2020年5月15日金曜日

【越境するサル】№.199「ドキュメンタリー時評 2020年5月 ~ネット配信でドキュメンタリー映画~」(2020.05.15発行)

 「ドキュメンタリー時評」第4回は、「ネット配信でドキュメンタリー映画」と題して、
新型コロナウィルス感染拡大によって全国のミニシアターが存続の危機に瀕している中、
「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」への寄付を目的とする企画で出会った作品たちを紹介する。


「ドキュメンタリー時評 2020年5月 ~ネット配信でドキュメンタリー映画~」


 「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」は、緊急事態宣言・政府からの外出自粛要請が続く中、閉館の危機にさらされている全国の小規模映画館「ミニシアター」を守るため、映画監督の深田晃司氏・濱口竜介氏が発起人となって有志で立ち上げたプロジェクト。 
                                                                                       
 ドキュメンタリー映画専門の動画配信サービスを行う「アジアンドキュメンタリーズ」は、この基金に賛同し、基金に対して寄付を行うために、「ミニシアター応援プロジェクト」を実施した(4/17~5/14)。プロジェクトには、ドキュメンタリー映画の作り手から「チャリティ作品」が無償で提供され(※注)、これらの作品の視聴料が寄付の対象となる。

 この期間中に出会った(あるいは再会した)「チャリティ作品」についていくつか紹介する。

 まず、『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2014 金 聖雄監督)。1963年に埼玉県狭山市で女子高生が殺害された「狭山事件」。自白の強要や証拠のねつ造によって犯人とされ、現在も無実を訴え続けている石川一雄さんと、その妻の早智子さんの日常を、金 聖雄監督が寄り添うように記録していく。かつての「狭山闘争」、石川氏の無実を信じて闘われた高裁闘争から最高裁闘争の日々を知っている世代としては、胸が締め付けられるようなドキュメンタリーである。


▼予告編『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』



 金監督の作品は、私たちが弘前市の「harappa映画館」で上映した『袴田巖 夢の間の世の中』(2016)や、冤罪被害者たちの交流を描いた『獄友』(2018)、初期作品『花はんめ』(2004)も今回の「チャリティ」に提供されている。金監督には「harappa映画館」でシネマトークもお願いしたが、その際の氏の飾らない人柄、そして気骨あふれる語り口を思い出す。今回の「ミニシアター応援プロジェクト」に寄せられた、氏の言葉に耳を傾けよう。
「フィクションもドキュメンタリーもまず“売れるか?”ではなく、自分の目で確かめて良質な作品の上映を続けてきたミニシアター。一癖も二癖もある館主達の顔が浮かぶ。こんな時だからこそ、つくり手と映画館と配信と志をひとつにあらゆる形で映画を届けたい」(映画監督 金聖雄)


▼予告編『袴田巖 夢の間の世の中』


▼予告編『獄友』


 次に、『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(2011 イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ監督)。パレスチナの民衆抵抗運動の中心地・ビリン村に住むイマードは、末っ子の誕生を機にビデオカメラを手に入れる。そのカメラで、イスラエル軍によって「分離壁」が築かれ耕作地を強制的に奪われた村人の末非暴力のデモをイマードは記録し続ける。イスラエル軍の銃撃により被弾し、壊されたカメラの数は5年間でのべ5台…パレスチナ人とイスラエル人の監督が共同で作り上げたドキュメンタリー映画である。


▼予告編『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』



  続いて、『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』(2005 綿井健陽監督)。映像ジャーナリスト綿井健陽による、米軍のバグダッド空爆とその後の占領のリポート。イラク戦争開戦直前にイラクに入り、1年半の取材で123時間の映像を記録。イラク市民の視点、とりわけ傷ついた家族と子供たちの視点で戦争の惨禍を刻んだ、記念碑的なドキュメンタリー映画である。彼が現地から送り続けたリポートの衝撃を私たちは忘れない。


▼予告編『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』



 思わぬ出会いとなったのが『チベット チベット』(2001 キム・スンヨン監督)。2005年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されたが、見逃していた作品だ。行き先を決めないままビデオカメラを片手に旅に出た在日韓国人3世のキム・スンヨン監督は、ふとしたきっかけからチベット人たちが亡命している北インド・ダラムサラを訪ねる。ダライ・ラマ14世への同行取材、チベットの人々との対話を通して、自分自身の民族性を見つめ直していく過程が描かれる…。


▼予告編『チベット チベット』



 また、この期間中、もう一つの企画「いのちを守る STAY HOME週間」(4/25~5/6)で無料配信されていた『ボクシング・フォー・フリーダム~差別に立ち向かうアフガニスタンの少女~』(2015ホアン・アントニオ・モレノ、シルビア・ベネガス監督)を観ることもできた。男性優位のアフガニスタン社会の中で、激しい批判や脅迫の対象となりながら懸命に活動を続ける若きボクサー、サダフ・ラヒミの奮闘を記録した作品。タリバン政権時代、難民としてイランに9年間逃れ、その後帰還した彼女の家族の物語でもある。


▼予告編『ボクシング・フォー・フリーダム』



「ミニシアター」を守り、しかも私たちは素晴らしい作品と出会う…それが可能だと信じよう。

(※注)
チャリティ作品
◆伊藤めぐみ監督
『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件…そして』(2013)
◆イマード・ブルナート監督・ガイ・ダヴィディ監督                 
『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(2011)※4月30日まで
◆ジョン・シェンク監督                              
『南の島の大統領 -沈みゆくモルディブ-』(2011)
◆キム・スンヨン監督
『チベットチベット』(2008)
◆金 聖雄監督
『獄友』(2018)【日本初配信】
『袴田巖 夢の間の世の中』(2016)【日本初配信】
『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2014)【日本初配信】
『花はんめ』(2004)【日本初配信】
◆笹谷遼平監督 『馬ありて』(2019)
◆朴 壽南監督『ぬちがふぅ -玉砕場からの証言-』(2012)【日本初配信】
◆古居みずえ監督 『ぼくたちは見た〜ガザ・サムニ家の子どもたち』(2011)
◆本田孝義監督 『モバイルハウスのつくりかた』(2011)
◆山田和也監督 『プージェー 』(2006)
◆綿井健陽監督『Little Birds -イラク戦火の家族たち-』(2005)


<後記>

  4回目の「ドキュメンタリー時評」は、コロナ禍の中「ネット配信」という形で局面を打開しようとする動きのひとつを紹介した。私も3月から映画館には行っていない。「ミニシアター」を守るため、このような形のプロジェクトがあることを伝えたいと思う。次号も、このような動きのひとつを紹介したいと思う。もちろん、そこで出会った作品への思い入れを語りつつ。


(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

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