2014年10-12月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
今回も、数多くのテレビ・ドキュメンタリーと出会った。報告の仕方はまだ模索中だが、しばらくこの形で続けてみる。
「今年出会ったドキュメンタリー 2014年10-12月期」
2014年10月から12月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はいつもの通りほとんどがDVDでの鑑賞。スクリーンで観たのは2本。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、※はテレビ・ドキュメンタリー。
10月・・・『モナリザ』(2007
李纓)
『ビリー・ジョエル ドキュメンタリー
ロシアに架ける橋』(WOWOW配給)
『ホームレス・ワールドカップ』(2008 スーザン・コッホ,ジェフ・ワーナー)
『激増する不法入国の子供たち~揺れ動く米国移民政策の陰で~』
(2014 ドキュメンタリーWAVE)※
『“3.11”を忘れない51 戦う牛飼い!」』(2014 テレメンタリー)※
『記録映画『東京オリンピック』誕生の軌跡~市川崑と164人のキャメラマン~』
(2014 ノンフィクションW)※
『何を打つのか 雑居ビルのボクシングジム』(2014
ドキュメント72時間)※
『帰れぬ故郷(ふるさと)~70年、サハリンで引きずる戦後~』
(2014 テレメンタリー)※
11月・・・『椿姫ができるまで』(2012 フィリップ・ベジア 再 harappa映画館スペシャル)
『マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン』(2012 チャーリー・ポール)
『チェルノブイリ 28年目の子どもたち』(2014 OurPlanetTV
「脱原発弘前映画祭」)
『福島 生きものの記録 シリーズ2~異変~』(2014 岩崎雅典 「脱原発弘前映画祭」)
『フェンス~分断された島・沖縄~』(2013 BS-TBS)※
『放射線を浴びたX年後3 棄てられた被ばく者』(2014
NNNドキュメント)※
『水爆実験
60年目の真実~ヒロシマが迫る"埋もれた被ばく"~』
(2014 NHKスペシャル)※
『シェークスピアの正体』(2014 BS世界のドキュメンタリー)※
『香港 学生かく闘えり』(2014 BS世界のドキュメンタリー)※
『2014 ガザからの報告~イスラエル・パレスチナ紛争~』(2014
ETV特集)※
『ソビエト連邦 最後の日々』(2014 BS世界のドキュメンタリー)※
『中国の危険な食品 1・2』(2014
ドキュメンタリーWAVE)※
『幸せな日々は過ぎ行く~グリーンランドとツバルの村で~』
(2014
BS世界のドキュメンタリー)※
12月・・・『南の島の大統領-沈みゆくモルディブ-』(2011 ジョン・シェンク)
『イエローケーキ クリーンなエネルギーという嘘』(2010
ヨアヒム・チルナー)
『スペシャリスト 自覚なき殺戮者』(1999 エイアル・シヴァン
再)
『宝子たち、薄暮のころ~水俣病胎児性患者と母~』(2014 テレメンタリー)※
『激動 香港 岐路に立つ金融界』(2014 ドキュメンタリーWAVE)※
『世界の果ての村で~グリーンランド~』(2014 BS世界のドキュメンタリー)※
『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス 50年の挑戦』
(2014
マーティン・スコセッシ、デヴィッド・テデスキ WOWOW国際共同制作プロジェクト)※
『メルトダウン File.5 知られざる大量放出』(2014
NHKスペシャル)※
『シカとスズ 勝者なき原発の町』(2014 NNNドキュメント)※
『若者たちの“反乱”~香港デモ・自由をかけた75日間~』(2014 NHK)※
『裂かれる海~辺野古 動き出した基地建設~』(2014 テレメンタリー)※
『38万人の甲状腺検査~被ばくの不安とどう向き合うか~』(2014 NHKスペシャル)
『1984~不朽のSF小説から生まれる過去・現在・未来~』
(2014
WOWOW国際共同制作プロジェクト)※
毎回、「収穫」を選んでいるが、2014年10-12月期の印象に残った作品について数本紹介する。
まず、映画から。
『モナリザ』(2007
