2013年8月24日土曜日

【映画時評】#41「暑気払いは映画館で〜ノット・ウォー、メーク・ラブ〜」


靖国神社の参拝をしようとは思わないが、8月の広島と長崎を訪れたいと思っている。ぼくにとって8月は、平和憲法に感謝し、不戦を誓い、核兵器の廃絶を願う季節である。東日本大震災以後は、たとえ平和利用であっても、地球上から原子力を利用する全ての施設が無くなることも祈るようになった。

この夏、太平洋戦争に関わる映画を3本見た。

名機零戦の設計者である堀越二郎に、堀辰雄の小説を重ね合わせたアニメーション映画『風立ちぬ』では、エンディングに流れる荒井由実の「ひこうき雲」を聴きながら、科学技術の進歩は軍事利用と常に紙一重であることを思わざるを得なかった。『終戦のエンペラー』では、日本の戦後処理を合衆国大統領選出馬の足掛かりにしようとして、自己演出に余念がないマッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)のもと、昭和天皇の戦争責任が曖昧にされていく様子が描かれる。また『少年H』では、普通の家族が否応なく戦渦に巻き込まれていく。

これらの映画を見て、太平洋戦争とその敗戦からの68年の年月を振り返ってほしいと思うのだが、冷房の効いた映画館で映画を見るのはいいが、暑いさなかに難しいことを考えるのは苦手だという人には、7月下旬に都内などで公開された喜劇映画を紹介したい。

結婚して31年、子どもたちも独立した夫婦がいる。夫婦の寝室が別々になったのはいつからだろう。ある夜、妻は薄化粧をして夫の寝室のドアをノックする。だが夫は、疲れているとか、朝早いからとか、適当な理由をつけて妻の要求を断る。自分の寝室に戻った妻が、やむなく一人で漏らす快感の吐息を、夫は少し複雑な気持ちで聞く。

このように書くと凡庸なポルノ映画を想像するかもしれないが、この『31年目の夫婦げんか』は、主人公の夫婦をアカデミー賞受賞者が演じるセックス・コメディーである。行きずりの写真家との秘密を持った農家の主婦や、花嫁の父の可能性がある男性が3人もいる母親を演じたことがある、妻役のメリル・ストリープはともかくとして、苦虫を噛みつぶしたような表情のトミー・リー・ジョーンズが夫を演じて絶妙である。ジョーンズの武骨な表情と役柄との落差が、笑いやユーモアにつながっている。

ジョーンズとストリープの夫婦は、オフィスラブに走ったり、シングルバーでナンパしたりしない。その代わり、4000㌦もの大金を払って1週間のカウンセリングを受けるのが、いかにもアメリカ的である(原題の『ホープ・スプリングス』は、カウンセリングを受けるため、飛行機に乗って出掛ける架空の土地だ)。

カウンセリングを受けるうちに、夫の潜在的な性的欲望・妄想もあらわになり、少し胡散臭いカウンセラー(スティーヴ・カレル)は、互いの欲望と向き合うように夫妻にアドバイスする。そのドタバタが面白おかしく描かれる。あからさまな性的描写はないが、31年目の夫婦が抱えるムズムズ(真夏のニューヨークを舞台にした、『七年目の浮気』の原題を思い出している)を描いたエロチック・コメディーの結末は、見てのお楽しみだ。

それにしても、納涼映画の定番だった怪談やお化け映画はどこに消えたのだろう。

(harappa映画館支配人=品川信道)[2013年8月20日 陸奥新報掲載]

※『31年目の夫婦げんか』は、11月16日からフォーラム八戸で、12月7日からシネマ・ディクトで上映予定。

▼『31年目の夫婦げんか』予告編

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