2016年5月9日月曜日

【越境するサル】№.145「珈琲放浪記~旅先でコーヒーを飲むということ~」(2016.5.7発行)

「珈琲放浪記」が中断されてから1年9ヵ月が経過した。特に理由があって中断しているわけではない。ただ、珈琲を軸に紹介したい街について、一通り語り終 えたような気はしていた。札幌・函館・盛岡・仙台再び語る時には別な角度というか、違う書き方をしなければと思うようになった。そして、充電もまた必要 だった。

 
             「珈琲放浪記~旅先でコーヒーを飲むということ~」

   去年の9月、盛岡「喫茶carta」のブログに、店の主人からの「手紙」として次のような文章が掲載された(一部のみ引用)。

  週末は複数の旅の方から
  
『旅先の喫茶店でのむコーヒーがこんなに自分にとって大事だったとは』と
  
と声をかけられました。
  
はっとしたというのです。
  
自分の暮らす街の喫茶店で、
  毎日の生活の中の一部分としてコーヒーを飲むことも
   もちろん自分にとっていい作用があるんだけど、つい仕事をしたり、
この後はあれをやってその後はここに行って、そしていろんな良くないことも考えてしまう。
けれど旅先だと『追われている』ということが取り払われて目の前のコーヒーや、
今の自分に集中できていることに驚いてしまった、と。
コーヒーを飲む間だけでも、何もしないでゆっくり時間をすごせたのは久しぶり、と。
なるほど、ダイナミックな観光やイベントだけでなく、
こんなふうに小さなことでも旅というものは時にはいいものなのだよなと、
改めて思ったりしました。
そしてここを私たちがいつものように整えていればよいのかなあとも。
 (2015.9.8 手紙「猫たちが布団に入ってくる季節になるということは」より)

   最初に読んだ時から妙に気になり、その後何度か読み返しては、その都度自分の体験と重ね合わせた。そうだ、旅先でコーヒーを飲むということは、そういうことを求めてのことなのだ。だから私は、自分にとって大事なコーヒーと出会うために、お気に入りとなりそうな店を調べたり、あるいは路地裏を歩き続けたりするのだ

   「珈琲放浪記~アイスコーヒー2014夏~」(2014.7.31発行)以降、特に「珈琲放浪記」として紹介はしなかったが、さまざまな土地のさまざまな 珈琲と出会ってきた。それは時には、人との出会いでもあった。以下、この1年半の間に出会った珈琲について列挙してみる。

   2014年10月、札幌。札幌駅から大通り公園へ向かう途中、北海道庁へ曲がる角の北海道ビルヂング地下「カフェ・ド・ノール」で味わったマンデリン(エ イジド)。必ずしも「エイジドコーヒー」が得意ではなかった私だが、このマンデリンのふくよかな香りと深い味わいには感服した。マスターが豆を取り出して 説明してくれたこともうれしかった。実は、旅先でその店のご主人と話す機会はそれほど多くはないし、へたに質問をして気まずい思いをすることもある。以 前、アイスコーヒーを飲むために訪れ、リキッドタイプ・アイスコーヒー「時がくれたコーヒー」を注文して弘前に送ったことがあったが、それも幸いした。確実に、何度も訪れる店になるはずだ。
   その翌日、札幌大通り公園近くの「板東珈琲」でマンデリン。若い客で賑わう普通の喫茶店に見えるのに、何という美味しさだろう。ぜひマスターと話したいと 思ったが、ひっきりなしに訪れる客たちを見て遠慮することにした。この店も再訪すること間違いなし。かつて訪れたこの近所の「アトリエ・モリヒコ」と合わせ、素敵なマンデリンを味わえる店を3軒も確保した。
   「カフェ・ド・ノール」から「板東珈琲」・「アトリエ・モリヒコ」を結ぶ道を、私は勝手に「札幌マンデリンロード」と名付けたなお、新千歳空港「宮越屋珈琲」で飲んだフレンチも思わぬ美味しさだった。おそらく駅や空港で飲んだ珈琲の中では一番なのではと思う。恐るべし、札幌

   2014年10月と12月、八戸。「香彩珈琲 みな実 三日町中央店」でマンデリンおよびフレンチローストを味わう。かつて八戸の隣町百石(現おいらせ町)に住んでいた頃、何度か訪れていた店だ。場所が移って から初めての訪問だったが、マスターと話すことができた。昔の店の思い出を確かめるためだけにでも、この店に来るべきだったのだ。そして訪問することがで きた

   2015年7月、滋賀県米原。全国高校総合文化祭将棋部門会場の「県立文化産業交流会館内カフェ」でホットコーヒー、その翌日、米原駅近くの喫茶「スタン ダール」でアイスコーヒーにありつく。猛暑の中、オアシスと出会ったようなありがたさ。宿泊地の彦根では珈琲と出会えなかった

   2015年8月、青森県五所川原。「珈琲詩人」で朝食とコーヒー(モーニングセット)。この店の「モーニングセット」をいただくのが、ちょっとした夢だった。厚切りトーストとコーヒーの見事な融合

   2015年9月、盛岡「六月の鹿」にてマンデリン。やっと、この店にたどり着くことができた。そして桜山神社界隈という「場所」にも

   2015年10月、夜、東京銀座「ランブル」でコーヒー(ブレンド2)。聖地「ランブル」への巡礼を果たす。
   翌朝、「支留比亜珈琲店 新橋銀座店」でコーヒー。名古屋から東京に進出したこの店は、もちろんモーニングサービス付き(トースト・ゆで卵)。
   同日昼、京都東福寺付近の喫茶「パンとコーヒーとひらりんと」で「ふくふくブレンド」、旅の疲れを癒す。
   翌朝、同じく京都東寺境内の喫茶「やまぶき」でモーニングセット(トースト・野菜サラダに「小川珈琲」)

   2015年12月、函館・五稜郭、喫茶「ピーベリー」。雪のない函館、五稜郭濠端の景色と歩く人々を眺めながら、ブレンドコーヒーを飲む。この店は午前 中、できれば朝のうちに来るのがいい。「旅先でコーヒーを飲むということ」を意識しつつ、静かに流れていく時間に身を任せる

   2015年12月、福島飯坂温泉。隠れ家のような「カフェひらなが」と出会う。深煎りだがソフトな味わいの「モカフレンチ」(豆は福島・楓舎)があまりに も心地よかったので、ご主人夫婦とさまざまな土地の珈琲について語り合い、福島を中心に各地の情報を仕入れることができた。翌日、同じ店で「コンゴ 2000」(豆は京都・サーカスコーヒー)を味わうが、これも良し。世界が広がったように感じ、再び「旅先でコーヒーを飲むということ」について思う

   そしてこの後、いつもの青森市「カフェ・デ・ジターヌ」で「タンザニア」と出会ってまた世界が広がり、仙台秋保温泉「伝承千年の宿 佐勘」の喫茶「神は細部に宿る」で夜コーヒーを飲むことについて考え、徐々に「珈琲放浪記」を書きたくなっている自分に気づいていく

   「珈琲放浪記」を再開する。「旅先でコーヒーを飲むこと」にこだわり、街や人々との出会いにこだわり、一杯の珈琲について熱っぽく語ることができたら、と思う。


<後記>

   早速、次回の「珈琲放浪記」について思いを巡らせている。今回紹介した店も含めて、「旅の記録」にもなるような出会いを書いてみたい。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

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