李纓)。政治問題化したドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』(2007、公開は2008)
の李纓監督の作品。中国南方の農村、石材店(その店の名が「モナリザ」だ)の踊り子アーチョンの家庭は崩壊しそうだ。姉のシュウシュウが小さい頃「誘拐」
されてきたことが判明し、両親は刑務所に収監され、家族は犯罪者一家扱いされ…そんな中、脳腫瘍に冒され死期の迫った祖母が、娘つまり刑務所にいるアー
チョンの母に会いたいと懇願する。アーチョンとシュウシュウは祖母の願いを実現するため奔走し、ついに母は公安の監視つきで一時帰郷する。その列車の中で
シュウシュウは詰問する。私はさらわれたのか、拾われたのか…そして、私たちも自問自答する。この映画はドキュメンタリーなのか、フェイクなのか…
▼「モナリザ」予告編
『ビリー・ジョエル ドキュメンタリー
ロシアに架ける橋』(WOWOW配給)。1987年、ビリー・ジョエルはアメリカのロックアーティストとして初めてソ連で単独公演を行なった。グルジアか
らモスクワ、そしてレニングラード、ビリーと家族とスタッフはソ連の人々の予想を超える歓迎を受けながら公演と交流を続ける。貴重な映像と両国の関係者の
証言でつづる「冷戦の終わりの始まり」とも言える時代の記録。
『椿姫ができるまで』(2012 フィリップ・ベジア
再harappa映画館スペシャル)。以前すでに紹介した作品だが、「harappa映画館スペシャル」という形で自主上映を行ったので報告する(http://harappa-h.org/contents/20141107harappamovie.php)。
家庭での鑑賞と違って、スクリーンでの映像と圧倒的な音響、まさに至福の時間であった。なお、№128では次のように紹介した。「2011年、エクサン・
プロヴァンス音楽祭で上演されたヴェルディのオペラ「椿姫」。オペラ歌手ナタリー・デセイ、演出家ジャン=フランソワ・シヴァディエ、指揮者ルイ・ラング
レ…天才プロフェッショナルたちが、稽古場で顔を付き合わせて舞台「椿姫」を作り上げていく過程を描く。それぞれのプライドをかけた稽古場でのぶつかり合
いの末、舞台は完成に近づく…」
▼「椿姫ができるまで」予告編
『マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン』(2012
チャーリー・ポール)。1960年代後半、イギリスからアメリカに渡った風刺マンガ家ラルフ・
ステッドマン。社会への怒りを爆発させた彼の作品はザ・ニューヨーカーやローリング・ストーン誌などに掲載され評判となり、やがて生涯の友となる破天荒な
「ゴンゾー(ならず者)・ジャーナリスト」ハンター・S・トンプソンと出会う。このふたりの共同作業(もちろんラルフがイラスト担当)で出来上がったのが
ロード・ノンフィクション『ラスベガスをやっつけろ』(1998年テリー・ギリアム監督により映画化)である。映画『ラスベガスをやっつけろ』主演俳優
ジョニー・デップのインタビューとナレーション、アニメーション化されたラルフ作品、スラッシュの楽曲等々、過去の映像以外にも魅力満載。
▼ 「マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン」予告編
▼ 「マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン」予告編
『福島 生きものの記録 シリーズ2~異変~』(2014 岩崎雅典 「脱原発弘前映画祭」)。福島第一原子力発電所の事故で広がった放射性物質が生態系にどんな影響をもたらすかを追跡・記録する『福島 生きものの記録』。シリーズ2は警戒区域内に取り残された被ばく牛の保護や飼育を行う「希望の牧場・ふくしま」で体表に白い斑点の表れた牛たちの検査とその結果報告、ツバメやニホンザル、ヤマトシジミの変化などを追跡する。「AFTER 311 第3回脱原発弘前映画祭」は、11月24・30日、弘前文化センターで開催されたが、映画はこのほかに『チェルノブイリ 28年目の子どもたち』(2014 OurPlanetTV)・『A2-B-C』(2013 イアン・トーマス・アッシュ)・『イエローケーキ』(2010 ヨアヒム・チルナ-)、合わせて4本。『A2-B-C』は「山形」で観ており、『イエローケーキ』はレンタル予定。2本鑑賞し、「浪江町長 馬場有氏 講演」に参加。
