2020年7月3日金曜日

【越境するサル】№.201「ドキュメンタリー時評 2020年7月 ~<美術館>を待ちながら~」(2020.07.03発行)



「ドキュメンタリー時評」第6回は、「<美術館>を待ちながら」と題して、コロナ禍が依然続く状況の中、<美術館>と出会うドキュメンタリー映画について紹介する。



「ドキュメンタリー時評 2020年7月 ~<美術館>を待ちながら~」



 2020年4月10日、『プラド美術館 驚異のコレクション』(2019 ヴァレリア・パリシ監督)が公開され(ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか)、その後全国順次ロードショーする運びとなっていた。コロナ禍により海外の美術館へ行くことが不可能になってしまった状況の中、この映画の公開は微かな希望であり、多くの人がこの映画との出会いを心待ちにしていた。だが、コロナの影響下、公開は延期となった。私たちはしばらくの間待つことを余儀なくされた(同じく4月、私の住む街・弘前で開館する予定だった「弘前れんが倉庫美術館」も開館延期を余儀なくされていた…)。


そして、ようやく、7月24日からの公開が決定した。当初予定していた劇場からスタートしてその後全国順次ロードショー。わが青森県でも9月5日から青森市シネマディクトで上映されることになった。少し遅いが、映画館で鑑賞できるだけでもありがたい。昨年開館200周年を迎えた、スペインの首都マドリードが誇るベラスケスとゴヤとエル・グレコをはじめとするプラド美術館の数々の至宝を、スクリーンで堪能できる日を待ちたい。

▽『プラド美術館 驚異のコレクション』予告編

というわけで、『プラド美術館 驚異のコレクション』と出会うのはもう少し後になりそうなので、この数年間に鑑賞することができた、ヨーロッパの美術館についてのドキュメンタリー映画を回顧してみる。すべてDVD化されているものばかりで、私もその大半をレンタルで鑑賞した。
 海外の美術館に行くことはおろか、東京に行くことすらままならぬ昨今、せめて自宅で雰囲気だけでも味わおう…

 まず、イギリス・フランス・オーストリア・オランダ・ロシア・イタリアの世界的美術館のドキュメンタリー映画。6本とも話題作だ。

『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014 フレデリック・ワイズマン監督)。190年以上にわたり人々に愛され続けてきたロンドン・ナショナル・ギャラリーに、ドキュメンタリー界の巨匠・フレデリック・ワイズマン監督が潜入、その日常と秘密に迫る。学芸員による卓越したギャラリートーク、美術品設置や額縁製作、絵画の修復などの手仕事…息づかいさえ聞こえてきそうな映像を堪能する3時間。私は映画館のスクリーンでこの作品を鑑賞したが、まさに至福の体験だった。


▽『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』予告編

 実は、ロンドン・ナショナル・ギャラリーについては、国立西洋美術館(東京・上野公園)で「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」が開催される予定だったが(2020年3月3日~6月14日)、これも新型コロナウィルスの感染予防・拡散のため開幕は延期された。
 新しい日程は、2020年6月18日~10月18日まで国立西洋美術館(東京・上野公園)、2020年11月3日~2021年1月31日まで国立国際美術館(大阪・中之島)。
「世界初開催!全61作品日本初公開」というキャッチコピーには強く惹かれるが、私は果たして行くことができるだろうか…


『パリ・ルーヴル美術館の秘密』(1990 ニコラ・フィリベール監督)。年間800万人が訪れる「世界最大」の美術館ルーヴル。館内の所蔵品約35万点を数えるこの美術館で働く1200名のスタッフの日々を記録した、ウィットあふれるドキュメンタリーである。学芸員、美術品を設置する人、金メッキ師、清掃員、庭師、音響学者、消防士…この作品では、展示されている美術品だけでなく、彼らも主役だ。


▽『パリ・ルーヴル美術館の秘密』予告編



『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』(2014 ヨハネス・ホルツハウゼン監督)。ヨーロッパ3大美術館のひとつにも数えられるウィーン美術史美術館。ハプスブルク家の美術品を守り続けてきたこの伝統ある美術館にもグローバル化の波は押し寄せる…創立120年となる2012年にスタートした大規模改装工事に2年以上にわたり密着したこのドキュメンタリーは、美術館の裏側とそこで働く人々の姿を見つめる。



