

2017年7-9月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。 

 
               「今年出会ったドキュメンタリー 2017年7-9月期」

   2017年7月から9月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はいつもの通りほとんどがDVDでの鑑賞。スクリーンで観たのは1本。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等。はテレビ・ドキュメンタリー。

   7月・・・『寝たきり疾走ラモーンズ』(2017  島田角栄)
             『kapiwとapappo~アイヌの姉妹の物語~』
       (2016  佐藤隆之  サンプル)
             『シーモアさんと、大人のための人生入門』
       (2014  イーサン・ホーク)            

             『加藤一二三という男、ありけり。』(2017  ETV特集)
             『出渕家の百年~国策と向き合って~』
       (2016  FNSドキュメンタリー大賞・優秀賞)
             『もし、あなたの家族が~日本の移植医療に未来はあるのか~』
       (2016  FNSドキュメンタリー大賞・特別賞)
             『北九州 小倉百円酒場のブルース』
       (2017 ドキュメント72時間)
             『ラップで廃校阻止!~北星余市高・生徒会長の激闘486日~』
       (2017  サタデードキュメント)    
             『闘う弁護士』(2017  サタデードキュメント)
             『塀の中の自由~アフガニスタンの女性刑務所~』
       (2013  BS世界のドキュメンタリー)
             『プリズン・シスターズ』(2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『アンニョンハセヨ!ワタシ桑ノ集落再生人  2011-2017
       (2017  サタデードキュメント)            
             『爆走風塵  中国・激変するトラック業界』
       (2017  BS1スペシャル)※
                   

  8月・・・『生まれ変わりの村』(2016  森田健)
             『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』
       (2016  ジャンフランコ・ロージ)
             『ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る~』
       (2015  八木景子)            
    
             4400人が暮らした町~吉川晃司の原点・ヒロシマ平和公園~』
       (2017  NNNドキュメント)
             『原爆救護~被爆した兵士の歳月~(前編・後編)』
       (2016  BS1スペシャル)
             『追跡!原爆影響報告書~隠された安田高女の記録~』
       (2017  テレメンタリー)
             『英霊たちの記念写真~柳田芙美緒が見た戦争~』
       (2017  サタデードキュメント)
             『幻の原爆ドーム  ナガサキ  戦後13年目の選択』
       (2017  BS1スペシャル)
             『原爆と沈黙~長崎浦上の受難~』(2017  ETV特集)
             『潜れ~潜れ~  対馬の海女さん物語』
       (2016  FNSドキュメンタリー大賞・大賞)
             『元ヤクザ  うどん店はじめます』(2017  ノーナレ)
             『アフター・ヒトラー(前編・後編)』
       (2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『ぼくは生きると決めたよ  原発避難いじめからの脱出』
       (2017  NNNドキュメント)※
       
      
    9月・・・『太陽の下で-真実の北朝鮮-』
       (2015  ヴィタリー・マンスキー)
             『台湾萬歳』(2017  酒井充子  青森シネマディクト)
             TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』
       (2016  遠藤尚太郎 )
             『AMY  エイミー』(2015  アシフ・カパディア)
             『ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生』
       (2016  ルイーズ・オズモンド)
    
             『中国  さすらい農民工の物語』
       (2017  発掘アジアドキュメンタリー)
             『商店街のニューシネマパラダイス』
       (2017  サタデードキュメント)
             『青春は戦争の消耗品ではない  映画作家 大林宣彦の遺言』
       (2017  ETV特集)
             『死刑執行は正しかったのか  飯塚事件 冤罪を訴える妻』
       (2017  NNNドキュメント)
             『ショックルーム~伝説のアイヒマン実験再考~』
       (2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『アフガニスタン 山の学校の記録マスードと写真家長倉洋海の夢』
       (2017  ETV特集)
             『スクープドキュメント  沖縄と核』(2017 NHKスペシャル)
             『2度殺された思い~遺族にとっての第三者委員会~』
       (2017  テレメンタリー)
             『シリーズ  難民と向き合うヨーロッパ』
       (2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『孤高の牛飼い 40年~和牛のルーツを守る~』
       (2017  サタデードキュメント)
  