▼「福島 生きものの記録 シリーズ2~異変~」予告編
『南の島の大統領-沈みゆくモルディブ-』(2011 ジョン・シェンク)。 インド洋に浮かぶ1200の島々から成るモルディブ共和国。30年に及ぶ独裁政権に終止符を打ち、民主化を成し遂げた第3代大統領モハメド・ナシード (2008~2012在任)の大統領1年目の活躍を描いた作品。平均海抜1.5m、このまま温暖化が進めば国土が水没してしまう可能性が指摘されるモル ディブのリーダーであるナシードは、2009年コペンハーゲンで開催された気候変動枠組条約締結国会議(COP15)に乗り込み、先進国と途上国それぞれ に対して精力的に働きかけ危機を訴える…深い問題意識と痛快なテンポ、間違いなく傑作である。
▼「南の島の大統領-沈みゆくモルディブ-」予告編
『イエローケーキ クリーンなエネルギーという嘘』(2010 ヨアヒム・チルナー)。 ウラン採掘が人間と自然にもたらす危険、その実態をオーストラリア・カナダ・アフリカのナミビア・旧東ドイツ等世界各地の採掘所を5年間にわたって取材し て作り上げた作品。「3.11」以前に作られたこの作品は、国家と企業によって隠され続けてきた真実を告発する。衝撃的であり、かつ説得力に満ちた映像で ある。
『イエローケーキ クリーンなエネルギーという嘘』(2010 ヨアヒム・チルナー)。 ウラン採掘が人間と自然にもたらす危険、その実態をオーストラリア・カナダ・アフリカのナミビア・旧東ドイツ等世界各地の採掘所を5年間にわたって取材し て作り上げた作品。「3.11」以前に作られたこの作品は、国家と企業によって隠され続けてきた真実を告発する。衝撃的であり、かつ説得力に満ちた映像で ある。
▼「イエローケーキ クリーンなエネルギーという嘘」
テレビ・ドキュメンタリーからも数本。
『記録映画『東京オリンピック』誕生の軌跡~市川崑と164人のキャメラマン~』(2014 ノンフィクションW)。1965年に公開された『東京オリンピック』。劇映画の市川崑監督による第18回東京オリンピック(1964)公式記録映画である この作品は、競技の順位や記録をほとんど提示しない「問題作」として「記録か、芸術か」論争を巻き起こした。164人のキャメラマンたちによって撮影され た「奇跡」の映像の誕生の秘密を、当時の関係者の証言によって明らかにする…なおWOWOWのドキュメンタリー番組「ノンフィクションW」は、この10月 から土曜日午後1時放送となったが、魅力的なラインナップが続く。
テレビ・ドキュメンタリーからも数本。
『記録映画『東京オリンピック』誕生の軌跡~市川崑と164人のキャメラマン~』(2014 ノンフィクションW)。1965年に公開された『東京オリンピック』。劇映画の市川崑監督による第18回東京オリンピック(1964)公式記録映画である この作品は、競技の順位や記録をほとんど提示しない「問題作」として「記録か、芸術か」論争を巻き起こした。164人のキャメラマンたちによって撮影され た「奇跡」の映像の誕生の秘密を、当時の関係者の証言によって明らかにする…なおWOWOWのドキュメンタリー番組「ノンフィクションW」は、この10月 から土曜日午後1時放送となったが、魅力的なラインナップが続く。
『フェンス~分断された島・沖縄~』(2013 BS-TBS)。ドキュメンタ リースペシャルとして2013年12月15日(日)にBS-TBSに放送されたものの再放送。第40回放送文化基金賞「テレビドキュメンタリー優秀賞」受 賞、平成26年度文化庁芸術祭参加作品。特派記者・松原耕二が、沖縄米軍基地フェンスの「外側」と「内側」の声それぞれを取材した意欲作。フェンスの外側 の沖縄の人々のさまざまな思いと、フェンスの内側のアメリカ兵の意識、両者の壁に迫ろうとする取材の結果、お互いが相手をよく知らないという現実が見えてくる…フェンスの内側の生活・兵士たちへの教育などの映像は私たちにとって未知のものであり、考えさせられるところが多い作品だった。最初と最後に登場する摩文仁の丘「平和の礎」の存在が、未来の姿を暗示しているように思えるのだが。