▽『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』予告編



『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(2014 ウケ・ホーヘンダイク監督)。200年の歴史を誇るアムステルダム国立美術館の改修は、美術館を貫く公道の設計をめぐる市民との議論、建築家との対立、館長の交代など、さまざまな事情が錯綜し、工事は中断を余儀なくされた。10年に及ぶ閉館期間を経て再オープンにこぎ着けるまでの日々を追う…
『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(2008 ウケ・ホーヘンダイク監督の続編、というか完結編。


▽『みんなのアムステルダム国立美術館へ』予告編



『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』(2014 マージー・キンモンス)。世界三大美術館のひとつでもある、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館。世界最高峰の至宝の数々を高画質映像で紹介する、決定版ともいえるドキュメンタリー。美術館の歴史についても、過不足なくまとめられている。


▽『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』予告編



『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』(2015 ルカ・ヴィオット監督)。イタリア・ルネッサンスの最高峰、ウフィツィ美術館の収蔵品を紹介するドキュメンタリーだが、この美術館だけでなく、メディチ家歴代の美術コレクションと世界遺産の街・フィレンツェの街並みや建造物も堪能できる、最高のガイド。


▽『フィレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館』予告編



続いて、偉大な収集家であり、魅力的な美術館の創設者である、二人の女性を描いたドキュメンタリー。
『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』(2018 ジョヴァンニ・ピスカーリャ、ジョヴァンニ・ピスカーリア監督)。ゴッホ作品を世界一収集した富豪ヘレーネ・クレラー=ミュラーの人生に迫るドキュメンタリー。ゴッホの美術品300点を個人収集した彼女のコレクションにこの映画で出会うと、私たちはオランダ・クレラー=ミュラー美術館を訪れたくなる…



▽『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』予告編



『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』(2015 リサ・インモルディーノ・ヴリーランド監督)。水の都ヴェネツィアの重要なスポットである「ペギー・グッゲンハイム・コレクション」。個人のものとしては世界最大級のコレクションを有するこの美術館の創設者ペギー・グッゲンハイムの現代美術への情熱と、いまや伝説となった彼女と芸術家たちとの愛の遍歴の物語は、エキサイティングとしか言いようがない。


▽『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』予告編



 紹介するだけで、ヨーロッパ美術館巡りをしている気分になっている自分に気付く。皆さんも、ぜひ。



 7月(7/4~)の青森・岩手のドキュメンタリー映画上映情報を列挙する。少しずつ、日常が戻ってきた。

・「青森シネマディクト」
   『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』(2010 百崎満晴監督)7/4~24、
 『ハニーランド 永遠の谷』(2019 リューボ・ステファノフ、タマラ・コテフスカ監督)7/11~24

・「フォーラム八戸」
   『ようこそ、革命シネマへ』(2019 スハイブ・ガスメルバリ監督)7/10~16、
 『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020 大島新監督)7/17~30、
 『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』)7/17~23、
 『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』(2017 デニス・ベリー監督)7/24~30、
 『つつんで、ひらいて』(2019 広瀬奈々子監督)7/24~30、
   『ハニーランド 永遠の谷』7/31~8/13

・「フォーラム盛岡」
   『ようこそ、革命シネマへ』7/10~16、
 『なぜ君は総理大臣になれないのか』7/17~30、
 『花のあとさき ムツばあさんの歩いた道』)7/17~23、
 『アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい』7/24~30、
 『ハニーランド 永遠の谷』7/31~8/13


<後記>

  いろいろな意味で、「美術館を待ちながら」そして「映画館を待ちながら」の日々だった。ようやく、映画館での上映が再開され、「弘前れんが倉庫美術館」も6月の事前予約制プレオープンを経て7月11日よりグランドオープンの運びとなった。次号からは、映画館を訪れた報告を含む「ドキュメンタリー時評」をお届けできると思う。








(harappaメンバーズ=成田清文)

※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的に配信されております。


1 件のコメント:

  1. 行きたくて行けなかった美術展。いつかは行きたい美術館。しばらくはDVDで我慢しよう。

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