                    
   毎回、「私のベストテン」とでも言うべき「収穫」を選んでいるが、2017年7-9月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

『寝たきり疾走ラモーンズ』(2017  島田角栄)。
寝たきり芸人としてNHK Eテレ「バリバラ」などに出演するピン芸人・あそどっぐ。生後間もなく脊髄性筋萎縮症を発症し、目、口、指1本だけを動かしてネタを披露する彼に、島田監督・家族・芸人仲間・介護者たちが容赦なく突っ込みを入れる。この当たり前のような、不思議な雰囲気を私たちは味わう。ちなみに、私は彼のネタが好きだ。


『シーモアさんと、大人のための人生入門』(2014  イーサン・ホーク)
 50歳でコンサート・ピアニストとしての活動に終止符を打ち、以後の人生を「教える」ことに捧げてきた84歳のピアノ教師シーモア・バーンスタイン。ピアニストとして成功するも演奏会恐怖症のためつねに抱えていた不安、朝鮮戦争従軍時のつらい記憶。その人生は決して平坦ではなかったが、音楽に対する情熱と愛を語る彼にふれるとき、私たちは何かあたたかいものに包まれたように感じてしまう。



『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(2016  ジャンフランコ・ロージ)。
 アフリカからの難民が押し寄せるイタリア・ランペドゥーサ島。前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で2013年度ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したジャンフランコ・ロージ監督が、難民危機の最前線であるこの島に移り住み、過酷な海の旅を経て救援された難民たちと島に暮らす人々の姿にカメラを向ける。美しい映像と複雑な現実、この作品はローマ法王をはじめ各界の人々に衝撃を与え、世界の話題をさらった。2016年度のベルリン国際映画祭で金熊賞を獲得、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた。


『ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る~』(2015  八木景子)。
 2010年アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』。和歌山県太地町でのイルカ漁を一方的に批判するこの映画は世界的反響を呼んだが、日本からこれに反論する映画は生まれなかった。スポンサーも映画製作経験もカメラ技術もない、ほとんど素人の八木景子監督は、4カ月にわたる太地町への長期滞在と捕鯨論争両派へのインタビューによって、『ザ・コーヴ』の背後にあるものに迫ろうとする完成度という点では多少難ありだが、貴重な資料やインタビュー映像といくつもの問題提起があふれている野心作である。今後「捕鯨」について語る際の原点となる作品である。


『太陽の下で-真実の北朝鮮-』(2015  ヴィタリー・マンスキー)。
 ロシア・ドキュメンタリー映画の巨匠ヴィタリー・マンスキー監督は、ロシアと北朝鮮政府支援の下、平壌に住む8歳の少女ジンミと両親の生活を1年間にわたって撮影する。ジンミは金日成の生誕記念「太陽節」で披露する舞踊の練習に打ち込むが、北朝鮮当局によって許されたのはすべて指示され繰り返し演技させられた理想の家族の姿の撮影だけだった。疑問を感じたスタッフは、録画スイッチを入れたままの撮影カメラを放置し、隠し撮りを敢行する。検閲を受ける前に外部に持ち出されたフィルムを編集して完成した本作は、北朝鮮政府とロシア政府の妨害にもかかわらず各国で公開され、さまざまな映画祭で高い評価を受けた。


『台湾萬歳』(2017  酒井充子  青森シネマディクト)。
 日本統治下の「日本語世代」の現在を取材した『台湾人生』(2009)、彼らの戦後の苦難を描いた『台湾アイデンティティ』(2013)に続く酒井充子監督の「台湾三部作」最終章。今回の舞台は台湾南東部・台東縣成功鎮。原住民族と漢民族系の人々がほぼ半数ずつ暮らす人口約15千人のこの町に暮らす人々、特に原住民族の人々の生活に密着し、台湾そのもの・普遍的な人間そのものを描く。詳しくは、『越境するサル』№161「酒井充子監督『台湾萬歳』、台湾三部作最終章へ」参照。http://npoharappa.blogspot.jp/2017/09/1612017911.html


TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』(2016  遠藤尚太郎 )
 豊洲移転により80年の歴史に幕を下ろす、世界一のフィッシュマーケット、唯一無二の「ワンダーランド」築地市場。この巨大市場で1年4ヵ月の長期密着撮影を続け、築地で働く人々と名店の料理人をはじめ150名以上にインタビューを敢行した「唯一無二のドキュメンタリー」。世界を驚かせた、ドラマよりドラマティックな110分。


『ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生』(2016  ルイーズ・オズモンド)。
 50本目の監督作『わたしは、ダニエル・ブレイク』が第69回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞したイギリスの巨匠ケン・ローチ。2016年に80歳を迎えた社会派監督の生涯とキャリアを明らかにする、ファンにとっては待ち望んでいたドキュメンタリー。BBC時代の伝説のテレビドラマ「キャシー・カム・ホーム」(1966)から『ケス』(1969)・『リフ・ラフ』(1991)・『レイニング・ストーンズ』(1993)・『レディバード・レディバード』(1994)・『麦の穂をゆらす風』(2006)・『大地と自由』(1995)・『天使の分け前』(2012)・『マイネームイズジョー』(1998)そして『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)などの代表作の映像と関係者の証言でつづる50年にわたる映画人生。1970年代から80年代の不遇な時代についての家族の証言は胸を打つ。


 テレビ・ドキュメンタリーからも数本。    

『闘う弁護士』(2017  サタデードキュメント)。
 制作はRKB毎日放送。現在、諫早湾干拓をめぐる裁判で漁業者側の弁護団を率いる福岡・久留米の馬奈木昭雄弁護士。彼が弁護士になりたての頃関わったのが水俣病訴訟。以来、つねに弱者の側に立ち、国や企業の責任を追及してきた。「絶対に私たちは負けない。なぜなら、勝つまで闘うから」と語る馬奈木弁護士の姿を追う。

『塀の中の自由~アフガニスタンの女性刑務所~』(2013  BS世界のドキュメンタリー)。
 原題『No Burqas Behind Bars』。国際共同制作 NHKNima FilmsSVTIKONDR (スウェーデン  2012年)。前作『タリバンに売られた娘』で反響を呼んだニマ・サルベスタニ監督が、アフガニスタンの女性虐待問題に迫る作品。舞台はアフガニスタンの女性刑務所。自分の夫から逃げた罪で入所したナジベ、好きな男性と結婚するつもりで逃げて捕まったサラ全身を覆うブルカの着用も強制されず、暴力・少女売買・結婚の強要が横行する社会から隔絶された、ある種の自由な生活が許される刑務所。しかし、彼女たちはいつか危険な「社会」に出ていく。

『プリズン・シスターズ』(2017  BS世界のドキュメンタリー)。
 『塀の中の自由』の続編。原題も同じ。国際共同制作  NHK / Nima Film / SVT / NRK / TVO / IKON / DRTV / CHANNEL 8(スウェーデン 2016年)。駆け落ちした罪で服役したサラは、出所後に別の男性と結婚。『塀の中の自由』が上映されるストックホルムに招待された際に難民申請を行い、スウェーデンで教育を受けて働くということに希望を見出していた。そんな彼女に、刑務所でともに暮らしたナジベが出所後に殺されたという情報が入る前作『塀の中の自由』と合わせ、衝撃的な作品であった。一応テレビドキュメンタリーとしておくが、映画館でも観たい作品である。

『原爆救護~被爆した兵士の歳月~』(2016  BS1スペシャル)。
 原爆投下直後の広島、市民救助を命じられた若い兵士たちがいた。救助活動と遺体を葬る作業に従事した彼らは、戦後、放射能の影響による体調不良に苦しむが、差別と偏見を恐れて口を閉ざした。大多数が被爆者手帳を取得しなかったため埋もれた被爆者となっていった彼らの、苦難の戦後。20167月に放送されたこの作品は、平成29年度第33ATP賞ドキュメンタリー部門優秀賞/グランプリを受賞。201786日再放送された。制作はテムジン。

『原爆と沈黙~長崎浦上の受難~』(2017  ETV特集)。
 原子爆弾が投下された長崎・浦上地区は、古くから弾圧されてきたカトリック信者と被差別部落の人々が暮らす土地だった。生き残った被爆者たちは戦後長く沈黙してきたが、それは差別によるものだった自分たちの体験を伝えようと動き始めた彼らの姿を追う。同じくこの月に放送された『幻の原爆ドーム  ナガサキ  戦後13年目の選択』(2017  BS1スペシャル)とともに、戦後の闇に光を当てようとする意欲作。