『放射線を浴びたX年後3 棄てられた被ばく者』(2014 NNNドキュメント)。今年8月放送の『続・放射線を浴びたX年後 日本に降り注いだ雨は今』 (『越境するサル』№131で紹介)の続篇。60年前に行われたアメリカの水爆実験による被ばくを裏付ける文書を、政府は今年9月開示した。長年にわたり 被害実態を調査してきた高知県の元高校教師らは、その文書の内容と量に疑問を感じて、再開示を求める行動を開始する。南海放送の、10年にわたる持続的な 検証に敬意を表したい。なお、文化庁芸術祭参加作品として今回再放送された『水爆実験 60年目の真実~ヒロシマが迫る"埋もれた被ばく"~』(初回放送2014年8月6日 NHKスペシャル)も、第5福竜丸以外の漁船員たちの大量被ばくという同じテーマを扱った作品。
『宝子たち、薄暮のころ~水俣病胎児性患者と母~』(2014 テレメンタリー)。 およそ60年前、、「へその緒」を通して母親の水銀を吸収して水俣病 になった胎児性水俣病患者たち。彼らの介護はこれまで主に母親が担ってきたが、母親たちももう80代になった。患者たちは、母親の元を離れ、家を出てケア ホームに入ることを決意する。ナレーションは石川さゆり。
『激動 香港 岐路に立つ金融界』(2014 ドキュメンタリーWAVE)。 金融街の占拠へと発展した香港の史上最大規模のデモ。「普通選挙」をめぐり、金融エリートたちの中にも民主派と親中派の対 立は存在する。一国家二制度の恩恵によって発展してきた香港経済界はどうなっていくのか?中国との関係は?さまざまな立場の人々の動向を取材した好企画で ある。なお、11月に放送された
『香港 学生かく闘えり』(2014 BS世界のドキュメンタリー 2013年制作)は、2012年、中国への愛国教育を義務化しようとした香港政府の政策に抗議しそれを撤回させた学生たちの行動の一部始終を記録したもの。この行動も今年の動きとつながっている。
『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス 50年の挑戦』(2014 マーティン・スコセッシ、デヴィッド・テデスキ WOWOW国際共同制作プロジェクト)。WOWOWオリジナルドキュメンタリー国際共同制作プロジェクト(日本・アメリカ・イギリス)の記念すべき初放送 作品。1963年に創刊された文芸誌「ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス」、その扱う題材は科学やアート、文芸や人権、政治、戦争など多岐にわた る。編集者ロバート・シルヴァーズと寄稿者たちの信頼関係によって首尾一貫した姿勢を貫き通すこの雑誌の、50年間の歴史を寄稿者たちへのインタビューと 当時の映像でつづる。スーザン・ソンタグ、ノーム・チョムスキー、ノーマン・メイラー、ジェームズ・ボールドウィン、ヴァーツラフ・ハヴェル…彼らの肉声 とさまざまな事件。監督は、自らも購読者であるマーティン・スコセッシ(共同監督)。
『シカとスズ 勝者なき原発の町』 (2014 NNNドキュメント)。石川県能登半島、志賀町(しかまち)と珠洲市(すずし)。志賀町は原発誘致により巨額の交付金を得てきたが、現在運転 停止中。珠洲市は建設計画をめぐって長年住民が対立してきたが、結局電力会社の判断により建設は中止。どちらの自治体も、賛成派と反対派の間の溝は埋めら れていない。立地計画のスタート時から現在までの映像と当事者たちへのインタビューによって、原発に翻弄され続けてきた住民たちの苦悩を検証する。
『1984~不朽のSF小説から生まれる過去・現在・未来~』(2014 WOWOW国際共同制作プロジェクト)。オー ストラリアとの国際共同制作プロジェクト作品。ジョージ・オーウェルが1948年に執筆したアンチ・ユートピアSF小説『1984年』は、いまだに映画・ 音楽・文学・アートなどに大きな影響を与え続けている。全体主義国家による監視統制社会を描いたこの小説の舞台となった1984年から30年、オーウェル が描ききれなかった現代の監視社会の現状と未来について、世界のトップクリエーターやジャーナリストたちにインタビューを試みる。インタビュアーは、映画 『1984』(1984)で原作の忠実な再現を試みたマイケル・ラドフォード監督。
<後記>
次号は、「2014年、その後の『サル』」。すぐ発信する。
何とか、年4回発信することができた。このペースなら持続できそうだ。
(harappaメンバーズ=成田清文)
※『越境するサル』はharappaメンバーズ成田清文さんが発行しており、個人通信として定期的にメールにて配信されております。
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