2019年4月2日火曜日

【越境するサル】№.186「今年出会ったドキュメンタリー 2019年1-3月期」(2019.3.30発行)


20191-3月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。



         「今年出会ったドキュメンタリー 20191-3月期」


 20191月から3月までに観たドキュメンタリーを列挙する。スクリーンで観た映画は5本、あとはDVD等での鑑賞。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、はテレビ・ドキュメンタリー。

1月・・・『黙ってピアノを弾いてくれ』
    (2018  フィリップ・ジェディック 青森シネマディクト)
     『フジコ・ヘミングの時間』(2018 小松莊一良
     『私はあなたのニグロではない』(2016 ラウル・ペック  再)
     『ぼくの宝物~力士の夢と弟と』(2019 ドキュメントJ)
     『消えた村のしんぶん~滋野村青年団と特高警察』
     (2019 ドキュメントJ)
     『壇蜜 生と死の坩堝(るつぼ)タイ』(2019 BSプレミアム)
     辺野古に住んで見えたこと~移設先の町”4か月の記録~
     (2018 目撃!にっぽん
      『変貌する自衛隊』(2019 NNNドキュメント)
      『もし、このまちに原発で描いた未来』
     (2017 26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品)
     『マイケル・ジャクソン 最期の24時間
     (2019 BS世界のドキュメンタリー)     
 
 2月・・・『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年
      (2017 マイケル・ロバーツ
      『ニッポン国VS泉南石綿村』(2017  原一男  再)              
      『移住  50年目の乗船名簿』(2019  ETV特集)
      『朝鮮戦争 秘録~知られざる権力者の攻防~』
      (2019 NHKスペシャル
     『独裁者ヒトラー 演説の魔力』(2019 BS1スペシャル)
     『ボルトとダシャマンホールチルドレン20年の軌跡
      (2019  BS1スペシャル)
       『おっぱいでいっぱい』(2019 BS世界のドキュメンタリー)
       『爆弾処理兵  極限の記録』(2019 BS世界のドキュメンタリー)
       
 3月・・・『津軽のカマリ』(2018  大西功一「ドキュメンタリー最前線」再
         『ザ・ビッグハウス』(2018  想田和弘「ドキュメンタリー最前線」
     『台湾萬歳』(2017  酒井充子「ドキュメンタリー最前線」再
     『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』
      (2018 デイヴイッド・バッティ 青森シネマディクト)
       『素顔のボヘミアン・ラプソディ
       (2019 BS世界のドキュメンタリー)
       『昭和 激動の宰相たち』(2019 映像の世紀プレミアム)
       『誰が命を救うのか 医師たちの原発事故』(2019 ETV特集)
       『人民と独裁者の夢宮殿』(2019 BS世界のドキュメンタリー)
       『沖縄保守の系譜~政治家 翁長雄志』(2019 ドキュメントJ)
       『改善か 信仰か~激動チベット3年の記録~
       (2019 BS1スペシャル)
      『彼らは再び村を追われた 知られざる満蒙開拓団の戦後史』
       (2019 ETV特集)
         分断の壁突き破れ~若者がみた沖縄県民投票~』
     (2019 テレメンタリー)       
       『星の王子さまの世界旅』(2019 BS世界のドキュメンタリー)
               

毎回、「収穫」を選んでいるが、今回も数本紹介する。まず、映画から。  

  『黙ってピアノを弾いてくれ』(2018  フィリップ・ジェディック  青森シネマディクト)。ピアニスト・作曲家、チリー・ゴンザレス。90年代後半、モントリオールからベルリン、パリへとわたった彼は、その強烈なキャラクターとピアノ技術で天才と呼ばれた。その彼の、知られざる人生と数々のライブパフォーマンス満載のエンターテインメントともいえるドキュメンタリー。プレミア上映を果たしたベルリン国際映画祭で、観客は鳴り止まないスタンディングオベーションを浴びせた。




『私はあなたのニグロではない』(2016  ラウル・ペック)。「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」でインターナショナル・コンペティション部門優秀賞を受賞し、その後劇場公開された作品。映画祭の報告で私が書いた紹介文を再掲する。「19636月に死んだメドガー・エヴァーズ、19652月に死んだマルコムX、19684月に死んだマーティン・ルーサー・キング・ジュニア。暗殺された3人のアフリカ系アメリカ人活動家の複雑なつながりを突きとめようと、やはりアフリカ系アメリカ人の作家であるジェームズ・ボールドウィンは『リメンバー・ディズ・ハウス』を執筆する計画を立てる。この未完の原稿をもとに、ハイチ出身のラウル・ペック監督は人の活動家とボールドウィンの映像を軸にした激動の現代史を描き出す。4人の映像の圧倒的な存在感、骨太の構成、ドキュメンタリーの王道ともいえる作品と出会った。」