『潜れ~潜れ~  対馬の海女さん物語』(2016  FNSドキュメンタリー大賞・大賞)。
 第25FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞作品。制作はテレビ長崎。ナレーションは余貴美子。主人公の梅野秀子さんは対馬で最高齢の海女(83歳)。現在も自ら船を操縦しアワビやサザエを素潜りでとる。海女の稼ぎで家族を養い、息子ふたりを育て上げ、一人暮らしの今も冬の海に潜る、彼女の日常に迫る…BSフジで放送されているドキュメンタリー名作選「FNSドキュメンタリー大賞」。7月には、FNS各局が総力をあげて作り上げた2016年度の作品の中から、優秀賞受賞の『出渕家の百年~国策と向き合って~』(制作:石川テレビ)と特別賞受賞の『もし、あなたの家族が~日本の移植医療に未来はあるのか~』(制作:テレビ新広島)も放送された。受賞作以外も、すべて秀作と言っても過言ではない。

『ショックルーム~伝説のアイヒマン実験再考~』(2017  BS世界のドキュメンタリー)。
 1961年、米エール大学のミルグラム博士によって行われた通称「アイヒマン実験」。命令を聞く立場の人間は、権威者の指示に従って他人に電気ショックを与える残酷な行為も自分は命令に従っただけと自らを納得させてしまうという実験結果で知られるが、はたしてこの理解でいいのか。現代の役者がこのテストを再現する。ナチス政権下でホロコーストの主導的役割を担ったアイヒマンの裁判に対するハンナ・アーレントの分析にも言及する、意欲作。原題:The Shock Room。制作:Charlie Productions(オーストラリア  2015年)。初回放送は201784日。

『シリーズ  難民と向き合うヨーロッパ』(2017  BS世界のドキュメンタリー)。
 中東やアフリカからの難民・移民の大量流入に揺れるヨーロッパの最前線を追いかけるシリーズ。ヨーロッパを目指す難民・移民が殺到する地中海で、人命救助活動にあたるアクエリアス号を取材した『死の海からの脱出』制作:Point du Jour(フランス  2016年)。難民受け入れ枠を急拡大したドイツで、認定作業にあたる審査官の仕事の現場を取材した『難民審査官  決断のとき』制作:HANFGARN & UFER Filmproduktion / ZDF(ドイツ  2017年)。ヨーロッパの一般市民が難民に対して抱く感情を、反対派・擁護派・ルール遵守型に分類し、実際の難民たちにぶつけてみた実験的なドキュメンタリー『楽園に渡った異邦人たち』制作:Zeppers Film(オランダ  2016年)。アフガニスタンからデンマークに逃れた少女ロクサールと移民局との交渉を取材した『亡国の少女  待ち続けて』制作:Made in Copenhagen(デンマーク  2016年)。4本すべて、いま私たちが観るべきドキュメンタリー。

『孤高の牛飼い 四十年~和牛のルーツを守る~』(2017  サタデードキュメント)。
 岡山県北の限界集落で、40年ほど前から和牛のルーツといわれる「竹の谷 つる牛」を飼い続けている73歳の平田五美(いつみ)さん。肉本来の「赤身のうまさ」を持つ「竹の谷 つる牛」は、「霜降り」に価値を置く和牛業界では異端の牛であり、一度は血統が途絶えた。「奇跡」の味として評価されつつあるこの牛を復活させ、血をつないできた平田さんの孤高の闘いを追う。制作は岡山のRSK(山陽放送)。地域のドキュメンタリー番組「メッセージ」2017628日放送。


<後記>

   相変わらず、テレビ・ドキュメンタリーの充実ぶりに圧倒されている。こちらのチェックが間に合わない状態である。いつか、この報告の体裁も変わっていくかもしれない。
 近々、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」(10/512)に出発する。私は4泊して、10本鑑賞予定だが、もちろんその内容はこの通信で報告する。映画祭の詳細は、次のHPを参照せよ。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。


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