2018年11月30日金曜日

【越境するサル】№.181「寺山修司原作『あゝ、荒野』~上映会への誘い~」(2018.11.23発行)


 128日(土)の第29harappa映画館は、『あゝ、荒野』(2017  岸善幸監督)前篇・後篇を一挙に上映する。弘前出身・寺山修司原作の映画が弘前で上映されることは、ひとつの事件である。


 
         「寺山修司原作『あゝ、荒野』~上映会への誘い~」

   2021年、新宿。東日本大震災から10年、2度目の東京オリンピックが終わったこの街を舞台に新宿新次とバリカン建二という2人のボクサーの青春が描かれる本作で、新次を演じるのは日本映画若手俳優のトップランナー菅田将暉、建二を演じるのは韓国の実力派俳優ヤン・イクチュン。原作の骨格を残しながら、時には大胆に肉付けされたふたりの主人公が生きる「荒野」を描いた監督は岸善幸。2017年の映画界を席巻した話題作前・後篇合わせて5時間余を、一挙上映する…

   『あゝ、荒野』は、1966年に刊行された寺山唯一の長編小説である。吃音症で対人赤面恐怖症に悩む建二と、天涯孤独で野性的な性格の新次。対照的なキャラクターのふたりが、元ボクサーの堀口と出会ってプロボクサーを目指す青春物語…しかしそこは寺山作品。脇役にもさまざまな屈折した人物を配し、全編短歌や流行歌や競馬にまつわる物語などがちりばめられた「怪作」となっている。2018年時点でこの小説を読んでみても、決して色あせない、「新しさ」を感じさせる。

   1935(昭和10)年、青森県弘前市に生まれた寺山修司は、県内各地を転居した後、青森高等学校を卒業し、早稲田大学に進学する。以降、歌人・俳人・作詞家・劇作家・映画監督・評論家として幅広く活躍。とりわけ、演劇実験室「天井桟敷」主宰者として、世界的な評価を得たことは周知の通り。1983(昭和58)年没。


   映画の世界でも、寺山は異彩を放っている。
   長編映画に限っても、『書を捨てよ町へ出よう』(1971)・『田園に死す』(1974)・『ボクサー』(1977)・『草迷宮』(1978)・『上海異人娼館/チャイナドール』(1980)と、監督をつとめた作品は次々と国内外で高い評価を受けた。そして、ガルシア・マルケス『百年の孤独』に着想を得た最後の長編映画『さらば箱舟』(1984公開)の沖縄ロケ(1982.13月)まで、寺山は映画監督であり続けた…

   『あゝ、荒野』との絡みで言えば、菅原文太と清水健太郎が共演した『ボクサー』は、とりわけ注目されるべきだろう。
   元ボクサーのトレーナー、それまでの境遇から這い上がっていく主人公、運命的なライバルの存在…ボクシングドラマの定番ともいえるプロット(「天井桟敷」メンバーの織り成す「寺山ワールド」との不思議な共存はあるが)のこの作品は、キネマ旬報ベストテン第8位を獲得した異色作だ。
   寺山のボクシングへのこだわりは、それ以前から知られていた。1970年、『明日のジョー』の登場人物(ジョーの宿敵)力石徹の葬儀を企画し喪主となったのは有名な話だし、そもそも『明日のジョー』主題歌の作詞者は寺山であった(唄は尾藤イサオ)。
   これらすべての原点に、1966年の『あゝ、荒野』はある。

   さて、映画『あゝ、荒野』である。弘前の観客はどのようにこの作品を受け止めるだろうか。上映終了後のトークで、観客の皆さんの声を交えて議論してみたい。私もひとりの観客となって、この映画への思いを吐露したい…

  128日は、harappa映画館へ。


   日程等は次の通り。

   128日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

 12:30 『あゝ、荒野 前篇』(157分)
     (休憩あり)
 15:40 『あゝ、荒野 後篇』(147分)
 ※上映終了後シネマトーク
                             
   1回券 前売 1,000   当日 1,200 
   会員・学生 500
      ※前・後篇それぞれ1枚チケットが必要です。

   チケット取り扱い                                                      
       弘前中三、まちなか情報センター、弘前大学生協、
       コトリcafe(百石町展示館内)

   詳細は、次をクリックせよ。





<後記>

   今年度2回目のharappa映画館。『あゝ、荒野』上映という、ちょっとした冒険にチャレンジする。この通信を読んだ方の中に、ひとりでも映画を観に来てくれる人がいたら…
   次号は、「珈琲放浪記」の予定。キーワードは、上野界隈・フェルメール・ムンク等々。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。



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