『ニッポン国VS泉南石綿村』(2017  原一男)。「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」で市民賞を受賞し、その後劇場公開された作品。映画祭の報告で私が書いた紹介文を再掲する。「石綿(アスベスト)産業で栄えた大阪・泉南地域。この地のアスベスト被害の責任を求めて、工場の元労働者と家族、周辺住民らが起こした国家賠償請求訴訟の8年以上にわたる闘いの記録がこの作品である。裁判終結に至るまでの原告と弁護団の闘いのドラマを、原一男監督は見事に描き切った。原監督の代表作『ゆきゆきて神軍』(1987)や『全身小説家』(1994)は、ひとりの強烈なキャラクターの存在によって成立していたが、この作品の登場人物たちの個性もまた原監督によって引き出され、魅力的な群像劇となっている。上映後、ロビーで行われた質疑応答に登場した原監督と原告団の面々に対して熱い拍手が送られたが、それは間違いなく映画祭の中で最もエキサイティングなシーンのひとつだったのではないか。なお、この作品は、観客の投票で決定される市民賞を受賞した。順当な結果である。」


『津軽のカマリ』(2018  大西功一 「ドキュメンタリー最前線」再)。3月9日のharappa映画館「ドキュメンタリー最前線2019」で上映。『越境するサル』で私が書いた紹介文を再掲する。「津軽民謡を新たな三味線曲として編曲し津軽三味線の独奏という芸域を切り開いた初代高橋竹山が、199887歳で亡くなるまでの生涯を、残存する演奏と語りと二代目高橋竹山ら映像関係者の証言で綴る、圧倒的な104分。」

       
  『ザ・ビッグハウス』(2018  想田和弘「ドキュメンタリー最前線」)。39日のharappa映画館「ドキュメンタリー最前線2019」で上映。『越境するサル』で私が書いた紹介文を再掲する。「全米最大のアメリカンフットボール・スタジアムを題材に完成させた観察映画第8弾。10万人以上の収容人数を誇り、「ザ・ビッグハウス」と称されているミシガン大学のアメリカンフットボールチーム「ウルヴァリンズ」の本拠地ミシガン・スタジアムで、想田監督と13人の学生を含めた17人の映画作家がそれぞれ選手のプレイや観客の熱狂を撮影、その後編集・批評・撮影を繰り返しながらこの巨大スタジアムの全貌を描き出す。」


『台湾萬歳』(2017  酒井充子「ドキュメンタリー最前線」再)。39日のharappa映画館「ドキュメンタリー最前線2019」で上映。『越境するサル』で私が書いた紹介文を再掲する。「舞台は台湾南東部・台東縣成功鎮。多様な民族が暮らす人口約225千人の台東縣、成功鎮は原住民族と漢民族系の人々がほぼ半数ずつ暮らす人口約15千人の町だ。もともとアミ族が暮らしていた地域に、1932年(昭和7)年漁港が作られ、それ以降日本人や漢民族系の人々が移住してきた。いまも続く「カジキの突きん棒漁」は日本人移民が持ち込んだものだ。ここに住む5人(5組)の生活を淡々と描く『台湾萬歳』は、ひとつの「人間讃歌」である。いつのまにか私たち観客は、台東縣成功鎮を中心とする小宇宙の中に吸い込まれ、登場人物たちと共に呼吸し生活しているような気持になってしまう


『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』(2018 デイヴイッド・バッティ青森シネマディクト)。世界中に影響を与えたイギリスの1960年代カルチャー「スウィンギング・ロンドン」を描いたドキュメンタリー。イギリスの名優マイケル・ケインがプロデュースとプレゼンターを務める。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、ツイッギー、マリー・クワントインタビューに過去の映像を盛り込み、時代を描き出す。新しい流れの背後にあった「階級」の問題、ドラッグの問題についてもを正面から取り上げている。ピーター・バラカンが日本語字幕監修を担当。
   


テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

  『消えた村のしんぶん~滋野村青年団と特高警察』(2019 ドキュメントJ)。201852日、信越放送(SBS)で初回放送。大正から昭和初期、長野県上田小県地域では「時報」と呼ばれる村の新聞が相次いで創刊された。郡内33の町村で青年団が編集を担い、政治や経済から地域の話題まで幅広い記事が掲載された「時報」は、村の自治意識を表わすものだった。しかし、経済恐慌から太平洋戦争に至る過程で紙面は変化し、やがて言論統制のため一斉に廃刊された。なぜ「村のしんぶん」が消えていったのか。当時を知る関係者へ取材するとともに、「時報」の記事と特高警察の資料を突き合わせて検証する。第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞文化貢献部門奨励賞受賞作品。

