7月末、長崎を訪れた。全国高校総合文化祭将棋部門出場生徒引率の仕事である。羽田で飛行機を乗り継ぎ福岡空港へ向かい、高速バスで長崎を目指した。家を出発してからホテルに着くまで10時間弱のハードな日程だったが、青森県チーム10数名で一緒に動いたこともあり、それほど消耗せずにたどり着けた。長崎市の隣町時津町で行われる大会は翌日からで、この日の夕方は多少時間的に余裕があったので、長崎市内の「街歩き」に出かけた。実は、来る前から気になっていた珈琲店が1軒あった。
「珈琲放浪記~長崎人のオアシス『珈琲人町』~」
「福砂屋本店」からお土産のカステラを自宅へ発送したあと、思案橋から鍛冶市通り(鍛冶屋町)を通り抜ける。東古川町に出会ったあたりから方向感覚がなくなったが、あちこち迷った末に小さな小さな川「しととき川」のほとりに、ついにその店を発見した。「珈琲人町」。店そのものは小さいが、いくつもの縁台が店の前に置かれ、すでに数人の客が会話を楽しみながら、珈琲を味わっている。オープンカフェというより、屋台か縁日の風景に近い…
3種類ある「人町ブレンド」の中から「ブレンド3(深煎り)」を選び注文。先ほど「福砂屋」で自分用に購入したカステラを食べ、店の前の縁台に座って、サイフォンで抽出された珈琲を味わう。かなり強い苦味だが、すっきりした喉ごし。これが300円で味わえるとは…
後日長崎の書店で見つけた『ながさきのカフェ案内 長崎県内のカフェ107軒』(2011 ながさきプレス)に「珈琲人町」は最初に紹介されているが、そこには「長崎人のオアシス」とある。なるほどオアシスだ。安くて、美味しくて、しかも気軽。もともとワゴン車からスタートしたこの店は、当初から青空の下で珈琲を楽しむというスタイルだったそうである。こういう店で日常的に珈琲を楽しみたいものだと思いながら店の中を見ると、「アントニオ・ロペス展」のポスターが目に入った。そういえば、現代スペイン・リアリズムの巨匠アントニオ・ロペスの日本初の回顧展が長崎県美術館で開催されているのだった。長崎県美術館は、高総文祭の美術・工芸部門の会場にもなっている。これは行かなくては。まだ充分に時間はある。一杯の珈琲に癒され、少しずつ元気を取り戻しつつある自分がいた。明日は長丁場になるが、何とかこなせるような気がした…
2日後、生徒と「グラバー園」や「大浦天主堂」を訪れ、駅ビルで「長崎ちゃんぽん」を味わったあと、出発まで空白の時間ができた。最後にもう一杯、「珈琲人町」の珈琲が飲みたかった。長崎駅電停から市電に乗り、思案橋電停で降車、今度は迷わず「しととき川通り」にまっすぐ向かい、「珈琲人町」に到着。まるで常連のように迷い無く、「アイスコーヒー」を注文する。10時間かけて抽出された「水出しコーヒー」である。美味い水を飲むように、一気に飲み干す。これで、長崎とはお別れ。夜にはもう、弘前に着く…はずだった。
ところがこのあと、羽田空港の天候不順と日航機の整備不具合により福岡空港発が大幅に遅れ、羽田で青森行きへ乗り継ぐことができないという事態が生じた。青森へ向かう予定の10数名(うち9名は青森県将棋チーム)は日航が用意した「品川プリンスホテル」に宿泊。座席が取れた次の日の午後3時45分羽田発で、ようやく青森へ向かった。
<後記>
というわけで、東京で唯一土地鑑がある上野で出発までの時間をつぶしたのだが、おかげで「ルーブル美術館展 地中海 四千年の物語」(東京都美術館)へ行くことができた。贅沢なおまけである。昼食は上野駅からすぐの「上島珈琲店(東上野店)」でサンドウィッチとアイスコーヒー。ほっと一息つけた。実は上野駅近くには、「珈琲放浪記」のために再訪する予定の喫茶店もあるのだが、炎天下の中歩く気力がなく断念。これは次の機会に。
(harappaメンバーズ=成田清文)
※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。
0 件のコメント:
コメントを投稿