マイケル・ジャクソン 最期の24時間』(2019  BS世界のドキュメンタリー)。原題:The Last 24 Hours: Michael Jackson。制作:Entertain Me Productions(イギリス 2018)。2009年、世界ツアー直前のM・ジャクソンは不可解な死を遂げる。極度の不眠から麻酔薬注射を常用していた彼の死の真相を検証するドキュメンタリー。幼少期からの虐待、CМ撮影中の火傷が発端とされる整形手術、幼児虐待疑惑最期の1年に焦点を当て、キング・オブ・ポップの生涯を追う。

『移住 50年目の乗船名簿』(2019  ETV特集)。NHKディレクター相田洋(82)は、1968(昭和43)年南米に移住した人々のその後を10年毎に取材する「乗船名簿シリーズ」を制作してきた。今年も「移住 50年目の乗船名簿」を制作、半世紀にわたる長期取材を続けた空前絶後の群像ドキュメンタリーが、4回にわたり放送された。1回「アマゾンに生きた人々」(2018.12.29)、第2回「夢と希望と愛の軌跡」(2019.1.5)、第3回「異郷に生きる」(2019.1.26)、第4回「理想郷の行方~ある開拓詩人一族の歳月」(2019.2.2。ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ移民たちの、その家族の、壮絶な50年。

爆弾処理兵  極限の記録』(2019  BS世界のドキュメンタリー)。原題:THE DEMINER。制作:LOLAV MEDIA(スウェーデン 2017)。イラクで10年以上、テロ組織が仕掛けた地雷や爆弾を除去し続けた伝説の男ファーケル。2003年、フセイン政権崩壊直後に地雷除去を始め、アメリカ駐留軍とともに、ナイフとワイヤーカッターだけを手に爆発物を処理し続け、爆発で右足を失った後も故郷モスルで活動を続けた彼の一生を、息子の語りで綴る。

『誰が命を救うのか  医師たちの原発事故』(2019 ETV特集)。福島第一原発の事故発生直後、福島に入っていった医師たち。原発事故に対応する準備もなく混乱する現場で、汚染された住民の対応、爆発で負傷した自衛隊員の治療など、最前線で奔走した医師たち自身が撮影した写真と映像と彼らの証言によって、当時の医療現場の実態を明らかにする。今年も「3.11」を挟んで、この作品と同じテーマを扱った『緊急被ばく医療の闘い~誰が命を救うのか~』(2019 BS1スペシャル)をはじめ『原発事故 命を脅かした心の傷』(2019 ETV特集)『無人の町から8年~福島県浪江町~』(2019 NHK2画面ドキュメンタリー)・『庁舎は語る~大槌町あの時なにがあったのか』(2019ドキュメントJ)『イナサ吹く故郷で~仙台市荒浜 14年間の記録~』(2019 BS1プレミアム)『復興ラグ 大震災8年 人は町は』(2019 NNNドキュメント)3.11を忘れるな77  プレハブのふるさと』(2019 テレメンタリー)等々、力作が揃った。すべてチェックすることはできないが、できる限り記録しておきたい。

『沖縄保守の系譜~政治家 翁長雄志』(2019 ドキュメントJ)。RBC琉球放送、20181231日初回放送。20188月急逝した沖縄県翁長前知事。「保守」のリーダーだった彼が、なぜ「辺野古移設阻止」を目指し政府と対立し続けたのか。関係者の証言により彼の半生をたどるとともに、沖縄の苦難の歴史が生み出した、本土の保守とは一線を画する「沖縄保守政治家」の姿を検証する。

『彼らは再び村を追われた 知られざる満蒙開拓団の戦後史』(2019 ETV特集)昭和初期、国策により旧満州・中国東北部に渡った27万人の「満蒙開拓団」。終戦により帰国した人々の多くは、新たな国策「戦後開拓事業」により国内の開拓地に向かうが、そこには新たな苦難が待っていた旧農林省の内部文書や開拓者の証言で綴る「知られざる戦後開拓史」。のちに原発と関連施設が立地された土地(福島第一原発も含む)の半数、新空港が突如計画された三里塚、これらが開拓地であった事実もしっかりと押さえている。必見のドキュメンタリー。


<後記>

   映画館で2本、自分たちの自主上映会で3本、スクリーンでドキュメンタリー映画を観ることができた。また自主上映の2本も含め、2度目の鑑賞が4本。すべて重要な作品だ。テレビ・ドキュメンタリーは、3月の秀作群を拾いきれなかった次号は「ドイツ紀行」。






(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。


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